【第二部・あらすじ】
※間違い、見落とし、表記漏れなどあったら、ご指摘ください
※ネタバレ注意、気をつけてはいますが、記述は最新話に揃えてあるとお考えください
《凡例》
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『第零章 サンプル』
越智翔は駄文を公開しようと思い立った。
「なろう」で数々の作品を目にして、似たようなモノを書こうと決めてしまったのだ。
ところが、気楽に書き始めたはずが、どんどん文章が長くなり、労力が大きくなってきて、頭を抱えるようになった。
これでは読むほうも大変だ。そうだ、登場人物紹介とあらすじをつけよう!
このあらすじサンプルは、ネタバレ防止用の文章で、うっかりこのページを開けてしまった人が、いきなりあらすじを読まずに済むようにするためのものである。
登場人物:
[越智翔], [モブキャラA], [モブキャラB]
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各章の登場人物の一覧は、[]で囲ってあります。この記述は、登場人物紹介ページと一致するものとなっています。
登場人物紹介とあらすじは、今のところ、全編を通しての記載となっていますが、作品が長くなってきたこともあり、分割する可能性があります。
物語の進行にしたがって、このページは改訂を加える可能性があります。
ネタバレなどには、くれぐれもご注意ください。
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『序章~第十七章まで』
日本で交通事故死した佐伯陽は、異世界の貧しい農村に転生し、ファルスと名付けられた。
二歳半の時、村が激しい飢餓に見舞われ、子供を交換して殺して食べる事態に陥った。ファルスはそこで、転生の際に得た超能力『ピアシング・ハンド』に覚醒し、母親を含む三人を殺害して逃げ出した。しかし、村の出口で領主の軍勢に見つかり、致命傷を負う。
川に流されることで何とか生き延びたが、気がついた時には奴隷商人ミルークの所有物になっていた。彼の下で六歳まで、奴隷としての訓練と教育を受けて育つ。
オークションにかけられたファルスが引き取られた先は、港湾都市ピュリスを治める総督、トヴィーティ子爵の邸宅だった。そこでたびたび理不尽な扱いに苦しみながらも、日々を過ごす。
ある日、子爵令嬢のリリアーナが何者かに誘拐され、ファルスはその手がかりを見つけてしまう。見捨てることもできず、正体を明かしたくもないファルスは、単身、賊の隠れ家に向かう。リリアーナの救出目前のところで、戦鬼の渾名をもつ傭兵キースと遭遇し、隠れ家の屋根の上に追い詰められる。ファルスは秘密にしていた能力を使って、リリアーナと共に脱出した。
目立ち過ぎたファルスは官邸にいられなくなり、街中の薬品店での仕事を命じられる。そこで大商人グルービーの手下であるアイビィと同居することになった。
店の仕事が軌道に乗ってきた頃、ファルスは家宰のイフロースから、ムスタムへの航海に同行するよう命じられる。行きは順調だったが、帰路において暴風雨に巻き込まれ、漂着した島で海賊の襲撃を受ける。ファルスは能力を駆使して賊を退けるが、その際に犯した殺人に、心を苛まれる。
心を病みかけた状態で、ファルスは不潔な娼館で虐待された奴隷達を見つけてしまう。怒りに駆られて奴隷達を引き取ったが、それがセリパス教司祭のリンの目に触れ、本人はもとより、主人であるサフィスにまで非難の声をぶつけられる事態に発展した。実は裏では子爵の失脚を狙った陰謀が蠢いており、最終的には密輸商人達を誘き出して、一斉検挙することに成功した。
ファルスの故郷を統治していた貴族であるオディウスが子爵を訪ねた際、官邸の敷地内に暗殺者が現れた。黒い矢が放たれ、復讐の意思表示がされたが、犯人は見つからなかった。
年末に、ファルスは故郷の貴族のもとに、密使として派遣される。その際、グルービーのもとを訪れ、歓待を受けた。オディウスの領地は貧しく荒廃していた。その居城にも潜入するが、中では戦争の準備が行われていた。帰路、ヌガ村にて、ファルスは夢魔病に感染する。帰宅後に発症し、生死の境をさまようが、女神の手によって一命を取り留める。
奴隷身分から解放され、ファルスは子爵一家の王都旅行についていく。国王即位二十周年の祝賀のために、大勢の人々が都に集まっていた。非公式の会見で、ファルスは王太子タンディラールの目に留まる。
王国南部の疫病流行に伴い、宗教組織が支援活動を始める。ファルスも動員され、ウィーをはじめとした知人の冒険者達と一緒に南方に向かう。
その半年後、同じ疫病がピュリスを襲う。と同時に、あちこちから武装した集団が市内に入り込み、破壊活動を開始した。ファルスは賊を相手に戦うが、いつも自分の側にいたはずのアイビィの行方がわからない。また、この混乱に乗じて、ウィーは子爵への復讐を果たそうとした。
一連の陰謀の背後にグルービーの存在があるのを知ったファルスは、単身コラプトに向かう。だが、そこはグルービーの居城も同然だった。能力を駆使して潜入するも、計略にかかり、敗北して捕らえられてしまう。助かる見込みはなかったが、女神の啓示を受けた幼馴染のノーラが救出に駆けつけ、ついにグルービーを倒す。
だが、失ったものは大きかった。愛着のあった街は破壊され、修復によって形を変えていく。知り合いも一人、二人といなくなっていく。世の無常に絶望を募らせていった。
国王が禅譲するとの知らせを受けて、子爵一家は再び王都に向かう。だが、戴冠式はいっこうに行われず、ついに国王は死去する。伝国の宝冠が失われたことで、二人の王子の後継争いが勃発、王都は戦場となった。ファルスは子爵一家と共に逃げ惑ったが、状況を打開しようとする中で、数々の武功をあげる。最終的にこの混乱は、スード伯の介入によって、タンディラール側の勝利に終わった。
戦後の論功行賞によって、ファルスは騎士の身分を得る。だが、人の世の醜さにいやけが差していたファルスは、富貴に背を向け、不老不死を得るべく、一人旅立った。
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『第十八章 辺境の村にて』
ティンティナブリアの北の山脈を抜けて、ファルスはセリパシアに入った。針葉樹の森を抜けて辿り着いたのは、小さな辺境の村だった。
騎士の腕輪があるにもかかわらず、関所を通ることができなかったファルスは、ムアンモの提案に従って、村でも有名な奇人テンタクの世話になる。
