表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/391

慈悲に満ちた笑顔

 さて、本日の本題に入りましょう。

 私は居ずまいを正して発言します。


「オズワルドさん、この村の警護のために雇った冒険者の方々に村を乗っ取られそうになっていると聞きました」


 なお、私の横にはアデリーナ様とともに魔物と戦っていた女冒険者が居ます。恵まれた体格が目立ちます。先程もそれを活かした、乱暴に剣を振るう戦闘スタイルを見せていました。

 上半身は豊かな胸を押し潰すように肌着みたいな服を1枚着ているだけで、些細な事を気にしない性格が服装にも現れております。戦闘で泥々なのに、何も配慮せずにオズワルドさんの部屋に入っていることからもそれが分かります。


 そんな彼女の前で、私は冒険者が悪さを働いているということを確認したのでした。

 彼女は恐らく嘘を吐く人間ではない。都合が悪くなれば力で捩じ伏せてくるタイプです。

 仮に、そんな事態になれば話が早い。明らかに私の方が強いですもの。



「……どうして、それを?」


「ニラさん、ブルノ、カルノをご存じですか? 彼らから聞きました」


 私の答えにオズワルドさんは少し驚きます。


「彼らが……。えぇ、恥ずかしながら人選を間違えたみたいで、横暴な連中から脅しに近い要求を続けられています」


「この者に、その様な悪知恵が働くとは思えませんが?」


 アデリーナ様が言及したのは、私の横の女冒険者さんです。普通の知恵も少なさそうと思ったのは秘密です。この状況で鼻唄を歌いながら鼻を掘じっています。とても器用ですが、そんな芸当ができても羨ましくない。何より汚い。


「その人、ジョディさんは単純なので関係ないです。今はこちらの味方です」


 オズワルドさん、引っ掛かる言い方をしたなぁ。


「今は?」


「はい。相手より高い金額を渡したので、今はこっちの味方です」


 私とアデリーナ様はジョディと呼ばれた女を見ます。


「なんだ? オズワルドを殺したいなら金貨2枚だな。ガハハ」


 失礼ながら、そんな高い価値は無いですね。私達なら一撃で死を与えられます。

 オズワルドさんに向き直ります。


「では、その連中はどこに?」


「分からないです。奴らが見えなくなってから、先程の魔物の襲撃となりました」


「それ、完全に罠に嵌められてますよね。魔物を村に引き込んだに違いありません」


 私の指摘はオズワルドさんも承知の様でした。


「えぇ。王都での私は嵌める側でしたのでよく理解しております。ただ、奴らは二流。私なら自分の仕業と察知させずに罠に嵌めますから。丹念に、周到に根回しをして」


 オズワルドさんの伏した目に黒い光が見えた気もしましたが、彼が次いで発した溜め息で消えます。


「しかし、今は部下もコネもない、只のおっさんでしかないのですよね。出来ることは限られております」


 なんと悲しい声色なのでしょう。私まで悲しくなります。


「メリナさん、ご自分のすべきことが分かりますか?」


 アデリーナ様が私に尋ねました。


「はいっ! オズワルドさんの理想をぶっ壊そうとする不逞な輩をぶっ殺してやります!」


「おー! おめーの勢いも好きだぜ」


 拍手とともにジョディさんが私を称えてくれました。


「違いますよ、メリナさん。オズワルドに協力することです」


「はい。元よりそのつもりですからね。そいつらをオズワルドさんの為にぶっ殺します」


「ははは。メリナ様、頼りにさせて頂きます。しかし、殺したらそれで終わりなんです。それは商人のすることじゃありません。殺さずに絶望を与えてください。徹底的な絶望を。その後は私にお任せ頂ければ何とかします」


「絶望……? 難しい注文ですね。でも、頑張りますっ!」


 シャールのスラム街で実証した通り、教育の方が得意なんだけどなぁ。

 

「それで、私のお金を盗んだ件はチャラにしましょうか」


 その話題は避けていたのに、覚えてたかっ!?

 私はお茶を飲むことにより沈黙を作ります。そして、頃合いを見て話題を切り替えるのでした。



「この村、オズワルドさん1人で作ったんですか?」


「いえ、ここは2人の獣人の方が暮らしていた場所なんですよ。ノノン村への行商人の休憩所です」


 休憩所? 確かにラナイ村からノノン村までは結構な距離なのに森だけで、途中で魔物に襲われたら大変なことになりますね。特に夜道とか危ないです。


「知ってます、メリナ様? このノノン村までの道はロイさんが計画して作られたんですよ」


 ロイは私の父の名前です。


「本来、ノノン村への道は商都ロナビットからのものしか有りませんでした。その道も10年近く前の違法薬物取締りの関連で封鎖されました。村の指導者的存在であったロイさんが考えに考えて作ったのが、この道。出来たのは5年前だそうです」


 お父さんが村の指導者? うーん、そんな感じだったかな。確かに誰に対しても親しく接する人だけど。


「その時に道の補修と保守、それから、シャールの行商人の手配と案内をするために、ここに住まわれたと聞いています」


「あっ! 行商人さんの2人!?」


 私は思い出します!

