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休憩して復帰

 私の目の前には湯気を立てるスープが置かれていて、それをゆっくりとスプーンで掬います。まだ手が震えているのは精神的なダメージが残っているのか、それとも盛られた毒の後遺症か。


「うぅ、解毒魔法が効かなかったなんて……」


「解毒魔法と総称されても、中身は千差万別で御座いますからね。メリナさんの魔法とは相性が悪かったので御座いましょう」


 スープを口に入れる。味が薄過ぎると思いましたが、私の体調を気遣ったものだと好意的に受け取っておきます。


 前に来た時はとても騒々しかった冒険者ギルドなのに、大半の冒険者の人達は皆、一番古い祠とかを探しに行っています。だから、お昼時なのに同じ建屋内にある食堂もお客は私達だけ。


「すみません、アデリーナ様。出遅れましたね……」


「祠の位置を知っていたとしても、キラム村までは通常速度の馬車で2日の旅程で御座いますよ。大したロスではないでしょう」


 優しい。あのアデリーナ様がそう思えるほどに、私は病んでしまったのですね。毒、怖い。


「それに、結果として街道に近い場所で待機することができました。どういう強者が参加して、誰と組んでいるのかも大体判別できました」


「魔力感知で……?」


 失礼ながら、アデリーナ様の魔力感知は私と比較すると感度に劣ると考えていました。


「メリナさんが苦悶されている間、外に出ておりました」


「そうだったんですね」


「えぇ、メリナさんの用を為す音を耳に入れたく御座いませんでしたので」


「そんな音してないもん!」


「そうで御座いましたか? 失敬致しました。それにしても懐かしい。いつぞやのフェイク映像を思い出しました。メリナさん、覚えておられます?」


「……い、いえ。全く」


 アレでしょう? 2年前に私が作った動画のことなんでしょう。あれは互いに手打ちにしたんだから、良いじゃないですか……。


 私は黙ってスープを腹に入れる。体が温められて、少しずつ元気が出てきました。



「ところで、お母さんはアシュリンさんと組んでいましたか?」


「いいえ。ただ、アシュリンも参加するようですね。お相手は夫のパウスでした」


「あー、パウスさんは世界最強とか拘りそうですね。名乗りも『王都最強の男』でしたもん」


 しかし、恐れるに足らず。私とアデリーナ様なら勝てると思う。


「カトリーヌさんも見ましたよ」


「えっ? 参加するんですか? 誰と?」


「剣王で御座いました」


 ほぅ……。オズワルドさんの村繋がりか。

 でも、意外。剣王はてっきりソニアちゃんか邪神と組むと思っていたのに。

 どちらも嫁だから片方だけ選ぶことができなかったのか……。ククク、愚か。

 巫女長の不気味さ、お母さんの怖さに並んで、私は邪神の強さを警戒していました。それが出場しないとはラッキーです。


「巫女長は?」


「東門からは出て来ませんでしたね。もう1つの集合場所である西門前に行かれたのかもしれません」


「なるほど。お母さんは?」


「そちらも見当たりませんでした。アシュリンに連れていかれたはずなのに、そこは解せない状況で御座います」


 アシュリンが奇襲を掛けてお母さんを既に蹴落としている可能性は……ないか。アシュリンさんが勝っている姿が想像できないや。


「さてと、すみません。だいぶ回復しました。遅れを取り戻しましょう」


「うふふ、楽しみで御座いますね」


「何がですか?」


「世界最強を決めるのが。ほら、フォビなる者が黒幕で、本当に彼が神であるのなら、私が彼に取って替わって神になる道が開けるのかもしれない。そう思うと、わくわく致します」


「お気持ちは理解できませんが、アデリーナ様が神様になったら、私に聖竜様をくださいね」


「メリナさんが私の信者になるのでしたら喜んで」


「えー、邪教はちょっと……」


「大丈夫で御座いますよ。私は不死の体が欲しいだけ。他人がどうこうしようと一切興味御座いませんので、竜神殿はそのままとしましょう」


 人が出払っていて良かったぁ。こんな発言をしている危ないヤツがこの国の指導者だなんてバレるところでしたし、一緒にいる私も同類と誤解されるところでした。



 ギルドを出て適当に道を進んで、人の目の届かない森林を探している時でした。

 大剣を背負った女の子が体を丸めて震えていました。声を殺して泣いているようです。


「ミーナちゃん、どうしたの?」


 特徴的な格好なので一目で分かりますね。


「メ、メリナお姉ちゃん!」


 顔を上げたミーナちゃんは私の足にすがり、今度は声をあげて泣くのです。



「あっ、答えが分からなかったんだ」


「うん。ミーナはバカだから、こんなの分からない……」


 目が真っ赤です。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんも分からないから」


「メリナお姉ちゃんも……? ……やっぱりバカだから?」


「ううん、違うよ。私は決してバカじゃないよ。賢いよ」


 子供の言葉ですから、私は優しく対応します。


「ミーナさん、パートナーは?」


「それも分からないの。どっかに戻るとか行っていなくなったの……。ミーナ、1人で探そうと思ったけど、全然分からない……。ぐす」


 ミーナちゃんは冒険者でもある自分のお母さんと組んでないのか?


