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次世代の英雄

 もりもり食べました。


 ミーナちゃんが慣れた感じで注文しまして、心待ちの中、運ばれてきた大皿には何種類ものお肉料理が山盛り。

 お金をどうするのか心配だったのですが、冒険者ギルドが立て替えてくれるらしく、食べ放題なのです。なので、私、メニュー表で一番高いのも追加注文してみたりしてみました。

 よく分からない肉が出てきましたが、大変に美味しかったです。


 今はミーナちゃんがオレンジジュース、私はこの食堂では最高級のお茶を頂いて、ゆったりとした時の流れを楽しんでおります。

 ミーナちゃん、背が低いので大人用の椅子ではサイズが合わずなのですが、特製の椅子まで用意されていて優遇されているみたいでした。



「メリナお姉ちゃんの記憶、戻ったんだ。良かったね」


「うん。でも、何で記憶が失くなったか分かんないままなんだよね」


「頭を打ったのかな」


「どうなんだろ。殴られそうにはなってたみたいなんだけど、当たってないらしいんだよね」


「魔法かな?」


「なるほどねぇ」


 ルッカさんが嘘を吐いているパターンですね。殴打と見せ掛けて魔法を射出していたら、周囲にも分からないか。

 いや、そうだとしたら、アシュリンさんは兎も角、フロンが気付くはず。あいつも魔族だから魔力感知は優れているので、知っていれば媚びを売るためにアデリーナ様にチクっているでしょう。

 それでも、一応、次に会った時にでもあの雌猫に訊いておくか。


「んー、やっぱりミーナには分からないなぁ。ごめんね。でも、メリナお姉ちゃんが元気になって嬉しい」


「私もミーナちゃんが元気になってて嬉しいよ」


 お茶を啜って頂きます。うん、まあまあの香りですね。ミーナちゃんが音を立てるのはマナー違反だとうるさかったですが、それは無視です。



「メリナお姉ちゃんは何しに来たの?」


「ギルドに依頼しに来たんだ」


「ミーナ、受ける! メリナお姉ちゃんの依頼、ミーナ頑張る!」


 若くて美人は、まぁ、クリアでしょう。ミーナちゃんの見てくれは悪く有りません。でも、巨乳と優しいはどうでしょう。


「掲示板に貼ってあるから、後で見てね」


 ミーナちゃんは文字が読めませんので、ギルド職員が条件に合わないと言って止めるでしょう。そんな思惑があって、はっきりと断りの言葉を告げませんでした。


「うん。そうする。メリナお姉ちゃんの名前で貼ってあるんだよね」


「そうだよ。受ける前に、お母さんと相談してね」


 保険も忘れない。お母さんが読めば、いや、ノエミさんも文盲でしたね。それでも、誰かに代読みさせて備考欄を知れば、ミーナちゃんに「これは大人の女性を求めているわよ。ミーナには早いわね」と的確なアドバイスをしてくれるでしょう。


「そう言えば、ミーナちゃんのお母さんは?」


「家を買ったばかりだから、色々と街で買い物。ミーナは獣と戦いたいから、一人で毎日来てるんだ」


 さすが武闘派。その歳でお母さんとショッピングよりも魔物殺しを好みますか。末恐ろしい娘です。


「そっかぁ。でも、魔物退治だけでなく、もっと安全な他の案件とかも見てみたら?」


「んー、難しいのは分かんないの。ミーナ、頭が悪いから草の種類とか、何かを探したりするの苦手なの。だから、剣で倒すのが好き」


「さっき、誰かが『行方不明の獣人を探す仕事がある』って言ってたよ。そんなのどうかな?」


「分かんない。あっ、でも、ミーナ、聞いたことがある。最近、獣人の冒険者の人が急に居なくなるから気を付けなさいって、お母さんが言ってた。誘拐されてるみたい」


 あれ、そうなんだ。

 ミーナちゃんも獣人だからノエミさんは注意を促したのですね。でも、この娘を捕らえられる人は極僅かでしょう。王都最強と名乗っていたパウスさんでさえ、ミーナちゃんの急襲に負けそうになっていたのを思い出します。


「でも、捕まえてどうするんだろうね? メリナお姉ちゃん、分かる?」


「えっ。んー……あっ。カニ美味しかったもんね」


 ミーナちゃんの手が獣化した結果のカニのハサミ、とても美味でした。パウスさんが斬ったのが勿体無くて皆で食べました。


「……そんな目的だったらヤだなぁ」


 私は黙ってミーナちゃんの腕を見詰めるのでした。


「ヤだなぁ。怖い」


 私は黙ってミーナちゃんの腕を見詰める続けるのでした。


「怖いよ……」


 あっ、泣きそう! やり過ぎた!


