異端なドラゴン達の集い
かなりヤバい状況であることは理解しました。戦闘もそうですが、根本的にはルッカさんに原因があるとは言え、息子殺しの汚名を被るのも絶対に避けたい。
行動するしかありませんね。
復活に向けて頭部を修復しているルッカさんを確認し、即座に腰を蹴り上げ、無抵抗に浮いたルッカさんを渾身の拳で殴って、遠くの壁に衝突させます。同時に、立体魔法陣で出した私のコピーを消して、その魔力を回収。
衝撃に対するクッションとなり得たそれら肉塊が無くなり、ルッカさんは崩れた石壁に埋もれる形になります。
時間稼ぎは成功!
それでも焦る私は次の行動へと移る。
「メリナー、どーしたのー? ルッカがーそんなにー憎いー?」
「メリナさんの戦闘意欲ってのは強烈ね。これが魔王の本質か……」
「まおー? メリナがーまおー……?」
うっさい。戯れ事に付き合っている暇は私にはない!
床を破壊し、地下への通路を露にする。マイアさんの居室も地下にあるけど、更に地下だから地下で良い。
そこにも私のコピーがあって、焦点の合わない瞳で宙を見ていました。私は彼女らへの謝罪も忘れて、これらの魔力も回収。少しでも戦力を整えたいので。
それから、奥へと突き進みます。ヤギ頭が震えて縮こまっていましたが、今は無視。今じゃなくても無視か。
コピーから得た魔力は体内に溜めきれる量ではなかったのか、ゲップを催したいのに近い感覚になりましたが、グッと我慢。ルッカさんと死闘する場合、魔力は多いに越したことはないのです。
絶命したと伝えられたルッカさんの息子の所へ向かい、正しい状況を把握します。
ショーメ先生が言った通り、紫色で回転する魔法陣から外れた位置に老人が頭から足までまっすぐな体勢で寝転んでいました。本来は真ん中に安置されていたものと思われます。辛うじて、左腕だけが魔法陣に掛かっているか……。
どうする? どうする、私?
ルッカさんはそう遅くないタイミングで復活するはず。
「クソっ! これしかないか!」
私は両拳を振り上げて、胸の前で衝突させ、枯れた亡骸ともに乙女の純血占いで転移。場所は先ほどまで、ショーメ先生やヤナンカと数ヵ月を過ごした浄火の間です。
ここなら、更に時間を稼げる……。だから、どうすれば最良なのか、ゆっくりと検討することにしましょう。
考えて行動した訳ではありませんが、現状での最適手に思います。さすが私。天才でしょうか。
ガランガドー、聞こえていますね!
お前のフルパワーで、このご老人にすんごい回復魔法を掛けるのです!!
失敗は許されませんよ! さぁ、私の体を自由に扱って呪文を唱えましょう!
地面が白く光る。ガランガドーさん、お仕事をしてくれているみたいですね。私の体を操って良いと言ったのにガランガドーさんは遠慮深いなぁ。
安心したところで、自分の体内に満載した魔力が逆流します。別に腹に溜めたんじゃないのに、余りに体がしんどくて四つん這いになってゲロゲロってしてしまいました。涎が酷い。胃酸も上がる。
あー、お空がきれい。
とてもすっきりとした気分になった私は、青くないって言うか、真っ暗な天井を見ながらそんな幻想を見ました。
視線を落とすと、水気のない皮膚に肋が浮き出て、腹も大きく凹んで、太股の骨さえも形が分かる感じで痩せている、ルッカさんの息子だった物が落ちています。
身動きしません。
私は首を捻る。魔族ヤナンカばりに人間離れした角度で頭を横にしているかもしれません。それくらいに疑問でした。
あれ? ガランガドーさん、フルパワーでお願いしたのになぁ。全然事態は好転していませんよ。
吐き出した魔力で周りは充満していて、私はその一部を使って魔力コネコネ。ガランガドーの体を作り上げて、ヤツを召喚します。
『お、おぉ、主よ、久しぶりであるな』
えぇ、お久しぶり。早速ですが、この体たらくを説明なさい。
『我、死を運ぶ者だから、回復魔法は得意ではな――』
は!? だったら、お前の言うスードワット様とは別の聖竜様とやらに祈りなさいよ! 私は私の体を自由に使えって言ったじゃないですか!
『いや、でもであるな、主よ――』
もういい! 邪神です! 邪神! あいつも召喚してやる!
