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メリナの知性

 今日の起床は早く、街の上に作った魔力ブロックの上を私は風を切って疾走しています。

 月はなく、上も下も暗闇。そして、今の私は真っ黒な巫女服を身に付けている。誰にも気付かれることはないでしょう。

 目論み通りに私は目標地点に到着し、上空から正確に狙いを付けて、静かに狭い路地に着地します。


 建物と建物の間は少しゴミで散らかっていて、夜から続く湿った空気が溜まっていました。

 魔力感知を使う。

 微弱な反応があり、緊張しましたが、ただの猫でした。ふーみゃんでなくて良かった。 


 誰も居ないことを確認した私は更に集中し、建物内の部屋配置、家具や什器の位置を魔力の反応から把握する。そして、いよいよ、目的の物がどこにあるのか探るのです。


 きっと紙束でしょう。そして、厳重に保管されているはず。ならば、訪問者が入り辛い奥の部屋、そして、そこの金庫や机の引き出しの中が怪しい……。


 ……この建物の性質から多くの文書があることは覚悟していましたが、予想以上ですね。

 2階には隠し部屋まで存在してやがる。


 しかし、このメリナ様の手に掛かれば、望んだ物を手に入れることなど、赤子の手を捻る、いえ、アデリーナ様の顔を怒りでピクピクさせることよりも簡単。


「ククク……」


 思わず、自分の天才具合が愉快すぎて、笑いが漏れてしまいました。


 魔力は万物に存在します。それは誰しもが知る常識。そして、万物は全て変化します。岩は石になり更には砂になり、また、本だって最初はきれいな紙がやがてボロボロに朽ちていき、色も黄色くなっていきます。


 これ、全部魔力の変化です。

 石を砕くと魔力が出てきます。また、古い紙は新しい紙が魔力を吸って変化するのです。私はそう考えています。

 大変に微妙な差だけど、新しい物と古い物では魔力の質が違うのです。魔力感知では何だかくすんだ感じになります。そして、そのくすみはより古い物で強く感じる。

 インクの色は逆に、時間が経つにつれて黒色から薄い色に変化していきますが、魔力の質で新旧を判断できるのは同じ。


 お父さんに「メリナは知性よりも野性って感じ」とバカにされ、見返してやろうという強い気持ちが私をこの発見に導きました。



 魔力感知をより精度高くするために、私は汚い地面に座ることも厭わず、精神を集中させます。

 隠された場所にある新しい文書。じっくりと建物内の魔力を調べ、私は遂に確信する。


 一階奥の小部屋。そこの隅に置いてある皮袋の上。恐らくはローリィの荷物袋か。そこに新しい紙束がある。

 なんと無防備。敢えて隠さないことで撹乱する気だったのか。


 素早く通りに出た私は手慣れた手付きで扉の鍵穴に氷魔法を使って、氷の鍵の出来上がり。カチャリと回して、最小限の動きで室内に入る。


 からんからん。


「ひっ!」


 扉に備え付けられた鐘が静寂を破り、昼間よりも響く音に私の心臓が激しく鼓動してしまいます。


 人通りはない。だから、大丈夫、大丈夫。落ち着け、メリナ。貴女は捕まらない。深呼吸、深呼吸。すーはー、すーはー。

 気を取り直して行動を再開。窓から見えないように身を屈み、足音対策に摺り足で目標物へと向かう。


 これまでの気苦労が嘘のように、呆気なく紙束から上の1枚、それから真ん中の1枚を得る。

 残念ながら全くの暗闇で読めません。火球や照明魔法で照らしたいところですが、光は目立つ。今の私は暗闇の住民なのだから。

 魔力感知を駆使すれば、インクの魔力から文字を追うことができるか――


『主よ』


「わっ!!」


 突然の掛け声に私はまたもやビビる。


『窃盗癖が加速しているではないか』


 ガランガドーか!?

 貴様っ!? ずっと見ていたのか!! ずっと私を観察していたと言うのか!?


『我、守護精霊であるからな。主が下らぬことをやっているのも筒抜けである』


 下らぬ、だとっ!?

 お前、お仕置きですよ! お仕置き!!

 生きたまま鍋でグツグツ炊いてやるからな! しかも、出汁を取ったら捨ててやる!

 お前は不味いですからね!!



 あっ、ダメだ!

 もう目的を達したのだから、ここからは脱出です! さっきの悲鳴で隣の建物の人が動き始めた……。


 狙いであった冒険者ギルドを脱出し、ここまで来るのに利用した、屋根よりも高い所にある魔力ブロックへ渾身のハイジャンプで乗り移る。そして、走る。



『主よ、不正行為はどうかと思うのである』


 どうって何ですか? 勝利のためには手段を選ばない私を褒め称えたいんですか?


 空に浮かぶ星々がそろそろ眠り始める気配です。私は宿へ急ぎます。

 半刻もせずに到着し、開けっぱなしの扉から体を滑り込ませてベッドに飛び込む。

 私の手にはぐしゃぐしゃの紙が2枚握られていました。


 ぐふふ。やってやったわ。


 枕脇の魔動式ランプを点け、文字を確認。良し! どっちも同じ内容です! 当たってた! 私、目的の物をちゃんとゲットできました!



 最強の者は誰か、それを決めるイベントが明日から開催されます。私としては最強かどうかは興味はない。しかし、お父さんの誹謗だけは許せません。私は知性も抜群であることを証明したいのです。

 その為に、ローリィさんの冒険者ギルドに忍び込み問題用紙を盗んだのです。


『主よ、盗んだと自ら罪を認めておるではないか?』


 はぁ!? 罪!? ノー! 断然ノーです!!

 戦いは鐘が鳴る前から始まってるんです!  優れた知性を持つ私だからこそ、そこに気付き、実行したのです! だから、これは不正行為ではない。知性の証明です。


『品性も最低であるな』


 貴様っ!! ご主人様に向かって何て罵倒をするんですか!


 もう無視! 私は問題を読みます。


 “王国で最も古い祠はどこでしょうか?”


 ククク、分からない。

 本番にこんな問題を出されたら、私はパニックになって出場者全員の抹殺を考えたでしょう。


 ローリィさんは強欲。だから、手柄を独り占めにするために問題も独りで作成していると想像されます。でも、問題用紙を人数分用意する必要があって書くのが大変。

 結果、出題はこの1問のみにしたのだと思われます。紙の真ん中に一行の問いが書いてあるだけで、スペースが大きく空いておりましたから。


『悪知恵と行動力は褒めてあげるわぁ』


 ねっとりとした声が頭に響く。これは邪神……。


『私の夫も参加するのよぉ。黙っていてあげるから、こっちもその情報を利用させてもらうわねぇ。お疲れ様ぁ』


 チッ。精霊どもは人の思考が読めるんでしょ? 出題者の思考を読みなさいよ。

 邪神からの応答はもう有りませんでした。


 さて、私は神殿へと急ぎます。

 そして、イルゼさんを捕まえてマイアさんの所に転移させてもらいましょう。

 訊く相手はヤナンカ。地上の人間に尋ねると、後日に出題された問題との不自然な一致を疑問視される恐れがあることと、彼女は2000年もの間、王国の影に君臨した者ですから一番古い祠とかいう観光名所にも詳しいと推測されることからの人選です。


 冴えてる。今日の私はとても良い感じですよ。既に王国一の知性と称して良いかもしれません!

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