「本気じゃないですよ、あはは」


「も、もぉ、メリナお姉ちゃん!」


 お互いに笑い合いました。しかし、私はその笑顔の裏からジッと腕を見ます。



「ミーナちゃん、字の勉強はしてないの?」


 話題を変えてあげます。


「お母さんと一緒にしてるよ。まだ簡単なのしか分からないけど、楽しい」


「そうですか。では、練習のためにこれに書いてみましょう」


 鞄からノートを出します。


「メリナお姉ちゃん、何?」


「日記帳です」


「わっ! 凄い! ミーナにくれるの!?」


「いいえ。すみません。私の日記なの。でも、怖いお姉さんから私の日記を他人に書いて貰えって命令されているの」


「よく分かんないや。でも、ミーナ書いてみるね」


 まだ手習い段階の字ですが、ミーナちゃんは精一杯に綺麗に書こうと努力されていました。私はそれを微笑ましく見ています。


「読める?」


「大丈夫だよ。ありがとう、ミーナちゃん。マイアさんの所では字とか文章の書き方は学ばなかったんだね?」


「うん。ずっと剣と魔法の練習だったよ」


 ……マイアさん、戦闘マシーンを作ろうとしていたのかな。


「冒険者の仲間はできた?」


「うん。パウスさんがたまに声を掛けてくれるよ。あと、デンジャラスさんって人がお菓子をくれたりする」


 デンジャラスさんか。あの人、孤児院の先生をしていたくらいですから子供好きなのかもしれませんね。でも、冒険者に戻っているのかな。

 貧民街の運営はどうしているだろう。



 さて、ミーナちゃんとお別れしまして、私はシャールの街へと入り、そして、急ぎ足でホテルへと向かいました。

 街区は広大で宿に付いた頃には夕刻となっておりました。心地よい疲労感は充実した1日を送ったからでしょう。



「メリナさん、どこをほっつき歩いていたので御座いますか?」


 アデリーナ様がロビーで待ち構えていました。最悪です。私の安息の地に易々と入って来ないで欲しいです。


「オズワルドさんの嫁候補を募集してきました。あっ、アデリーナ様も立候補どうですか?」


「全く興味が御座いません。メリナさん、本題です。明後日、料理人フローレンスとの対決となりました」


 ……おぉ、そんなの有りましたね。忘れていました。


「予定はないので大丈夫ですよ。でも、対決ってお料理対決ですよね? 私でなくショーメ先生とかの方が適していると思わないでもないです」


 ショーメ先生はメイド経験が長いので、お料理が大変に上手です。武力的な強さも中々で、あの人はまだ底を見せていないと思います。


「メリナさんをご指名されたのです」


「私?」


「えぇ。どうも、料理人はガランガドーの所有権を賭けての勝負をご所望で御座いました」


「あは。ガランガドーさん、人気者ですね。良いです。受けて立ちましょう。負けても私は痛くない」


「承諾頂き、ありがとうございます。ところで、メリナさんの自信の程は?」


「完勝致したいと考えております」


「頼もしい。言葉だけは頼もしく思いますよ、メリナさん。それでは、明日は毒について学んで頂きましょうね」


 は? 

 アデリーナ様は不思議な顔をした私に説明してくれました。


「メリナさんが勝てるとは思えないのです。毒殺する方向で進める予定です」


「毒で死ぬんですか、あれ?」


「知りません。しかし、メリナさんの料理で勝てる訳がないでしょ」


 澄ました顔で何を言うのかと思ったら、私への侮辱ですね。


「は? 勝算はあります! めちゃくちゃに美味しい、本物のカニ料理って言うのを見せてやりますよ」


「……そうで御座いますね。無毒なのも用意した方が宜しいでしょう。メリナさんが普通に調理したつもりの物が無毒なのかという疑問は残りますが」


 チッ。

 私は「鍋とか切り刻んでいたお前が言うな」と言いたいのを我慢しました。成長してますね、私。

◯メリナ観察日記22


 めりなおねえちやんわつよいいちばんつよいおとなになつたらわたしもおねえちやんみたいないちばんになりたいまたたたかつてねめりなおねえちやんつぎはまけないぜつたいまけないからよろしく

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