9、ダーダダダンダダダーダッダン(例のテーマ)
「さぁ!人間!私の為に作りなさい!」
「材料ないから無理ですッ!!」
ぐわんぐわんと縦横にシェイクされるような、不快感の後に、目の前の景色が変わった。
大小さまざまな花の咲き乱れる、花畑の中に、朽ちた神殿の残骸?のようなもの。
空は青く雲があるけれど太陽がない。光源どこから?と思わなくもないけれど、まずは自称神様の要求にきちんとNOを突きつける!
「はぁ!?あんた、自分で言ったんでしょ!いくらでも作るって!」
「人間は無から有を生み出せないんですよ!?あの場所にいたら果物も生クリームもたっぷりあったんです!戻して!」
「嫌!そうしたら他のやつらも食べられちゃうかもしれないじゃない!」
「だったら作れるかぁっ!!」
無理なものは無理!
私はNOと言えるジャパニーズです。
ぎゃあぎゃあ文句を言う自称神様に、負けないように言い返していると、突然……自称神様が泣き出した。
「ひっぐ、ぅっ、うぅ……な、なによぅ……!あんたも、私のこと……馬鹿にしてるんでしょぉおお!!!!」
「はぃいい!!?」
「ぅ、う、うぇええん!!」
「えぇえ!?」
綺麗な顔を真っ赤にして、泣き喚く自称神様。
「だって!だってだって!!あたしだって女神なんだもーん!!皆にちやほやされたり美味しいものとかきれいなもの沢山もらいたいわよぉおおー!!あたしだけの特別なものが欲しかったのよぉおお!!」
「えぇ、えーっと……」
「アグドニグルに神殿を作る、ってなった時……どの神も皆嫌がったの!だってあのクシャナのところでしょ?!絶対、ぽっと出の神よりクシャナの方が崇拝されるに決まってるじゃない!!最初はすっごく……立派だったこの神域の神殿もッ!信仰心なんてちっともないこんな国で……ど、どんどん……ぼろぼろになってくしぃっ!!真面目にお祈りしてくれるのおじいちゃんばっかりだし!!うわぁああん!!」
「えぇ……」
「誰も彼も皆嫌がって、押し付けられたのよぅ……あたしみたいな小さい神だったら、クシャナに踏み潰されたってどうでもいいってぇ……!!」
踏み潰されることが前提ですか。
泣き散らす自称神様……うーん、本当に神様なのかも。
「ま、まぁまぁ……優しい聖女のお姉さんとか、いるじゃないですか」
「あの子は駄目よぉ……聖女の命は全部、上位の神のものになるの。ううっ……アグドニグルみたいな魔窟でも人間が多いなら少しくらい信者もいるかも!なんて考えたあたしの馬鹿ぁあああ!!」
「うーん……よ、よしよし……」
女神様は泣き続ける。
どうも、レグラディカというのもこの神殿の名前でしかないようで、この神殿に祀られる神様が人間にはレグラディカ、と呼ばれる、まぁ、役職?地名?のようなものらしい。
女神様の女神としてのお名前は「メリッサ」というらしい。
メリッサ。うん、レグラディカよりずっと覚えやすくていいですね。
「第一、アグドニグルの連中は不敬なのよッ!神威をなんだと思ってるの!?祝福をちょっと便利な拾いもの程度にしか思ってないでしょ!?大神殿レグラディカを建てた理由だって……移動手段を増やしたかったからぁああああぁあ!!?」
「お、落ち着いてください」
「決めたわ貴方!これから私の巫女になってここに仕えなさい!そして私に毎日パフェを献上するのよ!!」
「え、嫌です」
「はぁ!?」
気の毒とは思いますが、こんなに情緒不安定で精神的に追い込まれている女神様のお相手とか普通に無理です。
「な、なんですってぇ~!?神よ!?私は女神なのよ!?大神殿レグラディカの主なのよ!?」
「私も別に神様とか信じてませんし……それに、私はアグドニグル皇帝のクシャナ陛下に料理を献上するって決めているので……先約優先」
あ、やばい、と私は口を押えた。
失言。
メリッサが皇帝陛下にあんまり良い感情を持っていないことは察せられたのに、つい口に出してしまった。
「こ、この無礼者ッ!神をも畏れぬ不届き者!!」
予想通り、メリッサが怒りを露わにする。美しい長い髪は燃えるように輝き逆立つ。
これが!怒髪冠を衝く……!?
