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シャールに戻る

 朝ぼらけの中、私達は山間の村に向かいます。ガランガドーさんは大体の人が邪悪に感じてしまう姿なので空で待機。村への目的は大根入手です。


「街で買えば宜しいでしょうに」


「取れ立てを持っていくんですよ! その辺の市場で買ったヤツよりも、土まみれで葉っぱも虫食いのヤツの方が何だか美味しそうじゃありませんか!」


「虫食いはマイナス要因でしょうに。土も洗って売れよって、普通は思いますよ」


 騒がしく村に近付く私達に見回り番の村人が寄って来ます。私のノノン村でもそうですが、こういう辺境の村ってのは魔物とか盗賊から身を守る為、村人が交代で番をするんですよね。

 この人も一応、木を荒く削った槍で武装しています。



「何か用か?」


「はい。大根を2本、とても丸々した新鮮なヤツを買いに来ました」


「大根? ちょっと待ってな」


 門番の人、走って村の奥へと行きました。私達を怪しむ様子もありませんでした。


「良い人でしたね」


「ふむぅ……。私達が盗賊なら簡単に村へ侵入できておりますよ。番の意味がないで御座いましょう」


「私達が一目で分かるくらいに善良だからですよ。ところで、アデリーナ様の封筒も開けませんか?」


「それもそうで御座いますね」


 便利な収納魔法でサッと黒い封筒を出して、同時に出したペーパーナイフでスパッと開封します。


「猪の肉? 料理でもさせるつもりなのでしょうか」


 っ!? アデリーナ様の勘は当たりやすい気がする……。


「……そうかもしれませんね……」


「うふふ。スラム街で振る舞った手料理をもう一度で御座いますか」


 いや、アデリーナ様、こちらとしては貴女の自信ありげな顔が不思議なんですけど。

 私はおずおずと申し上げます。


「料理人フローレンスが出てきたら勝てないかもしれませんよ……」


「フフフ。私はアデリーナ・ブラナン、(たゆ)まね努力を忘れぬ者で御座います。あの日の己れを反省し、料理法についても学んでいるのです」


「尊敬します、アデリーナ様!!」


()しなさい。照れますので。うふふ」


 おぉ、アデリーナ様が朝陽に輝いて見える! アデリーナ女王陛下、万歳! 私、初めてアデリーナ様と知り合いで良かったと思いました!


 なお、サービスで大根を3本にしてくれた村人さんにお願いすると、快く数日前に仕留めたという猪肉も持ってきてくれました。とても良い人です。


「うちの村の食材は旨いんだ。だからさ、聖竜様にお供えするんだろ?」


「いや、まぁ……」


 真摯な目を見てしまうと、まさか「謎のお使い指令です」とは答え辛く、私は口ごもってしまった。


「あんたら、竜の巫女なんだろ。知ってるよ。その服。俺、聖竜様にいつも感謝しているんだ。聖竜様のお陰でこんなに美味しい物が食えるんだもんな」


「はい。その通りで御座います。全ては聖竜スードワット様の思し召し。本日は有り難う御座いました。こちら、気持ちばかりのお礼で御座いますのでお納めください」


 聖竜様を純粋に信仰している人を久方ぶりに見まして、私は動揺しましたが、アデリーナ様は長年の経験で慣れているようですね。


「いやいや、巫女さんからは受け取れないな」


「いえいえ。これも聖竜スードワット様の思し召しで御座いますよ」


 庶民から下心無しの敬意を受ける竜の巫女。私の理想、それが今、実現しました。満足。


「分かった。じゃ、貰うよ。聖竜様にキラム村のことを宜しくお願いしていてくれな」


 キラム村? 聞き覚えが有ります。

 確かアデリーナ様が古い祠を説明する時に、近くの村として言及した所です。

 ガランガドー! お前、あれだけ飛んでいたのに、敵どものすぐ側に着陸したのかっ!?


『ぐるぐる大きく旋回しておったぞ』


 カァーッ! このクズっ!! 巫女長とかお母さんとかアシュリンさんとかの襲撃があるかもしれないでしょ!