ミミちゃんの喋りでは話の展開が遅くなるため、私は邪神本来の姿、白と黒の格子模様の人面竜でヤツを出します。
状況は分かっているな? お前はガランガドーよりも利口だと評価しています。
『主よ! それはあんまりである!』
うるさい! お前はそこで回復魔法を唱え続けていなさい。
『分かってるわよぉ。でも、無駄よ。それ、心臓が止まってるものぉ』
なっ!! マジで手遅れなのか!?
どうにか復活させるプランは破棄です! 次は如何にルッカさんの怒りを避けるかですね。
『もう帰るわねぇ。ゾルが待ってるのぉ』
待て。ダメです。帰ったらガランガドーとともにお前を討つ。本気です。剣王も殺す。あのオズワルドの開拓村ごと塵も残さず潰す。
『んもぉ、本心じゃないのは分かってるわよぉ。でも、良いわよぉ。逆らっても貴女には敵いそうにないものぉ。またここに連れて来られそぉ』
お前こそ、私の守護精霊のクセに歯向かってくるんじゃありません。
さぁ、シミュレーションをやりますよ。
邪神よ、お前はルッカさん役です。ガランガドーは第3者の目で案の良否を判断しなさい。
Plan.1(アデリーナ様に全責任を)
「ルッカさん、大変です! 息子さんが、息子さんが死んでます!」
『キャー! なんてテリブルぅ』
「見てください! 胸のところに大穴が! それに両方の太股にも! 私、知ってます。犯人はアデリーナ様です」
『アデリーナさん……いえ、アデリーナァッ! よくも、よくもぉ私のノヴロクを!! 殺してやるぅ! そして、この世界を滅ぼしてやるぅ! まずは手始めに、メリナ、お前からだぁ!!』
「あぁ!? こっちこそぶっ殺してやるわ! 死ねぇ!!」
どうですか、ガランガドーさん?
『どうもこうも、それ、策を弄した意味がないのである』
いや、まぁ、そうですけど……。
もうちょっと役に立つ意見はないですか?
『では。前提からしておかしいのである。その人間の胸に大穴は空いておらぬ』
あはは、無ければ空けりゃ良いのです。そして、太股への穴がアデリーナ様がやったという証拠になります。
『だとしても、現場にいないアディでは説得力に欠けるのではないか?』
確かに。ショーメ先生に命令した真の黒幕だと言うのに、ルッカさんも唐突過ぎて意味が分からないか……。
Plan.2(ショーメ先生が殺りました)
「クッ……」
『どうしたのぉ? お肉が急に出てきたわよぉ』
「くそぉ! やっぱりステーキしか出ない! どうしてナイフが出ないんですか!? ナイフを突き立ててショーメ先生の仕業に仕立て上げたいのに!」
『主よ、別の者に罪を擦り付けたとしても、ルッカの怒りが収まる訳ではないぞ。そして、その怒りは主へも向けられるかもしれぬ』
ハッ! その通りですっ!!
Plan.3(えっ!? 居ない!)
「大変! 大変ですよ! ルッカさんの息子さんが消えてます!」
『あぁ、私のノヴロクぅ……。一体どこにぃ……』
「可哀想なルッカさん。さぁ、涙を拭って立ち上がりましょう。彼も涙を流すルッカさんなんて、きっと見たくありませんよ」
『我は願う、その冥き途を往く獅子に。舞い上がるは砂礫の――メリナさん、私のノヴロクが浄火の間に放置されて朽ちていたのだけどぉ?』
「えぇ!? ふっしぎー!」
『殺してやるぅ! 世界ごと滅ぼしてやるぅ!』
「バレたなら仕方ない! お前こそ、覚悟しろ! 死ねぇ!!」
『そうなるであろうな。このタイミングで消えていたら、勘の鋭いルッカは浄火の間を疑うであろう』
ですね。ならば焼失させるか……。
『ダメよぉ。貴女、最後に現場に入った人よぉ。バレバレよぉ』
『であるな。ルッカでなくとも、犯人は主だと判断するであろう』
くっ……。
Plan4(こんなに謝ったんだから許してくれるよね?)
