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遠征終わり

 敵は消失しましたので、マイアさんの魔法で宝物庫とかいう最初の部屋に戻ります。

 来た時は気付いてなかったけど、ここは20人近くが入っても全然きゅうきゅうにならないくらいに広くて、ここに宝物が納められていたのなら、どれだけ帝国はお金持ちなんだろうと思いました。今は空っぽだけど。



「よぉ、ゾル。活躍できたか?」


「竜の巫女って、マジで何なんだよ! あいつら、魔法も物理も速度も俺が知っている人類じゃねー!」


「そうか。お前もゆっくり強くなっている。安心しろ」


「あぁ。パウス、俺は画期的な修業を思いついた」


「何だ? 言ってみろよ」


「俺も竜の巫女になる! そしたら、強くなれる気がするぜ!」


「……まぁ、今日はゆっくり休むか、なっ」


 いつの間にか剣王が壊れていることに衝撃を受けました。



 さて、ルッカさんが戦闘を終えた方々を周りに集めます。


「サンキュー。帝都に散らばっていたあいつの魔力は一掃されたわ。残すは本体だけね。次でラストよ」


 しぶとい。まだ生存しているのか……。

 私の気持ちを隣にいたマイアさんが察して、状況を説明してくれます。


 精霊ベーデネールはこの土地の人間に魔力を与えて支配下に置き、帝国を意のままにしようと企んでいたそうです。

 ネオ神聖メリナ王国に攻めてきた軍の中に何匹もいた魔族。あれらにはベーデネールの魔力により変貌した人間たちも含まれていたそうです。

 フロンやルッカさんで実感しているように、魔族となった者の生命力は異常。特殊な技または魔剣を用いないことには絶命させることは困難です。いえ、それさえも対策次第では無効化されることもあるそうです。


 ベーデネールを倒そうと王国から遠く離れたこの帝都に私達が向かっても、数多くの魔族が立ち塞がり、それは至難の道になったことでしょう。それこそ何年も掛かるし、その時間を利用してベーデネールの巣はより複雑で頑強なものになっていたかもしれません。


 そこでルッカさんは一計を案じ、住み家を奪われることを極端に嫌う精霊の習性を利用することにしました。


 それがベーデネールの巣を強襲。

 普通の策に思えますが、侵入者の詳細を確認したベーデネールは焦ったことに違いないでしょう。

 その中に精霊が紛れ込んでいたのだから。自分の巣を奪い得る精霊がいたのだから。


 邪神も精霊ですが、同行したのはたまたまの偶然。ルッカさんが選んだ精霊はエルバ部長。マイアさん曰く、巣を持たない寄生性の精霊だそうです。

 そこまで言われて、雲の上でヤナンカと戦った時に水銀みたいな塊の化け物がそんな事を言っていたなぁと思い出しました。


 ルッカさん、あの場にいなかったのによくご存じで。天使だから知り得たのでしょうか。

 確かに、私は場違いに弱いエルバ部長が討伐メンバーにいるから何故なのかと感じていました。


 

 人間相手だけなら負けたとしても適当にやり過ごして様子を見るでしょう。しかし、巣を奪われる可能性のある精霊相手に敗北するのは避けたくて、可能な限り、最大の努力で立ち向かってくれた、とマイアさんは説明します。


「最大限の努力?」


「逃げずに、ありったけの魔力を消費してくれたはず。人間を操っていた魔力も全部」



 この世に現れた精霊は、一般的に巣を作るものだそうです。そこを拠点に自分の魔力を世界に拡げていくのが彼らの本能。

 その目的はよく分かりません。生物が何故に生き続けたいと願うのか、その理由を考えるのと同じです。

 生物が持つ『生きたいという本能』は、『死にたくないという本能』に言い換えることができます。同じ様に、精霊が『自分の魔力を拡げたい』理由も『魔力を消されたくない』という欲求なのでしょうか。



