期待の友情パワー
階段を下りて4人で受付カウンターに並ぶ。
今日のローリィさんは寝ていません。指を嘗めつつ、書類をペラペラと捲っています。
でも、そちらにご執心で私達には気付いていませんでした。
「ちょっと良いですか?」
顔を上げる気配がなかったので、私は声を掛けます。
「あー、メリナさん。やっと手伝ってくれる気になったのですか? 待ち焦がれてました!」
「いいえ。世界最強を決める大会に私達も出たくて来ました」
「あっ。そうなんですね。それも歓迎です」
ローリィさんは私やその後ろの3人に目を遣ります。
「エントリー料は1人、うーん、金貨3枚」
えっ、お金を取るの?
「アデリーナ様、貸してください」
「私達の分もー」
「了解しました。皆様、返す当てはなさそうですので差し上げます」
おぉ、太っ腹! さすが女王様! 皆から収奪した税金を惜しげもなく使う横暴王!
アデリーナ様が財布からお金を出して、カウンターに置きます。それをローリィさんが慎重に数えて回収しました。
「あー……もう少し取れたかなぁ。金貨5枚くらいにしておけば良かったなぁ。お金、持ってる風だったもんなぁ。失敗したなぁ」
こらこら、漏れてますよ。心の声が駄々漏れですよ。
しかし、大金持ちであるアデリーナ様はそんなことで怒りません。
「手続きをお願い致します」
私相手なら絶対に怒ってたはずなのに、ずるいとも思いました。
「はい。お待ちください」
笑顔のローリィさんは書類2枚をカウンターに置きます。その横にはペンもそれぞれ準備されました。
「こっちの想定よりも多くの参加者が集まったので、2人1組で競うようにしたんです。4人なんで分かれて書いてくださいね」
私達は顔を見合わせます。
「私はヤナンカと組みますね」
「だねー。マイアの戦い方はー知ってるからーやりやすいねー」
この2人は付き合いが長いから妥当ですよね。
でも、残されたこっちはどうですか?
「メリナさん、知性と品性関係はお任せください」
うわっ、ヤル気満々ですよ……。
しかし、私の意思を確認する前に決めやがった図々しさに目を瞑って冷静に考えると、こいつは頼もしい。品性は私の方が上と感じなくもないですが、腐っても女王様。普通に考えれば品性はトップクラスなのかもしれない。
更に、学校の試験問題的なことについては、アデリーナ様に一朝の利がある。もう試験用紙を恐れなくて良い。これは大変に大きいメリットなのではないでしょうか。世界を破壊したくなる程の絶望から解放される。
しかもお母さんと対戦することになっても、アデリーナ様が王として命令することで手を抜いてくれるかもしれない。
「私達の友情パワーで優勝ですね」
そう言いながら、アデリーナ様が差し出した手をガシリと握ります。案外に柔らかくてビックリしました。
「そう言われると……何だか気持ち悪いで御座いますね。気味が悪いんじゃなくて、純粋に気持ち悪い」
は? お前、それは私のセリフですよ!
笑顔は保っていますが、握る手に力が入ります。そして、アデリーナ様も握り返して来るのです。
負けるものか!!
私が更に力を込めると、相手もそれを上回る圧を加えて来ます!
殺されたいのか!?
「仲いーよねー」
「私達も優勝を目指すわよ、ヤナンカ。フォビをぶん殴ってやりたいから」
「そのつもりだよー」
「お2人ともそういうことだから、力比べはお止めなさい」
「メリナさん、緩めなさい。競う相手を間違えております。それから、メリナさんの手の汗が気持ち悪い」
死ね!
「あはは。私、緩めてるんですけどぉ。えっ? アデリーナ様、もしかして痛いんですか? えー、この程度で? 足手まといになるんじゃないかなぁ? 大丈夫かなぁ」
逆に握り締めてやる。砕けろ、お前の拳!
