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禁書 序盤

 この書は我が偉業を後世に残し、真の歴史を伝える為にアデリーナ・ブラナン本人が記述する物なり。



「ちょっ! エルバ部長、勝手に書物の内容が頭に浮かんできます!」


「そういう魔法だからな」


 なっ!? しかも部長が生意気モードに戻っているだと!?


「私は裏の小川で顔を洗ってくる。メリナ、マジでお前も気を確かにな」


「ちょっ! 1人にしないでー!!」


 私の叫びは虚しく響くのみで、エルバ部長は小屋を出ていきました。そして、言葉の通り、私がいつも洗濯でお世話になっている裏の小川に行ってしまったようです。



 歴史を語る前に主要登場人物の話をしよう。この時代の王国は余剰魔力の過多が発生しており、数々の異能な者達が誕生していた。



 ハァハァハァ……。

 大丈夫。まだ普通です。ダメージは喰らっていない。


『あーぁ、主よ。我は止めたのであるぞ』


 ガランガドー!! 貴様、復活したのか!?


『失礼な主である。我は精霊。決して死なぬ』


 分かった! お前は偉大なる精霊です! だから、この記憶の奔流を止めて!! 今すぐに記憶を消すのです!


『あの小さき者も精霊であってな。その術を破るのは、我でもちょっと手こずるって言うか……』


 できないのか!? この無能!!


『むっ。他人に頼む態度ではないな。主よ、我はヘソを曲げた』


 待って! 待ってください! さもないと、殺すぞ!!


『我は止めたのであるぞ。禁書に近付いたのは主の責任である』


 あー、文字が、溢れる文字が私を襲う!!



○アデリーナ・ブラナン

 この物語の主人公。美人。何事も完璧すぎて男性が寄ってこないし、口下手なせいもあって友達も少ない。お酒は嗜む程度。何歳になってもずっと10歳の精神年齢。自由に空を飛ぶ鳥が好き。愛するより愛されたいと常々思っている。好きな食べ物はお母様が作ってくれたケーキと烏賊の干したヤツ。超絶剣技を持つけども隠している。人生で一度しか怒らないと言われているが、怒ると世界が崩壊する。本人も自覚していて、いつも怒らないように気を付けている。



「誰だよ!! こいつ、誰だよ!?」


『主よ、この物語の主人公であるアデリーナ・ブラナンであるぞ』


 分かってる!! 分かってるけど、これ、本人が書いた文章なんですよ!!

 しかも、あのアデリーナ様ご本人なんですよ!


 何だよ、ずっと10歳の精神年齢って!!

 あんな極悪な10歳なんて嫌すぎる!!


 それにこの設定は何なんですか!?

 人生で一回しか怒らないって、一回は必ず怒るってことでしょ! だったら、世界崩壊が約束されているじゃないですか!!



○ふーみゃん

 アデリーナが飼っていた飼い猫。かわいくて賢い。小さな手にペンを持って筆談も可能。でも、それは秘密で、アデリーナしか知らない。実は魔王。良い魔王。今は天高く輝く星の1つになって、アデリーナを応援している。『がんばれー、あでりーなちゃん!』。好物は犬の肉。鋭い爪は痛くない(猫状態限定)。



 ゾッとする。

 この調子の文章がずっと続くのか……。


 いや、しかし、ふーみゃんが魔王ってアデリーナ様はかなり前から気付いていた? いつ頃に書かれた文なんだろう。



○アシュリン・サラン

 アデリーナの親友。軍人。実は高貴なアデリーナに遠慮なく話し掛けてくる。恋人がいるのを隠しているが、隠しきれていなくて照れるところが可愛い。最近、忙しいみたいで独り言が酷い。『ガハハ、分かっているぞ! 常に私を監視しているな。バレているから監視は止めろ! 誰だ、私に命令するのは! ああ、私は神の代理人だったのか!』。アデリーナは病気を疑っているが、友情にヒビが入るかもと心配して言い出せない。好物は硬いパン。



 えっ、神の代理人? 唐突にそんな事を書かれてもなぁ。意味分かんない。

 でも、本当に禁書なのかも……。

 ふーみゃんのとこの魔王と言い、気になる単語がいっぱい出てくる。


 いやいや、アデリーナ様がお書きになった物なんですよね、これ。そんな歴史の浅いものが禁書なんて呼ばれる訳がない。


 いつくらいに書いたんだろう。

 アシュリンさんがまだ結婚していないし、軍人をしているってことは5年は前の話ですね。神殿に入った理由も精神を病んで聖竜様の幻聴が聞こえたとか言っていたから、その頃だろうけど、正確な年は分からないか。



