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ドラゴン VS 人

 竜は強い。私はそう確信しています。

 聖竜様が生物最強なのは疑いようのない事実ですが、単純に種族としても優れているのです。

 デュランの街ではドラゴンのステーキをたくさん食べさせてもらいましたが、彼らは人数に物を言わせて一匹の竜を狩っているのです。同数の人対竜なら圧倒的に竜が勝つことでしょう。


 何より竜は天高く羽ばたくことができるのです。そして、そこから強力なブレス。

 機動力と遠距離広範囲攻撃を持つ竜は無敵の存在です。ガランガドーさんであっても、彼が空を飛んでいるのであれば仕留めるのは至難の技だと思います。



「あはは、竜の巫女ってのは凄いのね。強そうね、メリナ」


 なのに、金色に輝く竜となった私を見てもお母さんは動じた様子がありません。


「メリナさん、先程までの服の残骸はこちらに置いておきます」


「グァルルゥ――ガァググルゥ!!」

(ありがとうござい――てっ、残骸とか言うんじゃない!!)


 怒りを思い出した私は力いっぱいに翼を広げて飛び立ちます。

 長年積もっていたであろう大量の砂埃が私の羽ばたきで両側に舞います。


「グゥアガルゥ、ガガルゥウウ!!」

(真の姿となった私の、真の力を見せてやります!!)


 斜め上の進路方向に首を真っ直ぐ伸ばし、両足を体に引き付けて風の抵抗を減らして高速移動に備えます。お母さんの魔力が高まっていくのが分かりますので、攻撃を受ける前に逃げなくちゃ、なんていう焦りもありました。


「メリナ、真って言葉が重なって耳障りだわ」


 えっ、お母さん、私の竜語が分かるの……?

 万能過ぎません?


 宙に浮いた私は急ぎ、上を目指します。

 が、しかし!


 少し進んだところでガツン!!と頭部を強打!

 目から火が出るとはこういうことなのでしょう。視界がチカチカしました。



 かつて聖女クリスラが私を閉じ込めた異空間は、斎戒の間と浄火の間。それから、狐型の精霊リンシャルがいた楽欲(ぎょうよく)の間。

 浄火の間は火山があるような荒れ地で、今はヤナンカが閉じ込められていると聞いています。

 斎戒の間と楽欲の間の2つは似た感じの場所でして、床しかない所でした。つまり、今いる異空間はそのどちらかと言うことです。


 そして、斎戒の間に閉じ込められた時、私はこの空間に天井があることを落ちてこない石で確認していた。


 しこたま頭を打ってそれを思い出すも、時は既に遅く、制御を失った体は、タイルを激しく抉り散らばせながら床を滑る。


「ガァアアア!!」

(クソッタレ!)


「まぁ、メリナ。お行儀が悪い。女の子がそんな事を口にしてはいけないわよ」


 不幸中の幸いとしては気絶しなかったこと。まだ闘える。


 首を上げて、お母さんとデンジャラスを視野に入れる。次いで、その場で高速の1回転、長く太い尾を用いての薙ぎ。


 空振り。お母さんは素早くジャンプして避けたし、デンジャラスはバックステップ何回かで範囲から外れる。


 ん? 誘いかな? いえ、ヤるしかない。

 浮いたお母さんを狙って2周目。先端で刺すイメージで、尾の先を曲げての回転です。


「器用ね、メリナ」


 お母さんの声が聞こえて、閃光が走る。

 お得意の雷撃魔法なんだろうけど、私の意識はまだ保っていて、当初の予定通り、回転を続けながら、両足で跳ねる。

 サイズと重量に物を言わせた体当たり攻撃。

 空中にいて逃げ場のないお母さんを襲います。


 わっ、当たった!!


 吹き飛ぶお母さん。魔力感知で確認するに、床を数回バウンドしたので受け身にも失敗している模様。


 マジか!? えっ、勝機が見えた!?


 すかさず、私はデンジャラスを見据えます。


「さすがメリナさん」


「グァガルゥガァ。ガァアア」

(会話で時間稼ぎするつもりなんでしょ? させませんよ)


「しかし、力の代償に知性を失うとは情けない」


「ガァアアア!」

(失ってない!)


 口を大きく広げて突進!!

