シンデレラの義姉の悩み
エラは取り敢えず少しずつでも食べるかと、パンを手に取って食べ始めました。
今はまだ食べられますが、正直食べたくないなと憂鬱な気分を抱えながら少しつづ口に頬張ります。
そんな中、ロゼリアはエラに聞きたいことがあるのだけど、聞いて良いと少し強張った顔で尋ねてきました。
エラはそのロゼリアの暗い顔が気になりながらも勿論と話を聞くことにします。
すると、ロゼリアは1つの質問をしてきたのでした。
「エラちゃんは実際に運ばれてきた人と戦ってきたのよね。その時怖くなかったの?」
「怖かったですが、怖くなかったです」
「それ言っていること矛盾していない?」
ロゼリアは更に顔が暗くなり俯いてしまいましたが、エラの返答に驚き、顔を上げてつかさず突っ込みを入れました。
それを言われてエラは確かに意味不明だなと自身でも納得し、自分なりの言葉でまとめることにしました。
「やっぱり相手は禁忌を犯しているから何をするのか分からなかったから怖かったです。でも、ヴィオルがいるから大丈夫と思っていました。私達なら自分達の力で、助け合えるって信じていましたから」
エラは自分でも先程の言葉がしっくりときませんでしたが、このまとめた言葉で自分の頭にもスッと頭に入ってきます。
「エラちゃんはハワード卿を本当に信頼していたのね」
ロゼリアに言われて、エラはヴィオルのことを本当に信頼しているのだと気づきました。
最初はヴィオルのことを守ろうと思って来ていたのに、助け合うと認識が変わっていたのです。
そう思うとエラは自然と笑みを浮かべていました。
また、ヴィオルもそんな風に思ってくれていたのかなと少し想いを馳せます。
それに対してロゼリアは優しい顔で微笑みますが、やはり暗い顔をしていました。
そのことがどうしても気がかりになりエラは恐る恐るロゼリアに質問をします。
「ロゼリアお姉様は何かあったのですか?」
「そうね……私は怖かったわ」
確かに普通は怖く感じて当たり前だと思いながらも、エラはロゼリアが弱音を吐いているところをあまり見たことがないので、その発言に目を瞠りました。
ロゼリアは声を強張らせて、でもエラに聞いて欲しいと目を真っ直ぐに合わせてコンタクトを取ります。
エラはいつでもどうぞの意味で頷き、ロゼリアの話を聞くことにしました。
ロゼリアは少しだけ安心して、話し始めました。
「勿論ね、最初はこんな物騒になるところになんて来たくはなかったの。でも来た以上は薬師として少しでも役に立とうと思って向き合おうと思ったの。でも、多くの騎士がやられて苦しむ姿を見て怖くなって、自分達が治療しても新たに騎士が運ばれてきて更に怖くなった」
ロゼリアはそのことを思い出し、再び表情が強張ります。
そして、それに追い打ちをかけるように更に語りました。
「でも、恐怖を通り越して絶望に突き落とされてしまったの。旦那様が重症を負った体で意識不明でどうしようもないと分かった時に」
ロゼリアがいう旦那様というのは、騎士団長のことです。
現在ロゼリアは騎士団長で侯爵令息である彼のところの侍女として仕えていました。
そのため、ロゼリアは尚更そのことへのショックが強かったのでした。
「でも気付かないうちに旦那様はいつの間にか治っていたの。その時の記憶はあまりないわ」
「え? 治したのはお姉様じゃないの?」
その言い方だとまるで自分が治したのではないかのように聞こえてエラは話の途中ですが、思わず口を挟んでしまいました。
「いいえ、治したのは私。でも、あの時はパニックになっていたし、急に力が覚醒したせいか記憶があまりなくて。実はエラが運んで来た方を治療した時に自分が聖女だったのだとようやく自覚したわ」
先程までロゼリアは顔を強張らせていましたが、今は少し顔を和らげていました。
「その時にね、私は本当にここに来て良かったと思ったの。ちゃんと助けることが出来たんだって。だからね今は聖女として人を助けたいという気持ちもあるの。でもそう考えるとまた怖くなっちゃったわ」
ロゼリアは再び表情を曇らせてしまいました。
「もし聖女として治療することになったら苦しむ人を多く直接見ることになって……。それでも治ったら良いけど、助けることが出来なかったらと思うと怖くて……」
エラは何と言えば良いのか声を掛けるべきなのか分からず、ただその場が静かになります。
「…………侍女辞めなきゃいけないのかな」
これはとても小さな声で呟いた言葉ですが、周りが静かであったためエラの耳にその言葉が届きました。
「お姉様が悩んでくれて嬉しいです」
「え…………どうして?」
「今まではずっと私達のために頑張ってくれていたけど、今は自分の気持ちに向き合ってくれたから嬉しいんです」
いつも文句を言わずに、大変な仕事でも家族のためにと一心に働いてくれたロゼリアにエラは本当に心の底から感謝していました。
しかし、したいことをロゼリアの口からは今まで聞いたことなかったため、エラは自分のことを押し殺して本当に大丈夫なのかなと心配していたものの、自分は幼くて口に出すことが出来ずにいつも歯がゆい思いをしていました。
そのためロゼリアの気持ちをこうして直接聞くことが出来てエラは嬉しくなりました。
しかし、ロゼリアはそのようなことをエラに言われて少し戸惑いを見せましたが、先程よりも表情を明るくなりました。
「そのように言ってくれてありがとう。聞いてくれて楽になったわ」
ロゼリアはエラにお礼を言った後、残っていたパンを食べて立ち上がります。
「エラちゃん、ちゃんとご飯食べるのよ。私はもう行くわね」
ロゼリアはそう言って笑顔を向けてすぐに立ち去ったため、エラは何も声を掛けることが出来ませんでした。
エラはロゼリアにご飯を食べるよう言われたので、少しでも多く食べようとしましたが、やはり完食することは出来ず、いつもよりは食べることが出来たものの、残してダイニングルームから出て行きました。
もう戦いも終わり、ここですることもないため殆どの人が帰る準備をしていました。
エラはどうすればいいのか分かりませんでしたが、ロゼリアに一緒に家に帰るように言われたため、次の日義姉と家に帰ることになり、長い間過ごしていたこのシーモア辺境地から出ることになりました。