「ルッカさんが言ったラストってのは?」


「残りカスを倒すのよ。ね、ルッカさん?」


「そういうこと。マイアさん、グレートよ」


 完全敗北で消え去ることを避ける為、どこかにまだ隠れているってことかな。



「もうそんなに人数は要らないから、帰りたい人は聖女さんに言ってね」


 ルッカさんの言葉に従って私はシャールの宿屋に帰りたいなと思ったのですが、よく考えたら聖竜様にベーデネールの討伐を誓っていたのでした。ここでの帰宅はできませんね。


 残ったのは私の他は邪神、アデリーナ様、お母さん、ミーナちゃん、フロン。お母さんが来たのが意外でしたが、他は暇人ばかりですね。

 お母さん、何だか怖い雰囲気でして、私は少し怯えております。



 ルッカさんの転移にて移動。

 真っ暗だったので照明魔法。場所的には通路かな。大きな扉の前です。


 ここもどこかにあった迷宮の中かな。

 あっ、門の紋様に見覚えがある。


「アデリーナ様、ここってあそこじゃないですか?」


 そう。巫女長に誘われて赴いた地下迷宮。私の地図職人としての才能を知った場所。

 あー、あの地図を持ってきていたら、皆に自慢できたのになぁ。「あっ、その曲がり角の先、足下に気をつけてください。アデリーナ様の野糞が落ちてます」とか適切なアドバイスを言えたのに。


「えぇ。メリナさんが巫女長を生き埋めにした地下迷宮で御座いますね」


 はぁ!? お前もだろ!!


「……メリナ、貴女、そんなことまでしたの?」


 お母さんが呟きました。

 私は即座に反応します。


「し、してない! してないよ!! ほら、アデリーナ様、誤解を――」


「思えば、あれが悲劇の始まりで御座いましたね」


「まぁ、さっきのフローレンスさん、元気がなかったと思えば……」


 まずい……。

 良くない未来が見えます。



「喧嘩は後よ。開けるわ。一気にフィニッシュに行って良いから」


 私が弁明する間もなく、扉は開け放たれました。


 同時にミーナちゃんが一気に前へと出ます。その先にベーデネールが立っていました。姿は偽フローレンスではなく巨大なイボガエル。でも、魔力の質は間違いなく精霊ベーデネール。


 真っ赤な舌が伸ばされ、ミーナちゃんを撃った。と思ったのですが、ミーナちゃんは大剣を犠牲に身を守ります。

 舌が巻き付いた大剣はベーデネールに引き寄せられる。武器を失ったからミーナちゃんは、もうリタイアかなと思いました。


 しかし、更に前進したミーナちゃんは素早く戻る舌に追い付き、再び大剣の柄を持つ。最初からそのつもりだったのでしょう。虚を突かれたベーデネールは間合いを詰められた形になります。

