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鎮圧後

 小川で体を清め、久しぶりにお母さんのご飯を食べ、お父さんと他愛ない話をし、先日生まれたばかりの私の弟と妹をあやして、私は疲労を癒します。

 かわいい。赤ちゃんはかわいい。小さなお手で私の指を掴んだ時、私は()も言われぬ幸福感に包まれました。汚れたオムツも喜んで取り替えますよ。


 そして、あの爆発を思い出す。あれが周囲でなく村の中で起きて、この子達を襲っていたらばと思うと、ゾッとすると同時に静かな怒りも覚えました。捕らえたとは言え、犯人は許せない。


 オズワルドさんの開拓村から拉致られていた獣人の行商人さん達は無事でした。また、不埒で悪逆無道な冒険者達はカッヘルさんの部隊が厳重に縛った上で監視しています。

 軍隊式の拷問じみた尋問で追求した結果、彼らは兵士崩れであったとも聞いています。


 カッヘルさんの表情はとても真剣です。

 彼の奥さんはノノン村に在住していて、久しぶりの出会いだったはずなのに、素っ気なく対応して副長に(たしな)められていましたが、それでも冷たさを保っていました。



「お母さん、カッヘルさんをまだ脅してるの?」


「そんなことしないわよ。カッヘル君はここぞという時は真面目なのよ。そんなことより、メリナ、危ないから離れておきなさい。精神魔法を使われるかもしれないから」


「うん。でも、お母さんも離れたら?」


「変な動きをするヤツが居たらすぐに潰す為に見張っているの。でも、もしも失敗してお母さんが操られたら、メリナが私を止めるのよ。お母さんじゃメリナを止められないから逆はダメ」


 ……うわっ、無理!

 いや、アデリーナ様でもお母さんを止められたのだから、いつものお母さんの実力は出せないってことで良いんだよね。うー、それでもお母さんと戦うのは怖いなぁ。


 実は、私達は精神魔法を操るヤツがどいつなのか分かっていないのです。全部処分してしまえば良いのにと思うのですが、女王陛下の命令を待つという結論になっております。


 のんびりとした村に緊迫した空気が張り詰めていまして、何かあると危ないですので、念のためにナタリアやレオン君みたいな歩ける子供はギョームのおじさんに頼んで隣村へ連れて行って貰っています。



「お待たせ致しました」


 イルゼさんを引き連れてアデリーナ様が戻ってきました。

 すぐにカッヘルさんが傍に寄り尋問結果の詳細を伝えます。私は興味がないので近くの石に座っていたのですが、漏れ聞こえる会話が耳に入ってくるのでした。



「精神魔法を使える者は見当たりません」


「根拠は?」


「処刑前提での話をした上で隙を見せ続けているのですが、そういった魔法を使用する素振りがありませんでした」


 チッ。だとすると、まだ森に潜んでいるのか……。

 全部、焼き尽くすか……。


「帝国の関与は?」


「火薬が帝国製というのは正しい見立てでした。何人かは帝国製の小物も持っており、そちらから流れてきた冒険者と思われます。帝国の国家としての関与はもう少し調べたく、お時間を頂きます」


「冒険者登録の時期はどうですか?」


「少なくとも1年前でした」


「なるほど。もしも帝国に繋がる者がいれば、二重スパイに仕立て上げなさい。予算は特別枠で新しく付けますので、必要なだけ申請なさい」


「了解しました」


 予算とかそんな話を聞くと、「アデリーナ様もお国の仕事をたまにはしているんですね。偉いなぁ」って思いました。


「ただし、私は黒幕は帝国ではなく別にいると考えています。今回の騒動を利用して帝国を牽制したいだけですので、面倒なら深入りは避けなさい」


 ほぅ。アデリーナ様は何かを掴んでいるのか。うふふ、お任せしましょう。


「このカッヘル、従来、女王陛下の為に身を粉にして尽力する所存です」


 その後も細かい打合せをしておりまして、実家に戻った私が呼ばれてオズワルドさんの開拓村に戻ったのはだいぶ時間が経ってからでした。



 もう夕刻です。


「アデリーナ様、メリナ様、この度は大変にお世話になりました」


 仰々しくオズワルドさんに礼を言われます。表情は晴れ晴れとしていて、まだ精神魔法を扱うヤツが捕まっていないことを伝えていないのでしょうか。

 私はアデリーナ様の横顔を見ます。


「オズワルド、新しく村を護衛する者を紹介致します」


「はい。でも、ここは獣化のひどい獣人も受け入れる村とする予定なのです。普通の冒険者や傭兵では気味悪がって来ないかもしれませんね。今回も質の悪い冒険者しか集まりませんでしたし」