○フローレンス巫女長

 優しくて、いつもアデリーナの味方をしてくれる偉い人。魔法の練習を一緒にやってくれる。お金のないアデリーナを心配して、こっそりお小遣いもくれる。でも、裏の顔は奴隷商。身寄りのない巫女見習いを帝国に売り払っている悪徳巫女。悪い魔王。趣味は男買い。好物は竜の肉。『うふふ。価値があるのはお金を生む巫女さんだけなのよ。聞かれてまずい? ううん、大丈夫。あなたはもう死ぬの。貧しいって罪だわ』。王都との交渉に利用しようとアデリーナを保護している。



 マジか!?

 ガランガドー、マジか、これ!?

 おい、返事しろよ!!

 巫女長は危ない人だけど、決して下劣な犯罪者ではないですよ!

 

 しかし、これが本当なら、かなりの重大案件になってしまいます!

 うわっ、知りたくなかった!!

 巫女長を逮捕せざるを得ないけど、あの人が大人しくお縄になる訳なくて、死傷者がいっぱい出ちゃいます!



○カトリーヌ・アンディオロ

 アデリーナの仲間。長生きしている化け蛇。蛇なので喋れない。蛇革業界の中では有名で、白い宝石と呼ばれている。実はミミズで雌雄同体。アデリーナに恋心を抱いているがアデリーナは気付いていない。夢は地獄の王になることで、趣味の穴掘りと相まって日々、地中を深く掘っている。何でも食べる大食漢だが、中でも好物は若い男。獲物の血を利用した邪法で若返りを繰り返している。『ブラナン王家への憎しみ? 復讐は食べれないのよ』。



 オロ部長がミミズだと!? 鱗もあるし、舌も牙もあるから蛇でしょ!!

 これは嘘です! 絶対に嘘です! 喋ってるし!!


 でも、そこが嘘だとしてもアデリーナ様! 

 『アデリーナに恋心を抱いているがアデリーナは気付いていない』

 この部分は何なのですか!? アデリーナ様の創作にしても酷すぎる!! キモい!!



 ふぅふぅふぅ……。

 ようやく人物紹介は終わったみたいです。


 ガランガドー、ガランガドー、応答しなさい! この先もこんな調子なのですか!?


『主よ、我は読んでおらぬからなぁ』


 貴様……。バレバレの虚言で乗りきれるなんて思うなよ。

 正直に申しなさい。この先に記憶を消したい程の衝撃がまだ待っているのですか!?

 もう既に泣きたくなってるんですけど!!


 記憶が進む。

 文字が頭に浮かび上がり、恐怖で私は全身に汗を浮かばせるのでした。



「るんるん。今日は良い天気ね。きゃっ」

「痛いわね、アデリーナ。殺されたいの?」

「や、やめてください、スーザン様……。私を怒らさないで……。きゃっ。やめて。痛い。髪が抜ける」

「倉庫裏でお仕置きしてあげるわ。来なさい」


「アデリーナ、あんた、服が汚れてるわよ」

「……すみません」

「汚いわね。それはそうとスーザンはどこに行ったの?」

「……」

「あら、アデリーナさん。はい、報酬。あの巫女見習いさんは高く売れ――あら、ごめんなさい。他の人が居たのね」


 おいっ!

 これ、本当に真の歴史なんでしょうね!

 いきなり神殿内での人身売買が暴露されてるんですけど!!



「あっ、それ私の大事なぬいぐるみ……。死んだふーみゃんの……」

「汚ねーんだよ。こんなもん、燃やしてやる」

「あ、あぁ……。ふーみゃん、ふーみゃん……」


「寂しいよ、寂しいよ、ふーみゃん。どうして死んじゃったの……」

「うるさい、アデリーナ! お前も燃やすぞ!」

「うぅ……辛い……生きるのが辛い……」

「あぁ? そんなに辛かったら楽にしてやるよ。お前を殺したら金が貰えるって聞いたしな」

「ひ、ひっくっ……」

「おら! 外に出ろ! 巫女になれなかったんだから、ちょっとは駄賃を稼がせて貰わないとな」


『アデリーナさん、ご馳走ありがとう』

「まぁ、白蛇さん。ペロッとしちゃった? さっきの見習いさんは私の商品になるはずだったのに。ねぇ、アデリーナさん?」



 オロ部長、食べてるー!!

