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精霊語のプロ

 アデリーナ様の話は一段落したと思いました。

 なので、私が聖竜様と会話する番です。

 

「聖竜様、以前にお話ししました喧嘩屋フローレンスの討伐に成功致しましたので、ご報告致します」


『うむ。ご苦労であった』


 わっ。褒められた。嬉しい。

 しかし、もう一つの残念な方もお伝えしなくては。


「しかしながら、料理人フローレンスについては追い詰めたのですが逃げられました。申し訳ありません」


『そうであるか。……えっ、そっちは私を食べたいって人じゃなかった?』


「はい。畏れながら、その通りで御座います」


『ちょっと待ってね。全力で何処にいるのか探すから』


 そう仰った聖竜様は深く考えるように目を瞑ります。

 その姿は凛々しくてうっとりしますね。

 あー、ずっと見ておきたい。



「ルッカ、神と名乗るスーサフォビットなる者と出会ったことがあるので御座いますか?」


 厳かな雰囲気だったのに、その中で薄汚い声を出すなんて、なんと不粋な行動でしょうか。アデリーナ様、お前のことですよ。


「えぇ。1度だけ。聖竜様と初めてお会いして、すぐくらいだったかしら」


「500年前で御座いますね。その後は?」


「ないわね。コンタクトの方法も分からないわ。それは聖竜様のお役目」


 役目だと……。それでは、まるで聖竜様がそいつの手下みたいに聞こえるではないですか……。



「……フォビで御座いましたか……。ブラナンの記憶を紐解くと、ブラナンは敬いと憧れと嫉妬と怒りの思いを持っていたようで御座います」


 2000年前の英雄の1人、ブラナン。彼は今に至る王国を建国したのですが、秘術によって代々の王様や王族の意識を乗っ取って、その王国を操っていた者です。

 王族であったアデリーナ様も幼い頃、ブラナンに憑依される経験をしています。その時に植え付けられた記憶なのでしょう。


「アデリーナさん、そんな記憶が残っているの?」


「はい。うっすらとで御座いますが……」


 アデリーナ様はそう言った後、微動だにしませんでした。ちょっと見た目的に怖いのですが、真剣に考えるときの仕草です。

 隙だらけなので今なら殺せそうだと、過去に何回か思ったことがあります。



「ルッカさん、私からも質問が有るんですが、良いですか?」


「何、巫女さん?」


「そのフォビってヤツ、私より強そうですか? 無礼にも聖竜様を使役する態度は改めて欲しいので、ぶっ殺すか躾を付けたいと強く思っています」


「は? 巫女さん、言ったよね、私? 神様だよ、相手は」


「神は聖竜様だけです。聖竜様は騙されている、いえ、騙されてやっているのです。そんなことも分からないのですか、ルッカさん? 極めて情けない」


「クレイジーだって! アデリーナさん、巫女さんを止めてよ」


「メリナさんを天使に選ぶ理由は何でしょうか? ヤナンカやマイアであれば長い命を持ちましょうし、フォビとも知己の仲。他にも寿命だけなら、ガランガドーでも良いでしょうし、カトリーヌさんも適しているのではと思います」


 アデリーナ様はルッカさんの言葉を聞かずに自分の尋ねたいことだけを喋ります。


「メリナさんは強い。しかし、それならば、ルーフィリアさんでも良い。私や巫女長でも戦い方次第では、メリナさんに匹敵する。精霊を顕現できる者が天使となる条件で御座いましょうか? それとも、魔力を直接的に扱える者?」


「自力で異空間に飛べる者よ。巫女さんが飛んだのを確認したの」


 あっ、1年前の乙女の純血占いの時のか。

 あの時もこいつは上空から私を見張っていたのか。私が大変な思いをしていたと言うのに、何だか不愉快ですね。


「ふむ。神の住む世界は異空間にあるという訳で御座いましょうね。ルッカ、メリナさんが天使となるかどうかは、メリナさんの無二の親友である私が決めさせて頂きます」


「は?」


 私の声です。何様のつもりでしょう、こいつ。


「仲良しね、貴女達」


「は?」


 私が優しいから傍にいてやっているだけです。

 その辺をちゃんと説明しようとした時、聖竜様がビクリと動きます。

 巨体の聖竜様なので、土埃がいっぱい舞いました。



『えっ、これ、何……』


 聖竜様が驚きの言葉を発して、目を開けます。


『なんか凄いのがいるんだけど……』


 世界を統べるお方を怯ませるとは本当に凄いヤツなのでしょう。私が排除致しましょう。


「どうしたの、聖竜様? こっちもクレイジーなんだけど」


『あっ、消えた……』


 聖竜様が言うには、膨大な魔力を持った中年のおばさんを発見したのですが、その場所がなんと地中。しかも、聖竜様に発見されたことに勘付いたそれは姿を一瞬で消したのでした。

