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巣穴の中へ

 もはや運命から逃れられません。

 私は諦めて椅子に座ります。


 あー、お外は良い天気ですね。あの白い雲みたいに自由になりたい。宿でゴロゴロしていたい。


 

 そんなことを思っていたのですが、何回かに分けてのイルゼさんによる転移で、私を含めて全員が敵の地下迷宮の入り口へと運ばれました。


 立派な石造りの壁や天井に囲まれている四角い広場。魔導式ランプが一定の間隔で壁に並んでいまして、人間が管理している場所だとは分かります。

 そこの床の半分以上が掘り起こされて、大きな穴が開いておりました。

 恐らく、これが精霊ベーデネールの巣への入り口。オロ部長が悠々と通れるくらいに大きな穴。



「……帝都の銀湾宮の地下、宝物庫だな」


 剣王が呟きます。


「分かるのですか?」


「あぁ、ここの壁に傷があるだろ。俺が攻めた時に付いた。無論、こんな穴はなかったぞ」


 確かに幾つもの切り石に渡って、一筋の刃傷が刻まれています。


「銀湾宮って?」


「別宮の中では格式一番だったはずだ。警護兵がいねーのが不思議だが」


 剣王は周りをキョロキョロとしましたが、兵の気配が本当にないので諦めて黙りました。

 私の予想では、ここの帝国兵はルッカさんに噛まれて下僕になってると思うなぁ。



「精霊語を喋れる人、何人いる?」


 穴に一番近い所にルッカさんが立っていて、皆に尋ねました。

 それに応えて手を挙げたのは、マイアさん、エルバ部長、邪神、お母さん、巫女長。


「うん、ラッキー。3組とも喋れる人がいるわね。それじゃあ、出会ったら『聖竜様は遠くに住むのなら干渉しないから』って伝えて。あっちの要望とかは聞かなくてオッケーよ」


「倒してはいけないの?」


 お母さんがルッカさんに訊きます。手に持つ包丁が鈍く光を反射していまして、何だかとても怖い。


「もちろん倒してくれて良いわよ。さすが、巫女さんのお母さん。とてもアグレッシブ」


 えぇ、本気のお母さんを久々に見ることになるかもしれませんね。末恐ろしいです。



「他にクエスチョンはない?」


「ルッカさん、貴女、敵と対峙せずに外から見るつもりでしょ?」


 ルッカさんと同組のはずのマイアさんがそんな事を言います。


「クレバーね、話が早くて助かるわ。そういうこと。よろしく」


「うん。任せて。じゃあ、赤組の皆さん、行くわよ」


 マイアさんは軽くルッカさんに確認した後、振り向いてルッカさん以外の自分の組の方々に同意を求めました。


「分かった。俺から入るぞ」


「ミーナが先だよ」


「いいえ、先陣は聖女の役目」


「もう聖女じゃねーだろ」


 戦場での一番槍争いみたいなことが冒険者連中で起きていて、それをショーメ先生がうっすい微笑みを添えて他人事として見ていました。

 ショーメ先生のポジションこそ、私が望んだものです。大変に羨ましい。


「私の転移魔法で移動するわよ。いきなり戦闘かもしれないので、注意して」


 マイアさん達は消えました。私が期待した通り、彼女らは転移魔法で最終地点に到着したのでしょう。羨ましい。

 しかし、罠が張ってある可能性とかどうなんだろう。まぁ、でも、曲者のショーメ先生がいるからどうにでも成りそうです。



「私達も行こっか。メリナ、途中までは一緒ね」


 しかし、このお母さんの誘いを私は断ります。


「いいえ、お母さん。お断りです。穴を進むスペシャリストが私達の組には居るのですよ。オロ部長、お願いします」


 そう、オロ部長は普段から地下に住み、その趣味は地下通路作り。竜神殿を中心に色んな場所へ繋がる穴ができているのです。

 自分の組に私の加入を認めなかったお母さんへ、微妙ではありますが、意趣返しをしてやったつもりです。



 なお、オロ部長は体を真っ直ぐに伸ばし、指でチョイチョイと私達に「乗れ」とサインをくれています。このノリの良さがオロ部長の特長ですね。


「お、お前ら、普通に乗る気かよ?」


 竜の巫女達はすぐに騎乗しました。剣王は初めてのオロ部長ということで、真ん中の席を空ける配慮付きです。


「むしろ乗らない気なら置いて行きますよ」


「くぅ! 乗ってやるぜ!」


 剣王は意を決してオロ部長に跨がりました。馬で慣れているからか、ずり落ちたりはしなさそうです。


 あとは速いです。ずるりと床を這ったオロ部長は光が一切見えない暗い穴に頭から飛び込みます。

 通路は急な坂道。時には坂というよりも縦坑(たてあな)みたいになっています。徒歩で向かうはずのお母さん達はロープが必要かもしれませんね。


 本当に真っ暗でしたので照明魔法を唱えましたが、オロ部長が速すぎて、すぐに遠ざかるので意味がありません。

 

 結果、視力よりも魔力感知に頼ることになります。振り落とされないように、股に力を込めながら、四方八方の魔力に注意します。

 他の方も同様でして、何か魔物が居るみたいですが、アデリーナ様の光の矢や巫女長の精神魔法で仕留められていきます。

 精神魔法を火炎魔法みたいにお手軽に使う巫女長は本当に怖いです。法律で縛った方が良いんじゃないかな。

 威力が強過ぎて絶命にまで至る精神魔法とか邪悪以外の何物でもないと思うんです。どんな悪夢を見せられてるんだろう。


 さて、半刻程度でオロ部長は止まります。

 最深部に到着したのでしょう。


 敵はいない。照明魔法を唱え、小部屋の隅で待機します。

 巫女長は「空気が澱んでるわね」と言って、微風を起こす魔法を唱えていました。



「精霊ベーデネールとかを倒したら、アデリーナの責任で帝都の富をくれるって話だったな。帝都を落としていないのに、そんな事が可能なのか?」


「帝国を占領する意図はありません。しかし、詫びを要求するのは当然で御座いますから。事態は相当に深刻と思われますので、私が直接、先方と交渉したいと考えております」


 アデリーナ様に詰められるなんて、悪徳借金取りが泣いて許しを乞うくらいに苛烈ですよ。


「大量の捕虜の扱いはもちろんのこと、先日の戦闘で何匹も確認された魔族も問題です。あの数は明らかに異常で御座いました。魔族を意図的に生産しているのではと思っております」


「それこそベーデネールのせいじゃねーのか?」


「さぁ、どうでしょう。うふふ、敗北者である彼らはどんな反論をしても無駄で御座いましょうね。加えて、倫理的にも私どもは優位な訳ですし」


 まぁ、久々に黒い白薔薇を見ました。

 


 うん? 魔力の変動有り。

 来たか!?


 皆が戦闘態勢を取り始めます。

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