18、気持ちは十分伝わった!
「こ、これは……」
テーブルの上に置かれたお皿、というか器を見て私は声を上げた。
ヤシュバルさまの作った炒飯。
深めの器の中には、金色に輝くスープに、黄色い大きな塊。いや、ブツ。えーっと、卵焼き??
葱がちょこんと上に散らされていて、ご飯どこ行ったと思うが、卵の下。
……卵には甲殻類の身がほぐされて混ぜられていて、トロミのついたスープ……。
「……天津飯では????」
「私もそう思った。まぁ、美味いがな!」
実食して、美味しいは美味しい。
卵はふんわりとしていて、お砂糖も入れたのか甘い。甲殻類の身も丁寧にほぐれていて乳歯の私の歯でも問題なく食べられる。
ご飯はスープを吸ってお粥のようにさらさらしていて、ラーメンや激辛料理の実食で荒れていた私の胃にとても優しく感じる。
とても美味しい。
ただし、これ、炒飯じゃなくて天津飯だね!!
「……そういう料理があるのか」
私と陛下が「美味しいけど天津飯!!」と頷いていると、ヤシュバルさまが首を傾げた。
「私は料理は不得手だから、熱した鍋で上手く炒めることは難しいと判断したのだが……」
私やマチルダさんの手際、動作を見てしっかり自分に可能か不可能かの判断をした上で、食材を無駄にせず「美味しく」食べられる物をお考えになられたらしいヤシュバルさま。
確かに、あらかじめご飯は炊けているのだし、卵も焼いて焦がしたりバラバラになるより、大きな塊を作った方が失敗する可能性は低い。
「米は水分が少なく口内でパサつくと思ったので汁物を加えた」
もう炒飯、炒めた飯の定義から離れているが……ヤシュバルさまのお優しさが前面に溢れ出た結果である。
「うーん、うーん……」
技術面を見れば、卵は焦げずにふっくらと中は半熟になっている。綺麗な円形の半熟卵焼きを作るのだって技術は必要で、それをクリアできている。
しかも卵焼き。
どうやら、以前……レンツェで私が卵焼きを作ったので、ヤシュバルさまは練習課題に卵焼きを入れていらしたご様子。一朝一夕、それこそ本日初で作れるレベルのものではなかったので、その努力も評価したいところだが……。
「でも天津飯」
「まぁ、天津飯だな」
ですよねー、と、私は陛下と顔を合わせて首を傾げる。
申し訳ないがメリッサは論外として。
激辛だけど炒飯を作って基本の調理ポイントも抑えたカイ・ラシュか。
それとも食べる私たちに「美味しく食べられる物を」とご自分の実力を考慮した上で、指定された食材は使いちょっと違うものを作られたヤシュバルさまか。
「君が美味しく食べられたのならそれでいい」
悩む私にヤシュバルさまは、言外に自分の負け判定を出して構わないとおっしゃる。
……私がカイ・ラシュの料理が辛くて食べられなかったのを心配していらっしゃったのか。
「さて、勝敗だが……私の厳選なる結果を発表しようと思う」
しかし、あ、そういえば、最終ジャッジは当然ながら皇帝陛下がなさるのだった。
カイ・ラシュはやや不安げ。なぜかメリッサは自信満々。ヤシュバルさまはいつも通り無表情で皇帝陛下の御言葉を待つ。
「チャーハン王に相応しい者は無し。よって、シュヘラザードの身は……そうだな。此度の一件の褒美もある。そなたには宮を与えようか」
さ、最初からそのつもりだったな皇帝陛下ー!!
「うむ、良いな。紫陽花宮も蒲公英宮も、大神殿レグラディカも、誰ぞの庇護が必要となる場所。いずれ女王となる身であるゆえ、宮の一つ運営できねば困りもの。良い機会であろう」
さらりと髪を手で流し、堂々とのたまう皇帝陛下。
選手権なのに勝者無し。誰が一番かも決めない結果。
皇帝陛下は周囲の反応を無視して、満足気に微笑んだ。
短くてすいません




