ハルカの春;御見舞い
こんにちは杞憂です。
更新が2、3ヶ月遅れました
すみません。
では長らく御待たせしました。どうぞ→→→→→
御見舞い。
辞書で調べてみると、病人や災難にあった人などを訪れ励ます事。また、その為の手紙や品物。とあった。
基本病人の災難を心配してそれにあった果物や本、花などを届けて、その日の面白かった事など、他愛もない話して少しでも楽しんで欲しく、別れる時には『ありがとう。』『楽しかった。』など言われる事だと思う。
でも、今回その病人に当る人物が七瀬だと言う事により、この問題は難題化されたと言っても過言では無いだろう。
この間の過去の出来事を聞いたせいでどんな顔して彼女と接していいか解らなくなってしまった。
「はぁ〜。」
ため息を漏らしてみても状況は変わらない。
状態も変わらない。
ただ変わったのは………
キ〜ンコ〜ンカ〜ン――
「……と言うわけで、これにて今日の授業を終了する。いいか!ここはテストに出る確率がかなり高い。落とさないようにしっかり復習しとけよ!!解散。」
変わったのは時間が変わった事だけだ。
「はぁ〜。」
「悠、どうしたんだよ?ため息なんかついて。」
「そうだよ、悠ちゃん。ため息ばっかりついてると幸せ逃げるよ?」
「子夏、マリア……」
授業が終わり百合野子夏と楠マリアが僕の席に寄ってきた。
「どうした?授業中なんか頬杖ついて外ばっか見てよ〜。」
あれ?僕そんな事してたかな?ちゃんと授業聞いてた筈なのに……
「悠ちゃん何か心配な事が有るなら相談してね。一人で悩んでないで誰かに言った方が楽だから。」
マリアは笑顔でそう言った。彼女の顔はまるで太陽の様に温かく優しい表情を作り出している。
何とも言えない安心感、包容力を兼ね備えているとさえ感じてしまう。
それに影響されて僕も悩んでる理由の一部を話した。
「実は七瀬が学校休んでるから御見舞いに行こうかと考えてたんだけど………」
『!!?お、御見舞いに!!』
「うおぉ!?」
ど、どうしたんだ、この二人?いきなり大声張り上げて……。しかも二人とも顔伏せてるし。
僕何か悪い事言ったっけ?御見舞い行く事しか喋って無いよね?
すると子夏が顔を伏せたまま僕に質問を投げ掛けて来た。
「なぁ、悠?どうして黙ってたんだよ。そんな大事な事。」
「ご、御免。別に黙ってた訳じゃなくて……」
そこに追い討ちをかける様にマリアまで参加してきた。
「訳じゃなくて、何?ちゃんと理由があるの?私達に秘密にしてた理由が。」
「だ、だから。別に黙ってた訳じゃなくてね……」
『だったら何!?』
あぁ〜んもう!何なの!?何が起きてるの!
判る人誰かここに来て説明会開いてくれよ!僕にはさっぱりだ。全く判らない。どれくらい判らないのかと言うと、『定期テストで東大クラスの入試問題しか出さない先生の頭の中の考えてる味噌ラーメンの秘伝レシピ』くらい判らない!!いや、解らない!
つーか解りたくない!!
自分で想像しときながらこの妙にシュールな例えは何だ!?
いや、でも元々は―――
「何なんだよ悠!黙んなよ。」
って僕は何を考えていたんだよ!結局何もなってないよ。無意味だったよ、この脳内会議。
とりあえず、この場を凌ぐ(しのぐ)為に何か言わなければ……………………………………………………………ん?あぁ、そうだ。簡単な事じゃん。
「子夏、マリア。二人とも一緒に七瀬の御見舞いに行く?」
♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂
時は放課後、地は廊下。
窓の外を見れば辺りは茜に刻一刻と染まっていく。
僕は女の子になって初めて出来た友達――百合野子夏、楠マリアの二人と一緒に友達の桜七瀬の御見舞いに行くところ。
スリッパから靴に履き替え昇降口を出るとそこには茜色の太陽が空を、木を、人を同じ色に染め上げていた。
そんな魅力的な風景でさえも最近は見慣れたと割り切る事が出来るようになった。
これはこれで何故か虚しい気がするな。
「なぁ、悠どうしたんだ?」
子夏は少し弾んだ感じのノリで問いかけてきた。
おまけにマリアまでも何故か楽しそうに此方の反応を待ってる。
「いや、桜が満開だから見とれてたんだけど、何かもう見慣れたから虚しく感じてた所だったんだけど………」
「??『だったんだけど』って何かあるの、悠ちゃん?」
「いや、急に思ったんだけど………」
僕は急に思った。
今から桜家に行き、そこで行おうとしてる『御見舞い』で一体どんな事してやれば良いのかを。
どんな差し入れの品を持っていけば良いのかを。
二人にこの事を話したら二人とも同時に驚いた。
「おいおい、私とマリアは見舞いなんて初めてなんだよ!どうするんだよ。解らなくなるぞ!」
「何を買っていけば、買っていけばいいの?」
マジですか!?
