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王国の砦へ侵入

 王国側の関所は川を挟んで向こう側。

 そこに出る為の大門をギューと押し開けました。結構重くて、図体がデカ過ぎて廊下が通れなかった獅子頭を無理矢理にでも連れてきたら良かったと後悔しました。

 さて、道が開けたはずですが、私達は歩みを進めることはできませんでした。

 


 今は穏やかに流れる川を私達3人はのんびりと見ています。戦争中だと言うのに、自然は人間の営みなんて関係なくいつも通りに存在するのですね。

 ベリンダさんの関所の中ではまだ小競り合いが続いています。怒声などの音がむなしく響きます。耳障りだから蹴散らした方が良かったかな。



「困りましたね。橋がないですね」


 改めて事実を口に出しました。

 木製の橋が架かっていたはずなのですが、見当たらずです。王国側からも攻められたって話だから、帝国側が落として流したのかな。


「お前、いきなり扉を開けるなよ。矢や魔法が飛んできたらどうするつもりだった?」


「拳で叩き落とすだけですよ。でも、んー、どうやって渡ろうかな」


「メリナならジャンプしたら届く」


「失敗したらビショビショになるんですよね。今日は一張羅の巫女服なんですよ」


「それ、お前らの戦闘服だろ。気にすんなよ」


「いや、でも、血と違って川の水が乾くと生臭くなるんですよね。嫌だなー」


「死竜を呼べよ。あいつを川に寝そべらせて、その上を歩こうぜ」


 良い考えです。ガランガドーさんもここ最近の失態を挽回できるチャンスに大喜びすることでしょう。しかし、


「あいつ、またどっかに行ったんですよね。引っ張り出してやろうと今朝思ったんですが、アデリーナ様がやって来たりとか、色々と邪魔が入ったんですよ」


「メリナ、それ、女王が邪魔者みたいに聞こえる」


 あら、普段から思ってることが口に出ちゃいましたね。今度はアデリーナ様の前で聞こえるように言わなくちゃ。そうすれば鈍感なあいつも自分がどう思われているか気付くでしょう。


「んじゃ、今、死竜を呼び出せよ」


 ふむ、では瞑想を始めるかと思った時、魔力の変動を感じます。これは転移魔法の兆候。

 剣王もそれを察知し、剣に手をやり警戒します。



 現れたのは獅子頭の魔族。危うく、ぶっ殺してしまうところでしたが、ギリギリ、本当にギリギリのタイミングで拳を止めることが出来ました。


「どうした、突然?」


「グァルルゥ」


 剣王の問い掛けに対して、控えめに吠えた獅子頭はゆっくりと前進して、それから川に飛び込みます。水深は差程でもなくて、彼の胸くらいに水面が来ていました。

 そして、自分の肩を指差す。


「乗れってことか?」


「殊勝な心掛けですね。いや、こいつの命を奪わなかった私の慧眼が素晴らしいということですね!」


 まずは差し出された手の平に移り、そこから肩へと運んでもらう。広い肩幅といえど、3人が乗るにはかなり狭くて獅子頭の毛をしっかりと握る必要がありました。


 ノシノシと水を掻き分けながら魔族はゆっくり川を渡り、立ち止まったところで、閉じていた王国側の関所の門を私が拳で破壊します。

 跳び移るだけで、無事に対岸へ到着したのです。



「獅子頭、褒めてやりましょう。今後も励むように」


「グルルルゥ」


 川に半身を浸けたまま、猫が喜んだ時と同じ様な声を重低音で出してきました。


「メリナ、こいつに名前を付けたい」


「ふむ。では、ソニアちゃん、良いヤツを言ってみなさい」


「レオン君」


「それはダメです。私の幼馴染みの男の子と同名なので」


「アンギュワランニクス25世」


「長い」


「あと、アンギュワ何とかって誰だよ。それから、25世って何だよ」


「じゃあ、メリナザセカンド」


「却下。ソニアちゃんは私を何だと思っているんですか。ナンセンスですよ。こいつは、そうですね、ミミちゃんにしましょう。猫っぽい感じですよね」


「こいつのがたいとは相容れないが、それで良いか。ってか、どうでもいい。急ぐぞ」


「では、ミミちゃん。何かあれば、また助けてくださいね」


「グルルルァ」


「フランソワは?」


「その話題は終わりましたよ、ソニアちゃん」



 王国側の関所はもぬけの殻です。兵士が1人もいません。ベリンダさんの関所を襲った兵は帝国式の鎧だって剣王は言っていましたので、どうにかして王国側に出現した帝国兵に駆逐されてしまった後なのでしょうか。

 でも、それにしては戦闘の名残だとか兵士の死体だとか見当たりません。不思議です。あと、別の疑問が湧いてきました。


「ミミちゃん、どうして獅子頭なんだろ?」


 私達の靴音だけが響く廊下を進みます。

 魔力感知でクハトなるここの偉いヤツは居室にいることが分かっています。クハトの魔力の色を覚えていないので、私は判断できなかったのですが、剣王がそう言うのです。信じてやりましょう。