テンタクは驚くほど善良で、呆れるほど無能だった。彼は一人で捨て子を守り育てていた。関所に責任者のジノヤッチが戻ってきた際にも、悪意から通行を許可されなかった上、彼がファルスを処罰しようとしたために、テンタクは自らの汚物を食べて庇った。
夜、ファルスが一人、空を眺めているところにテンタクはやってきて語らう。彼は単純明快に、大事なものを選び取り、あとは捨ててしまっていいのだと述べる。
足止めされ続けて困り果てたファルスは、領主の許可を得ようと城砦に立ち入るが、そこにいたのは、年老いた領主と、怪我で動けない跡継ぎだった。彼らは状況を変える実権を持っていなかった。
隣のウゾク村との物々交換の際に、テンタクは、母親がいないことを苦にしているニュミに向かって、アンダラが母だと告げてしまう。テンタクは知らなかったが、それは事実で、この件をきっかけとして、ジノヤッチもまた、真相に気付いてしまう。
ジノヤッチは、アンダラを脅迫し、その夫であるフクマットを思い通りに動かそうとして、テンタクの一家を捕縛し、城砦の地下に幽閉してしまう。村人達はファルスに逃げるよう勧めるが、テンタクを救おうともしない村人達の薄情さに激昂したファルスは、夜を待って、一人で城砦に突入する。
だが、実は夜中のうちに村人達は決起しており、逃がしたはずのテンタク達も、ジノヤッチに捕らえられてしまった。しかし、隙を見てテンタクは、自分の身を犠牲に、子供達を逃がす。反抗に怒り狂ったジノヤッチはテンタクを殺そうとするが、ファルスに打ち負かされる。領主であるエルは、長男の不始末を処刑で解決しようとするが、テンタクは助命を願い出た。
村に平和が戻り、ファルスは見送られて旅路に戻る。しかし、すぐにジノヤッチの待ち伏せに遭う。ファルスは彼らを返り討ちにして、全滅させる。また、彼らが所持していた身体操作魔術の教本を奪い取った。
登場人物:
[ファルス], [アンダラ], [エル], [サルス], [ジノヤッチ], [テンタク], [ニュミ], [ネチュノ], [ヒズメッチェ], [フクマット], [ボトナ], [ムアンモ], [ヤシリク], [ヤラマ]
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『第十九章 招神異境』
西進するファルスは馬車で移動していたが、ある日、路上に巨岩が横たわっていた。先を急ぐあまり、ファルスは馬車を降りて、歩いて次の街を目指すことにした。森の中の間道を進んでいたが、地図にはない岐路に行き当たる。そこで不自然な動きを見せる動物達に出会い、森の奥へと誘われる。
そこにあったのは、美しい楽園だった。暑くもなく、寒くもなく。危険な動物はおらず、食用に適した果物がいくらでも見つかる。そこに、かつてリンガ村の沢にいた女神シーラがいた。
シーラはファルスに、長寿のための祝福を与える。銀の聖杯に神の飲料を満たした。それを飲んだことで、ファルスは不老の肉体を得た。
これで目的を果たした、と思ったファルスは、しばらくシーラのもとに留まる。その日々の中で、失われたウルンカの民の歴史を耳にする。
だがある日、自分にも死は訪れることを知ってしまう。ファルスは悩んだ末に、再び旅立つことを決意する。
登場人物:
[ファルス], [シーラ]
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『第二十章 歴史の都』
夏の終わりに、ようやくファルスは王都タリフ・オリムに到着した。
だが、到着早々、酔っ払いの冒険者、ドランカードに絡まれ、退治してしまう。これをきっかけにギルやサドカットと知り合うことができた。だが、土地の人間には大抵後見人がおり、そのために報復の可能性を考えねばならなくなった。
ファルスは紹介状を手に、長老派の司教ユミレノストに会う。だが、司教はファルスが望む聖女の祠の見学に条件をつけた。二ヶ月間、聖女の降臨祭まで、神の壁の修行者として振舞うことになった。
美食の都としても知られるこの地で、いいものを食べたいと願うファルスだったが、究極のメシマズであるチャルの料理に何度も当たってしまう。その雑な仕事ぶりに怒り狂ったファルスは、彼女に料理人をやめろと強く言い渡す。
ギルのおかげで、サドカットから歴史の授業を受けることができた。ルイン語の種類が多数あること、またギシアン・チーレムの改名など、歴史上の不自然な出来事についても、知ることができた。
ギルの兄は、今年の聖女役の美少女・サフィの婚約者になる見通しだった。だが、彼女とその父が辞去した直後、なぜか本家筋のイリシットが怒鳴り込んできた。
鉱夫達に混じって働く中、ファルスはノーゼンを見つけてしまう。異様な長寿と、常人を遥かに超えた能力を備えた存在に驚き、彼の正体を突き止めようと決める。
しかし、ファルスはアイデルミ家の報復を受け、ホテルから追い出される。どこも泊めてくれないため、神の壁の下で寝ることになる。それを知ったチャルは、自宅に匿うと申し出るが、彼女にアイビィの面影を見たファルスは、それを拒絶した。
嫌がらせを繰り返すギルド支部長のサモザッシュは、ファルスにオーガ退治の仕事を引き受けるよう、圧力をかける。アイクはそれを知って、護衛としてノーゼンをつけた。
オーガ退治に出かけたファルス達だが、そこで死に掛けたオーガや、ゴブリンの集団と遭遇する。この事態を惹き起こしていたのは、多数の魔術を操るゴブリンの王、チュタンだった。ゴブリンの群れは、辺境に構築された城砦を乗っ取ってしまっていた。幻術に念力、精神操作魔術を駆使するチュタンに苦戦するも、ノーゼンの助力もあって、ファルスはこれを討伐する。
ミール二世は武功をあげたファルスを招き、褒め称えた。ジョロスティとクロウルを伴っての短い会見だったが、すぐに用事があると言って立ち去ってしまう。ファルスは、壁の下での暮らしも改善できず、ノーゼンの正体も明らかにできず、聖女の祠に立ち入るための支援も受けられなかった。
困窮するファルスに、ガイが話しかける。張り合っているノーゼンだけに助けを求めるのが気に食わず、自宅で面倒を見てやると言い出した。しかし、ガイ達の生活は野放図そのもので、無茶な飲酒と睡眠不足にやられて、ファルスは退散した。
ファルスの苦境を誰も救わないのに憤慨したギルは、ついに家出をしてしまう。ファルスの横で、野宿するようになった。