 デンジャラスの見えない炎による攻撃を受けますが、致命傷にはならず、鱗を焦がすのみ。痛くない。


 問題なく間合いに入り、後は噛み砕くだけ。


 しかし、両足で踏ん張って拳を振り上げたデンジャラスの動きに違和感を覚える。

 さながら獲物を狙い澄ます狩人のよう。


 この私を正面から撃つ気か……?


「ガアアアア!!」

(生意気ッ!!)


 顎を広げて包み込むように頭を振り下ろした結果、私の喉奥に穴が空きました。

 大きく開けた口は武器でもあるのですが、弱点をさらけ出すことにもなりまして、デンジャラスはタイミングを見計らって拳を振るい、そこから放たれた魔力で私の喉を内部から貫いたのです。


 でも、デンジャラスも無傷ではないはず。

 攻撃後に素早く離脱しようとしたデンジャラスを逃さず、私は強烈な張り手で吹き飛ばしています。

 下手したら、体の中身がぐちゃぐちゃになるくらいの勢いだったと思います。無傷どころか即死かも。



 私以外に動くものが失くなった異空間、とても静か。

 この隙に私は回復魔法を唱えます。完全回復して、2人に絶望を与えるのです!


 が、術が発動しない……。何回唱えても無駄。火炎魔法や水魔法、氷魔法も使えない。

 竜となったことで魔法が使えない体になったのでしょうか……。

 いえ、理由は後にして、これは甚だしく深刻な問題ですよ……。このまま戦い続けたら間違いなく死にます……。


 冷静に体を確認すると、尾は完全に焼き切られて3分の1くらいしか残ってません。たぶん、吹き飛ぶ前にお母さんが雷撃を当てたんでしょう。喉は大穴が空いていて、流血とか現在進行形で凄いんだと予想されます。

 もしかしたら、天井で強打した頭頂も凹んだりしてるかも……。


 これだけの損傷なのに無痛なのも恐ろしい。



「メリナ、やるじゃない」


 口に溜まっていた血を吐き出してから、お母さんは褒めてくれました。


「グゥルゥゥ……。グゥグルル」

(そんなことないよ。ごめんね、お母さん)


「半殺しなんて思うから甘かったのね。忘れてたわ。殺す気じゃないと、成長したメリナには勝てない。ううん。本気でも勝てないかもね」


 お母さんは懐から包丁を取り出しました。そして、その鈍く光る凶器を私に向けるのです。


「グルゥ。クゥーン、クゥーン、クゥーン」

(やだなぁ。もう終わりだよ。負けました。完全敗北)


 私は必死に懇願しながら時間を作り、聖竜様が使ってくれた解呪の魔力の動きを思い出しながら、人間に戻ろうと魔力を操作しました。



 無事に人へと戻る。しかし、お母さんの前であっても、裸なのは恥ずかしい。

 なので、魔力で服も作ります。真っ黒い巫女服です。


「本当に器用ね、メリナ。魔法で服も作れるなんて」


「あはは。うん、まぁね……」


 転がったまま動かないデンジャラスさんに回復魔法。忘れかけてました。生きてるかな?

 あっ、動いた。良かったです。


「私、戸惑ったわ。竜になったメリナの内臓は心臓しかなくて。あれじゃ半殺しの為の(きも)の抜き取りができないじゃない。考えたわね、メリナ」


 胆を抜くのが半殺しなの? 全殺しだと思うなぁ。


「あはは、そうかなぁ……。そんなの抜かなくても半殺し状態になりますよ。なってみせるから」


 竜であった時の大量の流血により生じた血溜まりに体を投げ入れ、全身を赤く染めます。


「ね? ほら、これで倒れてしまえば瀕死状態だよね」


「うーん、どうかな……」


「完璧だよ! あっ、ほら、お母さんも一緒に! デンジャラスさんに倒された演技をしないといけないんでしょ」


「……そうね。分かったわ」


 こうして、我々親子は血塗れになったまま、先の草原に転移して地面に転がるのでした。


 デンジャラスさんが大声で勝ち名乗りを上げているのを聞きながら、早く終わらないかなと思いました。最初から戦わずにこうしておけば良かった。2人とも好戦的だから困るなぁ。

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[良い点] 「半殺しなんて思うから甘かったのね。忘れてたわ。殺す気じゃないと、成長したメリナには勝てない。ううん。本気でも勝てないかもね」  お母さんは懐から包丁を取り出しました。そして、その鈍く光る…
[一言] 強い!けど魔法使えない分弱体化してる…?
[一言] 魔法使えないのは弱くなってるまでありそう
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