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神と魔王の違い

「はいはい。聖竜様の吐く臭気に耐えきれず、思わず悲嘆の声に出してしまい、すみませんでした。はい。これで良いですか、メリナさん?」


「は? アデリーナ様、貴女の激臭の足裏をそんな風に言われたら、許せますか?」


「慈悲深い私は、そのような万死に値する発言があったとしても許します。それに何より、もう私は臭くはない」


「えっ……? ご自分ではお気付きになられていない? 強烈ですよ……」


「なっ!?」


 アデリーナ様は部屋の角に行って片足で立ち、もう片方の足をスラリと鼻へ持っていく。凄いバランス感覚と柔軟性。無理のある体勢なのに微動だにせず、ある種の芸術的な美しささえ感じてしまいそうです。

 しかし、無様。真剣に自分の足裏をクンクンと嗅いでいます。女王として、いえ、人として失格です。こいつ、たまに頭がおかしくなりますね。


「臭くなかった!」


 何を興奮しているのやら、嬉しそうに報告して来やがりました。

 冷めた目で見てやりましょう。



「はい。じゃれ合いは止めなさいね。この魔道具の解析を終えたので結果をお伝えします」


「折角だからー聞いてよー。アデリーナの足、臭くないよー。メリナの嘘ー」


「そうだと思っておりました。メリナさん、後でお仕置きで御座いますよ」


「えー? 慈悲深いアデリーナ様は許すって言ってたのに……。ご自分の言葉くらい覚えていて欲しいなぁ。上司だったら最悪ですよ」


 いつもは私の軽口に乗り掛かってくるアデリーナ様でしたが、今回は一触即発の雰囲気にはなりませんでした。

 大鏡の魔法回路にどんな秘密が隠されているのか分かりませんが、7人目の英雄に関しての更なるヒントが得られると期待されます。アデリーナ様はそれが気になったのでしょう。



「結論からすると、未知の高度な技術で作られている。細かい点は省略するけど、この道具に魔力回路は存在しない。なのに、この道具は自律的に動く」


「まるでー生き物みたいなんだよねー」


「鏡に擬態した魔物かとも思ったのだけど、そうでもなさそう」


「道具としての機能は、他者の思考を含んだ広範囲の状況把握、遠距離からの正確な致死的攻撃。普通に魔法として実行するだけでも、膨大な魔力が必要なのに、それが1000年以上経っても継続しているなんて異常よ」


 聖竜様が宝物の1つとして収蔵しているのも納得の逸品ってことでしょう。さすが聖竜様。物の良さを明瞭に理解しつつ、それを乱雑に保管する豪快さ。聖竜様の器の大きさに感動します。


「これを作ったのはフォビじゃない。あいつなら自分が作ったことを誇示するように何か痕跡を残すから」


「だねー」


「情報共有しましょ。お互いにまだ伝えていないことがあるでしょ?」


「了解致しました。メリナさん、私は慈悲深いので御座いますから、万死に値する虚言は許してやりましょう。そこに座りなさい」


「へぇ。許されなくても座りますけどね」


 椅子を引きながら、私はもう着席の準備に入っていました。



「まずは私の師匠シルフォルについて。清貧を信条として、町から離れた森の中で魔道について研究していた女性。世捨て人に近い存在であったのに、私が幼い頃からその魔法の才能は有名で、弟子となることを希望する者も多かった。私もその中の1人。でも、実際には私の方が才能があった。弟子になってから半年で追い抜いた。約2000年前の人間」


 マイアさんは続けます。


「何百年か前にフォビがヤナンカに伝えた女上司シルフォと同一人物だとしたら、寿命が長過ぎる。魔族にでもなったのか、或いは違う存在になったのか」


「私はーシルフォルについてー何も覚えてないー」


 本体の記憶が封印されたままだったからか。


「フォビが神を自称していると、以前にメリナさんから聞きました。となると、そのシルフォも上司であるなら神を自称する一派でしょう」


 うん、きっと、そうなりますね。


「メリナさんはフォビから後継者にと言われたとも聞いています。ですよね、メリナさん?」


「はい。でも、正確には『神を殺せるのは神だけだから、お前も神になって俺を殺してみろ』ですね」


「フォビは自殺なんて考えないからー、神の地位から逃げたいだけだねー」


 ここで、アデリーナ様が口を開きます。


「もしかして神の総数が決まっていて、フォビは自分とメリナさんを入れ換えようとしている?」


「その可能性はあるねー。ないかもだけどー」


 ヤナンカの答えは不明瞭。

 まだ情報が足りないってことなんでしょうね。なので、私から1つ、知っていることを提供しましょう。


「そう言えば、私の3匹目の精霊も神を自称しているらしいですよ。で、フォビを一緒に殺そうかと言ってくれました。でも、生意気なヤツで信用できるかは分からないです。ルッカさんの息子の復活をお願いしたのに、それも叶えることができなかった無能です」