「お母さんは?」


「家。お母さんに『頑張ってね』って言われたのに。うぅぅ」


「そっかぁ。じゃあさ、ミーナちゃん、私達と一緒に一番古い祠に行こっか。ねぇ、アデリーナ様、良いですよね?」


「そうで御座いますね。ところで、ミーナさんは誰と組んでいらっしゃるの?」


 冒険者仲間かな。


「名前、忘れたの。メリナお姉ちゃんと一緒にいるのは見たことある。偉そうに喋る子……」


 おぉ、なんて話の見えなさ。ミーナちゃんは子供だから、やっぱりバカだなぁ。



「あれ? アデリーナとメリナか、奇遇だな」


 む? 偉そうな口調。こいつか……。


「どうされました、エルバ部長? またお仕事をサボってます?」


「冗談は止めろ。お前やアデリーナとは違うんだぞ、私は」


「部長、お言葉ですが、私をメリナさんと並べて言われるのは少々気が悪いので御座いますが」


 ふん。それが調査部の認識ってことですよ。

 エルバ部長はアデリーナ様に返そうとしましたが、自分を睨む視線に気付きます。


「あっ、ミーナ、こんな所にいたのか。ダメだぞ。私は広場で待っててくれと言ったんだ。探したんだからな」


 はい、やはりこいつがミーナちゃんのチームメイトでしたね。どんな繋がりでそうなったのか不思議です。


「聞いてないもん。それに、急にいなくなるんだもん。私の方が歳上なんだから言うことを聞いて」


 エルバ部長に対しては強気に出るミーナちゃん。


「おいおい、蟻猿の時だとか精霊ベーデネールの時も一緒だったのに分からなかったのか? 私は見た目は子供だが中身は大人だ。大人って言うか、正直、お婆ちゃんだけどな。ハハハ」


 エルバ部長も子供には優しいのでしょう。最後は怒る子供を宥める為に冗談を言ったつもりなんだと思います。


「もう……いい。メリナお姉ちゃんが祠に連れて行ってくれるって」


「おぉ、そうか。うむ、任せたぞ。私も分からなかったからな」


 調査部の部長なのに……。常に賢いモードでいて欲しいです。



「どうして部長がミーナちゃんと組んでいるんですか?」


「あぁ。それな。やはり気になるか。ミーナがアシュリンの旦那に相談してだな。それで、アシュリンから私に依頼があったのだ。それが今朝だ。急だったから、顔合わせをした後に神殿と大学に休暇届を出してきた。帰ってきたらミーナが迷子になっていたんだがな。ハハハ。ミーナ、今日は頑張るんだぞ。私が勝利に導いてやる」


「偉そう……。私の方が強いのに……」


 ミーナちゃんはマイアさんの英才教育により戦闘狂に育てられていますので、強さで他人を評価するクセがありますね。良くないですよ。


「あっ、そうだ。ちょっと待ってくれよ。そろそろ、フローレンスとも合流予定なんだ。ここら辺だったかな」


 っ!?


「エルバ部長、私どもは巫女仲間ではあるものの、本日は競う相手で御座います。馴れ合うのはどうかと思いますね。ミーナさん、辛いですが勝負の世界は非情。未来を切り開くのは自分の力であるべきで御座います。今回はそれを学びましょう。それでは、メリナさん――」


 機先を制したアデリーナ様でしたが、時は既に遅かったのです。


「まぁまぁ、アデリーナさん。固いわよ。本当に固い。私達は同じ神殿で働く同僚、家族みたいなものなのですから、協力できる時は互いに協力致しましょう」


 巫女長が背後から登場したのでした。


「そうね。それに加えて、私とメリナは本当の家族なんだしね。よろしく、メリナ」


 私は目を大きく見開いて驚きます。

 お母さんが巫女長の横に居たのです……。

 

「村のためにお互い頑張ろうね、メリナ」


「はい」


 今の私の顔には表情が失くなっていることでしょう。まさか巫女長とお母さんという最強にして最恐の組み合わせなのでしょうか。

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