1、神殿へご挨拶
「大丈夫か」
「ぐわんぐわんします……」
エレベーターで一気に下がったような、そんな感覚に私は顔を顰めてくらくら頭を動かす。
レンツェの王宮から、ところ変わってアグドニグルの首都にあるという『大神殿レグラディカ』に一気に移動しました。
なんでも祝福?を、持つ人間は座標?的な、ものを・・・・・・使う?んだか、なんだかで、神聖ルドヴィカが管理している大神殿やある程度の神殿設備の整った場所ならテレポートできるそうです。
なんと異世界マジック。ミラクルですね。
ヤシュバルさまとイブラヒムさんは報告とかなんか難しいお仕事のために一時的に帰還されるそうで、私もヤシュバルさまに抱っこして頂いて一緒にアグドニグルへやってきました。
「お待ちしておりました第四皇子殿下、賢者様」
出迎えてくれたのは白い服を着て顔を布で隠した……多分神官さんとかそういう人たちだろう。粛々とした態度。静かな歓迎。
……イメージ的には、駅員さんみたいな感じと考えていいんだろうか。いいか。
そのまま神殿を出るのかと思いきや、通行料というか、ミラクル使用料が必要らしくて別室に案内されました。
祭壇のようなものがある白い部屋。そこには白い神さまらしい像があって、目の前の机には金色の器が置かれている。
……あそこにお布施とかするんだろうか?
「……お金、払うんですか?」
私は無一文ですよ。
子どもだから保護者同伴の場合無料ですよね。
そうだと言って!
あっ、六歳未満の場合かな。詰んだ。
不安になってぎゅっと、私を抱き上げているヤシュバルさまの服を掴むと、ヤシュバルさまは頭を撫でてくれた。育児に手慣れてきている。エレンディラの泣き脅しや愛らしい振る舞いが心を掴んだのかもしれない。
……栄養失調で発育が悪いから六歳未満で通して頂けないだろうか。
「奇跡には奇跡をお返しする。君は私が連れて来たのだから、君に対価は必要ない」
「申し訳ありませんが、そちらの女児にも奉納が求められています」
「……何?」
一瞬、空気が急に冷たくなったような気がした。
ヤシュバルさまの優しい雰囲気が一変し、聞いただけで凍えてしまうような冷たい声が口を挟んだ神官さんに浴びせられる。たった一言なのに、ぶるり、と私の体も震えた。
「……今回の移動は三名、氷の祝福者、知の祝福者、炎の祝福者と事前に知らせているはずだ。そして貴殿らはそれを承諾し門を開いた。腕に抱えられる程度の幼子に対価を求めるのか?」
「神聖ルドヴィカの規則によれば、祝福を得てない者でも幼子であれば同行は許可されているはずですが」
ヤシュバルさまだけではなく、イブラヒムさんも眼鏡を軽く上げて首を傾けた。
……もしかして、アグドニグルは……神殿と、そんなに仲良くする気が、ない……?
まぁ、なんとなく神様より陛下を崇めていそうなお国柄、ではある。
神官たちへの敬意とか遠慮がなく、いちゃもんを付けられてはっきりと不快感をあらわにしますが???という態度のお二人。
三人目の祝福者、レイヴン卿はというと初めてのテレポート、瞬間移動に気絶して別室で寝ている。Gすごかったもんな……。私は幼女で体が小さかったからか、吐き気はしたけれど意識はしっかりしている。
「……ッ、し、しかし……ッ」
二人の威圧に神官さんたちが狼狽えた。
これはもしかして、神殿側がアグドニグルに貸しを作ろうとしている政治的なやり取りなのかもしれない。
皇子殿下であらせられるヤシュバルさまが直々に運んでくださった可愛い幼女、イッツミー。大切なお客様かワケありで、あまり大事にしたくない、のだろうと思われて、ならばお金を寄越せ……という……!
そういうことか!
察した私は大人しくしていようと頷いて、ヤシュバルさまたちを見つめる。
長身のヤシュバルさまに睨まれて尻もちをついた神官さんは、ガタガタ震えながら、反論した。
「っ、祝福を持たぬ憐れな幼子であれば……ッ、善神ヤゥヴェは慈悲を持ってお通しになられる!し、しかし、その子は祝福者ではないか!祝福者の義務を果たして貰わねば困る!!」
いちゃもん、ではなく彼らも神官としての責務を全うしようとしたのだと、その必死な叫びに含まれていた。