「例の聖竜で御座いますか……」


 昨年、邪神を取り込んだヤナンカと戦闘した際に、アデリーナ様はその存在に気付いていました。それを思い出しての呟きでしょう。


「今は聖母竜と名乗りを変えさせました。聖竜を名乗れるのは聖竜様だけですから」


「ワットちゃんの祖母ですね。そして、そいつは蘇生魔法の一種を使って見せた」


「私も見たよー。あれはー絶対にー魂魄を戻すやつー」


「何故、それが分かるので御座いますか?」


 アデリーナ様は当然の質問をする。


「昔ね、河原で体を洗っている私を覗き見したヤツがいるの。それがフォビだったのだけど、余りに腹が立ったから隕石魔法を打ったら、あいつがペチャンコになったのよね」


「死んだってことですか?」


 私の質問にマイアさんとヤナンカが頷く。


「凄かったよねー。辺り1面の森林も燃えたりしてー、ブラナンが怒ってたー。理由を聞いたらー、もっと怒ってたー」


「誰が蘇生魔法を使ったので御座いますか? まさかスードワット?」


 んまぁ、また「様」を付け忘れてる!


「大魔王ダマラカナ」


「ん? そいつは敵じゃないですか?」


 私はすぐに確認の問いをする。

 大魔王がフォビを助ける必要は全くない。


「大魔王が大魔王になる前にー、私はー彼の命をー助けたことがあるんだよねー。その時にー、私が困ったらー、一度だけ助けてくれるってー約束してたんだー」


「そんな約束で敵を助けたんですか?」


「助けた。もしかしたら、圧倒的に強大だった彼にとって、私達は羽虫程度の存在で生きようが死にようが何とも思っていなかったのかも。実際に私達は大魔王を殺せず、封印することを選択したのだし」


 相当な強さだったんですね、その大魔王は。


「大魔王ダマラカナは蘇生魔法を使った。フォビは神である。もしかしたら、シルフォルも神であったかもしれない。フォビの配下であるルッカは魔王候補であるアデリーナさん、メリナさんを監視もしくは可能なら抹殺しようとした。同じくフォビの配下であるワットちゃんも蘇生魔法に対して良い反応を示さなかった。更に、神を自称する聖母竜も中途半端な一時的な魂魄戻しの術でお茶を濁した。あの術に物質構築系の魔法を続けるだけで、蘇生魔法となり得たのに」


 マイアさんの並べた状況に、私は閃くものがありました。


「神は蘇生魔法を避けている、若しくは恐れている?」


「そうなりますね」


「そして、魔王は蘇生魔法を扱える可能性がある、ということで御座いますか……」


「神に関係する者達の動きから判断すると、可能性は高いでしょう。実際にメリナさんは守護精霊の助けを得て、その一歩手前まで実行したのですから」


 ふむぅ。

 でも、そうだとしても7人目の英雄の存在を消そうとした理由には届かないなぁ。


「今、シャールを騒がす世界最強の者を探すという話も神が関与していますか?」


「あんなレリーフが彫られたコインをわざわざ持ち出したのですから、そうなのでしょう」


「依頼主を捕まえるー。拷問とかー、私、得意なんだー」


 いや、王都情報局の悪行からするとそうなんでしょうけど、そうはっきり言われると怖いです。


「というわけで、私達もそれに参加するから」


「よろしくー」


 ……お母さんが出場するんですよ。世界最強の者を依頼主に逢わせるという依頼ですが、最強の人を決める大会で優勝するのは、この2人でも厳しいのでは。

 私はそう思いました。


「了解しました。私も出ましょう。その前に他の金貨のレリーフも確認した方が宜しいですね」


 アデリーナ様の出場まで決定してしまった。何だか漠然とした不安がしてきますよ。

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