ぐいっと、メリッサが私の首を掴んだ。
「私の目を見ろ!!」
見ちゃいけない奴ですね!見ません!
ぎゅっと目を閉じると、メリッサが私の頬を叩いた。衝撃、痛みで一瞬、目を開けさせようというのか。物理的だね!女神様!!
「馬鹿にして……!馬鹿にして……!私だって!呪い殺すくらいできるんだから!!!呪われろ!呪われろ!!人間!!!!!!」
ガチなやつじゃないですか。
絶対目ぇ開けない!!
私は体を硬くして嵐のような女神の怒りに耐えた。
「へ?」
「え?」
暫くそうしていると、突然、メリッサが間の抜けた声を上げた。
思わず私も反応して、うっかり目を開けてしまうー!!罠だったらアウト!!と、焦るが、目を開けた先、メリッサは茫然と虚空を見上げていた。
「?」
どうしたのだろう、と一瞬疑問。
だがすぐに私も『何か起きてる』と、そうわかった。
ぱりん、と何かが割れるような音が、あちこちから聞こえる。
次々に……凍り付いていっているのだ。
割れている。ガラス、ではない。
氷、凍った……花や、葉、神殿に僅かに残った調度品が、次々に割れていく。
「え?え?」
「な、なによぅ!?」
明るかった空は漆黒の闇に包まれ……凍えるような寒さと、得体の知れない現象への恐怖。
ぎゅうっと、メリッサが私を抱きしめた。
女神様に心臓はない、と思うけれど、彼女の緊張感が私にも伝わってくる。
私もメリッサにしっかりとしがみ付いた。
ガタガタと震え、私たちは怯えることしかできない中、虚空が裂け、何かが現れた!
「「きゃぁあああああぁああ!!!」」
砕ける氷の世界。何もかもを凍らせて、粉砕して現れたのは黒衣の……
「ここが神域か」
ヤシュバルさま------!!!!!!!!
ホラーか!?
ホラーだ!!(確信)
メリッサの神域を凍らせ砕きながら出現したアグドニグルの皇子様、私の未来のお婿さんヤシュバルさま!
「レンツェの姫」
私の姿を確認すると、僅かに目を細めて安心したようなお顔をされたが……私をぎゅっと抱きしめているメリッサを見ると、赤い瞳に怒りの炎が浮かぶ。
「きゃぁあああ!!!?なんで!?どうして!!?なんで神域に人間がこれるわけーーーー!!!!?」
「姫、少し目を閉じていなさい」
「何するんですか!?」
「直ぐに終わる」
一気に私たちに近付いたヤシュバルさまは、メリッサの頭を鷲掴みにし、そのまま砕くか凍らせるか!というような……いやいやいやいやいや!?