その頃、降臨祭の聖女役に扮することが決まっていたサフィを、何者かが襲撃した。これをジョロスティ率いる独立派は「外国の陰謀」とし、クロウルを中心とした融和派は「地方の陳情者の起こした問題」とした。王都の中で、次第に対立が高まっていく。
そんな中、夜間営業を続けるチャルの屋台が襲撃され、彼女は商売道具を破壊される。困り果てた彼女をみて、サブドはファルスに救いを求めたが、断られる。それを見ていたアイクは、彼らすべてのために、体を張ってファルスを説得した。
やむなくチャルを弟子とし、料理修業をさせるファルスだが、そこに謎の招待状が届く。フォレスティアの内乱で暗躍したパッシャの陰謀の可能性を考えたファルスは、単身、鉱山の裏手に出向く。そこで待ち受けていたのは、ノーゼンだった。互いの秘密を明らかにしようと、二人は戦う。
翌日、ファルスはノーゼンの自宅を訪れ、話し合う。そこで龍神ヘミュービと、贖罪の民の事実を知る。
アイクは苦悩に囚われたファルスを思いやって、自宅に招待する。そこで、彼の最愛の人、ラズルとの物語を聞かせる。
ドランカードがチャルの店にやってきて、ファルスに謝罪し、救いを求めた。ギルド支部長としての権力を振るうサモザッシュによって、同郷の友人が無実の罪で囚われようとしている。王都を騒がしている「ツルハシ男」を捕らえるために、ファルス達は行動した。結果、マハブが犯人だったと判明する。
降臨祭は、無事開催される。二日目の闘技大会で、ギルはイリシットに本気の勝負を挑む。それは、仮にも初恋の人であるサフィを、その魔手から守るためだった。力及ばずも一矢報いたギルの後に、ファルスが試合に乱入する。イリシットを圧倒し、その恥を雪ごうと集まった王国兵をも蹴散らして、金の冠を授けられる。
四日目の料理大会で、チャルは蕎麦の麺を中心とした救荒料理を提供する。優勝は他の店に決まったが、この「飢餓対策」のコンセプトに喜んだミール二世は、自らの王冠をかぶせて、チャルに「銀冠」の名誉を与えた。
すべてが終わってから、ミール二世とユミレノストは、ファルスに種明かしをする。派閥争いと縁故人事の澱みを一掃するための計画は、紆余曲折を経て、なんとかうまくいった。ミール二世は返礼として、聖女の祠の見学と、サモザッシュへの断罪を約束する。
聖女の祠は、一見、何もないただの洞穴だった。だが、奥のほうに秘密の部屋があり、そこは常人には認識すらできない空間だった。火山の噴火口みたいなところに黒い石版があり、そこに刻まれた文字は解読不能だった。ファルスはなんとかそれらを書き写す。
謁見の間に引き出されたサモザッシュは、ミール二世に問い詰められて、ついに事件の真相を語りだす。ファルスに対する度重なる嫌がらせはアイデルミ家の要求によるものではなく、謎の人物からの依頼だった。だが、その正体を口にしようとしたところで、彼に呪いが降りかかる。サモザッシュの肉体に憑依した『使徒』は、ファルスに対して、魔王への服従を要求した。
この街でのすべての目的を果たしたファルスは、更に聖女と龍神の秘密を追いかけ、不死に至るため、西を目指して旅立った。
登場人物:
[ファルス], [アイク], [アルティ・スッタマーナ], [イリシット], [ガイ], [ギル], [クロウル], [コモンドン], [サドカット], [サフィ], [サブド], [サモザッシュ], [ジョロスティ], [チャル], [ドランカード], [ノーゼン], [パダール], [マハブ], [ミール二世], [ユミレノスト], [ラズヴィチク], [リーデル],[サルヴァジール], [ジャクム], [シンフィ], [チュタン], [チャプランダラー]
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『第二十一章 雪原を往く』
タリフ・オリムより再び旅立ったファルスは、リント平原を横断する。
途中、贖罪の民の集落を目指すために北上するが、そこで龍神ヘミュービに遭遇する。ファルスは不死の秘密を教えて欲しいと懇願するが、これが龍神の怒りを招き、氷雪の中に閉じ込められて殺されかける。
贖罪の民の集落で、村長を務めるダニヴィドに迎え入れられる。彼は、かつての偽皇帝アルティの物語を話して聞かせた。彼らの知る龍神は人間を憎み嫌っていた。
集落を出たファルスは、セリパシア神聖教国の北の玄関口である都市オプコットに辿り着く。そこからは融通のきかない聖職者官僚相手に、苦労しながら北を目指した。
ティングラス居留地の市場で、詩集を発見する。それはリンの友人だったクララの作品集だった。ファルスはそれを買い取り、目を通す。
寝付けずに夜中の居留地を散歩する中、隠れ娼婦達と出くわしてしまう。彼女らは、まさに出産中の仲間を庇っていた。それを手助けしていたのは、闇医者アイドゥスだった。
翌朝、ファルスは広場にて藁の婚礼を目撃する。それは、婚前交渉をしたとされる男女への懲罰と、住民への見せしめであった。
神聖教国への不満を感じながらも、ファルスは旅を続け、ようやく聖地トーリアに到着した。
登場人物:
[ファルス], [ヘミュービ], [ダニヴィド], [アイドゥス]
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『第二十二章 白き闇の聖都』
聖都アヴァディリクに立ち入ったファルスは、早速「お布施」を要求されて閉口する。そのおかげもあって、すぐさま目当ての聖女の廟堂にも立ち入ることができたが、どうでもいい説教を聴いただけで、何の収穫も得られなかった。
与えられた一ヶ月の滞在期間が空費されていくのに耐えられず、ファルスはクララとの面会を選択する。クララはファルスがタリフ・オリムで発見した古代文字の一部を解読して教えた。
クララとの面会を知ったミディアは、枢機卿の権限でもってファルスを呼び出し、活動の自粛を求める。また、ファルスの存在に気付いたベレハン男爵は、クルドゥンを使いに出して邸宅に招き、情報交換をした。
ベレハン男爵の尽力で、ファルスはついにドーミル枢機卿との面会を果たす。しかし彼は、精神を病んでいるらしく、まともなやり取りができなかった。
旧貴族のトリエリクはファルスに興味を持ち、ベレハン男爵を通じて自宅に招く。だがその本音は、よろしからぬ評判の娘であるソフィアの後始末にファルスを使おうと考えてのことだった。またこの時、ファルスはアイドゥスと再会する。彼は枢機卿の一人だった。
滞在期限も迫る中、ファルスはジェゴス枢機卿に呼び出される。彼から、生まれて初めて見る亜人マルトゥラターレの売却を持ちかけられる。
