魔法使いの新たな任務
エラに1週間後に返事を伺うと伝えて、自宅に戻ってきたヴィオル。
まだ疲れが残っているため、そのまま寝ようと思いましたが、ポストを確認すると一通の手紙が入っていました。
"何が何でも今すぐ来い"
たった1言だけ書かれた手紙。
その手紙の主は王子からでした。
ヴィオルは寝たいのになと思いながも、すぐさま箒に乗り王子のところに向かいました。
王宮に着き、そのまま魔法を使って王子の部屋へ行くと、王子と多くの部下達が厳しい顔をして話し合っていました。
ヴィオルに気づいた王子は、すぐさま頭を下げます。
「ヴィオル、エラ嬢の求婚はせずに今すぐシーモア領へ行って欲しい」
ヴィオルは急に頭を下げられ、意味不明なことを言われ戸惑ってしまいます。
「アレクシス、もうエラに求婚してしまったのが……。あと、どうしてシーモア領に行かなくてはならないんだ?」
「マジで! もうしたの? 面倒くさいことになったな」
王子は頭を抱えて、天を仰いでいます。
シーモア領とは、隣国のリンネ国の国境である辺境地。
何故ここから馬車で行くと、まる3日もかかり、ヴィオルの縁もゆかりも無いところに行く必要があるのか王子に理由を質しました。
すると、王子から衝撃の理由が返ってきたのです。
「リンネ国が戦争を仕掛けようとしているのではないかと考えている」
どうやら、最近隣国では軍事品がいくつかの国から次々と取り寄せていると言うのです。
また、軍隊の数も増加しているとのことでした。
隣国は、王女を王子と婚姻関係を結ぶことで、国同士の力を強めようとした目論見が外れたことに対する怒りからこの国に勝利し、支配しようと戦争を仕掛けようとしているかもしれないと最初は考えました。
しかし、そうなると少し疑問に思うことが出てくるのでした。
実は、よく調べると軍事品が普段より多く取り入れ始めたのは、隣国の婚約を拒否した直後からだったのです。
そうなると1番攻めるのに適した時は、舞踏会が開かれている時でした。
何故なら、多くの人が王都に集まるため、王都以外は人や軍人・警備員の数が減少し、王都以外は攻めやすく、攻めた領地を支配出来る可能性が高いからです。
支配する領地が多くなれば、自然とこの国の敗戦となり、支配下となるでしょう。
もし支配目的なら、準備し始めた時から舞踏会が開かれるまでは6ヶ月と十分な時間があったのにも関わらず、舞踏会と言う絶好の機会を狙わないのはあまりにも不自然なのでした。
そこでもし戦争を仕掛けるなら、支配以外の理由があるのではないかと考えました。
実は、隣国で問題となっている密猟の黒幕はまだ誰も分からないままでした。
そこでとある仮説を立ててみました。
もし、ここで王族が黒幕だとしたら?
もし、王族が密猟をやらせているとしたら?
また、王宮に目的のものがあるとしたら?
