本領
回復魔法を掛けたお母様ですが、倒れたままで立ち上がる気配は御座いません。
血が滴る剣をぶらぶらさせながら、ソニアちゃんにゴロツキと呼ばれた男が向かってきます。
「メリナ、来る」
「呼び捨て良くないですよ?」
「うるさい」
可愛くないガキですね。
「よぉ、姉ちゃん。キレイだな。こっち来い。お前は助けてやる」
こっちも生意気なヤツですね。
馬車の荷台からから数人の男が降りてくるのも見えました。3人?
計4人か……。
「逃げる?」
「えっ、逃がさないですよ? あの人達、盗賊っぽいですよね。人数が少ないけど、ラッキーです。私、占い師の才能が有りますね」
まずは逃亡防止に彼らを囲むように炎の壁を丸く作ります。森が火事になる前に終わらせないといけませんね。焼き殺すことが目的でないので、その炎の円の中に私たちも位置します。
「な、なんだ!?」
「魔法使いか!?」
男達が慌てふためきます。馬車に繋がれた馬も暴れますが、暴走しないみたい。良かったです。お馬さんには罪は有りませんからね。
「ソニアちゃん、自分の身は自分でお願いしますね」
「めんどい」
……実力のほどは知らないけど、自信はあるみたいですね。
私は突進して、先頭の男の顔面を強打。剣を下げていたので隙だらけでした。深く入った拳は鼻を折り、もしかしたら勢い余って顔が陥没したかもしれません。
放った拳も痛めていない。
本当に記憶を失っていたんですね、私。村に出た頃よりもパンチが鋭く、且つ、硬くなっていると思います。あれだけの痛打、私の拳も傷んで回復魔法が必須だと思ったのに。
自分自身に驚いたせいもあったかもしれません。
後ろの3人に向かおうとするのが少し遅れました。
「お、おい!! 近付いたら、この女を殺すぞ!」
「そ、そうだ! 大人しくしろ!! こいつは、まだ生きてるぞ!」
「だから、動くなよ!」
無視です。そんな程度の言葉で戦意を喪失するヤツがいるとでも思っていたのでしょうか。
彼らが喋っている最中から私は突進。
ついでに、魔法で氷の槍を作って発射。
俯せのお母様に剣を向けている男の肩を狙いました。着弾した男は吹き飛び、地面に落ちた時には腕と体が離れていました。太い槍によって、深く抉られたのでしょう。
「な、なんなんだよ!!」
「天才占い師ですよ」
私はもう接近していました。雑に振られた剣を軽く躱してから、私は微笑みと一緒に答えてあげます。
それとともに、腰を叩き折る為の横蹴り。呆気なく瞬間移動をするように男は消えまして、強烈な音を残して、道端の木に体を預けていました。大きくしなった木から落ち葉が何枚も降ってきました。
「ひ、ひっ!!」
「すみません。ちょっと力の調整がうまくいかなくて、仲間の方々を殺しているかもしれません。あと、貴方も殺してしまうかもしれません。なので、降参してくれません?」
「ひ、ひ、ひぃ!!」
「剣を捨てて座って欲しいんです」
「ひ、ひ、ひ、ひゃ、ひゃあい」
唯一残った人はちゃんと投降してくれました。良かった。
制圧完了しました。
私が殴った2人は動きませんが、息はしてます。死んでなくて良かった。
お母様は倒れたままなので、馬車の荷台に乗せました。
ソニアちゃんも荷台です。自分でよっこらしょって乗ってました。もちろん、炎は魔法で消しています。
「あいつら、どうするの?」
そんな彼女が私に尋ねてきました。
「動ける方には、お願いしてお金とかご飯を貰うつもり。あっ、良いことを教えてあげるね。動かない方も無駄にはならないって知ってた? 森の中に置いておけば、今晩にも魔物が食べに来るから、魔物狩りもできるよ。死んでるより生きてる方が新鮮だから魔物もいっぱいやって来るよ」
「鬼。これ以上なく鬼」
「折角答えたのに、とても心外だなぁ。ソニアちゃんが大人だったら殴ってた」
「永遠に子供でいたい」
懐かしい。お母さんの嬉しそうな顔を思い出しました。「盗賊さんって優しいのよ。何でもくれちゃう」って言うのが口癖だったなぁ。
でも、お母さんは死体には興味がないみたいでいつも放置しちゃうから、魔物狩りするのは私の役目でした。
盗賊さんに金目の物を全部置いていくように頼みます。服とかは汚いので要りません。それから、シャールに一緒に付いてくるか、元の道を戻るかお尋ねしました。
彼らは戻るそうです。
うふふ。そっちにお仲間がいるのか、棲み家があるのか、どちらかですね。長年の経験で分かりますよ。
でも、今日はお時間がないので放置してあげましょう。また会う日までお元気で。
私は森の奥に動かない方を投げ置いて、馬車の荷台で獣がやって来るのを待ちます。魔物って鼻が良いのです。だから、血の臭いが漂えば、遠くからでも食べに来ると思います。
「本当にするんだ。野蛮」
「喋っちゃダメ。獣が感付くでしょ。ソニアちゃんは素人なんだから、よく見てなさい」
ほら!
ガソゴソ音が聞こえてきた!
来ましたよ! 大物で有りますようにっ!
十分に引き付けてから、私は飛び出しました。
その日、お母様は目を覚ましませんでした。別に私の回復魔法が不十分だった訳では御座いません。普通にイビキや寝言を叫んだりと、元気に眠られていただけです。動かなかった盗賊の方々も回復魔法で完全回復させて、万事解決です。
幸いな事にソニアちゃんは馬の扱いが上手だったので、馬車はお任せして、私も荷台で休憩することができました。




