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7人目の正体

「確かに私ですね」


 マイアさんが金縁銀貨をマジマジと観察してそう言う。


「うん、こっちは私だねー。ブラナンもー皆もーいるねー。懐かしー」


 ヤナンカも覗き込んで確認を終える。


「ヤナンカ。貴女、この記念硬貨に見覚えはないの? ここまで正確に容姿を描いているなら、大魔王討伐直後の時代に作られたものでしょ、これ」


「覚えてないなー。私とブラナンはー、今のタブラナルまで逃げてたからねー。当時の街からはー離れてたからー」


「それでも、後から、それこそ数百年経っても残ってるでしょ。……それでも、1度も見たことがないの?」


「ないねー。この技術の高さからするとー、1品ものじゃないかなー。金の輪っかに白金の円盤を押し込んで作ってるねー。寸法合わせが凄いよー」


 アデリーナ様がこの空間ならば大丈夫と確かめたばかりではあるものの、私は呪いが襲ってこないか、ハラハラしながら2人の会話を聞いていました。


「アデリーナさん、これはどこで入手したの?」


「依頼発注の際にギルド職員が前受金として受け取った大金の中に混ざっていたもので御座います。依頼人の素性は不明、硬貨発行年も不明、発行人も不明」


「ふめーばかりだねー」


「その依頼内容は?」


「世界で最も強い者を連れてきて欲しい。馬鹿げた依頼で御座います」


「それならメリナさんを連れていけば達成ね」


 マイアさんとヤナンカが私を見ます。


「品性と知性も評価対象とのことで御座います」


「あー、じゃあ無理ね」


「だねー」


 ……ん? 呪いが襲ってこないかの方に集中していて反応できませんでしたが、今、私は侮辱されたかな……。



「この空間に私達を連れ込んだ理由は何?」


 マイアさんはアデリーナ様に次々と質問をぶつけて行きますねぇ。来るかもしれない呪い対策に(いそ)しむ私が真剣な顔をし過ぎているのからかもしれません。


「そのコインを見ながら7人目の英雄について考えていましたら、死に至るほどの攻撃を受けまして。メリナさんの野性の勘によりこの地に逃げております」


 お前、野性は止めろって言ったのに……。


「ここなら、あの攻撃が来ないのか……。分かりました。昔の記憶を辿って、7人目を思い出します。ヤナンカ、貴女も思い出せない?」


「無理かなー。ヤナンカは本物のヤナンカじゃないんだよねー。本物のヤナンカが認識してない事はー、レプリカの私の記憶には最初から存在しないよー」


 封印された記憶はコピーされないって話なのでしょう。



 マイアさんは目を瞑って、しばらく考えます。


「思い出せました。確かに攻撃が来ませんでしたね。7人目の名前はシルフォル。私が子供の頃に仕えた師匠。大魔王との決戦時は私と共に封印魔法を唱えていました」


「シルフォル? シルフォ……。あー、フォビが言ってたー。同一人物かは分からないけどー、1000年くらい前にフォビが『俺の女上司の名前だ』って言ってたー」


「ほぅ……」


 アデリーナ様が関心を示したのが分かりました。こいつ、また碌でもないことを考えやがりましたよ。


「呆れた。あいつ、また女の尻を追いかけてたの? 1000年経っても精神年齢が成長してないのね。しかも、私の師匠かもしれないって……」


 女上司って言っただけなのに、如何にフォビがクソ野郎だとマイアさんに思われているのか、そんなことが窺い知れるセリフでした。


「あはは。私も同じことを思ったー。そしてー、2000年経った今でも一緒だと思うよー。不治の病だよねー」


 言葉の刺々しさとは反対に、楽しそうな笑い合う古代の英雄2人。

 ここで、私は恐ろしい事実に言及しなくてはなりません。


「あの、皆さん……。7人目の正体が分かったところでですね、このまま、あっちの世界に戻りますと、たちまち全員が呪殺されると思うんです……。記憶を封印しませんか?」


「メリナって、たまに鋭いよねー」


「その心配は確かにそうですね」


 喋りませんでしたが、アデリーナ様も私の発言に満足している様子でした。



「記憶の封印はできます。メリナさんの守護精霊ガランガドーを倒そうとした時に自ら掛けた事があります。精霊さえも思考読みができない程、深く記憶を封じた実績があります」