 絶対、見習いさんを食べてるー!!

 いや、部長が容赦ない時は徹底的なのは知ってるけど、一切の悪気なく食べてるー!!

 そして、巫女長は売ろうとしていたー!



「よぉ、アデリーナ。久々だな」

「あっ……アシュリンさん」

「何、そいつ。アデリーナの知り合い? お前も苛めてやろうかしら。うふふ――ゴフッ!! ゴボっ! グボッ!」

「あ? 喧嘩は買うぞ。覚えておけ。私を監視するな」

「キャー!! ベルが壁にめり込んで血を吐いてる!! ……えっ、し、死んでる……?」



 まぁ、これはベルって言う人が悪いですね。

 アシュリンの見た目からして筋肉バカのヤバいヤツってのが分かるでしょうに。



 これ、アデリーナ一味による殺人記録でしょうか。

 とんでもない書物を隠し持っていたものですね。


 しかし、これくらいじゃ、私は記憶を失う必要はない。むしろ、脅迫用のネタが増えたと喜ぶ確率の方が高い。


 ペラペラと頁を繰るように、文字はまだ頭の中で流れ続けます。数々の巫女見習いに対する重犯罪行為が再生されていくのです。

 30人を越える被害者。多過ぎると思いましたが、巫女見習いは1年以内に巫女に上がれなければクビです。見習いで終わると分かっている方々なら、神殿から急にいなくなっていても誰も不思議に思いません。



「アデリーナさん、お元気そうね」

「はい……」

「寮生活は辛くない?」

「はい……」

「緊張しなくて良いわよ。はい、今月の報酬」

「もぅ、嫌です……」

「分かるわ、分かるわよ、アデリーナさん。巫女見習いでもないのに、勝手にアシュリンさんが寮に居付いているの嫌よね」

「そうじゃない……」

「私が呼び寄せたの、彼女」

「どうして……?」

「ほら、アシュリンさんが死んだらアデリーナさんが悲しくなるでしょ? 死んで欲しくないでしょ?」

「……」

「だから、いつでも殺せるように近くに呼んだの。はい、今月の報酬。アデリーナさんが大人しくしていたら、何も起きませんからね。私の言っている意味、分かる?」

「……はい」

「風で私の帽子が中庭の池に飛んでいったの。アデリーナさん、池に入って取って来てくれる?」

「……はい」

「うふふ、素直な子は好きよ。大好き。奴隷みたいだから」


 巫女長、悪魔ですか……?

 いや、これが真実とは到底思えない。

 精霊喰らいによる分裂体が当時の巫女長を務めていたのでしょうか。そう考えると、もう巫女長の本体はどれなのか、今存在する巫女長も本物なのか分からなくなりますね。



「るんるん。今日は街に出るんだ」

「そうか。お使いだそうだな。私は監視されているから行けないな」

「あれ? アデリーナさん? 紙を落としたよ」

「……」

「あれはフランジェスカだな。アデリーナ、お前の同期の見習いらしいぞ。あんな子供なのに、私を盗聴しているのだろうか」

 フランジェスカさんを友達に認定。パチパチパチ。



 きっついなぁ……。



「ウフフ、小鳥さん。どうしてそんなに可愛いのかな?」

「ちゅんちゅんちゅん」

「アデリーナの友達になってくれるのかな?」

「ちゅんちゅん」

「やったー。フランジェスカの次の友達だよ」

「ちゅんちゅん」

「でも、私、一度もフランジェスカと喋ったことないんだ」

「ちゅんちゅん」

「やだー。小鳥さんも大事な友達だよ」

「ちゅんちゅん」


 きついって……。

 マジでこれをアデリーナ様が書いたのか? 後世に残したいと思ったのか? ヤバいでしょ。


 ガランガドー、これはまだ続くのですか?


『主よ、覚悟がするが良い』


 チッ。やっぱお前、内容を知っているのですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  きついって……。  マジでこれをアデリーナ様が書いたのか? 後世に残したいと思ったのか? ヤバいでしょ。 [一言] ヤバい。
[一言] 猫状態限定に覚悟がするが良いと来たか… (さては禁書が書かれたのは五年前では無く最近だなw
[良い点] ・・・。 [気になる点] ・・・。 [一言] 次回の更新が怖いんですが・・・。
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