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呪殺未遂

「酷い……。極悪……」


 私はタオルで顔を拭きながらアデリーナ様に抗議します。


「水を掛ければ意識を戻るかもと期待したので御座いますよ」


 ずぶ濡れです。頭から靴まで川で泳いだかのように水が滴っています。

 椅子で脱力し、まるで気絶しているかの様な状態だった私を彼らは放置して部屋を出ました。仮病ではあるものの、異状が現れている私に対して何も心配する様子も見せなかったのです。それだけでも信じられません。

 なのに、悪逆非道なアデリーナは並々と水を入れたと思われる(たらい)を使って、背後から私にぶっかけて来やがったのです。


「これで起きなかったら、次は熱湯で御座いましたよ。幸運でしたね」


「職場いじめ反対運動を始めますから。まずは巫女さん相談室にチクります」


 しかし、私の小さな反抗はアデリーナ様の強烈な反撃で消されるのです。


「娘が犯罪者だなんて、メリナさんのお母様も不名誉で御座いますね」


 あー、殺されるー。私の命は風前の灯火ー。

 何故か悲壮な想いがリズミカルに脳内を駆け巡りました。現実逃亡でしょう。


「……どのような取引が可能でしょうか、賢さと美しさの塊であるアデリーナ・ブラナン陛下」


「うふふ、そこに強さも加えたら完璧な発言でしたのに」


 予感としては私は助かる。いや、助かるのか。こいつ、また無理難題を言ってきますよ。


「まずは何を盗んだか訊きましょう」


 ガインさんはここに居ない。魔力感知では、彼が火の前にいて水を温めていることが分かります。

 本当に熱湯を準備してやがった……。


「はい! 明日から始まる世界最強決定戦で出題される問題用紙です。誤字脱字がないかを確認致しました!」


「なるほど。事前に問題を把握しようとする不正行為で御座いますね」


 何故に分かるっ!?


「いえ、誤字脱字の確認だけでして、盗んではいないのです」


「そうであるなら、証拠隠滅しないでしょうし、最初からそう申されるでしょう?」


 クッ……。分が悪いか。


「ローリィから訊きました。世界最強の者を連れてきたら莫大な金額が支払われるという依頼がギルドに入って来たようで御座いますね」


「……はい」


「そんな怪しい話に飛び付く人間がいるはずがないと思いましたが、かなりギルド内では話が進んでいるようです」


 まぁ、確かにおかしな話です。世界最強の者を連れてきたとして、どうするんだって思いますよね。

 報奨に大金を用意するなんて酔狂に過ぎます。


「ローリィが渡された着手金を確認しました。大金貨の他に古金貨もかなりの数が御座いました。このような馬鹿げたイベントを好む連中の中に、ここまで気前の良い者は心当たりがない。私が知らない財力豊かな者。となると、つまり、国外の人間となります。はてはて、どのような者なのでしょう。目的は何なのでしょう? 気になりますよね、メリナさん?」


