草の上で目覚める
宜しくお願いしますm(_ _)m
目を開けたら、青い空が見えました。
綿のような雲が少しありますが、快晴です。
ちょっと頭痛を感じて目を閉じたのですが、人が寄ってきたのが影で分かりました。
どうも私は草の上に仰向けになっているみたい。何故こんな体勢になっているのか思い出せません。
「おいっ! メリナ、死んだ真似をしてサボるなっ!?」
乱暴な女性の声を受けまして、再び目を開けると、ざっくりと短髪にした精悍な顔付きの人がいました。緑色と茶色と黒色がグチャグチャに混ざった妙な軍服を着ています。
見知らぬ軍人から呼び捨てにされる状況がよく分からず、私は沈黙したままで様子を窺います。結果、しばらく見つめ合うという気まずさを味わいました。
「どうしたの、化け物? 頭を打っておかしい頭が余計におかしくなった? 笑える」
続いて、横から無性にむかつくセリフが飛んできました。いえ、少し考えれば私が化け物と呼ばれる筋合いはないので、目の前の軍人さんに言ったのでしょう。
仮に、私がおかしくなったのが事実なら、それを笑えると表現するこの人は危ない人です。
「メリナの目がおかしい! ルッカ、抱えて街まで運べっ!」
え? 私の両目は痛くないし、ちゃんと見えているんだけどな。
「えー、巫女さん、手間が掛かるわねぇ。得意の回復魔法で治したら良いんじゃない? 私、もうタイアードよ」
周りには何人いるのでしょう。また別の女性の声がしました。無理矢理に使ったような外国語が痛々しいです。
「殴られたメリナがこんな大人しい目をしているわけがない! お前達も知っている通り、敵対すれば母親にさえ、全力の殺意で立ち向かう戦士だぞっ!」
ないない。あの人、ヤバイから。
そんな畏れ多い真似を私がするわけがないです。
「……確かにおかしいわね。アシュリンが隙だらけで前にいるのに、化け物が不意を突いて来ないのは不気味だわ。何を考えているの、化け物?」
私の視界に軍人さんではない女性が入ってきました。柔らかそうなふんわりセミロングに桃色に近い金髪。
軍人さんと違って、とても女性らしい姿ですが、先程から私を酷く罵ってきて、私の苦手なタイプです。
「ルッカさぁ、あんたが化け物を強く殴ったからだよね。責任を取って運びなよ」
「本当にクレイジー。最後に攻撃したのは私だけど、ヒットしてないわよ。巫女さんに私の攻撃が当たる訳ないじゃない。転んで頭を打ったの、皆、見てたでしょ?」
「じゃあ、誰の責任よ?」
「トレーニング中の事故に責任なんてないわよ。強いて言えば、オロ部長?」
「バカ者! 上官に責任を擦り付けるヤツがいるかっ!!」
何だか揉めていますが、いつまでも寝転んでいるのもおかしいので、私は立ち上がりました。ちょっとまだ頭がクラクラするなぁ。
「もう仕方ないわねぇ。私が運べばいいんでしょ? はい、巫女さん。後ろから抱えるね。暴れちゃ嫌よ」
私に声を掛けたのは、青い髪と豊満な肉体を持つお姉さんでした。お父さんが秘蔵していた絵本に載っているようなヤらしい感じの服装で、色んなところの肌が露になっております。
その人が私の背後に立ち、腕を私の腹に回します。
私が驚いたまま黙っていると、ふわりと浮き上がり、私の足は地面から離れます。そして、一気に空高くへと飛んでいくのです。
不思議な力で、ぐんぐんとまっすぐに体が浮き上がります。
先程まで一緒にいた軍人さんと妙に私を罵る女性がとても小さく粟の粒みたいに見えました。
それに、初めて見る高所からの風景は美しいものでした。緑に生い茂る森林、風に揺れる麦畑と草原、ずっと遠くまで続く青い川と白い石畳の街道。
村から出てきて良かった。こんな光景が見れるなんて。
状況が分からないままのことも、空を飛んでいる事実を忘れて、私は息を飲んで景色を眺めます。
「巫女さん、大丈夫?」
頬を流れる風を心地良く感じていたら、後ろからがっしりと私を支えてくれているお姉さんが声を掛けてくれました。
「はい。もう頭痛もなくなりました。でも、なんで、私を巫女さんって呼ぶんですか?」
私の問いには答えてくれず、少し沈黙が続きます。
「……巫女さん、今まで何をしていたとか分かる?」
「えぇ。私はシャールにある聖竜様の神殿にお勤めをしようと村から移動中でした。馬車の中でうたた寝していたと思うんですが、いつの間にか草の上で寝てて、お姉さんも含めて知らない人に囲まれていました」
「あー、何だかシリアスな症状ね」
そのままお姉さんに固定されたまま、私は空を飛行し、大きな壁で囲まれた街に入っていたのでした。