トリエリクの招待により、ファルスはアイドゥスと三度目の面会を果たす。帰り道にファルスはアイドゥスを脅迫し、不死の探求に協力するよう要求する。
アイドゥスの提案により、ファルスは聖都近郊に暮らす農民達へのボランティア活動に従事する。そこで作ったスープの出来栄えに、アイドゥスは感嘆する。
二度目の活動の帰りに、近隣の村落を魔物が襲撃した。それを退け、負傷者を救ううちに、当日中の聖都への帰還が難しくなる。ファルスとアイドゥス、今回から参加していたソフィアは野宿してから翌朝、聖都に向かった。そこでアイドゥスは、闇医者稼業についての罪状を問われ、逮捕されてしまう。
ファルスは衝撃を受けて悩み続けるが、担当司祭のプレッサンの数々の犯罪行為に気付いて彼を脅迫、アイドゥスの捕らわれている牢獄に向かう。ピアシング・ハンドの力でアイドゥスを救い出すつもりだったが、本人がそれを拒否する。
翌朝、アイドゥスは聖都の郊外で火刑に処される。ファルスには、翌朝すぐに聖都から退去するよう、当局の命令が下る。一連の出来事に怒りを抱いたファルスは、無断で聖女の廟堂に侵入する。その地下には秘密の領域があった。だが、その探索の途中、そこを警備する暗部に発見されて、横穴から地下に突き落とされる。
登場人物:
[ファルス], [プレッサン], [カフラモン], [シフォコル], [ジェゴス], [ミディア], [クララ], [ドーミル], [ハッシ], [ベレハン男爵], [クルドゥン], [エスティ], [トリエリク], [ソフィア], [マルトゥラターレ], [ヘル], [アイドゥス]
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『第二十三章 魔宮モー』
聖女の廟堂の地下から突き落とされたファルスは、長いチューブの中を滑り落ち、見たこともない地下施設のプールに転落する。そこで巨大ゴキブリの群れに襲撃された。
ここから脱出する必要を感じて探索するうち、過去の冒険者の遺体を発見する。また、施設の中央にあるらしい巨大な樹木のようなものを発見する。遭遇した魔物は、ファルスを発見しても襲ってこなかった。
少しずつ上の階層に進むうち、同じくチューブを滑り落ちてきたソフィアを発見する。彼女はアイドゥス師処刑のニュースに驚き、聖女と女神の裁きを求めて廟堂に忍び込んだために、暗部の処分を受けた。ファルスは、自分でも制御できない怒りを感じ、ソフィアに対して粗暴な態度をとってしまう。
ソフィアには、秘密があった。実は自分の実父はトリエリクではなく、その弟クラングと母との密通の結果ではないかと悩んでいた。そのために、自分自身が存在することを罪悪であると考えていた。
更に上の階層に立ち入ったところで、悪魔アルジャラードが出現し、降りるように命令される。即座に従わなかったファルス達を、いきなり殺害しようとした。ファルスはいったん地下に逃れてから、ピアシング・ハンドが使用可能になるのを待って、もう一度アルジャラードに挑んだが、敗北して地下に押し戻される。
満身創痍の状態でグレムリンどもに追い立てられ、苦しみ抜くが、最後の最後でソフィアを見殺しにできず、捨て身の戦いで彼女を救う。負傷がひどく、生命にかかわる状況になって、ファルスはアイドゥスから奪取した治癒魔術の技能をソフィアに付与した。
地下を探索するうち、過去に迷い込んだ冒険者ヨルギズとその仲間達の手記を発見する。彼らの記録によって、ここが魔宮モーであることが明らかになる。
いくつかある溜め池付近を歩いていたところで、同じく地下に落とされたマルトゥラターレの襲撃を受ける。これを退け、対話によって同行を同意させた。その後、彼女からルーの種族について聞かされる。
飢餓に苦しみ始めたファルス達は、脱出の機会を探すため、更なる下層を目指す。そこでファルスを地下に突き落とした暗部の一員であるヘルを発見。危険なトロールを退けながら、彼をも伴って下に向かった。
疲労と空腹により、限界に達した一行を、吸血鬼の群れが襲撃する。あわや全滅というところで、水の民の末裔であるカディムが現れ、一行を居住区に招く。
ファルスはソフィアを伴って最下層を目指した。聖女の正体は、この地下の樹木が作り出したダミーであり、本人はとっくに死んでいた。また、カディム達の説明により、セリパシア神聖帝国の初代皇帝サースは人間ではなく、水の民を裏切った男であると判明した。セリパス教会の初期においては、ここで若い女性を人身御供にして魔物を培養していたことも判明する。
ファルスは、ヘルの傷が癒えるまでの時間を利用して、地下の魔物達から能力を奪い、自己を強化する。その上で、ソフィア、マルトゥラターレ、ヘル、それにカディムを連れて、アルジャラードに挑む。
勝利の後、ファルスはすぐ上の階層で、石に刺さった剣を発見する。先の戦いで武器を失っていたので、これを引き抜いて持ち帰った。
更に上の階層で、ヨルギズの遺体と手記が見つかる。また、モーン・ナーの秘密の神殿が見つかる。そこにあったのは、異貌の神々の像だった。その上では、サース帝の過去の残虐行為の証拠となる白骨死体が数多く発見された。
ついに魔宮の出口となるウティスの扉に辿り着く。カディムはいったん地下に引き下がり、ヘルは暗部の仲間達に報告するために先に奥に進んだ。話し合いが片付き、ファルス達は廟堂の大広間に立ち入る秘密の通路にて待機する。おりしも次代の教皇を決める聖教会議の最中だった。
教皇に立候補したミディアだったが、実はジェゴスの手回しにより、本当の有力候補は、認知症とされていたドーミル枢機卿だった。しかし、ドーミルの精神病はすべて演技であり、教皇になった途端、ジェゴスを枢機卿から解任、流刑に処した。
ソフィアは聖都に留まることになり、その身柄はドーミルが預かることになった。マルトゥラターレはファルスが預かり、これはピュリスに送り届けることとした。聖地の出口でソフィアはファルスを見送る。ファルスは南の国境まで、教皇の用意した馬車で去っていく。
登場人物:
[ファルス], [ジェゴス], [ミディア], [ドーミル], [ハッシ], [クラング], [ソフィア], [マルトゥラターレ], [ヘル], [カディム], [ラドクルス], [アルジャラード]
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『第二十四章 ムーアン・ドリーム』