御見舞い行くの初めてッスか!?
オハツッスか!?
初体験なんスか!?
なるほどな………
だからさっきウキウキとしてたのか、この二人は。
「いや、御見舞いは何回かあるけど、七瀬に何をしてやれば良いか解らないんだよ。今の七瀬が喜びそうな物なんてあるのかなってさ。」
すると二人は「なぁ〜んだ」と言う様な目をして、『なぁ〜んだ』と口に出した。
目は口ほどにものを言うなど良く言ったものだな。
「そんなの何でも良いじゃんか。」
「そうだよ。悠ちゃんが選んだものならきっと何でも嬉しいと思うよ。」
「……じゃあ、そうさせてもらおうかな。」
問題が解決したことにより二人はまた先程の様にウキウキとお喋りをし始める。
何か一人で何を買っていけばいいか悩んでたのに、ものの数秒で答えを出されるなんて、……はぁ、正直驚いたなぁ。
人を納得させる話術、いや、説得力は凄いと思った。
「ん?お〜い!悠!早く来いよ。一緒に話ながら行こうぜ。」
「……っ、待ってよ!」
僕はいつの間にか置いていかれていて、二人との距離がかなり開いていた。
スカートを翻して走り彼女らに追いつく。
そこにはニコニコとした表情を浮かべているマリアが僕に何買うか決まったのかと問いかけてきた。
「うん!僕のトッテオキだよ!」
「そうなの?じゃあ早くお店に行って七瀬ちゃんのお家に行こう。」
僕達はお互いにお見舞い品を決めてスーパーマーケットに赴いた。
品物を決めていた為か、すんなりと買い物が終わり桜家にはやく到着出来ると考えていた、レジの会計の行列での事だ。
♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
ピンポーン――
桜家の玄関に取り付けられてるチャイムのボタンを押す。
何かの本で読んだことがある。
ボタンは何かを起動させたり、変化の為にある。チャイムも同じで変化の為にある。
家の中ではどんなに厳格な人でもチャイムを一つ鳴らせば険しい顔も一変して厳格な人とは思わなくなる。何を伝えたいかと言えば、他人に自分の本性を知られるのが怖いという事らしい。
チャイムは本性、真実を見抜かれない為に心の深層の彼方に沈める時間を与える。そうする事で一時的に心の中から自分を消し去り、『無』の状態になる。その状態から人前でよく使う『いつもの自分』を『無』にはめてやる。
そうするとある意味自分でない自分になる。
これはチャイムだけでなく電話でも同じであると本でいっていた。
僕の母――天崎星佳[あまさき せいか]も良く電話でやっていて、とても滑稽だなと思った事があった気がする。
「……チャイム押したのに誰も出てこないね。」
あれ?さっき心の中で語った事に早速矛盾が生じた!?
「ねぇ、もう一回押してみてみようよ。」
うん、と返事をしてもう一度チャイムを押す。
ピンポーン〜ピンポーン
鳴らしたチャイムは家の中の壁に反響して山ビコの様に聞こえた。
外にいる僕に聞こえたから察するに家には音が無い。つまり人がいないと思う。
だが、この推理がハズレて家の中から「今でま〜す。」という声が聞こえた。
その声は聞き覚えがあり、その人は………
「はい。どちら様ですか?」
「こんにちは、私達七瀬さんの友達で、今日休んだと聞き皆で御見舞いに来ました。」
「お邪魔してもよろしいですか?」
子夏、マリアが丁寧な口調で聞くと出迎えてくれた七瀬の母―桜桜花[さくら おうか]さんがどうぞ、どうぞと言って玄関のドアを皆が入れるように大きく開けてくれた。
『お邪魔します。』
玄関に入るなり家の中が大きいと思った。外から見たら普通の大きさと感じたが中が凄く広く感じる。
天井が高いからだろうか?