 料理人フローレンスだと思います。より化け物に進化していますね。



「聖竜様、こちらをご覧になってください」


 すかさず、アデリーナ様が取り出したのは記憶石。

 それを放り投げると、空中に映像が投射されました。1年前に学院で上映会をした時は機械にセットしないと映像が出なかったのに、魔導技術も進歩していくのですね。


『あっ、この人だ。これが土の中にいた』


 映像は勿論、料理人が毒入り料理を喰らった後に復活したところです。アデリーナ様が座っていた実況席からのアングルでして、料理人の前にいる私、アシュリンさん、フロン、ミーナちゃんが立ち向かおうとしていました。ルッカさんは頭を潰されて無惨に倒れています。


 料理人の呟きが聞こえます。

 離れていたアデリーナ様の席でも拾えた声量だったのですね。


「アヤナヌュダフラヤ、カラセデヤヮラトゥ。イーイノルョヴンサヲグロェッナ、バナカマカソリユノ」



 ここでアデリーナ様は映像を止めました。


「精霊語だと存じ上げます。敵は何と言っていたのでしょう?」


『……こんな方法で外に出られるとは幸運。ほぉ、弱き者しかいないのか。ここは儂のものだな。うん、ちょっと訛りが酷いけど、たぶん、こんな感じ』


 逃げたくせに、そんな強がりを吐いていたのか。


『この存在は精霊そのものである、と思う。何があったのであろうか?』


 私は説明します。

 毒魚と毒蟹と大量の塩と聖竜様の鱗から作った粉のスープを食べたら、倒れてアレになったと。


『……理解できないけど、分かった。訊いてみる』


「誰に訊くのですか?」


 私は静かに尋ねることが出来ました。胸の奥では「フォビとかいう野郎にか!?」と怒りと嫉妬の炎で燃え上がっております。


『お母さん。起きてたら良いなぁ』


 えっ、聖竜様にお母様がいるのですか? しかも、ご存命!?


 ちょっ! えぇ、意外っ! もしかして、ここに来られますか!?

 どうしよ、私、最初の挨拶できるかな。そ、粗相のないように……そうだ! 顔をきれいにしておきましょう。


 聖竜様が再び目を瞑っている間、魔法で出した水で私はゴシゴシと洗顔です。


「何してんのよ、巫女さん」


「汚い水が飛び散っています。お止めなさい」


「汚くないです。出したての水ですよ」


「メリナさんの顔に触れたものが私の服に飛んでいるのです。不愉快で御座います」


 お前、私が無二の友人なら、相応の態度を取りなさいよ。



 さて、少し時間を要していましたが、聖竜様は何らかの方法でお母様に連絡したみたいでした。


『私の鱗って、食べると体力回復とか魔力補給の効果が高いんだよね。それで、多分だけど、料理人フローレンスは毒で死に掛けるのと、私の鱗で復活するのを何回も繰り返している内に、精霊が顕現できる量にまで体内の魔力が高まったんじゃないかって、お母さんは言ってた。地中にいたのは巣穴を作ってたんだろうね、とも』


 さっきから聖竜様の口調がフランクになることが多いです。化け物に驚いたからかな。かわいいです、聖竜様。


 あと、お母様がご訪問になられることはなくて、私は安心したと同時にガッカリもしました。

 これが乙女心なんですね。


「それで『儂のもの』とは?」


『うーん。私に代わって、ここらの周辺を支配するつもりなのかな』


 ほぉ……大胆なヤツですね。


「分かりました、聖竜様。忠実なる僕であるメリナが今度こそ倒してみせます。粗相は致しません。討伐のあかつきには、お母様に宜しく私をご紹介ください」


『メリナよ、無理をするでない。精霊に人間は勝てぬ。ここまで連れてきてくるが良い。場合によっては、我も戦う』


 っ!?


「聖竜様が直々に戦われるのですか……?」


『うむ。……怖いけど、今回は仕方ないね。頑張る』


 おぉ。私は聖竜様の勇姿を見てみたい。


「今、どこにいるか分かりますか? イルゼさんに頼んですぐに運んで貰います!」


『それが見当たらぬのである。ルッカ、分かる?』


「任せて。地上に戻るね、皆」


 即座にルッカさんは転移魔法を使ったのでした。私はもっと聖竜様と親交を深めたかったのに。

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[良い点] あっ、1年前の乙女の純血占いの時のか。 [気になる点] 『お母さん。起きてたら良いなぁ』 [一言] 乙女の純血占いって何だっけと調べたら、自分の拳打ち合わせて流血によって占おうとして異空間…
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