表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/391

聖竜様との再会

 悪臭が体内に入らないように鼻を詰まみながら、私はまだ手を握らせてもらっているルッカ姉さんに尋ねます。


「どこですか、ここ? 真っ暗で見えないです。照明魔法を使って良いですか?」


 なお、ルッカ姉さんは詠唱魔法を使える頭の賢い人だと知ったので、私は尊敬の念も込めて喋っております。


「良いわよ、巫女さん」


「ありがとうございます」


 早速、明るく光る球を魔法で出します。

 周りは土壁で囲まれていました。でも、それが土だと理解するには少し時間が掛かるほどに壁が遠く、広い空間だと分かります。

 下は石床。色の違う石材で造られた幾何学模様には見覚えがあって――ここは聖竜様の家です!!



 感動の余りに体が震えてしまいます。

 遂に私は聖竜様と再会するのですね。

 どう挨拶しようか……。聖竜様は私を覚えて下さっているでしょうか。



 背後で大きな物が動く気配がします。

 そちらに御座すのですね。


 私はゆっくりと振り向きます。



 巨大な白い竜。それが聖竜スードワット様です。長い首を持ち上げて、慈悲と厳粛さを兼ね備えた黒目だけの(まなこ)で私を見ます。四肢の先にある鋭い爪さえも私の体より大きい。



『久々であるな』


 聖竜様は人間の言葉が喋れます。重厚なお声は空気を強く振動させました。


「はい。少々不可解な事態になっておりまして、聖竜様にお尋ねしたいと思い、来させて頂きました」


『ふむ。ルッカより相談がある旨の事前連絡を受けておる』


 聖竜様はアデリーナ様の言葉に答えた後に、私達3人を見たまましばらく黙ります。


『メリナよ。お前も我を訪問する場合は事前連絡をするように。とても大切だからしっかり覚えておくようにな』


 えっ!? ちゃんと私の名前を呼んでくれました! うわっ! 嬉しい!!


「あと、巫女さんが聖竜様を見て何か思い出さないかなって思って来たのよ」


 私は声が出せません。

 幼い頃からお慕いしておりました聖竜様が目の前におられるのですから。



『ふむ、思い出す? 確かにメリナの様子がおかしいように感じるな』


 私のみを見詰めての聖竜様の発言です。



『して、アデリーナからだな。お前は何を尋ねたいのだ? 我が知っていることならば、何なりと答えようぞ』


「はい。まず、記憶操作の魔法を扱うことはできますか?」


 アデリーナ様は物怖じせずに聖竜様の前へと進んでいきます。私はそれを眺めるだけ。



『我は人よりも遥かに長い命を持つ者。その様な小賢しいマネはする必要も覚える必要もなかろう』


 カッコイーィ! 聖竜様、なんてクールなお答えなのでしょうか!