 舌と腕による大剣の引っ張り合いは互角でした。ここで蛙が前に出たら、ミーナちゃんはバランスを崩すかもしれません。


 しかし、転移で移動したフロンが長い爪で舌を斬る。そして、ミーナちゃんが吠える。


「死んじゃえー!!」


 ミーナちゃんは力任せに剣を横に振り、鉄板とも形容できる剣の威力でベーデネールが吹き飛びました。フロンは転移で私の横に戻ってきていたので無事です。


「あの娘、強いわ」


 フロンが呟く。


「えぇ。あと数年で私に追い付くらしい」


「化け物に? 相当に異常だわ」



 しかし、まだ終わっていない。

 私は氷の壁をベーデネールの背後に構築。次いで、その壁の上部に横に伸びる氷の板を作って、ベーデネールの上方を塞ぎます。

 蛙型の魔物はよく跳ねます。その動きに翻弄されることもあるので、機先を制したのです。


 動きが制限され留まる蛙へアデリーナ様とお母さんが詰め、2人の剣と包丁がところ構わず襲う。一方的な虐殺でした。


 やがて動かなくなった蛙というか肉片にルッカさんと邪神が近付きます。


「たべりゅー」


「ダメよ。私の物。ノー」


「たべりゅー」


 軽い言い争いがありましたが、2人はその魔力を分けて吸収していきます。

 私の魔力吸収と似ているけれども違う。

 だって、ベーデネールの魔力は2人に蓄積されていなくて、何処かに収納されていく感じがしたからです。

 邪神の言葉通りなら、これが精霊の食事なのかもしれません。うん、ルッカさんも精霊じゃないけど吸血鬼で似たようなものですものね。


 精霊ベーデネールは断末魔も最期の言葉も何も言えずに消滅しました。少し哀れに思います。

 


「お母さん、お疲れ様」


 包丁を握ったままのお母さんに後ろから声を掛けます。


「えぇ、メリナ、お疲れ様。もう終わったみたいね。じゃあ、メリナにお話があるの」


 ……話? うっ、なんかお母さんの眼がつり上がってる!


「え、えへへ、巫女長生き埋め事件は事故だよ、事故。アデリーナ様とかショーメ先生に聞いたら分かるから。巫女長自身もそう言ってたもんね」


 努めて明るく。


「お母さんは怒ってるの」

 

 えぇ、殺気が出てますものね……。知ってますよ。


「えーと、何か悪いことしたかな……?」


「惚けても無駄よ、メリナ。貴女、お友達を騙して借金漬けにしたんだって?」


 コリー!! コリーの奴かっ!?


「ち、違うよ……。シェラっていう別の人が犯人だよ。私、よく分からないなぁ」


「債務移転契約書を見たわよ。メリナの署名があったけど? 立場を利用して、部下に押し付けるなんて立派な領主様になったわね、メリナ」


「あ、あはは、立派だなんて……照れるなぁ」


 もちろんジョークですよ。さぁ、お母さん、思わず笑ってください。


「メリナッ!!」


 私は腹を蹴られ、壁まで吹き飛びます。背中や後頭部に衝撃が走る中、お母さんは詰めて来ていて、私の頬を包丁が鋭く掠める。



「メリナ、反省は?」


 内臓が破壊されたので回復魔法を唱えてから答えます。


「し、知らなかっただもん! あんな紙切れで借金が移るなんて知らなかっただもん!」


「嘘、おっしゃい!」


「シェラ! シェラが悪いの!」


「大本はメリナさんが燃やした新人寮の再建費で御座いますよ」


「そうなの、メリナっ!?」


「狂言誘拐とか私のお金を盗み取ったりもしておりました」


「どれだけクズになったの、メリナっ!?」


 ひいぃ。

 あっ、邪神がよちよち歩いてきます。

 水ですか!? 冷たい水で、私とお母さんを冷静にしてくれるのですね!!


「めりゅな、はんせー。肝脳塗地に至るみじゅ、のもー」


 お前、少し本性を現しただろ。

 意味分かんないけど、凄く不吉な修飾語を使いやがりましたよね。

 手に持つコップの中身も泡立つ黒い液体だし。


「アデリーナ様、かけがえのない大切な人の為に毒味をお願いします」


「メリナっ!! 女王陛下に毒味って!! 死刑になりたいの!?」


 火に油を注ぐとはこういうことを言うのですね。勉強になります。

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― 新着の感想 ―
調子に乗ってたメリナへの制裁はわかるけど王位簒奪戦で味をしめたシェラが記憶喪失&無知を利用して親友をはめるのは本物のクズだなって思った どうせ欲と強いメリナでも金貨様に屈服するところが見たいとかが理由…
>「シェラ! シェラが悪いの!」 確かにシェラが半分くらい悪い。
[良い点] 「どれだけクズになったの、メリナっ!?」 [一言] メリナのクズっぷりが遂にお母さんにバレる。反省しなさい。
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