魔法の使い方
「エラ、そのブローチは魔女としての証だから無くさないようにして。何なら今、心の中で仕舞えと杖に少し魔力を送ってブローチに向けて振り回してみて。そうしたら仕舞うことが出来るからって……そもそもエラは杖を持っていなかったな」
ヴィオルは杖を一振り回します。
すると、ヴィオルが持っている同じ杖が現れたのでした。
「これ、エラに貸してやるよ。俺の予備だから失くすなよ」
エラはその杖を受け取ると、持てないほど重いと言うことはありませんでしたが、想像していた以上に重みがありました。
「ありがとう」
エラはお礼を言うとヴィオルはどういたしましてと笑みを浮かべます。
「でも、私魔法のこと習っていないのにそんな簡単に出来るのかしら?」
「これは、魔力保持者だったら練習しなくても出来るほどの簡単な魔法だからエラにも出来るはずさ」
エラは少し不安に思いましたが、ヴィオルの言われた通り、杖を持って一振り回してみました。
するとヴィオルの言う通りブローチはあっと言う間に姿を消しました。
「もし、取り出したい時はブローチを頭に思い浮かべて取り出せ念じて杖を振ったら再び現れるから」
先程の魔法は簡単に出来たので、少し自信を持ったエラは、こちらもヴィオルの言う通り、ブローチを思い浮かべて杖を一振り回してみました。
すると今度は再びブローチが表れました。
「なるほど。こうやってヴィオルは出し入れしていたのね。便利じゃないの」
「あぁ、魔法で仕舞っておくと状態もそのまま維持されるから、食べ物とかでもずっと保管出来るしな。あと、大きいものでも簡単に仕舞えるぞ。例えば……馬車とかベッドとか」
「それ凄い! じゃあ家とかでも仕舞える?」
「それは無理。動かせるものじゃないと仕舞えない」
「それでも凄い! 今度大事なもの全て魔法で仕舞おうっと」
なんて簡単で素敵な魔法なのだろうと感動したエラは何を魔法で仕舞おうかなと考えました。
「でも、それには欠点もあって、形や姿を忘れると取り出すことは出来ないから気をつけろ。だから何でもかんでも仕舞うのはオススメしない」
「何ですって。そんなの困る! 私すぐ忘れるのよ」
「なら、むやみに物を仕舞うんじゃないな」
「ヴィオル、つめたい!」
エラはこの魔法にも欠点があると知りがっかりしてしまいます。
「あ、ならヴィオルが私が仕舞う物を覚えてくれたら良いじゃない! それならヴィオルが取り出せるでしょ」
「それも無理。その魔法は使った本人じゃなきゃ取り出せないからな。俺に覚えさせても無駄だ。あとそもそも俺だってそこまで覚えるのは得意じゃないしな」
「えぇ〜」
物覚えが悪いエラにとっては、あまり活躍しそうにない魔法そうなので悔しく思います。
おまけに、簡単に出来るので尚更です。
「あぁでも、変術や攻撃の魔法みたいにその属性じゃなきゃ使えないと言うことはないから、好きな時にいつでも取り出せるけどな」
「それは有り難いけど、そもそもこの魔法の使い道がないからな……」
便利なようで、エラにとってはあまり役には立たない魔法。
例えば、食べ物がそのまま保存出来るからと魔法で仕舞っていても、何の食べ物を仕舞ったのか忘れる確率が高く、取り出せないと言う事態になるのは目に見える光景なのでした。
そのため、この魔法は駆使出来そうにないと思い、ブローチを仕舞うだけでとどめようと決めたのでした。
「魔法って、不便なことが多いのね」
「まあね。魔法は所詮、手助けをしてくれるものだから。環境や自分の能力が揃わないと、魔力保持者であってもそもそも魔法を使うことは出来ないからな」
「何処まで言っても運と実力が共に無いと魔法は使うことが出来ないと言うことなのね」
