ギルドからの新しい依頼
部署の小屋の中、私たち魔物駆除殲滅部の面々が勢揃いしています。薬師処の応援に行っていたフランジェスカ先輩とフロンも戻って来ているのです。
「見習いさん達、もう復活したんですね。良かったです」
降り掛かる火の粉を振り払う様なもので、かつ、全責任をフランジェスカ先輩が負うという話だったのですが、それでも、私が見習いさん達に力を行使したのは違いありません。だから、どこかホッと安心しました。
「あの2人、全治不明なくらいの怪我なんだって。意識混濁も酷いとか、どうにかならないかな?」
辛い現実で答えたフランジェスカ先輩は私とルッカさんを見ていました。
「んー」
長くて青い髪の上から頭を掻きながらルッカさんが反応します。
「あれ、リアルにアクシデントだったのよねぇ。ほら、一昨日、アデリーナさんにも伝えたでしょ?」
「えぇ」
あー、私が帰った後に2人で話し合いとかしてたもんなぁ。
「何がですか?」
気になるので尋ねます。
「ベッドで横になりながら、巫女さんの成長をどうやってストップしようかと考えていたら、無意識に魔力が漏れちゃってね。見習いさん達には悪いことをしたわ。ソーリーね」
「いや、私に謝られても。見習いさん達に言ってください。でも、何だかそれって、屁みたいですね」
「うわっ、最悪。あんた、相変わらずデリカシー知らずじゃん」
チッ。フロンめ、会話に入って来やがった。
「そうよ、巫女さん。フロンさんの言う通り――」
話の途中ですが、皆は黙ります。
巫女長が静かに扉を開けて現れたからです。和気あいあいとしていた空気が一変しました。
「あらあら、皆さん、仲が良いのは結構なことよ」
そう言いながら、ゆっくりと椅子に腰掛けます。
「今日は2つもお仕事があるの。聞いて頂ける?」
聞かないって言っても言うくせに、とか悪態を付くことは決してありません。魔法で精神的に殺されますからね。
「1つは薬師処で欠員が2名いるの。フロンさんとフランジェスカさん、それから、ルッカさん、大変だけど、代わりの巫女さんを神殿内で見つけてきて」
つまり他の部署から引き抜けってことか。
んー、私が担当されていたら……うわ、私、神殿内に知り合い少ないや……。
うちの部署と薬師処を外すると、親しい人は礼拝部のシェラとその先輩方、副神殿長、調査部のエルバ部長と受付の人くらいか……。
「メリナさんとアデリーナさんは、冒険者ギルドからの依頼よ。ガインさんのギルドに向かって頂戴」
良かった。案件は分からないけど、こっちの仕事は適当に出来そうです。
「承知致しました」
アデリーナ様が承諾して朝の会が終わる雰囲気となります。ここで、遠慮がちに手を上げて、私は発言を求めます。
「あらあら。メリナさん、おっしゃって」
「はい。ありがとうございます。明日は用事があるのでお休みします」
「ハァ? あんた、サボってばかりじゃん。昨日も休んでたじゃん」
うるせー。お前には言ってない。ルッカさんに噛まれて、可愛らしい猫に戻っておきなさい。
「そうなのね。残念だけど分かったわ。でも、知っていて。私はメリナさんへの教育、早く始めたいのよ」
始められてたまるか。内心は穏やかではありませんが、私は微笑みで返します。
「メリナさん、休む理由は何で御座いますか?」
チッ。アデリーナ、お前も私の上司じゃないでしょ。
「母が世界最強決定戦に出るので、その応援です」
「ん? メリナさんは出場しないので御座いますか?」
「出ますよ。母をアシストしたいと考えてます」
私の答えにアデリーナ様は納得したのか、それで黙りました。
「それじゃ、メリナさん。明日は精一杯頑張って。それにしても奇遇ね。私もそれに出るの。ガインさんが勧めてくれてね、ちょっと恥ずかしいわ」
ッ!! マジ!? ヤベー、一気に難易度が高騰しやがりました!!
驚く私を置いて、巫女長は去って行きます。
「私たちもレッツゴーね」
「あー、私、何人か当てがあるわ」
お前にか、フロン!?
「私も。薬師処でやっていける人に思い当たりがあるわ」
くっ。しまった……。
フロンはどうせ淫ら友達とかでしょうが、ルッカさんにフランジェスカ先輩のタッグは良さそう。私もあっちグループに行きたい。
「メリナさん、私たちも向かいますよ。ボーッとして、どうしましたか?」
「自分を一方的に友人呼ばわりするヤバいヤツと2人きりって怖いって思いました。フロンと代わって頂きたい」
「本当に失敬なヤツで御座いますね」
「アディちゃんと一緒になれるのは嬉しいけど、お前のおこぼれみたいなのは嫌よ」
「巫女さん、アデリーナさんはノヴロクの子なんだから良くしてやってよ」
その子が誘拐した上での殺害命令を出していましたよ、ノヴロクさんへ。
あっ、その件ってどうなったんだろう。ルッカさんは知らないままなのかな。
仕方なく、アデリーナ様を連れて私は街中の冒険者ギルドへ足を運びました。
本当はイルゼさんを捕まえて転移してもらい、ヤナンカに「王国で一番古い祠がどこか」訊きたかったのですが。
さて、私達は2階にある立派な部屋、ギルド長であるガインさんの執務室に案内されました。
「ギルドに盗人で御座いますか……」
ガインさんから依頼事項を聞いたアデリーナ様が呟きます。
「だ、大胆な犯行ですね……。そして、嘆かわしい……」
ギュッと眉を潜めて、なるべく悲痛な表情を作る私。アデリーナ様がチラリと私の顔を見ましたので、唇を噛み締めて、より一層に辛そうな雰囲気を出します。
「……被害は?」
「今、調べてるとこや」
「調べている? 何を盗まれたのか分からないので御座いますか? それとも、盗まれた点数が多すぎて把握に時間が掛かっている?」
「前者やな。侵入者がいたことだけは分かったんやわ」
ふぅ。ヒヤヒヤさせやがって。
そんな状況で竜の巫女を呼ぶなっつーんですよ。
「何か証拠でも?」
「あぁ、そこに置いとるわ」
ガインさんが顎でしゃくった先のテーブルの上に透明な氷の鍵が見えました。
チィィイイッ!! 回収するの忘れてたー!!
誰よりも早く動く。
「わー」
足が縺れて体のバランスが崩れた振りをして、手を付くと見せ掛け、拳でその鍵を粉砕する。
中途半端は良くないと思って、テーブルの脚が折れたくらいの衝撃を喰らわしてやりました。
「犯人が分かりました」
「確定やわな」
「え……私じゃないですよ」
「真犯人は皆、そう言うので御座います」
「フローレンスを呼ばれる前に吐きや。あいつの≪告解≫の魔法を受けたくないやろ?」
「貧血でふらついただけなんです!」
「豪快な証拠隠滅を謀った者の弁解とは思えませんよ」
くっ。全然疑いが晴れない!
万事休すか……。いや、まだです!
私は静かに椅子に座り、意識を失くした演技に入ります。




