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2人で駆ける

 フランジェスカさんとイルゼさんについて、私は情報を得ました。予想外に馬車ごと悪辣な冒険者どもに捕らえられているとのこと。


 イルゼよ、私は馬車を守れって依頼しましたよね。そして、貴女はリンシャルとマイアさんの加護を祈ったはず。

 なのに、何て無様な事になっているのですか……。お前を信じた私がバカでしたか。


 イルゼさんへの怒りはない。でも、失望、そんな感情に囚われてしまいます。

 姿だけおばさんになっただけで成長していないと言うのですか。剣王なんて子供まで作っているんですよ! あの異空間でお前は何を為して、何を得たのですか!? 次に出会ったら詰問ですね。



 さて、早く救出に向かいたいところですが、アデリーナ様がやって来ません。

 待つべきでしょう。敵の数が分からないのに持ち場を離れる愚は犯したくない。



 ふむ。

 オズワルドさん、私は貴方の開拓村への想いに全面的に協力したいと考えています。

 その為には、やはり、この愚か者達への教育が必要でしょう。


 血が溜まった赤い池の中に倒れている冒険者達を眺めます。そして、纏めて回復魔法を唱えました。



「……喋ったのに殺された……」

「テメー! 俺が喋ろうとした時に殴っただろ!!」

「女の私にも容赦ないなんて……」

「俺さ、腕を力いっぱいに引っ張られて、()がれたんだ……。夢だったのかな」


 ゆっくりと起き上がりながら、各々、自由な発言をしています。まだまだですね。



 オズワルドさんからは彼らに絶望の底に叩き落とすようにお願いされています。それを実行するのが約束です。

 しかし、この開拓村は獣人達の希望の地になるのです。少しであっても血塗れた歴史があって良いはずがない。



「うふふ。希望に満ちた明日が皆様に訪れますように」


 彼らの背後から私は声を掛けてあげました。


「ヒッ!!」

「くそ! 殺してやる! 殺してやる!」

「逃げようよ! もうヤダッ!」


 自分達から流れたばかりの鮮血に足を滑らせ、全身が赤く染まる者まで出る始末。飛沫が私の巫女服にまで付着してしまいました。

 怒りません。これが聖竜様から頂いた紫色の服ならば激怒で全員処刑で御座いますが、私は笑顔を絶やしません。


「さぁ、皆さん、聖竜スードワット様が如何に優れ、人々を導いているか語りなさい。称える言葉も忘れてはなりませんよ。沈黙は死です」


 手始めに逃げようと提案していた女の太股を蹴り砕きますと、皆さん、大声でスードワット様の偉業について叫んでくれました。とても熱心です。



「メリナさん、ひどい騒ぎで御座いましたね?」


「皆様のスードワット様を敬う気持ちが溢れ出していたのです」


「虐殺現場を見ている気分で御座いますよ」


 アデリーナ様達がやって来たので声を張り上げるのを止めさせたのです。

 結果、皆さんは息も絶え絶えに横に丸まって転がっております。

 でも、そんな中にも肩で息をしていますが、きれいな青空を爽やかな目で眺めている人もいたりするのです。見処ありですね。この人は伸びますよ。



「教育の成果をお見せしましょうか?」


「いえ、結構です」


「えー、そんなこと言わず。聞いていてくださいよ。番号1、真理を語れ!!」


 私の号令に合わせて、1人がスクッと立ち上がり、彼が腹の底から叫びます。


「我々、人類はッ!! スードワット様の恩情により生かされる存在ですッ!!」


「良し! 2番、覚悟を謳え!!」


 別の者が俊敏に動いて直立します。

 なお、この1番、2番は彼らの力量の序列でして、私が任命しています。もちろん、昇格も降格もあるものです。


「聖竜様の為なら殺人も国家転覆も実行しますッ! 死は恐れません! 恐れるのは聖竜様の憂いだけ!!」


 ……ヤベーな。国家転覆は良くない。

 なぜなら、今、傍らにはこの国のトップ、アデリーナ様がいらっしゃるのですから。

 こいつは5番くらいに降格決定か。

 いや、しかし、3番以下はスラムの連中くらいに出来が悪い……。ふむ、難しい采配が要求されていますね。


「メリナさん?」


 チッ! やはりアデリーナが2番の発言に引っ掛かったか!? ここは勢いで誤魔化す!!


「3番! 急げ!! 我々のモットーは!」


 私の焦りが伝染するかの如く、3番のヤツも慌てた様子でどうにか立つ。足下が揃っていないこと、指先が伸びてないことなど不備が多いですが、今は許しましょう。


「るんるん! るんるん! るんるんアデリーナ!!」


「バカヤロー!!」


 それはモットーじゃなくて、辛い時に思い出す魔法の言葉でしょ!!

 辛いのか、今のお前は本当に辛いのか!? そんなことないでしょ!!