「そう言うことだね」
魔法は不便なことも多いけど、便利なところもあるのでそこのところは上手に付き合っていきたいとエラは心の底から思いました。
「じゃあ辺境地へ行くよ。さぁ魔法陣に乗って」
ヴィオルはエラに突き飛ばされた際にクシャクシャになった魔法陣を杖を振って元に戻し、魔法陣に乗るようエラに促しました。
エラは、ヴィオルの言葉に従って魔法陣の上に乗りました。
すると、ヴィオルはよく分からない呪文を唱え始めました。
その呪文に反応して魔法陣は光始めます。
その時、エラはとあるとこを思い出し、再びヴィオルを魔法陣から突き出しました。
容赦ない突撃にヴィオルは少し痛みを感じます。
「今度は何? 何で突き飛ばすんだよ」
「ねぇ、この魔法って魔力の消費がヤバくて、回復するのも大変だって言ってなかった? 本当に使って良いの?」
「よく覚えてるじゃん。物覚え悪いの嘘だろ」
「単純にヴィオルと話したのが楽しかったから覚えているだけよ。普段は物覚え悪いわ。だってマナーとか全然出来ていなかったでしょ」
それを腰に当てて自慢げに言われても困惑するだけなんだけだなとヴィオルはエラに呆れてしまいます。
「で、どうなの? 使って大丈夫なの?」
エラが前のめりになって尋ねるので、自然と距離が縮まり、ヴィオルは胸の鼓動を感じるのでした。
「エラ、近いから取り敢えず離れて」
「あ、ごめん」
エラは、素直にヴィオルから離れます。
先程も似たようなやり取りをし、ヴィオルはこのやり取りをしなきゃ気が済まないのかとさえ思ってしまいました。
「瞬間移動の魔法を使うのは正直に言って、好んで使いたいわけではない。魔力は箒で飛ぶよりも10倍以上使うし、辺境地までだと丸一日休まなければならないだろうからな。エラも連れて行くからもっと休まなきゃいけないかもな」
「じゃあどうして箒で行かないのよ。魔法陣を使う必要ないじゃない」
魔法陣を使えばとんでもない魔力を消費するのにも関わらず、瞬間移動にこだわる理由がエラには全く分かりませんでした。
「いや、エラさっき箒乗ってとても怖そうだったから箒使わない方が良いかと思ったんだ。箒乗るの嫌なんじゃないかって。それに瞬間移動してみたいと言っていたから良い機会からとも思ったしな」
エラは、まさか自分が理由で瞬間移動しようとしていたとは驚いていてしまいました。
てっきりもっと特別な理由があると思ったからです。
「確かにさっき箒乗った時は怖かったけど……。でも、危険な場所に行こうとしているのに箒に乗るごときで怖がってられないわ」
「確かにその通りだな。なら箒で行こう」
ヴィオルはエラの思いに素直に認め、杖を一振り回しました。
すると、ヴィオルがいつも乗っている同じ箒が現れたのでした。
「これも杖同様に予備だから貸してやるよ。でも、どっちも返せよ」
ヴィオルから受け取った箒は杖と同様持てないと言うほどではありませんが、思った以上に重みがあったのでした。
「箒を出してくれたのは有り難いのだけど、杖だけじゃくてこんな立派な箒も貸してもらって良いの? 正直申し訳無いと言うか……。私がいつも使っている箒で十分だから」
自分が普段使っている箒とヴィオルが差し出した箒は、どこからどう見ても雲泥の差。
正直気が引け、ヴィオルに箒を返したのでした。
「確かにその箒でも飛べるけど、こっちの箒の方が飛ぶように作られているから飛びやすいし、安定もしやすい。何より使う魔力が半分以下で済む。エラは初心者なんだからこっち使えよ。正直言ってその箒だとこっちが怖いからやめてくれ」
ヴィオルにそこまで懇願されたら従うしかありません。
エラは、ありがとうとお礼を言って再び箒を受け取ったのでした。