 あー、ガランガドーさんが初めて顕現した時ですね。あの時のガランガドーさんは、ミーナちゃんの頭部を躊躇なく破壊するくらいに攻撃的で生意気なヤツでしたね。


「さすがマイアだねー。私もできるけどー、そんな実績があるならー、よろしくー」


「消すのはシルフォルに関する皆の記憶だけ。私は消さない。何回も攻撃を受け続けるから、攻撃の源を探って欲しいの」


「分かったー。任せてー」


 死を恐れないマイアさん、そして、ためらいなく承知するヤナンカ。信頼し合っているのでしょう。


「私も協力します。呪いだなんて邪悪な使い手は絶対にぶっ殺してやります」


「えぇ。その意気で御座いますよ、メリナさん。私をも襲った罪を贖わせてやりましょう」


 有能な人が集まっているので、結論が早い。もちろん、私が一番有能。


「リラックスしてね。その方が魔法に掛かりやすいから。我は幽谷に棲まる、徒死すべし瑣尾(さび)なる踔然(たくぜん)。謁するは、美しき肺肝を――」


 掛かりが悪かったら死に繋がるかもしれないと思うとリラックスなんて出来たものではなかったのですが、気付けば、私は倒れて寝ていました。



「おはよう。メリナさんで最後ですよ。皆はもう起きています」


 ん? あぁ。何だっけ?

 んー、マイアさんとヤナンカを浄火の間に呼んで、記憶を封印したんですよね。何の記憶だったかな……。

 あー、分からない。分からないけど、マイアさんが魔法攻撃を受ける予定で、その攻撃してくるヤツを殺さないと私の命も危ない状況だったかな。

 気力が漲る。謎の殺意が私をやる気にさせる。


「それでは、皆さん。私の転移魔法、純血の乙女占いで戻りますよ」


「メリナー、その術名はー、もっとどーにかならなかったのー?」


 ヤナンカが突っ込みを入れて来ましたが、無視しまして私達は冒険者ギルドの2階に現れます。

 直後、襲われるマイアさん。苦痛で少し顔を歪めましたが、即座の回復魔法で効果を打ち消す。


 それが短時間で何回も。執拗にマイアさんが攻撃されています。


「あは。分かったー。犯人かどーかは分からないけどー、攻撃元の場所は掴んだよー」


 大魔王討伐に名を残す魔族にして、長く王都情報局の局長であったヤナンカ。その経歴通りの優れた魔力探知能力です。


「転移するよー。アデリーナ、メリナ、敵に備えてー」


「了解で御座います」


 アデリーナ様が抜き身の片手剣を宙から出します。


「万全です」


 私も魔力を体内に充満させて戦闘態勢に入ります。



 それを確認してヤナンカが無詠唱で魔法を使ったのでしょう。視野が暗転。強い異臭がして足は地に付いているのに暗いままで、私は照明魔法を唱えます。洞窟の中か?



 目の前には白くて大きい竜である聖竜様がいらっしゃいました。良かった。異臭ですもん。悪臭だなんて思ってもいませんでしたよ。うふふ、うんもぉ、聖竜様は寝顔も素敵ですね。


「犯人はワットちゃんかなー?」


 ヤナンカはゆっくりと前進します。普通に歩いているものの、いつでも攻撃できるように、その両肩には魔力の玉が形成されていきます。暗い紫色をしていて、表面は小さな雷の様な迸りが見られます。禍々しいのはヤナンカが魔族だからなのか。


「あれ? ヤナンカ? 久しぶりだねぇ。待って。今、起きるね。ん、よいしょぉとっ」


 聖竜様ののんびりとした声が新鮮で、私は大満足しています。


 なお、隣にいたアデリーナ様は聖竜様に向けた剣を下ろす気配がありませんでした。ひょっとしてアデリーナ様は私に殺されたいのかな?

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