魔法使いの正体
舞踏会のエスコートを終えたヴィオルはエラと再び踊った後、魔法ですぐさま家へ戻りました。
エラと過ごした時間が思った以上に楽しくその余韻はまだ残っていました。
ヴィオルは疲れてシャワーを浴びて寝ようとした時、窓を叩く音が聞こえました。
するとそこには白い鳩が手紙を咥えて行儀良く座っています。
ヴィオルはやれやれと窓を開けてその手紙を受け取りました。
すると鳩はすぐさま羽ばたいて行ってしまったのでした。
ヴィオルは手紙の封を切り広げます。
"1週間後の早朝、私の部屋に来い"
ヴィオルはまたかと呆れながら手紙を置いてそのままベットに入っていったのでした。
1週間後、ヴィオルはいつもよりも3時間早く起きて、早速箒に乗ってその場所へ向かいました。
その部屋に着くと手紙の呼び出し主はとてもスヤスヤと気持ち良さそうに眠っています。
そっちが呼び付けてわざわざ来たのにこの態度には腹が立ち、耳元で少し大きく、いつもより低い声でおはようと挨拶しました。
その主は驚き飛び上がり、体を起こしました。
「そんな近くで大きな声出すなよ」
「呼び出しておいてそれはないだろう」
その主はヘラヘラと笑ってごめんごめんと軽く謝りました。
全く悪いとは思っていないようです。
「いつも思うのだけど、鳩で伝達するの止めてもらえない? 毎回驚くから」
「魔法を使わず、こっそり伝言を伝えるのはこれが1番良い方法だから無理」
彼も魔法は使えますが、ヴィオルより魔力もなく体力をかなり消耗するためこれが良いのだと分かり仕方がないなと諦めました。
「ところでここに俺を呼び出した理由は何だ、アレクシス?」
王子は先ほどの顔を改めて真面目にその質問に答えてます。
「エラ・アン・ヴァーンズ嬢とはどんな関係なんだ?」
ヴィオルはエラの名前が王子の口から出て大変驚きます。
何故エラの名前がそこに出てくるのか?
そして何のために彼女を知る必要があるのか?
ヴィオルには全く理解が出来ませんでした。
「ヴィオル、エラ嬢と一緒に舞踏会に来ていただろう? お前が女装して付き添ってさ。俺の目は誤魔化せないぞ。ハワード公爵令息で第2王位継承者であるお前が今まで一度たりとも女を感じさせたことなかったのに関係がないわけないだろう」
「現在王太子で第1王位継承者であるのにも関わらず誰1人とも妃を娶ろうとしない貴方だけには聞かれたくないね。ほっといてくれよ」
実は先代王には2人の王子がおりました。
もともとは第1王子が王太子になる予定でしたが、彼は落馬して助けられた魔女に一目惚れをして、王位継承権を捨てて臣下し、彼女と結婚したのでした。
そして、彼はハワード公爵の爵位と領地を承ったのでした。
その代わりに先代王の第2王子が現在の王となって国を統治しているのです。
そんなハワード公爵には魔女との間に2人の息子が授かりました。
長男は1年前から爵位と領地を受け継ぎ、王位継承権を捨てて公爵となってハワード領を治めています。
次男は魔法の訓練に日々取り組んでいる魔法使いです。
そう、ヴィオルはハワード公爵家の次男で第2王位継承者でありました。
そんな彼はあらゆる家紋の令嬢からいつも婚約をするよう迫られるのですが、両親が婚約に関して全く関与しなかったことと、それに何より結婚なんて面倒くさいためいつも婚約を断って女から避けてきたのでした。
それにしても王子はまだエラとの関係を聞こうと諦める気配はありません。
このままではいつまでたっても埒が明かないためヴィオルは素直に話すことにしました。
実は祖父が昔可愛がっていた子がエラで、祖父の遺言でエラの願いを叶えて欲しいとお願いされてそれを叶えるために会いに行き、エラが舞踏会に行きたいと言ったため連れて行ってあげたことを伝えました。
「だから女装して来ていたわけだな。それにしてもお前が無理矢理出した裏声を聞いた時は笑いそうになって大変だったな」
「しょうがないだろう。魔法が使えなかったんだから」