セリパシア神聖教国から南に向かったファルスとマルトゥラターレだが、二人は資金枯渇に悩まされていた。ファルスは神聖教国内の活動のために大量に資金を使ってしまっており、かつ魔宮モーで荷物を捨てて逃げたために、金貨の大半を失っていた。
ムーアン大沼沢の畔、ロイエ市のスラム街に腰を落ち着けたファルスだが、沼地のハンター生活は思った以上に困難が多く、生活費を稼ぎ出すのが精一杯だった。路上生活者の元冒険者、カチャンの手助けと助言のおかげで、そんな日々をなんとか切り抜けていた。
ある晴れた日、亜人であることを秘密にするため、家の中に引き篭もらざるを得ないマルトゥラターレは、外出したいと不意に言い出した。だが、散歩の途中でイーネレムらハンター達に見つけられ、騒ぎになってしまう。翌日、イーネレムは酔った上での振る舞いを謝罪したが、これを見た司祭ヤシュダンは、自分達の探索を手伝うよう、ファルスを誘った。その本音は、性犯罪が起きる前にファルス達をシャハーマイトまで送り出すことにあった。
善意のヤシュダンに迷惑をかけたくないファルスは、ついにピアシング・ハンドの使用に踏み切る。遠くから一角獣を呼び寄せて、これを倒した。その際に、沼地の奥に黒竜がおり、これがピアシング・ハンドで乱獲できそうな相手であると知る。
カチャンはマルトゥラターレの身を案じて、早めに沼地を去るようファルスに勧めるが、ファルスは遠征に出かけて、黒竜を文字通り乱獲する。
帰宅すると、カチャンは暴行未遂犯を止めようとしてひどく殴られていた。マルトゥラターレを狙った犯人は、イーネレムの仲間の一人、トールトだった。だが、そのことを問い詰めようとした時、沼地から黒竜が来襲する。
一晩中かけての激戦の末に、ファルスは黒竜を討つ。その際、マルトゥラターレの正体をカチャンは見てしまうが、他人には言わなかった。
黒竜の死体をギルドが引き取り、売却するのを待つ間に、イーネレムは故郷に手紙を書いた。ファルスがロイエ市を後にする時、シモール=フォレスティア王国の侍従カフヤーナが馬車に乗ってやってきた。その目的は、黒竜を討った勇士を迎え、ヤノブル王に謁見させることだった。
登場人物:
[ファルス], [マルトゥラターレ], [イーネレム], [トールト], [ヤシュダン], [マニフィス], [カチャン], [カフヤーナ], [クァッスド]
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『第二十五章 花と新緑の季節』
カフヤーナの馬車で、ファルスとマルトゥラターレはシモール=フォレスティアの首都レジャヤに送られる。
それからまもなく国王ヤノブルと王妃イングリッドとの謁見がなされた。イングリッドはファルスをエスタ=フォレスティア王国に対する牽制の道具として利用しようと画策し、まず騎士の腕輪を与えようと圧力をかけ、続いて王族との交際を求めた。
マリータ王女は気性の激しい姫君で、いつも家臣達にペン先で刺すなどの暴行を加えていた。ファルスは表向き恭しく接するが、彼女はフォニック軍団長を嗾けて試合に持ち込んだ。それに飽き足らず、会食の食事を地面にぶちまけた。ついに怒りを覚えたファルスは、土蒸しの技術で拵えた一品で仕返しした。
ファルスの苦境を知ったタンディラールは、ロールバッハ伯爵を使節として派遣した。ルターフ王太子が要求に応じる形で、ファルスはようやくレジャヤを離れ、南部のパラブワンから船でピュリスに帰ることができた。
ピュリスに帰ったファルスは、ノーラが再度の旅立ちを許してくれないのではと恐れ、ひっそりと立ち去ろうと考えていた。しかし、ピュリスは土地を買い占めたノーラの手によって私物化され、改造されていた。逃れようとするファルスに対し、ノーラは徹底的に包囲網を敷いて追い詰めた。
ノーラはファルスが地下室に隠した財宝と魔術書を見つけてしまい、それによって強大な魔力と財力を手にしてしまった。彼女は、これを活用することで、ファルスをピュリスに居着かせようと決心していた。
具体的には、ノーラはファルスをピュリスの実質的な支配者にしようと考えていた。新総督のムヴァク子爵も囲い込み、もはやノーラの取り仕切るリンガ商会なしでは、ピュリスの経済はまわらない状態になっていた。各商店の主人はファルスに膝を折り、進んでへりくだる有様だった。しかもノーラは、グルービーの所有していた魔法陣を運び出し、それをリンガ商会の地下室に設置した。
ここまでファルスに同行してきたマルトゥラターレは、リンガ商会の地下の魔法陣を守る役目を担うことになった。
かつてタリフ・オリムで少女相手に暴行事件を繰り返したマハブが、犯罪奴隷となってピュリスに流れ着いていた。彼はここでもツルハシを使って、女性を狙っていた。その原因は、夜な夜な遊び歩くセリパス教の司祭、リンに対する反発にあった。
タンディラールの召喚に応じて、ファルスは王都に出向いた。銀の腕輪は黄金の腕輪に取り替えられ、正騎士の資格を与えられた。また、ベルノストとの再試合が行われた。
その日の夜、宿舎にナギアが訪れる。主人であるリリアーナのところへ、ファルスを確実に招くためだった。翌朝、ファルスはエンバイオ邸を訪ねる。そこで、イフロースがトヴィーティア送りになった後、家宰を引き受けていたカーンが近々退職し、代わりにナギアの兄のルードがその地位に就くらしいと聞かされる。
真夜中にファルスは、こっそりと謁見の間に呼び出される。そこでタンディラール王から、スード伯ゴーファトの暗殺を命じられる。
登場人物:
[ファルス], [マルトゥラターレ], [カフヤーナ], [ヤノブル], [イングリッド], [マリータ], [ルターフ], [フォニック], [ファシエ], [ロールバッハ], [ノーラ], [ジョイス], [サディス], [マオ・フー], [エディマ], [ガリナ], [リーア], [フィルシャ], [ディー・アスリック], [リン], [店長], [リリアーナ], [ナギア], [イーナ・カトゥグ], [カイ・セーン], [マハブ], [タンディラール], [グラーブ], [リシュニア], [アナーニア], [ベルノスト], [アルタール]
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『第二十六章 因縁と怨恨の地』
ゴーファト暗殺の密命を受けたファルスは一人でスーディアの領都・アグリオを目指す。だが、ファルスの出奔を半ば予期していたノーラは、険阻な山道をものともせず、後を追いかける。