「いやいや、ヌルヌルがキモいって申しているので御座いますよ。メリナさん、バカが移るから手を離して頂けないですか?」
グッ。骨が軋みそう。こいつ……どこからそんなパワーが出ている……。
「るんるん日記幼少期編を書ききった人にバカって言われたくないです!」
「こっちだって、現在進行形のおバカに言われたくない!」
笑顔を近付かせ、しかし、真剣な眼で睨み合う私達。上腕に血管が浮き出るくらいの力比べは継続中です。
「2人の分もー書いといたよー。チーム名はーてきとーにー、ぬるるんにしておいたからー」
ヤナンカの言葉で私達は手を離す。
「……ぬるるんって、ヌルヌルるんるんの略ですか?」
「そだねー、てきとーに決めたからー」
適当過ぎるだろ!!
「もう受け付けたから修正できませんよ。残念。でも、独特で良い名前ですね」
くそ。ローリィさんが嬉しそうに言いやがりました。悪い人じゃないけど、悪のりは好んでやってくるんだよなぁ。と思っていたら、また表情が変わります。
「あー! それ、私のですよ!」
とても感情豊かな人です。眉毛を下げて悲しそう。
何に抗議したのかと言うと、マイアさんが持つ大金貨。私も感知しきれなかった素早い魔法発動で、どこかに隠してあったのを奪った形なのでしょう。
パッパッと手際よく裏表を確認しながら、ヤナンカに差し出し、ヤナンカはそれを同じく見てからアデリーナ様に手渡して行きます。最後は私が受け取って、騒ぐローリィさんの前に置いてあげました。
1枚2枚と返される大金貨の枚数が増えるに連れて、彼女の表情も悲しみから平常、そして喜びへと変化していきます。
「珍しーのはなかったねー」
「アデリーナさんは確認済みだったのね?」
「全部では御座いませんでしたが」
レリーフの話だと思うけど、何も分からない私は黙っています。
「明日はどこに行けば良いの?」
大金貨の調査は打ち切って、マイアさんは次の用件に入ります。
「朝にシャールの東門か西門のどちらかの外側に集合です。時間は特に決めてないです。そこで順番に案内する予定なんです」
会場は別と言うことでしょうか。謎です。
「ありがとー」
そう言うと、マイアさんとヤナンカはギルドの外へと足を運ぼうとしたので、私とアデリーナ様も続きます。
外に出て周りに誰も居ないのを確認してから、私は賢いと信じている前の2人に尋ねます。
「すみません。一番古い祠ってどこか、知っていますか?」
「ヤナンカ、知ってる?」
「うん。王国の中ならー、シャールの東のーキラム村付近にあるねー」
おぉ、元情報局長、素晴らしい!
「大魔王の封印の地なんだー。ブラナンと私はー復活の気配がないか、人を遣って見張らせてたー」
……また大魔王……。ここに来て、2000年前の話題が多数湧いてきて、きな臭い感じがします。裏で操っているヤツは何を企んでいやがるのか……。
「メリナー、それがどーしたのー?」
「えっ? いや、えへへ、急に勉学に目覚めまして、あはは」
「……怪しいですね」
「うん、怪しー」
「問題用紙を窃盗した件に絡んでいるので御座いましょう」
視線が集まる中、私は遠くを見詰めて誤魔化します。口笛が吹けたら、ぴゅーとか音を出していたことでしょう。
幸いに追求はされず、マイアさん達は家へと転移します。
残されたのはアデリーナ様。もう今日の仕事は終わりなので、別れて欲しいなぁ。
「メリナさん、明日は頑張りますよ」
「はい。知性というか知識問題は任せました」
「ゆ、友情パワーで御座いましたかね……? ゆ、友情で優勝……」
「……は?」
アデリーナ様は顔をほんのりと赤らめたのが恥ずかしいのか、そのまま走り去って行きました。
私は鳥肌が立つほどに驚愕して立ち尽くすのでした。あいつ、20歳を越えているのに何をマジに言ってやがるんでしょう。ヤバイです。
◯メリナ観察日記42
クリスラ様に誘われたので、世界最強決定戦とかに参加します。メリナ様が一番の障害ですので、朝食に毒を混ぜておきますね。
大丈夫です。死にはしなくて、お昼くらいにお腹がギュルギュル鳴る程度ですから。
ここに書いたから、いくらメリナ様であっても食べはしないと思いますが、食べても私を恨んじゃダメですよ。自己責任ですよ。




