表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】千夜千食物語  作者: 枝豆ずんだ
レグラディカ編
123/175

上位神


「うぇええぇ……」


 状況を整理しよう。


 口から喉から、虫を吐き散らす私ですが、頭は無事です。ということは思考することができるので、大丈夫。

 これで虫を吐くのがメリッサだったら、私は混乱と動揺でオロオロして何もできなかっただろうけれど、被害者が自分ならオッケーですね!!


 首を斬られた。のを、メリッサが咄嗟に彼女の神域に連れ込む事で守ってくれた。

  

 私は明確に殺意を向けられ、攻撃されたのだ。

 でもそれが、今は虫を吐かせるという、地味な嫌がらせにとどまっている。


 この神域は、メリッサ個人の物ではなくて大神殿レグラディカのもの。つまり、メリッサがどれほど、小さな神であっても、レグラディカの格が高いので、上位の神とかいうよくわからない虫吐かせ野郎は、この神域の中では私を殺害することが出来ない、ので、精神的に攻めてきているわけだ。


 ……私の何が、上位の神とかいう野郎の殺意に触れたのか?


 私に黙って消えようとしやがりましたメリッサにとって、私は人質、あるいは交渉材料として消費される予定だったはずだ。

 その私を感情的に殺害しようとした。


 何か逆鱗に触れるようなことをしたんだろうな!


「げっほっ……ごっ…………」

「苦しみのたうち回る貴様を、その搾りカスは黙って見ている事しか出来ぬ」

「……」

「それを神だと?」


 侮蔑を含んだ上位の神の声。


 ……違和感。


 陛下は。

 クシャナ皇帝陛下は以前、仰っていた。

 神さまは、人を救わないものなのだと。そういうものなんだと仰っていた。


 なのにこの上位の神様は、神なら人を救うものだと、そのように言っているような、違和感。


 ……そもそもどうして、レグラディカの神になりたがっているんだろう。


「……」


 レグラディカ。

 アグドニグルの首都、ローアンにある大神殿。その主神の名であり、役職のようなもの。レグラディカに対しての信仰心は、神殿に務める神官さんたちや、ローアンの信者さんたちから集められる。


 ……あ。


「私が、メリッサを信仰した、判定ですか?」


 人の世が無常だと知っていて、理解していて、受け入れていて、それでも不変のものがあるとすれば、それは神さまだろうと、そのように私は考えている。


 神さまだけが変わらない。

 変わらないものは、神さまだと、これは確かに、信仰だと言えるかもしれない。


「………………人は頭上に広がる大空を、昇る太陽を、瞬く星を、轟く雷を、神と崇める。寂れた場所の島民が、朽ちぬ大木を神と崇めたこともまた、同様」

「……すいません、その話長くなりますか?」

「……は?」

「ちょ、シェラ……アンタ、」


 何だか長々と語り始めそうな雰囲気の上位の神様に、私は待ったをかける。

 吐き気も収まり、攻撃は止んだ感じもする。


「ようするに、私がメリッサに抱く信仰心が、気に入らなかったんですよね?都合が悪いと言いますか。メリッサのことも気に入らない。島民を失って消えるはずだったメリッサがまだ存在していて、レグラディカっていうガワを得ていることも気に入らない。ので、メリッサを消したかったってことでいいですか?」

「シェラ……身もふたもないわよ……それに、上位の神が、そんな個人的な理由で私みたいなのにちょっかいかけるわけ……」

「事実だが?」


 あっさり認める上位の神様。


 私はそこでやっと顔を上げた。


 開き直ったのか、こちらへ殺意を向けるだけ無駄だと思ったのか、頭を押さえつけるような感覚はもうない。


 声からして男神だと思ったけれど、その通りだ。灰色に近い肌の色に、鴉の羽根のようなものがびっしり覆われた頭部、獣の毛皮や爪、尻尾は私の腕より太そうな蛇がにょろにょろと出ている。


「おれを見たか。小娘」

「改めて、はじめまして、私はシュヘラザードと申します」

「おれはロキ。疫病の神である」

「あ、なるほどー。虫とかそういう感じで司っていらっしゃるんですね」


 何の神様かな、とは気になっていたのでわかってすっきりした。


「でも、疫病の神様がローアンの神様になんてなっても……うちには医神の祝福を受けたニスリーン殿下っていう、スーパードクタNがいらっしゃるんですけど……」

「え、なに?どく、なに?」

「顔面宝具をもってらっしゃる美中年です」

「は?」

「おれが国内に疫病をばら撒くと思うのか」

「え?疫病の神様って、つまりあれですよね。風邪とかひきにくくなったり、伝染病が流行らなくなったりとか、そういうご利益ですよね?でもアグドニグルは神様頼みより、学べば誰でも身に付けられる医学の進歩を推奨してますので……着任される場合は、ちょっと陛下とご相談いただかないと……国策に反するので討伐対象になるような……」

「……」

「……え?」

「え?」


 あれ?なんか、会話がかみ合わないな???


 私はメリッサとロキさんがこちらを「何言ってんだこいつ」という顔をして見てくるので、首を傾げた。


「おれは疫病、災い、害する神だぞ。畏れ崇めるべき存在であろうが」

「……疫病の神がレグラディカに付いた場合、力の強い神だから、アンタを守ることはできるけど……神としての権能は、疫病と死だから、敵対国に病を流行らせるとか、そういうものよ?」


 なるほど。

 とんだパンデミック。リーサルウェポン。


「争い奪うアグドニグルには相応しい神であろう」

「私の一存ではなんとも……」

「それにしても、小娘。貴様は妙な考えを持っているな」

「はい?」

「神に対する考え方、畏れが、おれの知る人間どもとは異なるように思うが」

「と、言いますと」

「ルドヴィカの信者どもは、神とは人を救う存在であると信じている。導き、救済するものだと、そのように。祈れば救いの手を差し伸べると疑わない。己らの幸福のために神がいるのだと」


 ロキさんは不思議そうに首を傾げた。尻尾の蛇さんもチロチロと舌を出す。


 ……おっと、これはあれですかね。

 前世の日本人の感覚が影響してるからですかね??


 日本人にとって「神様」というのは荒ぶる存在。畏れ敬い、鎮める存在。自分たちを「救って」くれる神様ではなくて、災いを「齎さないでくれる」「見逃してくれる」上位存在だった。


 私が「疫病の神さま?つまり、祈れば病から逃れられますか?」と言ったのもそういう考えから。ロキさんからすれば、疫病の神というのは、疫病を齎すことが価値なので、齎さない「何もしない」ことが有益だとは思わなかったらしい。


「まぁ、私の変わったところはさておいて。つまり……まぁ、メリッサのような駄女神さまでさえ、敬われているんだから、疫病の神である自分がレグラディカの神になってもいいだろうと、そういう感じでいいですか?」

「何の役にも立たぬ神より良いだろう」

「メリッサが役に立たないとは思ってませんけど……」


 クシャナ陛下にびびりちらしてるメリッサが神殿の女神さま、というのは都合が良いと思うし、私はメリッサが好きなのでメリッサを贔屓したい。


「ルドヴィカの神官もおれの方が相応しいと言っていたぞ」


 ……おっと?


 そういえば、その問題もありましたね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年11月1日アーススタールナ様より「千夜千食物語2巻」発売となります
― 新着の感想 ―
[良い点] 神様の価値観のふしぎ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