表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】千夜千食物語  作者: 枝豆ずんだ
3章『たっぷり甘いはちみつレモンのマドレーヌ』
19/175

3、烈花の如く


「……抜け道?」

「そんなものがあるのを、黙っていたのか!」


 離宮に駆け付けたのはヤシュバルさまだけではなく、イブラヒムさんと、そして陛下もご一緒だった。当然そうなれば騎士や、兵士たちも伴われ、私は集団の中心に連れて行かれる。


 私はマルリカが隠れていたこと、それを行った護衛騎士レイヴン卿のこと。レイヴン卿は「この離宮にある抜け道を使う」と言っていたことをヤシュバルさまに話した。


 するとイブラヒムさんが私を咎めるように声を上げる。


「……っ、あの」

「離宮は使用されておらず、抜け道などまさか存在していようとは……レンツェの姫、あなたは皇帝陛下の御恩情により一時的に保護されておりますが、このような、重要な情報の秘匿は困りますね」

「……あの、申し訳ありま、」

「イブラヒム」


 責められ謝罪しようとする私を手で制し、ヤシュバルさまがイブラヒムさんを一瞥する。


「……殿下、これはゆゆしき事態でございますよ。かように庇われては困ります。やはり――レンツェの王族など信用できぬと、そう判断しかねない問題です。その護衛騎士がこの王女を窓から投げたのも、我々を足止めして自分たちが逃げる時間を稼ぐためでは?そして、この王女もそれを理解している可能性が、」

「彼女の話を最後まで聞いていない。判断は全ての情報を得てから行うべきだ。――皇帝陛下に申し上げます、どうか説明の機会をお与えください」

「無論構わぬぞ!気の毒に、すっかり怯えて、なぁ。イブラヒム~、幼女相手に酷いことを言うなぁ」


 明るい調子の陛下に私は硬くしていた体の力をそっと抜いた。ヤシュバルさまが私の肩をぽん、と叩き、言葉を促す。


「……はい。確かに、私が暮らしていた離宮に抜け道はあって、私はそれを知っていました」

「やはり!」

「イブラヒム」

「……でも……ない、んです」

「うん?」


 あるのにない、という私に皇帝陛下が小首を傾げた。

 

「しかし、王族の護衛を任された騎士が「ある」と申した王族用の抜け道であろう。護衛騎士は王族に嘘は申せぬ筈だが?」


 抜け道を使って逃げる、と確かにあの時レイヴン卿は言った。


 いや、よく思い出して。


 レイヴン卿はなんて言った?


『……姫君、我々はこの離宮の、王族用の抜け道を使いここから離れます』


 言っていない。

 

 ここから離れる、とは言ったけど、逃げる、とは言っていない。場所を移動するというだけの意味。それは、どうとでも解釈できて……そして、どうしてそんな言葉を使ったのか。


「……確かに、前は……この離宮の地下に……抜け道がありました。でも、5年前の大地震の時に、地下の内部が潰れて……途中で行き止まりになっているんです」


 離宮から、外に逃げられる道があるのなら。私がそれを知っていたら、私はここから逃げ出して、あるいはその道を使って、食べ物を手に入れに行ったり、しただろう。

 だけど、実際に見て知っている。


「かつての抜け道は、もう使えなくなっています。…………そのことを、私に教えてくれたのが、あの騎士です」


 二年前のことだ。兄や姉たちから逃げて逃げて、離宮の中を彷徨って偶然見つけた抜け道。その先の行き止まりで、これ以上行けないと泣いていると、レイヴン卿が迎えに来てくれた。そして抜け道が使えなくなったことを教えてくれた。


 だから、レイヴン卿がそれを知らない筈がない。


「……これはこれは、面白いな」


 私の説明を黙って聞いていた皇帝陛下は、口元を片手で覆い青い目を細めた。


「つまり、そなた。レンツェの姫、そなた、これをどう考えた?」

「……」

「レイヴンとか申す護衛騎士を知るそなた、その主人たる王女を知るそなた。抜け道はなく、しかしそれを使うと申したその護衛騎士の言葉を、そなたどう考えた?」


 陛下は何がそう、面白いのだろうか。

 楽し気、いや、少し……酷薄な笑みと言えるような種の笑い方だ。


 私が頭の中に浮かんだ「意味」を、陛下もお考えになられたよう。


 続きを促され、私はぎゅっと、掌を握りながら答えた。


「……レイヴン卿は、姉を……マルリカ王女を、その手で殺めるつもりなのかもしれません」









ブックマーク+評価ありがとうございます~!(/・ω・)/

私のモチベーション向上と「そうか、これは……続きを早く読まれるべきだな」と更新優先度が上がるので……頑張れます!(/・ω・)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年11月1日アーススタールナ様より「千夜千食物語2巻」発売となります
― 新着の感想 ―
[一言] イブラヒムさんは怖いので仲良くなるまでプリン抜きで!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