謎の美女カーミラさん
「ようこそ我が神殿へ! 妾はそなたを歓迎するぞ、シュヘラ姫」
アグドニグルの最北部、コルヴィナス卿が治める極寒の土地にひっそり建てられた神殿の名は「メルザヴィア」、ローアンの大神殿レグラディカとはまた異なった……なんというか、全体的に、地味?質素……貧相、な感じがしてしまう内装だった。
調度品はあまりなくて、天井壁画もない。メルザヴィアの名を持つだろう神様の像っぽいものはあるのだけれど……欠けてる部分や、罅が入っている箇所がかなりある。レグラディカではメリッサの姿を模した精巧な神像が水の都の職人たちの手で彫られたと、メリッサ本人が自慢しながら見せてくれたものだけれど……。
室内の明かりも僅かで、ローアンにはどこにでも当たり前にあった魔力の灯った道具ではなくて、長さの不揃いな蝋燭がぽつぽつと灯されている。……こ、ここ……転移してきた私たちが出てきた場所だから、神殿内で一番重要というか、価値が高い部屋じゃないのかな……。
あまりきょろきょろしては失礼だと思うけれど、あまりのこう、違いに私が驚いているとコルヴィナス卿の恋人さん、じゃなかった……どハデな金髪の美女は苦笑した。
「絢爛たる華の都からすれば、この神殿はかび臭いつまらぬところじゃろうな」
「あ、いえ、そういうわけではないんですけど……」
「妾が大神官となり数年、尽力しているつもりなのじゃが……凍り付く北の果てではルドヴィカの威光も十分には届かぬのじゃ」
ふぅ、と困ったようにため息をつく美女さん。大神官さんだったのか。
「おぉ、そうじゃ。名乗っておらなかったな。妾はこのメルザヴィアの大神官、名はカーミラじゃ」
名乗っていただいて私は丁寧に挨拶をした。
スパルタな白皇后に仕込んでいただいたので、きちんとできてると思う!
「シュヘラ姫は幼いのにもうそのような挨拶ができるのか、偉いのぅ。立派じゃ」
「この小娘は仮にも陛下に認められた者だ。この程度こなして当然」
「……」
「もちろんわかっておる。我らが偉大なる皇帝陛下のご教育の賜物であろうな」
ちなみにカーミラさんと会話中、ずっとカーミラさんはコルヴィナス卿の腕に引っ付いている。それでも仏頂面で無言を貫いていたのだけれど、陛下の名誉に関わる話題だと口を開くんですね、さすがです。卿。
……それにしても、なんかこう、カーミラさんの雰囲気というか、言動。ちょっと陛下に似てると思うのは私だけだろうか??
コルヴィナス卿がカーミラさんを火だるまにしないのもその辺が関係あるとか??と、少しの疑問。
と、そんな色んな疑問が何一つ解消されないまま、私が案内されたのは……厨房。
「コルヴィナス卿」
「なんだ、小娘」
「………………もはや姫君という扱いを受けないことを当然だと思ってる私がいます」
普通さ。
普通ね??
私はプリンセスなわけなんですよ。自分で言うのもなんだけれど、亡国の、それもアグドニグルに歯向かった滅んで当然ないわくつきの国の姫ではあるんだけれども、それはそれとして、クシャナ陛下に宮まで貰ったプリンセスなわけですよ。しかも祝福を受けてるとか、こう、付加価値もついてる存在なんですよ。
なので普通、たぶん、一般的には……貴賓扱いとか、そういう……最初に連れていかれるのが厨房なのはこう、普通は違うと思います。
「今更だが」
「そうなんですよね」
ハイ、見知らぬ土地に連れていかれて、別にまずは今晩寝る部屋を案内されたり、服を着替えるとか、足を洗うとか、そういう過程もすっ飛ばして、連れてこられました厨房!
料理するんですね!わかってますよ!!
「今の貴様の存在価値が他にあると…………?」
この小娘何をほざいているんだ、という目を向ける卿。
「神殿の転移の奇跡を使用した者は、祝福の奉納の義務がある。貴様はその無駄に豊富な料理の知識を以て献上品とするべきであろう」
それはそうです。
一応、前もって私の情報が伝えられていたのか厨房は私が使えるようにあちこちに踏み台があったり、火を使う場所や刃物を使う場所では見習い神官さんっぽい人たちが控えていて安全管理はきちんとされていそうだ。
「貴様に刃物を持たせたら、その場にいたのに止めなかった人間を凍らせて砕くと、あの愚か者が言ってきかなくてな」
「ヤシュバルさまは私のことか弱い姫君か何かだと思ってらっしゃるので」
「ここでもそう扱われたいか?」
「いえ、全然」
「で、あろうな」
ぽん、ナデナデ。
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……………………………………???
……………………??!!!!!!!!!!!!!????????
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ワッツ……ワッツ…………ワッツハプン!!!!!!!!!!!???????????
ディスイズザペン!!アペン!!!!!!!!!!???????
アイアムアペン!!!!!!!!!!!??????????
ワッツ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????????????????
な に が 起 き た ! ! ! ! ? ?
「…………………」
私は完全に硬直した!
石になる、石化……蛇に睨まれた蛙!?
目の前にはコルヴィナス卿!
無表情!!
いつも通り!!
でもその手!!
手!!
ハンド!!!!
私の頭の上に置かれて、なんか、撫でて…………撫でてる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
防犯ブザーどこ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ないや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「なんだ?」
ぱっと、手を離され、ご自分の今の行動など存在しなかった時間のような顔でコルヴィナス卿が目を細める。
私はもうあと一秒長く撫でられてたらヤシュバルさまからもらった簪をぶっ刺してる所だったけれど、悪意はなかったので止めておいて正解だろう。たぶん。
コルヴィナス卿のシェラ姫への好感度
出会い(マイナス百万点)
現在(+5点)




