大剣使いとの再会
カウンターのお姉さんに頂いた書類をザッと眺めます。
ふむ、色んなことを書かないといけないのですね。
私はオズワルドさんのお嫁さん候補探しを依頼する為に冒険者ギルドへ来ました。
私の知人の中で彼の希望に合致する人はシェラだけだったのです。そこで、冒険者の方々に依頼して幅広く探してもらおうと考えました。
しかし、ここに来てその考えが変わりました。
この冒険者ギルドは街の外にあり、街中に入るにはお金が発生します。冒険者と嫁さん候補、2人分の入街料が必要なのは効率が悪い。
下手したら、街に入る金を彼らは惜しんで依頼を諦めるかもしれません。だから、依頼を見た冒険者がそのまま候補者になった方が良いですね。
うん、そうしましょう。
お腹が空いて来ましたので、サッサッと仕上げなくては。
まずは、依頼案件の名前です。筆を持ち上げて、気合いとともにサラサラと一気に記します。
◯依頼案件名
“ペットの世話”
「結婚相手募集」では、ちょっと引き受けたくありませんよね。まずはオズワルドさんと出会ってもらって、そこから彼と愛を育める人だけが残れば良いのです。
◯場所
“シャールのグレートレイクシティホテル”
確か、こんな感じの名前でした。
◯依頼内容
“ペット(二足歩行型、痩せた豚似)の身の回りの世話のお手伝い。未経験者大歓迎。アットホームな職場です。採用面接有り。人柄を重視します。希望される場合は死ぬまでの常時雇用も可。職場に近接した寮完備で、楽チン通勤。
ペットのオズワルドちゃんは放し飼い状態ですが暴れません。散歩やトイレも自分でできます。オズワルドちゃんは賢いので簡単な会話も可能ですし、余り吠えません。
たまに一緒に寝てやると喜ぶと思います。
夢に向かって頑張りましょう。必要なのはヤル気と笑顔だけです。”
職場って書いていいのかなぁ。難しい。
未経験者とかヤル気とか書きましたが、読み直して深く考えると、これ、性的な意味が込められてるとか思われないかな。
大丈夫かな。面接でそんな質問が来たら答えに窮しそうです。ぶん殴って黙らせましょう。
◯依頼達成条件
“明日の午前中に行われる、上記ホテルでの面接に参加すると中途金として金貨1枚差し上げます。更に、オズワルドちゃんが気に入った冒険者には依頼達成報酬として、上記ホテル等の固定資産、現金が手に入ります(但し、オズワルドちゃんとの共有資産)。”
中途金はシェラから貰う予定の金貨で何とかなるでしょう。結婚してからのお金はオズワルドさんから貰って頂きましょう。
◯掲示期間
“本日限り”
面接は1日で終えたいのです。そして、明日にシェラが来ることが決まっていますから、今日だけの掲示としました。
◯納期
“無期限。本人及びオズワルドちゃんの希望による。”
長く幸せな結婚生活であることを望みます。
◯要望する冒険者ランク
“制限無し”
金とか銀とか並んでいましたが、特に希望はないので誰でもオッケーです。っていうか、ランクがよく分かりません。
◯依頼主
“竜の巫女メリナ”
偽る必要はないので、正直に記しました。
◯特記
“若い、美人、巨乳、優しい人に限る。
依頼主とオズワルドちゃんによる面接がありますので、自分の魅力を存分にアピールしてください。”
私も同席することで、しっかりと人選するのです。
完璧。書き終えたので、カウンターへ持って行き、お姉さんに手渡します。
「竜の巫女メリナ?」
「はい」
「有名人を騙っても受注者は増えませんよ。まずは身元証明書をお出しください」
……そっかぁ、今の私は巫女服じゃないしなぁ。しかし、困りました。証明書なんて持っておりません。
「証明書ないのですか?」
まごまごしている私にお姉さんは冷たく言い放ってきます。
「はい。神殿でそんなの発行してないし」