 ノノン村に獣人さんが2人いました。彼らは行商人で、幼い私に絵本を持ってきてくれるんです。聖竜様についても彼らが持ってきた本で知りました。


「1人は玉虫の獣人ですよね! 背中が丸くて、とても光ってる人!」


 あー、彼らの柔らかい笑顔が浮かんできました。行商人さんの荷馬車が村に来たと聞いたら、その瞬間は病弱だった私の体が軽くなったものです。


「ハッシュですね。その通りです。もう1人はタロン。彼は彼女と同じく片腕を自ら切った獣人です」


 名前は知らない。彼らは名乗らなかったから。誰かに襲われて帰る所が失くなった彼らは一時期ノノン村に住んでいました。

 いつの間にか村を去っていたのですが、そっか、皆の為にこんな森の中で暮らしていたんだ。凄いなぁ。私なんかよりよっぽど立派な人達です。


「懐かしいです。彼らは何処にいるんですか? 挨拶しなきゃ」


「……(くだん)の冒険者に連れて行かれております。万が一の時の為の人質のつもりでしょうな」


 ……ほう。

 どうしようもないクズ共ですね。あの行商人さん達はとっても優しいんです。それを人質とは。村へ本も運んでくれていた恩人なのですよ!

 ぶっ殺す? いえ、それでは生ぬるい!!



「メリナさん?」


「…………アデリーナ様、何ですか?」


「いえ、ドス黒い魔力が溢れているように見えましたので」


「あはは。どーした、相棒? 何も見えないぞ。ほら、お茶でも飲んどけよ」

 

 ふん。少し気合いが入り過ぎましたかね。

 しかし、ジョディさんはアデリーナ様が明らかに不快な顔をしているのに一切気にしないですね。アシュリンさんの豪放とはまた全く別の感じでして、失礼ながら、言うならば頭が足りない気がします。



「フロンはどうしましたか?」


「あぁ、あいつはさっきのヤツを食ってます」


「お腹を壊しそうで御座いますから、ふーみゃんであれば全力で止めに行きますね。が、フロンであれば放置で宜しいでしょう」


「はい――あっ!」


「どうされました?」


「オズワルドさん、村にいる冒険者って全部オズワルドさんの味方ですか!?」


「えぇ。そうです」


「狼蝿に食われてた人を助けるの、忘れてました! ちょっと行ってきます」


 私は急いで外へと出ます。アデリーナ様は治療法がグロそうとか言い訳して小屋でサボっているにも関わらずにです。

 私は働き者ですね。


 未だ魔物を消化中のフロンを横目に走り、倒れている冒険者に軽く火炎魔法。皮膚の下にいる虫を駆除したのです。続いて、回復魔法を唱えようとした時でした。



「なんだァ? その服は竜の巫女かァ?」


 明らかに粗野で野蛮な男の声。

 そちらへ視線を移しますと、後ろ手に縄を掛けられた方々がまず目に入ります。


 ニラさん達です。ブルノやカルノの顔には殴られた痕もあります。

 その後ろに10人弱の男女。彼らのニヤついた表情が癪に触る。


 明らかな敵。


「他の2人は?」


 フランジェスカさんとイルゼのことです。


「教えるかよ。まぁ、そうだなァ。お前にゃ、別の良いことを――グッ!!」


 言い終えることを許さない。高速移動した私の拳はそいつの腹を貫いていました。続いて、周りの者どもの制圧に掛かります。

 男が刺さったままの腕を振り上げ、斜めに激しく打ち下ろす。

 敵が戦闘態勢に入らず、また、1ヵ所に固まっていたことが奏功して、その一撃で纏めて全員がひどく転び、戦意を失いました。



 すぐにニラさん達を縛る紐を引き千切ります。


「ありがとうございます、メリナ様」


「アデリーナ様をお呼びください。一番大きい小屋に居ます」


 腕から男をずるりと落とし、逡巡しましたが、回復魔法を掛けてやる。オズワルドさんが殺すなと言いましたので。

 胸に足を軽く、しかし、鋭く落として肋骨を折る。


「ヒッ!!」

「りゅ、竜の巫女の……メ、メリナ!?」


 まだ意識のある敵が尻を地に付けたまま、振るえながら私の名前を悲鳴のように叫びます。

 こんな森の中で気品溢れる私に遭遇した驚きからか、足腰が立たないようで見上げる顔からも血の気が引いて行くのが明らかでした。


 ここで私は冷静になります。

 フランジェスカさんは兎も角、聖女イルゼはそれなりの強さを持っています。2年前の聖女決定戦でも電撃魔法で全身鎧のアントンを焼いていました。易々と敵の手に落ちる可能性は低い。転移の腕輪で逃げることも可能。いえ、既に逃げてるんじゃないでしょうか。


「他の2人は何処に?」


 もう一度質問するも返答はありませんでした。

 しかし、私は数々の教育をこなした結果、この状況で最も効果のある言葉を知っています。


「では、今から全員の両目を潰します。でも、最初に答えたヤツは助けますよ。私、メリナは慈悲深いことで有名ですので」


 間髪入れず、一番近くにいた冒険者の顔面を踏み抜いて壊します。顔が凹んだ結果、痙攣して倒れていますが生きています。きっと大丈夫。加減したもん。凄く慈悲深い。

 呆然とする残りの人達に私は笑顔を見せて上げました。

(行商人さん達については、『病弱な娘を大事に育てたら、国に反乱を起こすおバカになったので殴りに行きます』第5話 行商の人、第10話 メリナ7歳、第17話 新しい道が開通 参照)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何か「ジョディさん」はモブで終わらせるには勿体ないキャラクターですな(笑) [気になる点] 「ハッシュですね。その通りです。もう1人はタロン。彼は彼女と同じく片腕を自ら切った獣人です」 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