でも、そう思ったのは僕だけではなく、子夏は口を少し開けてずっと周りを見ている。
マリアに関しては別にこれといって異状は見られなかった。
僕達はローファーを脱ぎ七瀬の部屋へ向う。
いざ!敵は本能寺にあり!
♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
「皆、ありがとうね。わざわざ御見舞いなんて…」
「七瀬、水臭いぜ!メール位しろよ!」
「ごめんね、ケータイの電池切れてて……」
「それより身体の調子はどうなの?」
マリアの質問にう〜んと口から漏らし大丈夫かなと曖昧に応える。
「そうだ!私達七瀬に見舞いの品を買ってきたんだぜ。」
「本当!?凄い嬉しいなぁ!」
七瀬はニッコリと笑いながら喜んでいる。
子夏はバナナや林檎のフルーツバスケット。てか、その二種しかないけど…。
マリアは栄養ドリンクとポカ〇スエットが二本ずつ。
「わぁ〜!ありがとう。でも、何でバナナと林檎?」
「バナナは栄養価が高いし何より便秘にいいんだぜ!」
「………あ、ありがとうね。ハハハッ。」
七瀬は口をつり上げて苦笑いをしてる。
そして僕の買った物は…
「はい、七瀬。これは僕からだよ。」
「ありがとう。はる君……開けるね。」
紙袋の口を閉じてるテープを丁寧に剥がして中に手を伸ばす。
物を手に取り紙袋から引き出しそれが露になった。
「……はる君……これは……まさか……」
「そうだよ。そのまさかだよ。」
僕は得意気な顔をして、
七瀬は驚いた顔をして、
子夏とマリアは不思議そうにそれを見る。
「なぁ、悠。何だそれ?」
「これは…「これはプレミア〇パックだよ!遊〇王だよ!」
僕のセリフが丸っと全て盗られた。
「何処にあったの?あと何パックあった?サーチしたの?」
七瀬は風邪をひいてるのか解らないようなテンションの高さで質問攻めしてくる。
すると違う方向から質問が飛んできた。
「なぁ、悠、七瀬って遊戯〇好きなのか?」
「いや〜好きっていうか好き過ぎというか」
七瀬の部屋をみれば判る。壁には〇藤遊戯、遊〇十代、不働遊〇が写ってる映画宣伝ポスターが張られていたり、トロフィーが飾られたりしてある。
机にはカードが沢山積んである。
「七瀬は好き過ぎて大会に入賞するくらいだからね。」
『凄いじゃん!!』
「そ、そんな事ないよ」
七瀬は顔を赤色に染めながら照れている。
実際七瀬は凄い。
勉強できるし、カード強いし、性格良いし、可愛いし……って何を言ってんだ!?僕は!
「どうしたの?はる君。」
「あ、いや、何も無い……そうだ、身体に障る(さわる)といけないから僕は帰るよ。」
きっと今僕の顔は真っ赤なんだろうと思う。
「そうだね。」と納得してくれたマリアは立ち上がり子夏を帰るように促す。
「えぇ〜まだ良いじゃねーかよぉ〜。」
「駄目だよ。もし私達が邪魔して熱上がったりしたら駄目でしょ?」
「うぅ〜解ったよ。」
渋々納得した子夏はゆっくりと立ち上がり七瀬に別れを告げて退室。
その後にマリアが御免ねと謝って別れを告げ退室。
そして僕も別れを告げて………
「ねぇ、悠。御見舞いありがとうね。」
「…おう。じゃあね。お大事に。」
ガチャン―――
この時彼女が『七瀬』ではなく『裏七瀬』だった事に気付いたのは家に帰る途中の事だった。
※※※※※※※※※※※
桜家を出た僕達は各々の家に向かって歩いてる。
そうしたら急に子夏がとんでもない事を言い出した。
「なぁ、今から悠の家いって男の悠の御見舞いしない?」
「えぇ!?」
「それいいね。きっと天崎君喜ぶよ。」
「えぇ!?」
僕の頭の中で二人の会話が何度も何度もレフレインする。




