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気になるよね

 部長用の豪華な机の向こうにある自分の椅子に、エルバ部長はドカッと座りました。


「ふぅ、マジで疲れたな。朝から頑張ったぞ」


 濡れてもいない額を小さな腕で拭います。


「アデリーナ様、あの邪悪な存在は何ですか!?」


「何って、聖竜でしょう」


「聖竜はスードワット様だけです!」


「現実はそうではなかったと言うことで御座います。メリナさんがガランガドーに詠唱を頼んだ時に、始まりはいつも『我が御霊は聖竜と共に有り』で御座いましょう? その聖竜。名もなき聖竜。シャールの聖竜スードワットとは違った存在。メリナさんが生まれた時から加護する者。強大な力の源」


 ぐっ……。

 でも、あいつがいるから今の私がある。それも分かっています。


「クソっ! せめて聖竜っていう名じゃなければ良いのに!! あっ!! 今度、出会った改名を要求します!」


「しかし、あれだな。複数の精霊の加護を得る者はたまに見るが、メリナは竜ばかり3体でバランスがマジで悪いな」


 エルバ部長がどうでも良い指摘をしました。


「さすがは竜の魔王メリナって所でしょうかね」


「なっ!? メリナも魔王なのか!? こんな狭い範囲でマジでおかしな確率だろ……」


 私としてはこの竜神殿の巫女達の変人率の方が気になるところではあります。


「それでは失礼致します。副神殿長に呼ばれておりますので」


 アデリーナ様は去っていきました。



「メリナは仕事に戻らないのか?」


 ふん、くだらないことを。

 いや、エルバ部長はこう見えて年長者。自分が知っている知識はベラベラと喋ってくれる人です。

 ここは1つ長年の疑問を尋ねてみましょうか。


「もう2年も神殿で働いているんですけど、魔物駆除殲滅部のお仕事がどういったものか分かってないんですよ。オロ部長とかアシュリンさんが引退してしまうんですが、どうしたら良いんでしょう?」


「……信じられんな。2年間だぞ。お前は何をしていたんだ」


 すんごい哀れみ溢れる目で見られた!

 信じられない思いは私も一緒です。それに、いったい何をしていたのか、こっちが聞きたいくらいなんですよ。


「で、どんな仕事をするんですか?」


「そりゃ、お前……魔物を駆除してだな、街の皆を安全にするのが役目じゃないか」


「それ、騎士さんとかの仕事ですよ。殲滅要素もないですよね」


 かー、エルバ部長は神殿関係でも役に立たないかぁ。この人、なんで偉い地位にいるんだろ。幻滅ですよ、幻滅。


「メリナちゃん、失礼なこと考えた?」


 あっ……。

 エルバ部長の口調が変わる。

 存在を忘れていましたが、賢いモードのエルバ部長です。


「いえいえ。生意気な口調の方は使えねーなと思っただけでして」


「思っきり失礼な話だよね。あっちも私だよ」


 過去に本人から聞いた話では、生意気な口調の方は元々の体の持ち主で、賢いモードの子供口調の方は取り憑いている精霊だったはず。つまり、今は精霊の方が喋っているのです。


「教えて上げる。魔物駆除殲滅部の部署名はフェイクなんだよ」


「どういうことですか? 本当の仕事は別にある……?」


「うん。賢いね、メリナちゃん。本当の役目は神殿にとって不都合な者を暗殺もしくは強襲するんだよ。ずっと、そんな仕事はなかったんだけどね。あっ、メリナちゃんは王都を襲撃して王様を殺したね」


 ……当時、アシュリンさんとかオロ部長も王都に来ていましたね。アデリーナ様の差し金だったと思いますが、神殿の業務として派遣されていた可能性があるのか……。

 シャールの王国に対する反乱は収まっていたとはいえ、いつ王都側から反逆の代償を求められるか分からなかったから。


「やはり私には不向きで野蛮な職場ですね。ありがとうございました。助かりました。でも、生意気な口調の方は知識不足を反省してもらいましょう」


「誤解があるよね。ジェシカと私の記憶は基本的に共有だからね」


 ジェシカって言うのが生意気口調な方だったはず。


「ジェシカはメリナちゃんがショックを受けちゃいけないと思って(とぼ)けたんだよ。でも、配慮に過ぎると私は思ったんだ」


 本当かな。得意気に喋りそうなのになぁ。

 まぁ、いいや。エルバ部長は無能だけど良い人だから許してあげましょう。


「そうだったんですね。それじゃ、私も帰ろっかな」


「もう少し待って。ジェシカが遠慮した事がもう1つあるの。彼女なりに女王に(わきま)えたの。でも、私は調査部部長として調べるべきだと思う」


 調べる?


「それは重要なことですか?」


 実のところ、私はこのエルバ部長賢いモードにはかなり深い信頼感を持っています。


「うん」


「ならば、仰ってください」


「ありがとう、メリナちゃん。じゃあ、率直に言うね。禁書、気になるよね。頑張って思い出そうか?」


 この私が記憶を失いたくなるほどの内容ですよ。正気か……?

 


「それ、火事で燃えたらしいですよ?」


 人の良いエルバ部長賢いモードに配慮して、婉曲的に拒絶しました。


「読むんじゃなくて思い出すんだよ。あれ? 記憶封印の魔法を解きたくない?」


「いやー、かなり怖いんですけど」


「そっかぁ。なら、メリナちゃんが思い出さなくても良いよ。精霊に尋ねようか」


「あいつはもう口を閉ざし続けると思います。殴り続けてもアデリーナ様に言い付け復讐することを希望にして、耐えるでしょう」


「大丈夫。メリナちゃんの精霊はガランガドーだけじゃないんだよ」


 邪神か……。

 先程現れた偽聖竜は会話できるか微妙だから、そういうことでしょう。


「あいつも知ってますかね?」


「絶対に知ってるよ。精霊は人間を通じて世界を見ている。この世に顕現するくらいに近い所に居たなら、絶対に知ってるよ。今から行こっか」


 エルバ部長はノリノリでした。机に両肘を乗せて前傾姿勢でグイグイ来てました。



 邪神は私の隣室に滞在しています。なので、宿へとエルバ部長を案内するため、神殿を2人で後にしたのでした。


 通りを歩く。小さな体のエルバ部長は歩みが遅いので、着く頃には夕方になっているかもしれません。


「メリナ、マジで遠いな。疲れた。おんぶしてくれ」


「嫌です。その貧弱な体力を鍛えるため、むしろ石を背負って歩いてください」


「メリナちゃん、肩車」


「口調を変えても無駄です」


 私達はのんびりと歩き続けました。

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