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むかつく先輩と私

 三国くんは想像していた以上に不思議な人だ。


 だってクラスでは誰とも関係性を構築していないのに、あんな変わった女の子と付き合いがあるんだから、積極的に交流する人でも中々ああはならない。


 一応3年生にも仲の良い先輩はいるけど、名前は聞いたこと無かったなぁ、美人だけど一癖ありそうな感じだったし、知り合いが少ないのかな。


「ま、そんなことはどうでもよいよい」


 相手が誰であろうと私の邪魔しようってなんなら闘うのみ。


 勿論数の暴力とか、陰湿ないじめでじゃないよ? そういう行動取る人一番嫌いだし。


「でも現状私の方がリードしていると言っても過言じゃないけどね」


 珍しく独り言を呟いていた私は終礼を終えると挨拶も早々に三国くんの席へと歩いていく。


 朝は遅刻しちゃったし、昼はいつの間にか三国くんが失踪しちゃってたし、もうこのタイミングでしか遊びに行く場所を決められない。


 駅前のタピオカミルクティーのお店か、それともボーリング場で遊ぶのもいいかな、あ、カラオケも悪くないなぁ――なんて思っていると三国くんの座席に彼がいないことに気づく。



「…………あれ?」


 いくら何でも遊びに行く約束をしておきながら先に帰るのはおかしい、三国くんがそこまで非常識な人なら仕方がないけど、それは違う気がする。


 となると――


「ねえねえ、三国くんってもう帰っちゃったの?」

『ん? いや帰ったというか……上級生? の女の人に連れて行かれたけど』

「あ、そうなんだーありがとねー」


 あの野郎やりやがったな。


 ちょっと意固地になって三国くんとの距離感をアピールした私も悪いけど、まさか人の約束を奪おうなんて……。


「泥棒猫とは、よく言ったもんだね」


 でもまだそこまで遠くには行っていないはず……それに三国くんが約束を反故にするつもりがないなら抵抗していてもおかしくない……。


 問題は今何処にいるのか、あの女のことだから私に見つかる前に早く校内から出たいと思うのが本音な筈。


 けどそれだと私が走って追いかければ確実に追いつく――だからこそ彼女は校内に身を潜め、且つ私が諦めて帰る所を視認出来る位置にいると考えるのが妥当。


 そうなればあそこしかないと、一目散に駆け出した私は一つ下の階の、南東角にある視聴覚室へと辿り着いた。


「本来なら鍵が掛かっている筈だけど……やっぱり開いてる」


 何なら少し扉が空いているのは三国くんが抵抗の現れだろう。


 ほぼ誘拐じゃん……と思いながらその隙間から中の様子を確認する。


「…………え?」


 すると中では、三国くんが如何ともし難い顔をしながら、豊中先輩の頭をなでなでしているではありませんか。


「こりゃ……とんでもないメス猫でござあますな」


 そして同時に無性にイライラしてくる。


 別に私だって三国くんの彼女って訳じゃないけど、関係を深めたいと思っている矢先に横槍を入れられて良い気分はしない。


 だから、らしくもなく感情を優先してしまった私は、容赦なく扉を開け放つと、ずんずんと彼らの元へと近づいたのだった。


「あ! 三国くんこんな所にいたんだ! 探したんだよぉ」

「いっ! や、山中……そ、その、これは――」

「あら、どうもごきげんよう」


 やけに慌てふためく三国くんに対し、余裕たっぷりの表情を浮かべる豊中先輩。


 へえ……もしかして扉を少しだけ開けていたのは意図的だったのかな? 三国くんに何を言ったのかは知らないけど、中々の策士だね。


 でも私はそんなのまるで気にしないフリをして三国くん方へと近づくと、ぱっと手を取り、ニッコリとした笑みを浮かべてみせた。


「さ、早く遊びに行こっか! まさか約束、忘れてなんて無いよね?」

「そ、そりゃ勿論……なんだけども……」

「じゃあ早く行こうよ、さあさあ駅前までレッツゴー!」


 少々強引ではあるけど、この行為は主に2つの牽制を図ることが出来る。


 一つは三国くんに対して、本来なら私が怒って然るべき所を、敢えて怒らないことで彼に申し訳無い気持ちを植え付けることが出来る。


 そしてもう一つはこの女に対して「お前なんか眼中じゃねえんだよ」という意味、下手に煽るよりも無視する方がよっぽどダメージは大きい。


 これで彼女がまた朝みたいな反応を見せればアドバンテージは私のもの――そう思っていたんだけど、彼女は予想の斜め上を行く発言をするのだった。


「あ、そうでしたね。じゃあ私達も今から遊びに行きましょうか」

「い、いや、黒芽先輩、だからそれは……」

「……はぁ?」


 今のこの女なんて……? 遊びに行く……だって?


