表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/391

犯行の検証

 地上に出てすぐ、料理人フローレンスと呼んで良いのか分からないけど、それを探しにルッカさんは空高くに上がってどこかへ行きました。

 発見したら、私達のところに戻ってくる手筈です。



 周囲に誰もいないことを確認してからアデリーナ様が口を開きます。


「メリナさん、ルッカに気を許し過ぎないように」


「どうしたんですか?」


 何を今更と思って、私はアデリーナ様に尋ねます。


「あれはまだ隠し事をしている気がします。また、善意であるかもしれませんが、メリナさんの記憶をルッカが奪ったことを積極的に否定する証拠は出していない」


「私の記憶ねぇ。あれって当たってないって言ってましたし、鎮静魔法を打つつもりだったんですよね。敵意がないなら、私の記憶はもう元通りだからどうでも良いですよ」


 当初は私から聖竜様との思い出を奪ったことに強い憤りを感じていたのですが、今となっては終わったこととして片付けても良いって心境になっておりました。

 しかし、アデリーナ様は続けます。


「ルッカの証言が正しいのか、私は準備をしておりました」


「嫌な予感がしますが、それが何なのかだけは聞いてやります」


「記憶石をアシュリンとフロンに渡したいと思います。それを見れば、ルッカが正しいかどうかが分かるかもしれません」


「それ、人選を間違えてますよ。すごく嫌な予感がします。あと、そんな事が出来るならもっと早くにお願いします」


「これは貴重品でしてね。悪巧みを企図していた貴族達に使用していたら、記憶石の在庫が失くなっていたので御座います。さぁ、魔物駆除殲滅部の小屋に急ぎますよ」


 んまぁ、在庫が失くなるくらい、何に使っていたんですか。貴族イジメですかね。怖いです。



「足取り重いなぁ。今日こそゆっくりしようと思っていたのに」


 素直にテクテクと歩きながら、私はぼやきます。


「メリナさん、つい先程、聖竜様にあの化け物を打ち倒すと宣言したばかりでしょうに。ルッカの件は兎も角、そちらをお忘れになって休憩で御座いますか?」


「いやー、勢いで言っちまったんですよねぇ。私、熱しやすく冷めやすい性格みたいで」


「そんなことだから、新人の見習いに舐められるので御座います」


 新人寮から私を追い出して欲しいって要望が出ていた件ですね。思い返せばショックな話です。

 あんな建物、燃やし尽くして正解でした。



『わっ!』


 ん? どうしました、ガランガドーさん?

 突然に驚きの声出したらビックリするでしょ。


 しかし、彼からの返答はそれっきり有りませんでした。

 帝国で魔法を誤射した件で、彼は調査に赴いていたのでした。その結果報告を聞きたくなくて、私は敢えて連絡を断っていたのですが、どうしたのでしょう。

 ……うん、きっと空耳です。



 部署の小屋には、アシュリンさんとフロンが控えていました。


「アシュリンさん、まだ引退してないんですか?」


「メリナっ! お前が辞めるなと泣いて訴えるからだろっ!」


「泣いてないです。複雑な心境ですが、もう辞めても良いですよ。オロ部長も退職するんで、私が部長になりますから」


「はぁ!? 最悪じゃない! アディちゃん、選ぶなら私よ!」


「その件は後日に致しましょう。異動願いを出して、私が部長に就任することも検討しております」


「っ!? アシュリンさん、絶対に辞めちゃダメですよ!! 私、ノイローゼで死にます!! ストレスで吐血して殺されますっ!!」


 そう叫ぶ私の横では小刻みにフロンが震えていました。


「フロン、どうしたっ!?」


「アデリーナ部長に命令される私を想像したら、軽く絶頂ーー」


 言葉の途中でアシュリンさんから強烈な拳骨を貰っていました。

 意味が分からなかったけど、いつも通りのお下劣な発言だったのでしょう。



 さて、アデリーナ様が隣の執務小屋から取ってきた記憶石を2人に渡しまして、私が記憶を失ったあの日の戦闘を映像化します。



「こんな物か」


「ありがとう御座います」


 アシュリンさんが投げた石をアデリーナ様がキャッチしました。何気ない動作ですが、これ、私がしたら怒られるヤツですよね。

 ずるいです。依怙贔屓です。



 テーブルの片方に4人が並んで座り、部屋の奥に映像を写します。



 緑の平原。

 戦闘訓練でしたので、他の人に迷惑が掛からないように、シャールの街から少し離れた場所を選んだのでしたね。


 私が拳を構えて立っています。

 その正面にアシュリン。斜め後ろにフロン。ルッカさんは画面には居なくて空を飛んでいるのでしょう。



「はい。これ、嘘です。アシュリンさんの記憶なのに、アシュリンさんの後頭部が見えます」


「上官に向かって、嘘とは何事だっ!」


「嘘は嘘です。怒鳴っても変わりません。気分を害したので、土下座して謝ってください」


「あぁ!?」


「止めなさい、2人とも。メリナさん、空間把握能力の高い人間は、真剣な場に臨むと、このように俯瞰するように状況を見るそうですよ。そうすることで客観的で有効な戦術が可能となる。これはアシュリンの能力なのでしょう」