そう考えると、とある理由が思い当たりました。
それはこの国の王宮にしか存在しない鳥を手に入れること。
そう考えると、舞踏会に戦争を仕掛けなかった理由の説明が付きます。
警備が厳しくされている所にわざわざ飛び込む必要がないのですから。
「確かに後の理由の方がしっくりくるな。それにしてもよくそこまで考えられたな」
「いや、これは俺が考えたのではなく、リンネ国が婚約を拒否した直後に軍事品を増やし始めたことに気づいた侍女が考えたのだけどな」
「その侍女、優秀過ぎないか?」
「あぁ、期待以上にな」
王子は再び真剣な顔をして次のように命じました。
「戦争を最小限に抑えるためにシーモア領に行ってくれ」
「いや、さっきの話の流れだと王宮に留まるべきだろう。ここが狙われているのだから」
王子は首を横に振り、ヴィオルの意見をキッパリ否定しました。
その理由は次のように述べました。
王宮が狙いだとしたら、警備が手薄の時に攻めたいと考えるはずです。
そうするためには、王宮の警備が緩和されるよう仕向けるはずです。
となると、他の所に目を向けさせて、軍隊や警備隊をそちらに向かわせたら、自然と王宮の警備は手薄になります。
そうなれば、相手の思うツボ。
つまり、王宮の警備は絶対に手薄になってはいけないと言うことです。
しかし、目を向けさせようとする所が手薄になるのもいけません。
そうなればそこが支配されてしまいます。
そのため、そこの領民達は自分達の同盟国の近くにある領地に避難させ、シーモア領の軍隊と少しの王宮の軍隊を配置させ備えさせているのでした。
そのため、ヴィオルにそこを防御して被害を最小限に抑えて欲しいと言うことでした。
「なるほど、裏の裏をかいた作戦と言うことか。よくそこまで頭が回るよな」
「近衛騎士団は、団長を筆頭に優秀な者ばかりだから」
ヴィオルはそういうのを考えるのは苦手なため、ただただ圧倒されるばかりです。
「でもそれなら、王宮を守った方が合理的じゃないか? 目的は王宮にあるのだから」
「いや、王宮は俺の魔法と軍隊で防御する。俺の魔力じゃ、ここを守るので精一杯だ。あんな広い領地を守るのは無理だ」
実は5代前の王は魔女と結婚し、その子孫が現在の王族に繋がっているため、王子は魔法はそれなりに使えます。
しかし、魔女である母親の血を引いているヴィオルに比べるとはるかに魔力は落ちるため、あの広い領地を自身の魔法で防ぐのは、ほぼほぼ難しいでしょう。
「分かった。出来るだけ向こうで抑えるが、期間を開けずにやっても2週間、休みながらでも2ヶ月ぐらいしか持たないだろうから。そこまで持たなければそちらで対応を頼む」
ヴィオルは魔力と体力がかなり消耗されていることと、エラに心配をかけることダブルの意味でこのタイミングで求婚したことが悔やまれます。
「あと、母さんにも手紙出しておく。まあ、何処にいるか分からないからいつ届くのか分からないし、すぐ来れるとは限らないがな」
「公爵領にいないのか?」
「1ヶ月以上帰ってないらしい。父さんが寂しいと嘆いていたよ」
王子はそんなに長い間留守なことに驚いてしまいました。
正直ヴィオルの母を宛にしていたのでかなりの痛手でした。
「それにしても伯父さん、発狂してないのか?伯母さんがそんな長い期間留守にしていて」
「勿論、発狂しているよ。母さんが帰るまで俺にここに留まってくれと懇願したぐらいだ」
「だろうな。お疲れさま」
ここで王子は新たな疑問が浮かびました。
「そもそも、何で実家に帰ったんだ?」
「婚約書にサインしてもらうために」
「え、ちょっと待って! 俺はサインしてないのに、もう求婚しちゃったわけ? わざわざ伯父さんのサインを貰いに行ったのに? 慎重なのか、セッカチなのかよく分からん。と言うか、婚約書その場で書いて貰うなら何故俺のところに来ないんだ? 貰ってから行けよ」
ヴィオルは一瞬何のことか分かりませんでしたが、赤色の婚約書のことを言っているのだと気づきました。
「いや、エラに選んで欲しかったから。アレクシスを通したら脅迫みたいになるだろう」
「え、まさか緑色の婚約書を渡したわけ?」
「ああ」
「まじか。そこがヴィオルの優しさと言うか、欲がないと言うか……」
王子は驚きながらも、ヴィオルの性格を考えると納得しました。
「アレクシス。いつから始まり、いつまで続くと考えているんだ?」
「全く見通しがつかない。始まるのは少なくともこの1週間はないと思うが……。あと、普通に考えたら終結するまで短くても数ヶ月はかかるだろうな」
ヴィオルは戦術に長けてるわけでもないため、自分に出来ることをやるしかないと思いました。
それにしても戦争となると怪我や最悪の場合死も覚悟しなければならないでしょう。
ヴィオルは気が重くなりながらも、家に帰り1日熟睡して、次の日箒に乗ってエラのところに向かうのでした。