「ごめんなさい。不幸な事故があって、本当に絶望的な事が起きてしまったみたい。ルッカさん、ごめんなさい。これも彼の運命だと思うけど、私、謝るね。気落ちしないで。水、飲む?」
『ふーん、言いたいことはそれだけかな、巫女さぁん?』
「いや、えっ、ルッカさん、どうして魔力が膨れ上がっているんですか……?」
『あはは。お前を殺すためだッ!! 滅べ、世界ごとぉ!! そして、ノヴロクを殺したことを後悔するが良い!』
「は? 私が謝ったんだから、お前も謝れ! 殺すぞ! 死ねぇ!!」
えー、こんな展開になりますかね? 本当に事故ですよ。そもそもルッカさんから先に手を出してきているんですよね。マリールを嵌めようとしていた可能性があるし、ノノン村も襲撃したっぽいんですよ。私、ちゃんと覚えています。
『分からぬ。ただ、主に戦闘を自省する気がないのは、十分に分かったのである。むしろノリノリ』
思い違いも甚だしい。私は友好的に話をしようとしているだけです。全くガランガドーは使えねーですね。
『なぬっ!』
お前が批判だけで案を出さないからですよ。
『ふん。主よ、ならば我の案を聞くが良い』
ほほぉ、言ってみなさい。
Plan.5(奇跡よ、私はそれを願う)
「アー、聖竜様ー、聖竜様ー。どうかルッカさんの息子をお助けください。事故で息子さんが亡くなったのです。もうほぼ死んでいる爺ですが、命は大切なんですー。あー、メリナは必死にお祈りしますので、彼の命を助けてくださーい」
『……何してるのよ、巫女さぁん?』
「あっ、ルッカさんもお祈りしましょう! 息子さんが死んだみたいなんです! ほら、魔法陣からずれ――あっ、自分の力で動いたのかもしれませんね! 何にしろ、聖竜様に祈って救ってもらいましょう!」
『無理よぉ。聖竜様も祈られて困るだけだわぁ。うぅ、でも、どうして、ノヴロク……。折角、再会できたのに、どうして私を残して逝ったの……』
……行けたか?
『ふむ、行けた、行けた。主よ、我の計画に狂いはない』
本当? えっ、本当? しかし、ぬか喜びになるかもしれない。邪神、お前はどう思う?
『面倒ぅになってきたのぉ。もぉ、帰るわねぇ』
お前! 早く帰りたいから、ルッカさんが気落ちする演技をしたのか!?
『怒らなくて良いのよぉ。貴女、実は良いところを付いているわよぉ』
どこがなんですか!?
『精霊を召喚したところぉ』
うん……? あっ! つまり、この爺にお前達、精霊の肉を食わして眷属にするんですね!
『外れぇ。それは大昔に小賢しい魔族がやって寿命を多少は伸ばしたみたいねぇ』
ヤナンカかっ!?
『ガランガドー、私の宿敵だった者よぉ、答えてやったらぁ?』
『えっ、我?』
何も分からんって顔を一瞬しやがりました。
『え、えー、うむ、あれであるな、あれ。主よ、もう分かるであろう、あれである』
一切分かりません。
『あー、我、言葉が出てこぬ。あー、まだ本調子でないからであるかなぁ』
ダメだな。
おい、邪神、さっさっと答えなさい。
『うふふ、良いわよぉ。これは貸しかしらぁ』
は? 1年前に私を殺そうとした借りを返してもらうだけです。
『分かったわぁ。じゃあ、これで帳消しねぇ。聖竜様、あのスードワットではなくて、私達の聖竜様に頼めば良いんじゃないぃ? あれが無理と言うのであれば、諦めなさいねぇ』
……私達の聖竜様? もう少し教えなさい。
『竜の王を自称し、神とさえも僣する古竜サビアシース・ニルヘルグ・ドゥマンデサールア。私が倒したかったヤツぅ。メリナ、貴女のもう一匹の精霊。後から住み着いた私達とは違う、生まれながらの守護精霊ぃ』
竜の王? そして、フォビとは違う新たな神?
『貴様……軽々しくその名を言っては……』
若干の怯えが見えるガランガドーは、いつものことだから良いとして、気に食わないヤツですね、そのサビ何とかってヤツは。聖竜様よりも上って公言しているのか?
『うふふ。じゃあ、私は怖いからぁ、帰るわねぇ。大丈夫。これだけの魔力があるんだから来るわよぉ。願いなさいぃ』
邪神の気配が消える。
そして、その言葉の通り、私が真剣に願うと極めて巨大な竜、火山と同じくらいの高さを持った白い竜が現れるのです。遠近感が崩れる程に大き過ぎて、私は思わず、後退りしてしまいました。
が、聖竜スードワット様に使える私が後退なんて、聖竜様が恥を掻いてしまいます。踏みとどまり、そして、一発殴ってやるべく突撃を開始したのでした。