「次の質問です。聖竜様は嫌なことや苦手なことは、立ち向かうよりも逃げる(たち)だと思いますが、今回も逃げましたか?」


『……え?』


 聖竜様の面食らった様は当然です。大昔に人類を救うため、果敢にも大魔王と直接対峙した方ですよ。聖竜様の頭の中には撤退とか逃亡とか、そんな軟弱な単語はありません。

 アデリーナ様はなんて愚かなことをお尋ねになられたのでしょう。


『逃げることなんて、今は起きてないよね……?』


 ぷふふ、さすが聖竜様。冗談も面白い。

 いえ、強いのに慈しみの心も持たれているのですね。アデリーナ様の愚劣な間違いを否定するのが哀れなので、話に乗ってあげたのです。


「最後です。メリナさんを遠ざけて、自分だけ助かるつもりですか?」


『すまぬが、何を言っているのか分からぬな。我は、しばらく地上の世界を見ておらぬ』


「そうですか。ありがとうございます」


 アデリーナ様は軽やかに申されました。



 それから、爆弾発言をします。


「聖竜スードワット、もしも犯人なら殺そうかと思っておりました」


『えっ、怖い――』


 聖竜様の呟きが聞こえる中、私は怒りで煮えたぎっていました。


「はぁ!? アデリーナ様、今、なんて!? それ、口にすることだけで大逆の罪ですから、私がお前をぶっ殺して差し上げます!!」


 私は叫びながら、アデリーナに突撃します。



 先程まで、アデリーナは前に進んで聖竜様に汚い口で語り掛けていました。だから、私に背後を見せている訳です。

 怒りの余りか、瞬間移動の如く接近した私は愚か者の頭を粉砕すべく、ハンマーのように高く振り上げた拳を叩き付けようとしました。



 が、肌を駆け抜ける危機感。踏み込みを甘くして、残念ながら私は後方へと一歩跳ねます。それから、一振の剣跡が腰のあったところを通り過ぎました。

 良くて相討ち、もしかしたら、打ち負けていたかもしれないという強烈な一撃が空を切ったのです。


 やるじゃない、アデリーナ。ただの口うるさい結婚適齢期を逃しそうな乙女って訳じゃないのね。



「メリナさん、記憶を失っても考えなしの性格は変わりませんね」


「親友だったとは思えない発言の数々、地獄の底で反省してくださいっ!」


「今のメリナさんが今の私に勝てるとでも? 一年前とは状況が違うので御座いますよ。そして、仮に死後の世界があるとして、私が行くならば天国ですし」


 不遜な笑みです。私は両足を前後に広げ、腕を構えて戦闘態勢に入ります。

 アデリーナも巫女服のどこに隠していたのか、剣を正面に構えて私とにらみ合いをしてきました。


「私のたゆまぬ努力がメリナさんの野性味溢れる才能を上回ることを証明致しましょう」


 何かムカつくと感じる言葉を吐いてきました。


「言葉をキレイにしただけで、私をバカにする下心は消えていませんよ?」


「あぁ、そうですね。発言を撤回致しましょう、ワイルドモジャメリナさん」


 ……意味が分からない! 分からないけど、すごく屈辱的な言葉を投げ付けられたと私は確信します!

 それを聖竜様の面前で吐きやがったのですから、私の怒りは天を衝くばかりです。



 突撃。剣撃をやり過ごしての殴打。間合いを詰めての投げ。流れは良かったのですが、私はアデリーナを追い詰められず、逆に逃げ際で鋭い突きを出されまして、寸前で首を振って躱します。

 ふん、火炎魔法で焼き尽くしてやる。



「2人ともストップよ、ストップ。スードワット様からも何か言ってあげて」


 ルッカ姉さんの声が聞こえました。


『そうである。此処は我の聖域。無用な争いは許されるものではないぞ』


 無用ではなく有用な争いなので良いのではないか、と私は聖竜様のお言葉なのに思ってしまいました。


『それよりもメリナ。約束を覚えておるか? それを果す時が来た。拳を下ろすが良い』


 ……へ?

 聖竜様と私、何かお約束をしていたのですか!? 全く記憶がないです!

 ……記憶を失くす前の私が畏れ多くも聖竜様に契約をしたのか、もしくは求めたのか……。求められる方なら何の準備もしていません! ピンチです!!



『我の古き友を救った褒美であったな』



 おぉ、褒美! 貰う方! 何なのか想像も付きませんが、記憶を失くす前の私、グッジョブ!! 素晴らしいです!


 そう言えば、コリーさんが言っていましたね! 「メリナ様は聖竜様にご結婚を申し出た」と!!

 でも、まあ、あれはコリーが私を嵌める為の邪悪なトークだとして、聖竜様は私にどんな素敵な物をくれると言うのでしょうか!


 私は自然と拳を下にしていました。それを見て、アデリーナ様も剣を鞘へと戻します。不思議なことに彼女の剣はそうすることで消えました。収納魔法? 便利そうでいいなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