ついに山中の集落でファルスはノーラに追いつかれる。ファルスはノーラに帰るよう説得するが、ノーラは頑として聞き入れない。二人は宿を借りた家で夕食を食べながら、スーディアの昔話を聞いた。それはシュプンツェやコーシュティ、ミュアッソといった異形の神話的な存在についての言い伝えだった。その夜、使徒が強大な魔力で村中に深い眠りをもたらし、ファルス一人を誘き出す。使徒は「狩り」と称して、殺人を命じる。また、スーディアで起きると予想される出来事についての手がかりを教えた。
翌日、山中の集落を去ったファルス達を追いかける連中がいた。昨夜、ノーラが金貨を見せたために、道中で襲撃しようとやってきた村人達だった。ノーラは魔術で行方をくらまそうとしたが、なぜか発見されてしまう。結局、ファルスが追跡者を皆殺しにした。
先日の使徒の案内のおかげで、ファルスは森の道の途中にある、隠された古代の神殿を見つけた。表側はありがちな女神神殿になっていたが、そこでは何かの儀式が行われた形跡があった。焼かれた人骨や、血塗れの女神像などが見つかった。また、女神像の裏には、古代の異形の神の神殿が封印されていたと判明する。
領都に入る直前、ファルスはノーラと別行動をとった。ノーラは先にアグリオに立ち入り、ファルスは後から向かうことになった。女連れでは、極端な女嫌いのゴーファトが何をするかわからないためだった。ファルスの到着を知ると、彼の臣下達はファルスを賓客として扱った。
割り当てられた宿舎で、ファルスは出された茶菓子に毒が入っていないかを不安に思い、目についた適当な乞食男を呼び寄せて飲食させた。その乞食男、アドラットは、ピアシング・ハンドで確認すると、一般人とは到底思えないほどの優れた能力を有していた。ファルスは危険人物と出会った可能性があると判断して、警戒した。
ゴーファトは、ファルスを大喜びで迎えた。突拍子もないことに、彼はスーディアの継承権をファルスに譲渡したいと言い出す。しかし、ゴーファトには甥がおり、そちらが正統な後継者とされている。
会話しながらフリンガ城の中を歩いていると、ゴーファトの御用商人であるプルダヴァーツが面会を求めた。彼は快楽の道具として、奴隷少年を提供するためにやってきたが、ゴーファトはそれをすげなく追い返す。
夕食の時間に招かれたファルスは、そこで収容所時代の仲間だったドロルと再会する。ドロルはゴーファトの下僕として働き続けていた。夕食の場で、ファルスは特別な料理を振舞われる。実はそれは人肉料理で、タンディラールからゴーファトにこっそり譲り渡された貴公子を殺害して調理したものだった。ファルスはゴーファトの異常性を再認識させられる。
夜、眠れずに城内の廊下を歩いていると、さっきプルダヴァーツによって売却されそうになっていた奴隷少年と鉢合わせる。実は彼は、収容所時代の仲間だったコヴォルで、今はルークと呼ばれている。かつては騎士を夢見た少年だったが、今ではすっかり無気力になってしまっていた。
翌朝、ゴーファトはファルスを狩りに誘う。美しい泉の周囲を散策しながら、ゴーファトは女の醜悪さについてしつこく語った。フリンガ城に引き返してから、ゴーファトはファルスを、甥のジャンと側近のナイザを紹介した。ファルスはゴーファトの強い要求によって、やむなくスーディアの次代領主となる書面に署名した。
ゴーファトは所用で南部に向かう。その機会を利用し、三日後の朝にゴーファトを暗殺する計画をたてたファルスだったが、ノーラからの呼び出しを受けて、翌日にアグリオの旧市街に出向いた。ノーラは、収容所時代の仲間だったタマリアを発見していた。
タマリアは、実はミルークからサハリア商人のサラハンへと、秘密裡に譲渡されていた。サラハンとその妻は、タマリアの生来の明るさ、優しさに気付いて奴隷から解放し、養女とした。この世界の女性一般に求められる裁縫や料理の能力では期待できないのもあり、サラハンは妻の死後、タマリアに商人の仕事を教えるべく、彼女を連れて内海を旅した。その旅の終わりにスーディアに立ち寄った際、ゴーファトの暴虐を目にしてしまう。弟が殺されたことを忘れられなかったタマリアは衝動的にゴーファトに襲いかかり、取り押さえられる。結果、サラハンは殺害され、タマリアも最下級の売春婦として街の一隅に拘束されることとなった。
タマリアの問題はゴーファト暗殺後に解決すると決め、ファルスは宿に戻った。その夜、旧市街に火災が発生するのが、宿からも確認できた。噂によると、怪盗ニドなる人物が放火を繰り返しているらしい。放火に気を取られているうちに、黒尽くめの美青年アーウィンが室内に侵入していた。アーウィンを危険人物と看做したファルスはピアシング・ハンドでの殺害を試みるが、通用しない。彼はファルスをパッシャに勧誘するが、拒否されて去った。
予定の日、ファルスは怪鳥の姿に変身して、南部に出向いたゴーファトの肉体を、上空から奪おうとした。だがその時、無数の触手が盆地を埋め尽くすビジョンを幻視して、危険を感じたために暗殺を中止する。
手詰まりになった彼のところにゴーファトの正夫人、ダヒアからの手紙が届く。大貴族の妻にしては彼女はひどく冷遇されていた。その使用人はメイドが一人だけ。そのメイド、オルヴィータは、これまた収容所時代の仲間だったディーだった。ダヒアは監獄同然のアグリオからの救出を望むが、話が纏まらないうちにゴーファトが帰宅する。彼は妻の不行跡を詰って罪を問おうとするが、これに乗じてファルスが二人を助けようとするのに気付くと、あえて不問とした。
手詰まりになったファルスが悩んでいるところに、プルダヴァーツがルークを売りつけようとした。ファルスはルークを連れてアグリオの高級レストランに入り、そこで語り合う。
ルークは収容所を出てプルダヴァーツの兄に引き取られた後、努力を重ねていた。主人の好意でトーキアに立ち寄った時、ルークの母は重い病に苦しんでいた。妹の医療費のために身売りしたのに妹は死んでおり、母も間もなく息を引き取った。悲しみに暮れる帰路、主人は死亡してしまい、プルダヴァーツの所有物になってしまった。ルークを嫌ったプルダヴァーツは、ゴーファトに売り払うことにした。生きる意味も希望もなくしたルークは、淡々と命令に従った。
ファルスにタンディラールの密偵達が接触した。既にパッシャの介入とアーウィンの異能を知るファルスは事態の深刻さを認識していたが、密偵達の代表であるヤシュルンは、考えすぎだとして一笑に付した。また、ゴーファト暗殺のためにタマリアやルークが利用できそうなら、始末してもいいと考えていて、そこもファルスと意見が合わなかった。
