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解せぬフランクフルト

「え、えっと……」


 な、何か三国くんの顔がおかしいのは気のせいかな……?


 確かに、私はちょっとムッとしていた部分はあった。


 ただ、それは三国くんに怒っているというよりは自分の甘さに怒っていると言った方が正しい。


 ただなんていうのかなー、駄目なんだよね。可愛い後輩が大変なことになってるのにこれチャンスと思える程ズルい女になれない。


 そんなんだから豊中先輩にいとも簡単に出し抜かれるんだけど……だからこれは私の八つ当たりの部分も含まれている。


「どうした山中……? ほら、遠慮しなくていいんだぞ?」

「い、いや……それ一応私が買ってきた奴だし自分で――」


「おいおい……俺のフランクフルトが食べられないっていうのか?」

「そ、その言い方は恥ずかしいから止めて……食べないから……」


 自覚があるのかないのか分かんないけど、それ俗に言わなくてもセクハラって奴だからね、三国くんじゃなかったら軽蔑してるからね!


 と、とは言うものの……彼に差し出されて食べる、という行為はちょっとカップルっぽい感じがあって悪い気はしない……。


 それにもしかしたらりんちゃんも豊中先輩も経験してない可能性は大いにあるし……だとしたらこれを逃すのは――


「そ、そうか……じゃあ代わりに俺が食べ……ウッ……」

「ああ待って!」


「え? 俺のをた、食べてくれるのか……?」

「せめて前にフランクフルトをつけてくれないかな……い、いいよ、勿論私もお腹は空いてるし食べるよ」


「おお……それは助か――」

「でも!」


 私は三国くんに向かってずいっと右の手のひらを出すと、猛攻を仕掛けようとするフランクフルトを制止させた。


「た、食べることは食べるけど……三国くんはフランクフルトを突き出した状態のまま目を瞑ってて」

「へ? そ、それでいいのか?」


「そう! それでいいから! だから絶対目だけは開けちゃ駄目だからね!」

「フリじゃないんだな……?」


「開けちゃ駄目は開けていいじゃないから! いいから早く!」

「お、おう、そういうことなら……」


 三国くんも疲れているのか妙なボケをかましてくるけど、私が少し急かすような感じで言うと大人しく目を瞑ってくれた。


 その間に私は念の為窓の外や扉下の隙間を見て誰もいないことを確認する。


「よ、よし……誰もいなそうだね……」


 これで三国くんの『あーん』は私のものとなる。


 まさかちょっとした意地悪からこんなことになるとは思ってもみなかったけど、今日の私はこれくらいしても許される筈だから……。


「ふー……」


 一つ深呼吸をして自分を落ち着ける。あとはフランクフルトを頬張るだけ、何ならこの調子でいけばポッキーまで辿り着ける可能性も――


「み、三国くん、『あ』を少し長く言った後に『ん』で言葉を切ってみて」

「……は? ど、どういうこと……?」


「いいから! 早く言わないとたこ焼き全部食べて貰うから!」

「ひィ……! わ、分かった……『あ~~~~~~~んっ』」


 長いし切り方がおかしいって! 全くもう……そういう所だからね。


 とはいえ二度も言わせる訳にはいかないので、私はちゃんと三国くんが目を瞑っているのを確かめるとフランクフルトへと口を近づけた。


「んっ、んんっ……」


 そしてパクリと一口――……んふふ、味なんか全然分かんないけど悪くない。


「お……? た、食べたのか……? もう目を開けていいか……?」

「んぐんぐ……うん、いいよ開けても」


「で、では……」


 私の了承を得た三国くんは、少し眩しそうにしながら目を開ける。


 そして私が食べたフランクフルトへと視線を向ける――


 あれ、別に何も疚しいことはしてないのに、私が齧った所を見られと、な、何か恥ずかし――


「み、三国くん駄目っ! みちゃ駄目だから! それ以上は通報になるよ!」

「はっ!? な、何で?」


「なんでも! 見るならせめて暗がりにして!」

「それはそれでおかしくないか!?」


 そんなつもりは全くないのに、この場の雰囲気がそうさせるのか、さっきからお互いに奇妙な言い回しを連発してしまう。


 いや、これは良くないなぁ……と思いつつも、この旅行の鬱憤を多少は晴らしてやらねばと思う悪い私がそれを止めさせようとしない。


「そ……それじゃあ三国くんも食べるって言ったし、ど、どうぞ」

「ぐ……そ、そうだな……ならこのたこ焼きを一つ――」


「え、え~? 三国くんそれはちょっと食いしん坊過ぎるんじゃない? まずはそのフランクフルトを食べてからじゃないと」

「!? で、でもな、これは山中のフランクフルトだから……」


「え、なに、つまりお腹一杯で私のフランクフルトは食べられないってこと」

「た……食べます、食べますから……」


 そう言うと三国くんは私の食べかけのフランクフルトを口へと運ぶ。


 ぬふ、ぬふふ……これで私と三国くんは2回も間接キスをしたことに……これは流石にりんちゃんもパイセンもやってないでしょ……。


 この勢いなら本当にポッキーゲームにまで洒落込める……そうすれば完全に三国くんに私の存在を落とし込むことが……。


 私だってタダでご奉仕してる訳じゃないんだから――そう思いながらその光景を眺めていると、ふと上方から妙な視線を感じる。


「…………?」


 え? なに、どういうこと……? と一瞬疑問を覚えたけど、私は即座に可能性に思い至り視線を天井へと向けた。


「まさか……天井は繋がって――? うっ……!」


「へ? どうした山中? 急に上なんか見――うおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああっ!!!???」


 状況を察していなかった三国くんは、上を見た途端ものの見事に悲鳴を上げて椅子から転げ落ちる。


 でも私は一度それを経験していたから、恐怖以上にしまったという思いの方が強く押し出され、苦い顔になってしまう。


 く……あの屋根裏部屋に関して全容まで語らなかったのは、こういう場合を想定していたからだったんだね……。



 これは一本取られてしまったと、私は迂闊さを悔やみながら天井扉から真顔で顔を覗かせるりんちゃんを見つめていた。

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