【コミカライズ配信記念】※番外※暑い夏!!ファアアァイ!土用の丑の日はないけれど!!【後編】
ほっかほかのごはんの上に、特製のタレをまずかける。そして串焼きにした鰻にたっぷりとタレをまとわりつかせて、その白米の上にゆっくりと乗せる。
このためだけに作られたお重は縁が金で中は赤。周りは黒に龍の飾り絵が。うなぎをご用意しますとお約束してからたった一晩でここまでご用意いただけた陛下の食に対しての行動力が怖い。
「うなぎと言えば……この酒だな!」
にこにこと上機嫌で寝所にやってきた皇帝陛下の片手には当然のように酒瓶。一緒にやってくる黒子さんたちの一人によれば、今日は日中色々あってとても陛下の機嫌がよくなかったらしいが白梅宮から「今夜はうなぎですよ♡」という知らせが届いてからは隣国ドルツィア帝国の皇帝からの親書にも丁寧な返事をしたためたほどご機嫌になられたそうだ。ちなみに普段は手紙が届くたびに読まずに焼いている。
「……」
「どうした、シェラ姫。そのような神妙な顔をして」
「…………いえ。その、うなぎが……ちょっと」
うわー、本当に陛下にお出ししちゃったよー、うわー、と私の心は全力で引いている。
いや、もちろん味見はした。毒見もしてもらった。
その上で、ちゃんと「何これ美味しいうなぎ!」と理解した上で、それでも抵抗がある。
闇夜の中で光っていたあのドン引きする怪物の姿。
「この独特の味はまさに鰻だな。うん。この開きにするやり方は、元々の技術を知っていなければ至れぬ発想だろうよ。姫、よく鰻のさばき方など知っていたな」
「料理人として一通りの心得は学んでいまして……」
うなぎは頭を打ち付けてから開く。前世の食堂や、修業時代に何度か行ったことがある。慣れてしまえばそれほど難しくはないと思う多分。
うなぎは山椒をかけても美味しい。場所によっては七味をかけたりもするらしい。
もぐもぐと陛下が鰻を召し上がる。
「パサついていないもっちりとした白米に乗せる物は何でもうまいが……鰻のこの香しさよ。皮はパリっとしていて、しかしこの柔らかさ。最高」
陛下が食レポしてくれるのを聞きつつ、私は神妙な顔でただそれを見ている。
うわー……本当に食べてるよー天猿…。
「ははは、珍妙な食材というのはどこにでもあるものよ。なまじ色々な知識があるゆえ驚きと抵抗感があるのだろう」
「……それはそうです」
スイカといい、天猿といい、異世界の不思議食材にすぎる。
確かに異世界グルメと言えば魔獣や地球でお目にかかれなかった食材をレッツクッキングすることも面白いのだろうが……。
「はっ……まさか……陛下!?」
「うむ。姫もそろそろこちらの文化に慣れてきた頃だろうからな。――洋食和食も良いのだが、どうだろうか。魔物とか」
ドラゴンの唐揚げとかどうだろうか、と陛下が提案してくる。私は慌てて自分の口元に人差し指を当て、陛下に「しっ」と促した。どこでコルヴィナス卿の密偵が聞いているかわからない。こんなネタを知られた日には、白梅宮にドラゴンの生肉が届けられる。
「ははは、さすがのコルキスもドラゴンの調達はそうすぐにはできまいよ」
「調達できないとは陛下も仰らないじゃないですか」
「ははははははっははっは」
あのオッサン、不可能なことってあるんだろうか。
しかし楽しい陛下との夜のお時間に、いつまでもコルヴィナス卿の話題を続ける必要はない。私は折角なのでと鰻のお吸い物や、ひつまぶしなんかも作ったので披露する。鰻をお気に召した陛下はひつまぶしでおにぎりを作ってくれと言って、それを明日のお八つにされるそうだ。
「姫よ」
「はい、陛下」
「この国にはな。まだまだいろいろな食材がある」
うな丼をたらふく召し上がられお酒も3升呑まれて大変ご機嫌な陛下が私を抱き寄せる。私をご自分の膝に座らせて髪をとかすのが陛下はお好きだった。
「これからも私を楽しませてくれ、私の姫よ」
歌うような笑うような陛下の楽し気なお声。私は「何をいまさら」と思いながらも、陛下に髪をとかされるままに任せて、「もちろん、ずっと、ずっとそうします」とお約束した。
なんということでしょう・・・前回の更新から、なんと二か月も・・・申し訳ございません。
そして千夜千食物語コミカライズ、第一巻がAmazonさんなどで予約できるようになっております。
売れてくれ頼む…。とお星さまを見ながら懇願しておりますが、あの星々はもう滅んでしまっているのだろうか、それとも今もまだ滅びに向かって輝き続けているのだろうか。
お元気ですか、私は元気です。