「アデリーナ様!」


「はい、急ぎましょう!」


 アデリーナ様も私と同じ危機感を持ってくれていたようです。愚かなガランガドーを呼び戻し、全速で空中に翔び上がらせます。


「ひゃー。凄いな。竜の巫女はこんなでっかい竜に命令できるんだな」


 村の人の感慨が私の自負心をくすぐることはなく、それよりも危険ゾーンからの脱出に精一杯でした。



 幸い、何事もなく上空へと逃れることに成功します。

 先程のキラム村から小道が山肌を這いながら続いているのが見え、反対側の遠くに日光に煌めく湖もありました。だから、シャールの方角は視認できます。


「先着順の得点もありましたよね」


「えぇ。戯れ事ではありますが、何事も一番になるのが大切で御座います」


 ガランガドーさんも状況を把握していたのか、私達の会話の途中から半円を描くように旋回し、山岳地帯から離脱を始めます。


「あれ? あれ、ミーナちゃんですかね?」


 私は街道を行く荷馬車とそれを惹く少女に気付きました。空高くにいるので魔力感知の範囲外。でも、小さくても背負う大剣が特徴的でして、そう思ったのです。

 昨日のゴール地点からだいぶと進んだ所にいますので、私と別れてからすぐに出発したのかもしれませんね。


「その様に見えますね。ギルドの者が乗ってきた馬車を利用して、負傷者を運んでいるのでしょう」


「へぇ。ミーナちゃんはもう敗退しているのに、素晴らしい献身ですね」


「汚い手で敗退させた者が吐いて良い言葉では御座いませんよ」


「誰も止めませんでしたから、皆、共犯ですよね。ショーメ先生なんか、絶対に同じ手を私にしようと思っていたはずですよ」


「フェリスもそこまでクズではないでしょう」


「昨日の美味しい朝御飯に毒を盛ったヤツですよ! クズ以外の何者でもないです! 背後を取りに来たあいつを思っきり蹴ってやったら気分爽快でした」


「メリナさんも十分にクズでしょうに……」


「えっ? アデリーナ様は友情パワーを自ら壊していくスタイルですか?」


「あ、あぁ。そうで御座いましたね。すみません。そういう意図は御座いません。……しかし、メリナさん、やはり貴女から友情パワーとか言われると身震いするのですけども。物凄い破壊衝動が湧いてくるくらい」


 くっ! そこは同意です!

 私もアデリーナ様に友情パワーとか言われると寒気がしますもん。



 さて、シャールの東門に到着します。

 門前の広場には関係のない人も多いですので、ガランガドーさんは着陸せず、少し高めの位置からアデリーナ様とともに飛び降りてのゴールです。

 ギルド職員のローリィさんが居ることを把握していたので、着地地点に程近い彼女の前へと歩いて向かいます。


 邪悪で凶暴な竜の突然の出現に驚く民衆の方々の悲鳴や歓声を受け、頭上で滑空を続けるガランガドーさんが鬱陶しい。楽しんでやがります。


「チームぬるるん、到着を確認しました」


 ふざけたチーム名ですが、そこには目を瞑ってやりましょう。


「あっ、封筒で指定した物も持ってきてくれたんですね。はい。2人とも達成ですね。お疲れ様でした」


 ギルドの受付をしている時はいつも寝ていたように記憶をしていますが、起きていたらちゃんと仕事はできるようです。


 既にマイアさん、ヤナンカの組は来ていました。お母さんや巫女長も居ましたが、軽い会釈をするだけで近寄ることは避けました。昨日の彼女らの行動的に、私と敵対することは無さそうですが油断は禁物。

 広場の端で開いていた屋台で、アデリーナ様に買って貰った串刺しのお肉を食べながら次の集合が掛かるまで待ちます。


 昼までにアシュリンさんが走って来て、オロ部長も地中から頭を出していました。

 荷馬車のミーナちゃんが到着して完了。上から見た時は倒れていた方々も復活しており、馬車の上にはギルド職員のみとなっておりました。


「それでは中間結果発表でーす」


 背の低いローリィさんが急造の足場に乗って宣言します。その横にはこれまた急造の掲示板がありまして、別の係の人が大きな紙をピンで止めていました。


 暇そうな冒険者がわらわらと寄ってきて、あっという間に人集りができます。

 昼間なんだから仕事しろよと思いました。


 さて、順位とチーム名が張り出され、それに皆が注目します。私もドキドキしながら目を遣ります。最善は尽くしたのです。最高の結果を得ているでしょう。

 さぁ! 栄えある第1位は…………チームオズワルズ……。


 名前から想像するに、剣王とオロ元部長か!?

 後ろを振り向くと、オロ部長が白くて細い腕でガッツポーズしてやがります……。

 剣王も照れた感じで頭を掻いていて、周囲の冒険者仲間からわいわい言われています。

 悔しい……。


 大きくなった喧騒を無視して、私は掲示された紙を順番に見ます。私達のチームぬるるんは、おばさんチームに続いての3位でした。

 ……おばさん? お母さん、巫女長組? それともマイアさん、ヤナンカ組? 分からない。


 それにしても納得行きません。

 私は抗議の声を上げるのでした。

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