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【書籍化】千夜千食物語  作者: 枝豆ずんだ
悪女と聖女編
174/175

【番外編】◯◯しないと出られない部屋!inクシャナ&コルヴィナス卿!


「お前が今すぐ死ね」

「……」


 現在の状況から話すと、気が付けば密室に閉じ込められたクシャナとコルキス・コルヴィナスがお互い一定の距離を保ちつつ、出口や壁に可能な限りの破壊行為を行った後だった。そして結論を言えば、重力や雷鎚の祝福を持つクシャナと、炎の祝福を持つコルキスの2人の暴力でも密室の破壊は叶わなかったというわけだ。


 前世の知識としてこういうトラップを知っているクシャナはこめかみに手を当てて、思いつく限り全ての神々への罵倒を口にする。神族には恨まれる覚えしかない。これまで直接的な嫌がらせや報復、呪いの数々を尽く退けてきたクシャナだったが、さすがにこれは予想外である。


 部屋の出口らしい部分にはアグドニグルの公用語で「お互いの好きな所を10個ずつ言わないと出られない部屋♡」と書いてある。ご丁寧に何時間でも耐久できるぞというように寝台や簡易シャワーにトイレ、電子レンジ、冷蔵庫には調理済みの食事まで用意されている。コルキスがこれらを「どこの国のものなのか」と首を傾げながらも危険がないように調べていた。クシャナはこのあたりで主神に悪態をついている。あの引きこもりの自称善良神のくそったれ。


「陛下」

「よしコルキス今すぐに舌を噛んで死ね」

「構いませんがその場合、陛下がこちらから出るための条件が達成できず永遠にこの場所に閉じ込められるのでは?」

「……ッチ」


 自決を促すとさらりと肯定する。しかしそれでいて、その後のクシャナの身を案じるコルキス・コルヴィナス。確かに神々は「出られなくなっちゃったね♡でもそれを選んだのは君だよね♡」とコルキスの死体をそのままにクシャナを閉じ込めるだろう。出る方法を提示してやったのにそれを拒否したのはお前だから、お前がここで飼育されることを望んだのだと、神は自分の考えこそが正しいと思う生き物なのだ。


「……お許し頂ければ今すぐに十の所感をお伝えしますが」

「許さないので黙っていろ」

「御意」


 コルキスは静かに頷いて、自身は壁の方へ控えた。クシャナは外に座る場所もないので簡易的な寝台の上に腰をおろす。


「お前のそういう所が嫌いだ」

「はい」


 双方、考え方、行き着く思考がよく似ている。


 残念ながらクシャナはこの場所から脱出するためには、あのアホな条件を達成しなければならないことを理解してる。コルキスの方も同じなのだ。つまりコルキスはクシャナが色んな感情を飲み込み、色々な勘定をして、条件を達成することを選択するまで待つ気でいる。そこに説得や外の行動は必要なく、どれほど時間がかかろうとクシャナは結局のところはそれを選択するだろうとわかっているからだ。


「くそッ、なぜお前なんだ。他にいくらでもいるだろう。可愛いシェラ姫とか。最近ちょっと機嫌が悪い白夜とか……」

「それでは陛下への嫌がらせにならないからではありませんか」

「自分が私への嫌がらせだという自覚があるのかお前」

「陛下の感情を理解することが、私の最も必要とする能力でございますので」


 無駄だとわかりつつ、クシャナはもう一度壁に向かって剣撃を放った。もちろん壁はびくともしないし焦げることすらない。


 この密室に居続けると、コルキスの息をするような「私は全力で陛下をお慕いしていますがなにか」という至極当然の言動を浴びせ続けられる。


 ここでクシャナの自尊心があと1ミリほど低ければ「悔い改めるからこれだけは嫌だ!」と改宗したかもしれない。だが彼女はアグドニグルの皇帝である。神々に屈することができればとうにどこかの農村で田畑を耕し好いた男の女房に収まり孫に囲まれている。


「……」


 5時間ほど経過しても、2人の状況は変わらない。


 コルキスは壁に彫刻のように直立したまま瞬きくらいしかしない。クシャナはイライラと部屋の中を歩き回ったりベッドに横になったりするが、状況は変わらない。


「……陛下」

「なんだ」

「差し出がましいことを申し上げるのですが、おそらくこの場所で我々が目覚めたのが正午ほどであると考えられます」

「だろうな。まぁ、ここと外の時間が同じかは知らんが」

「同刻であった場合、よろしいのですか」

「………………くそ!!!!!!タイムリミットつきか!!!!」



 部屋の装備自体は何日でも監禁可能だし、コルキスの方も何日でも待つことに支障はない。しかしクシャナには時間制限があった。

 クシャナがとても可愛がっている褐色の姫との夜食会があり、それは「陛下がいなかったので特例としてOK」にはならない。クシャナがいる場所にシェラ姫は食事を届け続ける義務があった。


「……いや、うん?いや、待て……」


 そこでクシャナは思い出し、冷蔵庫を開ける。


 先程ちらっと見ただけだが、冷蔵庫の中には作り置きの食事がめいいっぱい詰められている。タッパーにはその料理の名前と「温め何分」という説明もあり、クシャナはこの文字に見覚えがあった。


「共犯……!!!!!!!!!」


 クシャナの可愛い、猫可愛がりはするが容赦ない扱いもする褐色の姫の文字である。


 あれか。

 普段ちょっとストレスをかけ続けているから意趣返しだろうか。やり返される覚えはさすがにあるのでクシャナは怒りより「反抗期!」という思いでしかない。クシャナと違い神々に好かれる才能のバーゲンであるシェラ姫が困らないように、このアホな密室を作った神がシェラ姫に料理をウー◯ーイーツさせたのか……!



スパコミ20250504の待機列で書いてます。

はっじっめてのっ!一般参加!今9時前です。7時半からいます。

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2023年11月1日アーススタールナ様より「千夜千食物語2巻」発売となります
― 新着の感想 ―
クシャナ様に有効すぎる嫌がらせw シェラ姫神様に愛されているのに苦難だらけですが、試練は愛でしょうか……いや、価値観とか諸々人間と違いましたね。 初一般参加おめでとうございます! 先月のことではあり…
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