「分かりました。では、ギルドへの依頼賃を先払いでお支払ください。ランク制限無し、魔物との接触可能性は……無しと思わせて有りですね。銀貨5枚でどうでしょうか?」
「銀貨を持っていないので、金貨で払わせてください」
「……え? まぁ、構いませんが……」
「良かったです」
私は金貨を5枚お渡しします。
「あの……金貨で5枚って意味でした?」
「はい?」
「いえ、承知致しました。お待ちください」
何故か戸惑っていたお姉さんでしたが、カウンターを出て、邪魔な冒険者をどかして進み、壁の掲示板に私の依頼書を貼ります。
戻ってきたお姉さんに礼を言い、私はベンチに座ります。折角だから、冒険者の方々の反応を見届けたいと思ったのです。
「なんだ、これ?」
「ペットの世話? 楽勝だな」
「待て。これ、オークの世話じゃねーか?」
「バカか。シャールの街中での仕事だぞ。オークなんざ居るか、バカ」
「面接ありかよ」
「怪しいな」
「こっちの行方不明の獣人を探すよりか良いな」
「いや、断然でしょ」
「街に入るのに金が要るんだぜ。面接落ちたら損するな」
「ヤル気と笑顔があればいいんだろ」
「お前の笑顔じゃ無理さ」
「怪しすぎるだろ」
「報酬いいな」
「銅貨5枚払って面接に行きゃ、金貨1枚か……」
「いいな」
「いや。怪しいって」
「んじゃ、お前は草でもむしってろ。俺は行くぜ」
「おい! 依頼主! これ、ヤバいヤツだ!」
ヤバくはない。
「本物か? 本物ならギルドに頼まんだろ」
「分からねーが、美味しい仕事ってのは分かる」
「本物だったら、裏があるかもよ」
「偽物でも、裏が有りそうな話だぜ」
「あー、特記事項で外れたわ、俺」
「こんな条件付けんなよ、クソが!」
「私なら行けるわね」
「ふざけんな。何の魔物が見たら美人に見えるんだよ、お前?」
「あ?」
「……いや、そういう考えもあるか……」
「あるな。そうなると、条件はクリアか……。ゴブリンが見たら俺も美しい可能性がある」
「ねーだろ」
「トリーナ、いるか!? アイツがぴったりだろ!」
「あいつは若くねーだろ」
ガヤガヤと騒がしい感じですが、皆さん、注目していますね。良かった。何人かは受注しそうです。
立ち去ろうと扉を開けた時でした。
今度は外から冒険者の方々の驚嘆が聞こえてきました。
「おぉ! またミーナだ! 旋風のミーナがまた大物を倒してきたぞ!」
「あの若さでスゲーな!」
そんな興奮した叫び声が聞こえたのです。
旋風のミーナって、あのミーナちゃんのことかな。二つ名まで貰って凄いですね。
「またミーナか?」
「パウスに匹敵する強さらしいぞ」
「くぅ。うちのパーティーに入ってくれねーかな」
ギルドの中の人達もミーナちゃんを褒め称えます。前は食べるものにも困っていたのに、実力を認められて頭角を表してきたんですね。私も嬉しいです。
「メリナお姉ちゃん!」
巨大な猪を載せた荷車の前には、やはり、あのミーナちゃんがいました。体よりも大きい大剣を背負う姿も堂々としていて、以前よりも威勢を感じます。
「お久しぶり。元気にしてた?」
「うん! 家も買えたし、お仕事もいっぱい引き受けることができるようになったよ。メリナお姉ちゃんのお陰だね」
何人ものギルド職員が荷車に寄ってきて、ミーナちゃんの代わりに運び出しました。
「精算は後で来るね。メリナお姉ちゃんと食事してくるから」
彼女はギルド職員にそう伝えてから、私に向き直します。
「お姉ちゃん、行こ。ミーナ、お腹ペコペコ」
「私もだよ、ミーナちゃん」
冒険者ギルドからは「おい! 本物だ! 本物の竜の巫女のメリナらしいぞ!」「ヤバッ!」「公爵直々の面談って何をさせるつもりなんだよ!」って大声が聞こえました。
何もヤバくはないので本当に知性のない奴らです。
しかし、そんな中、私とミーナちゃんは彼女のお薦めする食堂へと歩み始めるのでした。
朝御飯も食べずに頑張っていたから、お腹が空いているのです。




