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乱戦の口火

⭐️フェリス・ショーメ視点

 やられましたね……。


 メリナさんが大剣の少女を殴り飛ばしました。私がメリナさんにやろうとしたことを先にやられて、少し焦ります。

 あの人、バカなのに、こういう悪知恵だけは働くんだから。



 でも、ここでメリナさんを潰しておきたいですね。機先を取れませんでしたが構いません。

 少女の手から零れた封筒を空中で素早く掴み両手で破り捨てるおバカさんに向けて、縮地で近付きます。

 転移魔法とは別の瞬間移動方法。一度も見せたことがないから、裏をかけるはずです。


 素人にしては上出来な受け身を行なった大剣の少女が地面に背中を付けながら、おバカの行動に驚きの顔を見せていました。既に彼女の黒い封筒は中身ごと紙吹雪と化して宙を舞っていたから。

 はい、これで貴女は課題達成が不可能になりました。ご愁傷様です。


 追撃で少女の腹を踏みつけようとしているメリナさん、本当に容赦がないですね。大人げない。私はそんなメリナさんの後方に移動しています。

 背をアデリーナさんに見せることになりますが、恐らくは大丈夫。私の方がちょっとだけ強いから。ごめんなさい、アデリーナ女王陛下。いつも不遜なことを思っていました。


 私の手には黒いナイフがあります。いつも

胸元に隠していたものです。速効致死性の毒入りで、しかも魔剣の類い。

 メリナさんなら刺されても回復魔法より私への反撃を優先すると予想されます。きつい1発になるでしょうが、それは避けられなくて、仕方のないことです。この人は絶望的に強過ぎる存在だから。

 その一撃で私が無力化したのを確認してメリナさんはようやく回復魔法。それから傷が塞がらないのに気付いて次の手当て。うん、そこで毒が回って倒れます。


 刺し込めば、こっちの勝ち。でも、死なないでくださいね。



 黒い巫女服の真ん中を狙い、尖端を体で押し込――ッ!!



 気付けば、私の視界が上下逆さまになっていました。


 姿勢を低くしたメリナさんがこっちを向いていて、私は理解します。私ほどの人間が認識できない程の速度で繰り出された足払いでしょう。それを見事に喰らった私は、蹴りの勢いでくるりと体が回転してしまったのです。

 ってか、私の足、大丈夫かな。膝から下が失くなってるとか勘弁して欲しいです。行く気はないけどお嫁に行けない体にされそう。


 アデリーナさんの剣の気配を感じたので、転移魔法。クリスラ様の横に避難。

 1度目のチャレンジは失敗ですか……。


「我は遥拝する。深淵に至る炯眼(けいがん)と、其を涵養(かんよう)する枯色の吼噦(こんかい)へ。西院の――」


 私は立てませんでした。前向けに転がります。脛が完全に折られ皮一枚で繋がっているような状態でして、血がドクドクと流れ出ています。それをクリスラ様は回復魔法で治そうとしてくれています。

 貴女様も飛び出したいでしょうに、すみませんね。お気持ちに甘えまして、私は戦況を確認させて貰います。

 でも、やっぱりメリナさんは異常です。強過ぎですよ。朝御飯には、もっと強い毒を盛るべきでした。



 剣王ゾルザックが私の次にメリナさんに詰めていました。諸国連邦で出会った時はそこそこの力量という評価だったけど、成長していますね。今がメリナさんを敗退させるチャンスだという判断力は素晴らしい。


「汚ねー手をよく思い付くぜ!」


「邪神の助けを借りているヤツの言葉じゃないですね!」


「確かにな! ミミの助けがなきゃ、この展開に付いて来れなかったぜ!」


 仲が良さそうで何よりです。

 しかし、メリナさんの豪腕を3度も避けたのは驚きます。あの速度を見切れるなんて……。どこに攻撃が来るのか分かっているみたい。

 要注意。クリスラ様を優勝させるためには、彼も障害となりそうです。


 メリナさんの動きが鈍ります。原因は彼女の母が動き出したからか。

 うふふ、メリナさんの方が圧倒的に強いのに、本人は未だ母の呪縛に囚われています。まだまだお子様なところがありますね。



 瞬間、私は目を見張る。

 誰かがメリナさんの背後へ縮地。同時に腰椎への豪快な一振り。それは近衛兵崩れの元竜の巫女でして、私が出来なかったことを実行したのです。

 完璧な形で攻撃が入って、おバカさんの体は背中側に酷く折れ曲がったまま吹き飛びます。

 もしかして私より優秀な人? 信じられないですが、偶然のラッキーパンチってことも有りますものね。


 ところで、メリナさんは息絶えてしまったでしょうか?