「皆さん、地獄を見たようですね。かく言う私も、こんな凄惨な現場を見るのは現役時代でも稀ですよ」


 オズワルドさんが一歩前に出ながら喋ります。


「もうご存じかもしれませんが、こちらの方が竜の巫女メリナ様です。すみませんね、メリナ様。ご協力を頂きまして」


 冷静に場を纏めて来ましたね。ならば、私もそれに応えましょう。


「いえ、立派な理想に燃えるオズワルドさんの為なら何でもしますよ」


「ははは。頼もしい限りですね。さて、冒険者の皆さん、ギルド経由の依頼における契約違反のペナルティもご存じですよね? 皆さんの頑張り次第では私も善処を検討致しますので、宜しくお願いします」


 契約違反のペナルティ? まぁ、そりゃ有りますよね。


「って、ワケで暫くはあたしがお前らのボスだ! オズワルドに逆らったヤツはあたしが殺す。あたしに逆らったら、相棒のアデリーナが黙ってねーぜ!」


 ジョディさん、ノリノリです。この人をよく知らないけど、軽いノリで本当に殺しそうだから怖いですね。


「相棒では御座いません。フロン、ここに残りなさい」


 すぐに訂正したアデリーナ様。

 怒気も呆れもなくて、こういう話を聞かない人には慣れているのでしょうか。


「分かったよ、アディちゃん」


「この者達が手向かうようなら好きになさい」


「うわっ、興奮してきた!」


 あっ、最悪。何をしようって言うんでしょ。


「ニラさんがいるのを忘れずに」


「大丈夫だって。化け物こそ、気合い入れていきな」


 信用ならぬ女です、こいつは。



「メリナさん、フランジェスカが捕らえられたようです」


「私も承知しています。居場所は?」


「把握しております。急ぎましょう」 



 アデリーナ様が先に駆け出しました。もちろん私も続きます。巫女服は動きにくそうに見えますが、軽いし伸縮性にも富むのです。


 鬱蒼とした森林の中、私達は道を疾走します。アデリーナ様がこんなにも走るのは珍しいことです。疲れている様子もなくて、いつもデスクに向かってばかりなのに不思議です。さすが魔王。


「これ、森の奥への道ですよね? ノノン村に向かってます?」


「えぇ、その通り。彼らはノノン村を狙っているというのがオズワルドの見立てです」


「オズワルドさん、どこに行ったか分からないって言ってましたよ」


「本来、オズワルドは優秀な人物で御座います。ニラさん達と取引を開始したのも彼らの知人にメリナさんがいることを知ってのこと。彼は状況をゆっくりと整えていくタイプなのでしょう」


「それ、オズワルドさんが惚けた理由にならないです」


 言いながら、道に張り出した木の根っこを跳び越える。


「あの状況でノノン村の名前を出したら、メリナさんは急ぐでしょ?」


「もちろん。でも、今も急いでいますよ。村の名前を出さなくても急いでますよ」


 魔物の気配がしましたが、アデリーナ様が光の矢を茂みに打ち込み、絶命させる。


「これはフランジェスカを救うため。ノノン村を襲う? 撃退されるに決まっているでしょうに。そう判断するでしょ?」


「……確かに……」


「オズワルドの予想では、ニラさん達の馬車を強奪し、それを使って行商人を演じてノノン村へ行く。村人が集まった頃合いを見て、皆殺し」


 行商人さんの訪問は村では一大イベントでした。殆どの人が手仕事を止めて集会場に向かいます。なんて悪辣なアイデアなのでしょうか。


「荷馬車を盗られたことを知ったオズワルドは初めてノノン村に言及しました」


「でも、村に富なんてないですよ?」


「御座いますよ。金が産出すると聞いています。いえ、正確には数年前から出回る出所不明な金はノノン村産との噂が流れつつあります」


「えー、農村だから鉱夫とか絶対にいないですよ」


 会話をしながらも猛スピード。

 もう少しで村に到着するでしょう。



「フォビから接触は御座いませんか?」


 急に話をかえてきましたね。


「ないですねー。あいつ、神にならないかって私を誘ってきやがったままですよ」


「ほぉ。私でなくメリナさんを?」


 いや、何故に私と張り合う? お前である必要も全くないでしょうに。


「申し上げにくいですが、アデリーナ様と私の人間性の差ですかね?」


「メリナさん程に野蛮で、人間から程遠くなければ神になれない、そう仰る訳で御座いますね。信じたくはないものです」


 こいつは……。そういう人徳に欠ける発言が宜しくないと思います。



「おかしいですね……」


 私は樹上から落ちてきた蛇の頭を握り潰しながら疑問を口にします。


「何がで御座いましょう?」


「こんなに走ってるのに馬車に追い付かない。アデリーナ様の暴走運転ならまだしも、これはおかしいです」


「敵には精神魔法を扱う者がいたそうで御座います。操られている可能性が御座います」


「マジですか……?」


 精神魔法の使い手とか、冒険者なんかさせずに国が雇って管理しなさいよ。危険過ぎる。


「ブルノとカルノはニラさんが殴って元に戻したそうです」


 そんなので戻る程度の魔法っていう情報と捉えます。


「でも、先に言っておいてください。その魔法が効くかは疑問ですが、お母さんが操られていたら最悪ですよ」


 もうすぐで村です。

 今更戻る訳にも行かず、私は覚悟を決めるとともに、精神魔法の使い手を初撃で殺す決意を致しました。

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[良い点] 「るんるん! るんるん! るんるんアデリーナ!!」 「バカヤロー!!」  それはモットーじゃなくて、辛い時に思い出す魔法の言葉でしょ!!  辛いのか、今のお前は本当に辛いのか!? そんなこ…
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