「あ? あたしゃ、質わるくねーだろ」


 誰だっけ、この薄着のおっぱいでかい人。えーと、あっ、ジョディさんだ。アデリーナ様を気に入って一緒に冒険者しようって誘った人ですね。


「はい。ジョディさんは分かりやすくて良いですよ」


「だろ。あはは」


 絶対にオズワルドさんは褒めてないと思います。


「カトリーヌ・アンディオロと申す者に依頼します。武芸修行をしたいと申しておりましたし」


 オロ部長! 確かに護衛には最適。でも、この付近の魔物では部長には物足りないかもですね。


「女性みたいですが、大丈夫ですか?」


「何言ってんだ。あたしも女だろ、あはは」


「強さは保証します。それに、カトリーヌさんは獣人ですので、この村の理念に同意されるでしょう。ただ、喋れませんので筆談となります」


「強けりゃ、それで良いよ。で、そいつはあたしの部下になんだろ? 可愛がってやるさ」


 ジョディさんは会話に絡もうとしてますが、アデリーナ様もオズワルドさんも相手にしてないなぁ。


「承知致しました。どんな感じの人ですか?」


「白い蛇型の獣人です。それだけで分かるでしょう」


 って言うか、オロ部長は大蛇そのものの見た目ですからね。



 話が付いて、私達はシャールの神殿近くにニラさん達とともに転移します。イルゼさんはそこで解放されてデュランでの自分の仕事に戻りました。もはや夕食の時間なのですが、イルゼさんは夜中に自分の仕事をするのでしょうか。大変ですね。



「ニラさん、馬車が帰って来ずですが、宜しかったですか?」


 ニラさんとブルカノ兄弟ともここでお別れです。


「メリナ様、お気遣いありがとう御座います。メリナ様の村にあると聞いておりますので、またハッシュさんが取りに行ってくるそうです」


 ハッシュさんは獣人の行商人さんの1人ですね。うん、彼なら馬車の運転に慣れているし、村の人達にも顔が聞くから話が早いでしょう。

 手を振り振りしながらニラさん達は去っていきました。今からお食事だったらご一緒しても良かったかな。いえ、私は確認しないといけないことがあるのです。心を鬼にして我慢しましょう。



 さぁ、神殿関係者だけになったところで私はアデリーナ様に尋ねます。


「精神魔法の術者はもう襲って来ないと考えていますか? 危険ですよ」


 血生臭い話になりそうで、私達だけで相談すべきだと思ったのです。


「はい」


「術者に心当たりが?」


「多少ね」


 ふーん、はっきりと言わないんですね。まぁ、良いですよ。

 私達が会話している間に、フロンとフランジェスカ先輩も話をしていました。


「あんた、急に強くなってない?」


「まだまだだよ。フロンさんにはまだ勝てないかな」


「いや、そりゃ、あんたに負かされることはないけどさ。でも、あんたの成長、ヤバくない?」


「あはは。そうかな。でも、気にしてくれて嬉しいよ。フロン先輩、これからも宜しくお願いします」


「えっ、あっ、うん。……あんた、いーヤツじゃん。よし、可愛がってやるよ――イタッ! 化け物、何すんのよ!」


 とりあえず、その言葉の本心が分からなかったので、変な真似をフランジェスカ先輩にするなよという警告として足を踏んでやりました。


「それじゃ、メリナさん。明日も神殿に来るように。遅刻なんかしたら、新部長である巫女長に反省を求められますからね」


「はい……。分かってます」


 最後に嫌な事を思い出させやがってと恨みながら、私は街の反対側にある宿屋まで歩いて帰るのでした。

○メリナ観察日記36


 お金の力は凄い。

 メリナ、ごめん。ゾルを宜しく。

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