 うーん、生体魔力の反応有り……。流石にメリナさんはしぶといです。しかも幸運ですね。激突した先がメリナさんが従えている黒竜でした。


「ギョームさん、ナトン君! メリナを守るわよ!」


 なるほど。メリナさんのお母様はノノン村の名を轟かせるために参加していたんですね。だから、メリナさん側で参戦する訳か。

 メリナさんが彼女を恐れ過ぎるから誤解していました。これは厄介です。


「あらあら、私もお手伝いするわね。メリナさんは私の後継者ですし」


 ほら、あの老婆も出てきました。


「ゾル! 俺が相手してやるぜ!」

「来いよ、ナトン!」

「ミーナも戦う!」

「おめーとはやりずれーよ。もう1人のガキとやってな」

「うん!」

「おい! ミーナ、私はお前のパートナーだぞ! こら、剣を向けるな」

「パウス! ルー殿を迎撃するぞっ!」

「おうよ!」

「あはは、2人とも返り討ちよ。アシュリン、覚悟なさい。メリナを殴った罪は重いわ」

「あらあら、オロ部長。私は出涸らしなのよ。美味しくないわ。オロ部長は良い出汁が出そうね。楽しみだわ」

「ナトン、後は任せたからな! 俺は倒れたままのメリナちゃんを守るから」

「あぁん? 親父、余裕ねーんだよ! 好きにしてくれ!」

「余所見すんなよ、ナトン! 俺は強くなってんだ!」



 あちこちで乱戦が始まった。私の足も治ったから行けそう。でも、この人も戦意を隠せてない。

 立ち上がり、クリスラ様に語り掛ける。


「行かれますか?」


「勿論です。武道に生きる者が闘いを恐れてはならないでしょ」


「武道に生きておられませんよ?」


「細かいことは良いのですよ、フェリス。それじゃ、死闘を楽しんで来ます」

 

 クリスラ様は右肩を回して(ほぐ)しながら歩き始める。


「デンジャラース、ナックルゥゥ!!」


 聖女だった面影を一切消し去った叫びと共に、クリスラ様は剣王の脇腹は狙って飛び出た。



 でも、メリナさん、本当に悪知恵だけは立派なんだから……。

 再起不能の怪我をあっさり治して闘いの場に戻るのかと思っていたのに、回復魔法を調整して完全回復を避けやがりました。

 この場にいる殆どの者は分かる。メリナさんは身動きしないと意思表示をしたのです。

 

 この乱戦の中、敢えて戦場を離れたメリナさんを襲えない。それをしようとしたら、他の強者に背中を狙われることになるでしょうから。

 もしかしたら黒竜に守られるように吹き飛ばされる場所まで計算していた可能性もありますね。普段からそれくらい賢い頭で考えて暮らしてくれたら、面倒を見るこちらも楽ができるんですけど。


 さて、私達はメリナさん以外で潰し合いをしなくてはならなくなったのです。

 んもぉ、メリナさんに先制されたのが痛いですね。



 この展開だと、私の相手はあの不埒なヤツになるのかな。確認のために全身が白い魔族を見ます。

 そいつも私を見ていました。


「やられたねー」


「えぇ。貴女は後から私に殺られるんですけどね」


「善界は怖いねー。でも、ちょっと待ってー。私とマイアは倒したいのがいるんだー」


 そうでしょうね。その為に確認したのですから。


「ご自分の封筒を破って頂けたら、私も協力しますよ」


「そー? いーよ」


 デュランの暗部に所属していた時からの敵。今は更に増して、お慕いしていた頭領をその存在ごと愚弄していた憎き敵。

 でも、私は賢いので我慢できます。感情を殺して最善手を選べます。


 ヤナンカも黒い封筒を2つに破り、そして、無詠唱の火炎魔法で燃やし尽くします。



 冒険者ギルドの係員は数人いました。

 その中の1人だけ、私達の攻防を目で追えている者がいます。あいつは怪しい。

 平凡な顔をした年増の女。それを私達とアデリーナさん、それから大魔法使いマイアで三方から挟む陣形を取りました。

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