ファルスの下に、アーウィンが訪ねてきた。市井を騒がせる怪盗ニドに引き合わせたいといわれ、とある廃屋に向かう。そこにいたのは、またしても収容所時代の仲間だったウィストだった。ニドはパッシャの一員となっており、ファルスを権力者の犬と蔑み、憎しみをぶつけ、覚醒した神通力によって焼き殺そうとした。
幼馴染ばかりがいる状況に、使徒の罠であろうと考えたファルスは、ノーラに帰るよう強く求める。だがノーラは、ファルスが帰らないなら帰らないの一点張りで、まったく言うことを聞かない。
ファルスは視界不良の現状を打破すべく、次の手を打つ。自分に付き纏うアドラットの正体を知るため、下僕として受け入れると述べ、自室に招いてから取り押さえる。だが、アドラットは、自分がただの冒険者であると主張し続けた。
街に出ると、奇妙な活気があった。丸腰のアドラットに剣を与えた後、ワノノマの魔物討伐隊と接触する。東方大陸南部の豪族ヒシタギ家の武人ヤレルは、ファルスの自己紹介を聞きつつも、正体不明の存在として警戒し、一定の距離を保ったまま別れることを選択した。
市場から帰ると、ドロルが訪ねてきた。アドラットを部屋から追い出し、一対一で話をするが、ドロルは本心を悟らせまいとする。ゴーファトを憎んでいながら、ファルスに対してもやはり憎悪を抱いていた。彼は自分の家族も憎んでおり、たまたまスーディアに立ち寄った母らをゴーファトに頼んで処刑させていた。最後にファルスに無理やりキスをして立ち去っていった。
アドラットが戻ってくる前に、アーウィンがやってきた。彼は組織の最高幹部であるデクリオンとの面会をファルスに提案した。瞬間移動で隠れ家に連れていかれたファルスは、デクリオンからパッシャの一員になるよう誘われる。また、パッシャの歴史についても教えられる。
アーウィンの奇襲を恐れ、今いる宿とは別に拠点を設けることにしたファルスは、適当な宿屋に部屋を借りた。ところが、夜になると誰もいなくなっている。街中から人の影が少なくなっていた。
明日登城せよとの命令書がゴーファトから届く。ここでゴーファトを討つべく、ファルスはヤシュルン達と相談する。誰に殺害犯の役目を負わせるかを決めねばならず、ファルスはドロルを指名した。
登城を前に、ホテルの裏庭で寛いでいたところ、謎の集団がそこに攻め込んできた。ファルスはアドラットと共にこれを撃退し、ホテルから逃げ出す。先に拠点にした宿屋に転がり込み、状況を静観すると、どうやら街中で殺し合いが始まったらしいとわかった。夜になるのを待って交互に仮眠をとっている間に、ファルスは使徒に教えられた古代の神殿にあった、謎の文字を読み解こうとする。それを見咎めたアドラットが、解読できると告げた。
夜になってからノーラの潜伏場所を探すが、行方が知れない。やむなく引き返して、神殿の碑文を解読する。ファルス達は、ゴーファトがファルスの肉体を奪い取ろうとしているのではないかと予想する。
魔物討伐隊を味方につけるため、二人は市中に出る。暴徒に襲われるが、そこに贖罪の民のマペイジィが通りかかる。彼は正義をなさんとするアドラットを嘲笑して去っていった。魔物討伐隊と合流し、協力関係を取り結ぶが、拠点に戻ったファルスはゴーファトの布告を耳にする。ノーラ達は既に捕縛されており、翌朝処刑される予定になっていた。
ファルスはアドラットに捕まったふりをしてそこに駆けつける。アドラットはファルス捕縛の恩賞を求め、ゴーファトに跪き、油断を誘ってから斬りかかる。その正体は、女神の騎士だった。だが、ゴーファトを追い詰めたとき、パッシャの幹部達が増援に駆けつけた。そこに魔物討伐隊、ヤシュルンら密偵達も加わっての乱戦となったが、結局、ゴーファトを取り逃がしてしまう。処刑されるはずだった五人のうち、タマリアとディーを除く三人を救出できたが、ファルス達は撤退するほかなくなった。
更なる手掛かりを求めて、元の宿舎に置きっぱなしにしてきた荷物の碑文の写しを取りに行くが、それはマペイジィの手によって破り捨てられていた。宿の中に他に誰かがいると気付いて探し歩いていたところを、ニドの奇襲を受ける。ニドは、プルダヴァーツとその息子を殺害しようとしていた。なぜならプルダヴァーツは、自分の兄を殺害した悪人だったからで、パッシャの論理からすれば復讐の対象だった。だが、ルークはその態度を否定する。結局ニドを説得することはできず、ファルスはニドと戦う。両者の力量差は明らかで、炎の神通力を制御しきれないニドは、ファルスに殺されそうになった。しかし、トドメを刺す瞬間、ルークが割り込んでニドを庇い、昏倒する。
プルダヴァーツはニドによって全身火傷を負ってしまった。一方、傷は小さかったが、ルークの症状は重かった。神通力に覚醒した可能性があるとして、アドラットはその状態を確かめたが、やがて最悪の事態に至ったと理解した。ルークは人の心を読み取る神通力に、歪な形で覚醒した結果、他者の苦痛だけを吸い取る力に目覚めてしまった。だが、そうと知ったルークは、自ら火傷に苦しむプルダヴァーツの手をとり、痛みを軽減させようとした。
ヤシュルンがドロルの協力を得てフリンガ城内の見取り図を作成し、ファルス達に配った。ファルスは、先に城に戻ったドロルの手引きで、オルヴィータに西門を開けてもらい、内部に侵入する。城の尖塔の一つに、ジャンとタマリアが囚われていた。それを見張っていたナイザは、主君の乱心に戦意を失った。救出されたタマリアは、安全よりもゴーファトへの復讐を選んだ。
地下室に駆けつけると、パッシャによる儀式はほとんど終わっていた。ゴーファトはファルスになり替わるつもりだったが、それはパッシャの計画にはなかった。それを食い止めるべく、ファルスはゴーファトの肉体を奪ったが、むしろそのために、遂に魔王シュプンツェが復活する。
アグリオは一晩で異界になった。白い触手のようなものが市街地全体に広がり、天は赤黒くなった。異臭のする粘液があちこちに水溜りを作っていた。ファルスは魔物討伐隊やヤシュルン、それにナイザらスーディア兵とも合流してシュプンツェに対抗しようとして、フリンガ城も焼き払った。だがそれでも討伐には至らず、僅かに残された家屋の中で、粘液の雨を避けるばかりとなった。その状況で、ノーラはシュプンツェの本体が、高原の泉の近くにいることを察知する。
スーディア兵達の協力によってファルス達は市街地から脱出し、泉の畔にいるシュプンツェの近くに辿り着いた。ピアシング・ハンドの力でシュプンツェを倒すと、そこには元の肉体に戻ったゴーファトが残されていた。