「いや、意味分かんないんですが、何で先輩が付いて来るんですか、誘った覚えないんですけど」

「はい、私は別に貴方と遊びに行くつもりはありませんが」

「は……? 待って、全然意味が分からな――」


「ですから、貴方は今から昌芳くんと遊びに行くのかもしれませんが、私も今から昌芳くんと遊びに行く、それだけの話です」


「頭おかしいんじゃ――って、ま、まさか……」


 まさかこの女、同じ時間に私と三国くんが遊ぶ予定と、自分と三国くんが遊ぶ予定が被っているのをダブルブッキングと思っていない……?


 つまり同じ時間帯で二人が別の予定で遊ぶのだと、そう言っているの……?


「……いやいやいや、は? どう考えても邪魔ですから、何言っているんですか?」

「は? 別にそちらは好きに遊べばいいだけだと思うんですが、私も好きに昌芳くんと遊ぶだけの話ですし」

「それが邪魔って言ってるんですが、先に約束をしたのは私なんですけど」

「ですが私は気にしていないので、そんなに気になるのであれば山中さん、貴方が日程をズラしたら如何ですか?」

「こ、こいつ……」

「それともあれですか? リア充気取ってる割には誰かがいると昌芳くんに尽くせる自信が無いのでしょうか? あ、それもそうですか、処女ですし」

「んな――! し、処女じゃねーし!」


 まるで朝の仕返しと言わんばかりの猛攻撃に、私はカッとしてみっともない返しをしてしまう。


 私は人と喋るのは苦手ではない――けど、こと恋愛に関してはモテはするけど、好きになった男がいなかったから片っ端から振り続け、未だに付き合った人数はゼロ。


 お陰でこの有様なんだけど……でも何でこの女がそれを知ってるの!?


「と、というか! それだったら先輩だって処女じゃないんですか、どう見たって恋愛に関して下手くそって感じですし!」

「別に私は処女であることを恥ずかしいと思っていないですから、寧ろ初めてを昌芳くんに捧げられることを光栄にすら思っているし」

「ぐ、ぐぐぐ……」


「ふ、二人とも少し落ち着いて……お、俺も童貞だからここは穏便に――」

「そんなの知ってるから!」

「昌芳くんが純潔なのは勿論知っていますよ」

「ええ……」


 くそ……まさかこの短期間でここまで準備をしていたなんて……。


 このままじゃ遊びに行ってもこの女に全て持っていかれる……しかも余裕綽々に三国くんとイチャつく姿を指を咥えて見るなんて――それは絶対に嫌。


 だからこのままで終わってなるものかと、私は無い知恵をフル回転させると、今出来る最良の、最善手と言えるべき一手を打つことにした。


「わ、分かりました……そこまでして三国くんと遊ぶというのであれば、勝負をするっていうのはどうですか?」

「は? 勝負……ですか?」


「そうです。私と先輩が今から三国くんと遊ぶというのであれば、どちらがより彼を満足させられるのかを競うんです」


「……成る程、馬鹿げてはいますが、白黒ははっきりしますね」

「先輩が全てを捧げているというのであれば間違いなく勝てる筈です、それ程の有利を与えて尚勝負をしようと私は言っているんです、流石に逃げませんよね?」

「当然。昌芳くんに全てを捧げている私が、昌芳くんのことで逃げるなんて情けない真似する筈がありませんから、貴方とは違います」


「ふん……調子に乗るなよインドアが」

「ぬかせ、アウトドア風情が」


「これは本当に夢なのか……?」


 何だか当初の目的を忘れている気もするけど、今はそんなことより、絶対にこの女に負けるつもなんてないから……!

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