 ならない。私はお母さんが満足してくれたら、それで十分なんです。


「はい! とっても気になります!」


 私は空気の読める女。全力で答えます。


「私も分かりませんが、ヒントはこれ」


 アデリーナ様が懐から出して、私の目の前に示したのは金縁の銀貨。大きくて勇壮な竜をバックに6人の武装した男女が描かれていました。


「聖竜様……。これはヤナンカ? あと、若く見えるマイアさんも……」


「そう。大魔王殺しの7英雄のレリーフ」


「だとしたら、この優男がフォビとして、このごついヤツがアデリーナ様のご先祖のブラナン……。背が低くてショートカットの女の子はカレンかな」


「そして、他の者よりも歳がいっている、残った女が7人目……」


 教師っぽい雰囲気が――ヤバッ! 魔力の増大を頭の内部で感じる。7人目を思い出そうとしたマイアさんも襲われた現象です。


 瞬時に私は両拳を胸の前で激しく衝突させる。

 純血の乙女占いによる転移。

 ルッカさんと敵対した時に何回も練習したから、とてもスムーズに出せます。



 急速に視界が暗くなる中、私は回復魔法を使います。幸運にもアデリーナ様も転移に巻き込まれていたようで、彼女も同様に治癒します。


「ふぅ、死ぬかと思った……」


 今のはちょっと遅れていたら死んでましたよ。かなり危険でした。

 私はマイアさんに現れた異常を知っていたからこそ、対応できました。初見で対処したマイアさんはやはり凄い。実は私よりも戦闘センスがあるんじゃないかな。



 冷や汗が吹き出していた額を拭って、ようやくこの場が浄火の間であることを知ります。荒れ地です。


「転移魔法で御座いますか、メリナさん?」


「はい。無意識でしたが、どうも時間の遅いこの空間で自分を回復させ、置いてきたアデリーナ様もすぐに回復させようと考えたみたいです。私、凄く友達想いですね。アデリーナ様は知人レベルだというのに」


「感謝の言葉が喉から出そうになっていましたが、引っ込めさせて頂きます。今のが7人目の呪いでしょうね」


「そういう発言が友達を作れない理由ですよ。ちゃんと感謝してください。あと、呪いの類いは怖いのでお黙りください」


「ふむ。私やメリナさんの魔力量を無視しての呪殺。生意気で御座います」


 いや、呪殺って怖さが増してるから……。


「では、そうですね、マイアとヤナンカを呼んできなさい、メリナさん」


 経験豊かな2名を呼んで状況把握かな。


「分かりま――あっ、一緒に来た方が良いですよ、アデリーナ様」


 私は拳を打ち鳴らす直前に気付きます。


「どうしましたか?」


「ここ特別な空間なんです。私がマイアさんに事情説明している間だけでも数日経ってしまって、アデリーナ様は餓死してしまうかも」


「……恐ろしい話で御座いますね……。メリナさんがその気になれば、転移魔法を扱えない者は全てここで消せるって訳で御座いますか……」


 おっと、そういうことになるのか。アデリーナ様は賢いなぁ。


「そうなりますね。だから……私への言葉遣いを改めなさい、アデリーナ。それから、頭が高い。地に伏せなさい」


「剣王もメリナさんもここで修行し、強くなった。ならば、私も同様。転移魔法を覚え、メリナさんの首を刎ねに参りましょう。それまで、十分に健康にお気を付けください。さようなら」


「さ、冗談は止めまして行きますよ。もぉ、やだなぁ。私がアデリーナ様を置いて行く訳がないじゃないですか」


 アデリーナ様なら、魔王候補から魔王そのものになってしまうかもしれないとか思ってしまいました。


「もう少し待ちなさい、メリナさん」


 アデリーナ様はまだ持っていた金縁銀貨を見て呟きます。


「これが7人目……」


 お前っ!? 懲りずに何をしてやがるッ!! また頭ん中を爆破されそうな魔法が来ますよ!

 私は回復魔法を何回も自分とアデリーナ様に掛け続けます。

 が、何も起こらず。


「うふふ、メリナさんは野性の勘が鋭い。よくこの地を選びました。ここには呪いが届かないみたいですね」


「野性は撤回してください。あと、それを試すなら独りでやってくださいね。私、シティ派だから幽霊と呪いの類いは苦手なんです」


 その後、私とアデリーナ様は古代の英雄の生き残り2人を迎えに行きました。

(お知らせ)


YouTubeでネット小説を音声化しているチャンネル「Center Wing」様で竜の巫女の見習いが投稿されております。

視力の弱い方にもネット小説を楽しんで頂きたいというチャンネルの趣旨に賛同したものです。

他の作業をしながら小説も楽しむ、そんな使い方もできるかもでして、皆様も一度試して頂ければと思います。


https://www.youtube.com/watch?v=-k7lWLNXj1Y&list=PLysQsql0kJkIYr1hmximVlCHueQMNE40a

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