王子はとても楽しそうに笑い、声を上げていました。
しかし、王子はすぐに表情を真顔な顔に変えて、次のように発言しました。
「それでエラ嬢とは進展はあったのか?」
そこまで聞きたいことなのかと呆れながら首を横に振り否定します。
王子は何だつまらないなとガッカリしてしまいました。
「そもそもお前、彼女のこと好きなの?」
「そんなわけな…………」
ヴィオルは不意にそのような質問をされ、違うと断言しようと思いましたが、何故かすることは出来ませんでした。
「やっぱりそうか。お前、彼女が俺と踊っていた時、すっごい怖い目つきで睨んでいたもんな」
「そんなわけな…………」
王子は愉快そうに笑みを浮かべています。
「エラ嬢が自分以外と踊っていて嫉妬したんだろ?」
「そんなわけな…………」
王子は再び愉快そうな笑みを浮かべてました。
「ヴィオル、さっきからそればかりだな」
確か王子の言う通りでした。
何も反論出来ません。
今まで気づきませんでしたが、今はエラが好きなのだと認めざるを得ませんでした。
エラは由緒正しき家紋の元令嬢であるにも関わらず令嬢さを全く感じさせない破天荒な人物。
散々自分を振り回したにも関わらず、その彼女は愛嬌があって大変可愛く目が離せませんでした。
「俺は彼女に2度恋しているのかもしれない」
王子は今までヴィオルが恋をしたと言う話を聞いたことが無かったため大変驚き、その話を詳しく話すよう促しました。
1番最初の恋はヴィオルが10歳の時。
その時は嫌いな経営の勉強であるが上に嫌いな先生が教えるため、その授業をサボるため1人で勝手に外へ出たのでした。
市街地をぶらぶらと散策していると泣き声が聞こえてきたのでした。
そのため、ヴィオルはその声の方向に向かうと1人の小さな女の子が佇んでいたのでした。
ヴィオルは彼女を慰め、泣いていた理由を尋ねるとどうやら王都に両親と遊びに来ていたけどいつの間にか両親とはぐれてしまったため怖くなって泣いていたと言うことでした。
今の実力では彼女の両親を魔法で見つけることは出来なかったので、2人で彼女の両親を探すことにしました。
ヴィオルは彼女に両親の特徴を尋ねると、母はしっかりとしていて面白いと言う返答がきてアレクシスに似ているなと思いました。
彼女はアレクシスのことを尋ねるので、尊敬しているアレクシスのことを思わず熱を持って語ってしまったのでした。
しかし、いつも彼について語るとその場がしらけてしまうので語り終えた後しまったと思いました。
でも彼女は凄いねと目をキラキラと輝かせて屈託のない笑みを浮かべました。
今までまともに取り合ってくれなかった話をしっかり聞いてくれて、褒めてくれて嬉しくないわけがありません。
また、ヴィオルのことも凄いねと褒めてくれて、家では、家庭教師に叱られ、ほとんど褒めてくれないので大変嬉しく思いました。
その時、この8月の暑さ以上に自身の身体が熱くなっていくのを感じたのでした。
その話を終えると彼女は両親の声が聞こえてそのまま彼らの方へ向かって駆け出したのでした。
ヴィオルは彼女を追いかけようと思いましたが、ちょうどその時に侍女に見つかり彼女に別れを告げれないまま強制的に帰らされたのでした。
それからずっと彼女の笑顔が忘れられず今まで過ごしてきたのでした。
「その彼女とはどうやらエラだったようなんだ。会った時にその話をしてくれたよ」
その話は聞いた時、ヴィオルは本当に驚きました。
まさか初恋の姫君がその場にいたのですから無理もありません。
そのため、興奮しましたし、無意識にエラと踊っていた王子に嫉妬していたのです。
今もエラのことを忘れられず、ずっと彼女を考えてしまうのが恋だとすれば、あの時の思いも間違いなく恋であり、エラに2度恋をしたのだと気づいたのでした。
王子は納得し嬉しそうでした。
「ヴィオル、もしエラ嬢と一緒にいたいなら3週間以内に彼女と婚約しろ」
唐突に訳の分からないことを言われヴィオルは混乱してしまいました。