「っ!!こ、こいつなら……か、返すわよぅ!ほら!」
「わぁあっ!?投げ捨てやがったー!!」
どん、と私はメリッサに突き飛ばされる。
あわや顔面から地面と親しくなりそうだったけれど、転びそうなところをヤシュバルさまが受け止めてくださる。
「すまない、遅くなった」
「いえ!?物凄く早い……っていうか、え!?ここ、神域で……え、なんで……」
仕組みはわからないが、簡単に入ってこれるような場所じゃないだろうとは私も思う。
私たちから距離を取り、足をガクガクと震わせながらメリッサが叫んだ。
「そ、そうよ!いくらアグドニグルの馬鹿みたいに強い王族どもだって、ク、クシャナは別として……うーん、炎のも別として……あ、星震ものぞくとして……」
「結構多いですね??」
「いや、でも!?氷のあんたはまだ人間止めてないでしょ!!」
物凄く失礼なことを言うメリッサ。
ぎろり、とヤシュバルさまが睨み付けた。
「ひぃっ!!わ、私は女神なのにぃー!!この大神殿の主なのよ!?その私を滅ぼしていいと思ってるの!?」
「彼女は、貴様などと違い、私に……アグドニグルにとって唯一無二の存在。神などその辺にいくらでもいるだろう。貴様を滅ぼしても、どこぞからまた移ってくる」
不敬者、とはメリッサは吠えなかった。
不敬も何も、敬う理由がアグドニグルの王族にはないという理解がメリッサ自身にもあるのだろう。悔し気に口をパクパクさせ、何とかこの領域からヤシュバルさまを追い出そうと頑張って手を動かしたりしていたが……駄目だったようだ。
神様ってこんなに弱いの?大丈夫?と心配になる一方的な力の差。
「ちょ、ちょっと待ってー!ヤシュバルさま!あの!私は無事です!はい!物凄く無事だし、なんなら、メリッサとマブダチになりましたー!!!!」
うーん、うーん、と私は悩んだ末に、ヤシュバルさまの服を引っ張った。
「レンツェの姫……」
「ね!?そうですよね!?メリッサ!」
「え、何?嫌よ、あんたみたいな頭の悪そうなのと……」
「空気を読め!!神でも読めッ!」
私は素早くメリッサの側により、こそこそ、と耳打ちする。
そんな私をヤシュバルさまは叱責こそされないが、静かに諭した。
「……君のその、誰にでも慈悲を与えようとする心は美徳だが……」
「メ、メリッサは……神様なので!私の祝福が何なのか……!教えてくれるところだったんです!!友達なので!!」
アグドニグルと宗教組織がどんなご関係か知らないが……メリッサの話によれば、この神殿に好んできたい神様はいないのだ。もし、メリッサが……このちょっと情緒不安定、だけれどそれなりに……御しやすそうな女神様が滅ぼされて、次に来るのが厄介な神様、あるいは……女神様が滅ぼされたから、力の強い神様が来ちゃったら……皇帝陛下は、あまりそれは望まないのではないだろうか?
なので、必死に、ヤシュバルさまの『興味』を引く。
ヤシュバルさまは私を助けに来てくれた。
私のことを、大切に思っていてくださっている、と思う。
ので、私が……ずっと神殿にいないといけない理由、祝福の種類がわかっていない……これを、解決できることは……メリットになりません!?無理かな!!
「……」
「このままだと……発現するのがいつか、わ、わかりませんしね!?女神様にどんなものか、判別して貰ったら……発現→暴走コースとかもないでしょうし……!!メリッサ優しい!友達の私に優しい!!ね!?」
「そ、そうよ!崇めなさい!この子の友達のこの私を!!」
神様は崇めないけど、被保護者の友達なら一定の敬意を払ってくれるかな!?どうかな!
どきどきと、私とメリッサはお互いにぎゅうっと両手を握りしめ合いながら、ヤシュバルさまの反応を待った。
「……では君の祝福とは何だったのかな?」
……うん、まぁ、そうなりますよね。
「え、えぇっと……メリッサ!」
ここで告げて『もう用はない』とばかりに滅ぼされたらごめんね!メリッサ!
でも生き残るにはこれしかないと思う!!
私の必死さをメリッサも感じ取ったのか、ぐいっと、メリッサの顔が再び私に近付いた。
「ちょっとこっち、よく目を見せなさいよ……!!―――は?」
女神様の金色の目が、探るように私を見つめ……そして、メリッサはポカン、と口を開けた。
え?何?
なんか変?
実は祝福を貰ってなかったとか、そういうオチだったりしたらどうしよう。
私が不安になっていると、メリッサは眉をひそめ、首を傾げた。
「……あんた、なんで……二つも、祝福を受けてるの?」
いつも皆々様には大変お世話になっております……
……この度、書籍化の打診をいくつか頂きまして……
元々これは私の気晴らしに始めた作品なのでお断りしていたのですが……とても良い……編集の方がいらっしゃいまして……『この方と本が作れたらいいな!』と思い……
書籍化の運びと……なりました……
まだ本編が進んでいない……このタイミングで発表すると嫌がられる方もいるんですが……すいません……
わたあめがイラストで見れるよッ!!!!!!!やったー!!!!