 視点が違うだけで、そんなに高い評価がされるのか。分かりました。次に私が記憶石を使うことがあれば、すっごい所からの映像にしてやります。



 映像が動き出しました。



「メリナっ! 気合いを入れろっ!!」


「ふん、どこからでも掛かってきなさい。地べたに這いつくばる貴女方の姿が目に浮かびます」


『また増長しているな。こいつの悪い癖だ』



 響きが微妙に異なるアシュリンさんの声が聞こえました。なので、私は確認します。


「すみません。これ、アシュリンさんの心の声入りなんですか?」


「そうで御座いますよ。学院で上映会を致した時もそうだったで御座いましょう?」


 そうでしたが、これ、本当にヤバい道具ですね。在庫切れになるくらいアデリーナ様が利用してるとか、マジでドン引きですよ。

 あー、貴族の方々、大変に辛かったでしょうね。



『ふむ、ルッカは気配を消しているな。ならば、我らが囮となろう』


「早く来てください。欠伸が出そうです」


「間抜けな面をして、何をほざくかっ!」


 アシュリンさんが飛び出る。それを簡単に捌く映像の中の私。バックステップをニ、三回。その横にフロンが現れて、爪で私の腹を引き裂こうとする。

 それを防御するために私は氷か魔力そのものの壁を構築しようとしたところで、更にアシュリンさんのハイキック。

 背伸びをしながら斜め後ろに体を倒して、私はそれを躱す。


 倒れるのかなと思ったくらいで、私は体を浮かせながら回転して、アシュリンさんの肩口を狙った蹴りを繰り出しました。


『ちょこざいな小細工をっ!!』


 その蹴りを無視して、アシュリンさんが拳を放ちます。

 しかし、当てた足を起点にして、私は空高くに舞いました。もちろん、アシュリンさんのパンチが私に到達する前です。

 フロンの追撃を氷の槍で迎撃してから、一回転しながら私は華麗に着地。


「うふふ、皆様、ウォーミングアップは終わりましたか? 私はまだまだお寒いのですが」


「死ねっ!」


『死ねっ!!』


 アシュリンさんの心ない言葉とともに拳が遠くから放たれます。明らかに私に届かない距離。

 映像の中の私も油断していて、笑顔でいましたが、すぐに驚愕の表情へ。


 拳から魔力が弾丸の様に放出されまして、私の顔面を襲います。

 ギリギリで私は両腕をクロスして耐えます。しかしながら、フロンが背後を取っていて、瞬時に私は物凄い速さで回し蹴り。フロンが吹っ飛びます。


『ふん。やっとやる気になったか。ならば、精神攻撃だな』



 私はここで映像のストップをお願いしました。


「アデリーナ様、真犯人が白状しましたね」


「続きを見なくてはなりません」


 あっさりとアデリーナ様は映像を再開します。



「メリナ! お前、見習い連中に嫌われているらしいな!」


「えっ! えぇ……そんなことない……もん」


 明らかに動揺する私。そこを狙ってフロンが私に攻撃しますが、素早く躱した私。それでも、頬に赤い切り傷が入りました。


『甘いか……。しかし、メリナよ、まだまだ未熟だな。もう少し精神を鍛えてやるか』


「聞いたぞ! 3日後に寮を追い出されるそうだな!!」


「知らないっ!」


『クハハ、困った様子を見せるな。仕方ない。私の館を貸してやろう』


「ガハハ! ホームレス生活を堪能するが良いっ!」


「ぶっ殺す!!」


 突進する私。蛮勇を誇るアシュリンが構えを取る。


『おぉ、凄まじい殺気。そんなことでは、嫁に行けんぞ』


 フロンが数枚の魔法障壁をアシュリンと私の出しましたが、物ともせずに両拳で打ち砕き、怒りに満ちた私は勢いそのままにアシュリンを狙います。


『ルッカよ、今だ』


 アシュリンさんの心の声と同時に、ルッカさんが私の後ろ上方に現れる。その手には既に魔力が込められているみたいで、白く光っていました。


 その伸ばされた腕が当たる寸前に私は体を捻って回避。

 アシュリンの迎撃も迫っていることに焦ったのか、ぬかるみに足を滑らせて、私は頭から激しく地面に転げたのでした。


 ここで映像が止まります。



「ふむ。ルッカの証言通りで御座いますね。ルッカの拳は当たっていない。メリナさんが1人で転げただけ。アシュリンのメリナさんへの温かい想いも聞けましたね」


「恥ずかしいなっ! メリナ、聞かなかったことにしてくれ!」


「は? こっちこそ身が震える思いで聞いてたんですけど!!」


「優しいじゃん、アシュリン。化け物と同居なんて、息子の教育に絶対悪影響あんのに、見直したわ」


「悪影響があるのはお前だっ! あと、優しい心遣いが、私を傷付けるんです!」


「メリナさんにも人間らしい感情があることが分かって良かったで御座います」


「私もあるよ、アディちゃん」


 そう言いつつ、フロンが自分の記憶石をアデリーナ様の手を取って渡します。

 こいつは本当にめげないですね。そんなにアデリーナ様とコンタクトしたいなら猫に戻れば良いのに。


 丁寧に自分の手をハンカチで拭ってから、無言でアデリーナ様は記憶石を作動させました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