「化け物なんだから、そういうのも居て良いだろ」


「昔、魔族の姿について考察したことがあったんです。あいつらは中身はドロドロの魔力で構成されているから、どんな形でも良さそうなのに人の姿に拘るのは変だなと思って」


「人なら剣が握れるからだろ。強いヤツは皆、剣好きなんだぜ」


「ゾル、それは違うと思う。本当の理由は分からないけど、それは違う」


「ンだよ。2回も繰り返して否定すんなよ。そうかもしれないだろ」


「その時の仮説では、魔族は人になりたいから人の姿を取るのだとしました。獣人っているでしょ? それから、魔獣でも2つ以上の獣が混ざったみたいなヤツがいますよね。たぶん、どちらも魔力が偏在してそんな形になったんです。で、獣人の一種に外観は人と同じでも脳ミソが獣のパターンとかも有ります。死んだ私の弟や妹がそうでした。と言うことは、逆に獣の外観で脳ミソが人間のパターンも有るでしょう。そいつが人に憧れて、高度な魔法が使えるようになれば、人の形をした魔族になるのではと考えたのです」


「メリナ賢い。それは盲点」


「ソニア、メリナは脳ミソと足の裏が竜の獣人ではないかとアデリーナが言っていた。自分の実感も入っているんだろう」


「足の裏は関係ないっ! くそっ! 腹立たしい!!」


「頭の中身は竜でいいんだ……」


 私の怒りを鎮めるのには、しばらく時間が掛かりました。壁を何個か破壊することで我慢します。



「で、さっきの仮説なんですが、フロンは当て填まりました。あいつは猫として生まれたけれども人のように考えることができて、アデリーナ様が好き過ぎて、人の形を取るようになったらしいです」


「素敵かも。純愛っぽい」


「ソニアちゃん、誤解ですよ。フロンは色欲でドロッドロだから」


「おい、メリナ。ガキになんてこと教えやがる」


「あっ、すみませんね。で、本題に戻りますが、その仮説に則ると、ミミちゃんはどうして頭だけ獅子になったのかなって疑問なんです。人の体に獣の頭なんて無駄過ぎますよね」


「本人に聞きゃ分かるだろ」


「ミミちゃんは喋れない」


 その通りです、ソニアちゃん。剣王はバカですよね。


「あいつ、俺たちの言葉は理解してるっぽいぞ。だから、筆談すればいいんだよ」


 あっ。意外に賢い。でも、悔しいから言葉にも顔にも出さない。


「ゾル、さすが」


「ふっ。剣王、私の答えを先回りで答えるとは生意気ですね」


「おぉ、メリナもさすが」


 何とかメンツは保てたみたいですね。



 さて、最後の階段を登り、この関所に一人残っているっぽいクハトさんの部屋の前に来ます。

 剣王、ソニアちゃんと順番に視線を合わせ、準備万端であるかを無言で確認します。彼らが頷いたのを見てから、私は扉を豪快に蹴破る!



「王国を裏切るとはとんだ食わせ者だったみたいですね、クハト!」


 入って正面の大きな執務机に向かって座っていた男に私は罵声をぶつけました。

 相手は机の上に乗せた両手を組み、私達を静かに見ている。私の大声にも驚く素振りはなかった。


「これはこれはメリナ様。突然のご訪問、お迎えに行けず申し訳ありませんでした。しかし、私が王国を裏切った? そんな事実は全くないのですが」


「向こう岸に兵や魔族を出してるでしょ!」


「あちらは王国の敵である帝国領で御座います。私は王国のために敵国を攻めたのです」


 ……あっ、そうですね。

 いやいや、納得してはいけませんよ、メリナ。


「知らないのですか? 今、あちら一帯はアデリーナ女王が認めた国に変わったのです。敵国でなくなったことをここの指揮官であるお前が知らないはずがない!」


「いいえ。国境を接する得体の知れない国は仮想敵国としておいた方が良いと思いますよ」


 チッ。しかし、攻撃したことは先程認めてる。そこを突こう。


「この関所の戦力を戻しなさい。お前の言い分はそれから聞いてやります。勝手に他国を襲うなんて貴方の権限を越えているでしょ」


「戻す? ふむ。それは困りました。難しいかもしれませんね」


「斬ってしまおうぜ。どうせ、こいつは口を割らねーだろ」


「ははは、そうかもしれませんね」


「なめんなよ!」


 剣王が突進。そして、抜いた剣をクハトの眼の高さで横に一振り。

 血は飛び散らない。

 言葉と違って、剣王は脅しとして剣を振るったのでしょう。


 なのに、瞬きもせずにクハトは生意気な笑みを堪えたままでした。



「そうそう。誤解のないように申し伝えておきましょう。私は真の愛国者です。国を愛し、そこに住む民を愛しております」


 そこまで言って、彼は私達の様子を見ます。


「続けなさい。聞いてやります」


「ありがとうございます。バンディールの土地と民を省みない王国の指導者はどうかと思っておりました。ならば、私が王になろう。そんな風に考えたのです。ほら、2年前にアデリーナ陛下が国を乗っ取ったでしょう? 私にも可能ではないかと感じたのです。ただ、本当にそんな無謀なことを実行できるとは思っておりませんでした。この度は大変な好機を天から頂けたようです」


「なるほど。じゃあ、それは好機じゃないし、無謀だから降伏しなさい」


「ははは、メリナ様。私は天から力を授かったのですよ。この方からです。ご紹介しましょう」


 クハトの横に小柄な女性が現れる。

 転移魔法の特有の魔力の変動もなく。

 私は驚きながら、その女性に目を遣ります。


 っ! 料理人フローレンス!!

 ルッカさん! どこをほっつき飛んでいるんですか! お前が捜していたヤツがここにいますよ!

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