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フランジェスカの疑念

 私がどんな提案をしても無駄でした。フランジェスカ先輩は聖竜様を譲ってくれません。それもそのはずで、守護精霊を交換する方法が分からないからです。

 私、今日のところは諦めます。悲しいけど、我慢するのです。



 さて、本殿出口に位置する売店兼食堂の軒下に置いてあるテーブルを前に、私とフランジェスカ先輩はゆっくり座っています。

 先輩が動こうとしなかったから。



「メリナ、こちらからも話があるんだけど、良いかな?」


「はい。尊敬する先輩の話ですので、何なりと」


 フランジェスカ先輩は優しくてお茶目な面もあって賢くて運動神経もそれなりにあって人格者で守護精霊が聖竜様でして、私の自慢の先輩です。


「ルッカさんの匂いの件」


 それか……。

 私は気を引き締めます。

 ルッカから発せられていた匂いと、昨日の精神魔法、それから薬師処の生意気な巫女見習いの香水、それらが全部同じ匂いだと言うのです。私もルッカさんと見習いの匂いだったことを確認しています。


「先輩、お願いします。聖竜様に言い付けましょう。『ルッカのヤツがいたいけで可愛い後輩のメリナを殺そうとするんです。だからルッカを惨殺して下さい』って」


「あはは、ダメだよ。聖竜様は人間の営みには関与しないって言ってたから」


 ぬぅ、確かに聖竜様が言いそうなことです。


「で、匂いの件。私は薬師処の見習いも操られていたと思うんだ。正巫女に逆らう見習いなんて珍しいからね。ここ数年だとメリナくらい」


「私の場合は、配属された部署が悪かっただけですよ」


 一応、弁解しました。

 が、重要なことじゃないのでフランジェスカ先輩も微笑んだだけで流します。


「今年に入ってからメリナは新人寮でイジメを受けてたって聞いたけど、それも見習いが操られていたとしたら?」


 イジメを受けた記憶はない。るんるん日記を読んでしまった後遺症と言うか、2度と日記に近づかない為にその当時の記憶がごっそり封印されたんだと思う。


「お金をせびられていたとか、退寮の要望書が出されたりはしていたみたいです」


「どうしてかな? あっ、どうして王国最強の戦士であるメリナに逆らおうとしたのかって疑問ね。各部署でも注意事項としてメリナのことを伝えているはずなのに」


 ……なんてふざけた枕詞が私の名前の上に付けられているんでしょう……。そして、注意事項ってなんだ?

 いえ、フランジェスカ先輩は私を貶したんじゃない。たぶん実際の皆の認識と事実。それがまた辛い。


「ルッカのヤツが私を邪魔に思って追い出そうとしたんです。絶対にそうです」


「私ね、他にも操られている見習いがいると思うんだ。後で調べてみる」


 ここで先輩はお茶を口にしました。話したいことが一段落したのでしょう。遅れて私も喉を潤したのを確認し、先輩は続けます。



「操ってる人は、どうして私を薬師処から追い出したかったんだろう?」


 フランジェスカ先輩の疑問に私はピンと来ました。


「やっぱりルッカが犯人ですね! フランジェスカ先輩の守護精霊が聖竜様だから、嫉妬したんです! くぅ、あいつはクズですね! 先輩、聖竜様に『ルッカはクソッタレのゴミカスです』とお伝えください!」


 しかし、先輩の顔色は変わらない。


「ルッカさんは私なんかよりずっと強いんだよね?」


「そうですね。だから肉弾戦より情報戦ですよ」


「強いんだったら、私を襲った方が簡単だと思うんだけどなぁ」


 ……それはそうですね。ルッカは私を2回も直接的に襲ってきたんです。最初は私が転倒して記憶を失った模擬戦の時、もう1回は帝国での戦いの後、皆で歩いている時に突然でした。


「メリナが狙われた理由は?」


「……私が魔王になりそうだから、だそうです」


「あはは、メリナが魔王? あはは。随分と可愛い魔王さんね」


「でしょ! 悪質な戯れ言です」


 思い出して憤慨します。魔王はアデリーナ様1人で十分なんです!


「じゃあ、私が狙われた理由は?」


 先に答えた通り、聖竜様絡みだと思うけど、そうじゃないと先輩は思っている。

 私は別の回答を口に出す。


「狙いは先輩じゃなくて、先輩の近くの誰か」


 ルッカさんとフランジェスカ先輩は面識がないはず。聖竜様関係以外だと繋がりも、現状の情報では考えられない。となると、無目的で無差別でなければ、他の者を嵌めるために先輩を利用することくらい。

 でも、だとしたら、先輩を操った方が早い――あっ、先輩の守護精霊が聖竜様だから、先輩の異変が聖竜様にバレるのを避けたのか!? つまり、聖竜様に知られたくない後ろめたい行為をしていると言うことか……。


「私もメリナと同じ考え」


「ルッカめ……。なんて悪辣で陰険な方法を」


 誰が狙いかは知らないけど、私を暗殺しようとしたみたいに直接襲った方がまだ気持ち良いでしょうに。あれか、私以外は傷付けないように配慮しているのか。


「ルッカさんも操られてる可能性ってのもあるんだよね」


「あいつが? まぁ、操られていても殴れば正気に戻るし、見習いを操ってる犯人でも殴り倒せるしで、どちらでも良いですね。一発本気で殴ってやりますよ」


「あはは、期待してるわ」



 臨戦態勢で部署の小屋に戻ったのですが、誰も居ませんでした。今日は巫女長が会議で不在ということで、皆でサボッテいるのだと私は判断しました。ずるい。


「先輩、ご馳走様でした。お疲れ様です」


 礼儀正しく深々と頭を下げてから、私も今日のお仕事を終了して家路に着きました。

○メリナ観察日記37

 メリナ様、今日もお早いお帰りですね。

 お仕事してます?

 オズワルドさんからメリナさんが盗んだお金の件で手紙が来ましたので、金額を書いて返送しておきました。無理を承知で申しますが、メリナさんが早く更生されたら良いですね。

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