パッシャは一連の顛末を見届け、組織としての成果を得られたと喜んだ。怒り狂ったナイザは配下の兵士達に命じてパッシャの幹部達を殺害させようとしたが、逆にアーウィンの魔法によって、生き残りの兵士達もほとんど死に絶えた。結局、パッシャには逃げられてしまう。
タマリアは、先の儀式の影響でほとんど動けなくなったゴーファトを強姦し、自殺に追い込んだ。一連の結果を見て、使徒はファルスに褒美として、腐蝕魔術のための魔道具を与えた。王の密命を解決し、ファルスは今度こそ人形の迷宮を目指して、南へと向かった。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [タマリア], [ルーク], [ニド], [ドロル], [オルヴィータ], [ゴーファト], [ジャン], [ナイザ], [プルダヴァーツ], [アドラット], [チェト・エルダ], [コーポル・ウヤット], [ショダ・ポルタ・ウフラス], [ダヒア・ティピス・スクートゥ], [ヤレル], [クアオ], [ヤシュルン], [マペイジィ・タフータ], [デクリオン], [アーウィン], [モート・ムワンバ], [マバディ・シャバハ], [ウァール・ウブンジャーチ], [ハイウェジ・クオーナ], [シュプンツェ]
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『第二十七章 自由都市の祝祭』
四年ぶりにムスタムの地を踏んだファルスは、相変わらず追いかけてくるノーラを、何とかピュリスに追い返そうと悩んでいた。ノーラの提案を受けて、ファルスはディン・フリュミーの家を訪ねた。彼は不在だったが、メイドのハディマは二人を歓迎した。というのもフリュミー家には、オルファスカという胡散臭い女冒険者が顔を出すようになっていたためだった。彼女は、ディンの婚約者を名乗っていた。
ディンの兄でムスタムの顔役の一人でもあるバイローダは、この件でファルスからも話を聞かされるが、善処するとしか言えずにいる。一応、ディンには世話になった関係もあって、ファルスはオルファスカとその仲間達の排除に協力する。
夜間、ファルスは使徒からもらった腐蝕魔術の魔道具の性能を確かめた。また、スーディアで死んだドロルのことを思って、罪悪感に沈んでいた。
ムスタムの商会の人達との交流の結果、祝祭の日にミスコンテストを見物することになった。
オルファスカの仲間のラシュカが、ファルスを冒険者としての仕事に誘った。ファルスも、彼らを利用してノーラをピュリスに追い返そうと考えた。しかし、街から離れた依頼の場所で、オルファスカはファルスを性行為に誘う。その不自然さに思い至ったファルスは、ノーラを救うために走り出した。あと少しで強姦されるところだったことに激昂し、ファルスは暴れたが、ノーラが止めたので、オルファスカ達は殺されずに済んだ。
結局、オルファスカのいう婚約の件は嘘だったと判明した。彼女らの目論見を挫くべく、ファルスはバイローダを通してオルファスカにミスコンテストに参加するよう仕向けて、当日に魔術を用いて、大通りを歩くオルファスカを全裸にひん剥いた。大恥をかいたオルファスカは逃亡した。
ファルスとノーラは、その後、人形の迷宮を目指して南方に向かった。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ハディマ], [バイローダ], [サーシャ], [オルファスカ], [ラシュカ], [ザイフス], [ベル・タイレ], [フリッカ・ギャラティ]
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『第二十八章 迷宮都市』
ファルスとノーラは、ドゥミェコンに到着した。この街の中心にあるのが人形の迷宮の入口だが、迷宮と街の境界ははっきりしない。迷宮の攻略のための人工的な都市で、酒場から宿屋まで、何もかもが利権に縛られている場所だった。
帝都から、女神挺身隊の活動という名目で、大勢の若者が迷宮に送り込まれていたが、彼らは積極的に戦おうとせず、迷宮の入口に座り込んでいた。こうした若者達をカモにする、地元の冒険者達がのさばっていて、彼らはファルスにも案内人をつけようとした。
やむなくファルスは案内人のルングを雇って迷宮探索を始めるが、深い階層に案内してもらえなかったので、浅い階層のサソリを狩り尽くしてしまった。このことが冒険者達の親玉であったドミネールの怒りを買い、酒場で蹴倒されることになった。ルングは上から目をつけられたのを恐れて逃亡した。また、ファルスの積極性を知ったストリートチルドレンのアナクは、自分が案内人をすると売り込んできた。
ドミネールとその手下が嫌がらせをしてくるだろうと気付いたファルスは、あえて迷宮に潜って彼らを待ち受けた。ところがドミネール達は、下の階層に繋がる階段を爆破し、ファルス達を迷宮に閉じ込めた。ファルスとノーラは、トイレ代わりの大穴から上を目指そうとしたが、そこはドミネールの手下によって塞がれていた。
ファルスは水道に穴をあけて上から通路を開通させようと考えたが、そのために能力の入れ替えをする必要がある。一晩を迷宮の中で明かそうとしたところ、下の階層からワームが襲いかかってきた。これを撃退するも、リザードマン達の追跡によって包囲されてしまう。だが、一匹を打倒して人質にすると、上の階層への階段に誘導され、生還することができた。
予定通り、水道に穴を開けると、ドミネールの手下達の後に、なぜかこの街に流れ着いていたオルファスカ、それに冒険者の仕事を求めてやってきていたガッシュ・ウォーと再会する。
ガッシュは冒険者の仕事を諦めていた。人形の迷宮はドミネール達に仕切られてしまっており、まともに挑戦することもできない。だから彼は、黒の鉄鎖の傭兵団に所属して、赤竜と戦う機会を待っていた。だが、望んだような機会には恵まれず、日々を悶々と過ごしていた。
宿に帰ってから、迷宮の入口で座り込む挺身隊員コーザ・ノンシーから、助けを求められた。以前、宿屋の中で違法薬物を摂取していた挺身隊員がいたが、コーザは規則違反をしていないにもかかわらず嫌疑をかけられ、除隊処分を受けそうになっていた。そこでファルスは、挺身隊の団長キブラと面会して、コーザの潔白を訴えた。
まともに迷宮に挑めそうにない状況を鑑みて、ファルスは現金の手元があるうちにとアナクに迷宮の案内を依頼した。また、ドミネールに呼び出され、服従を要求された。ファルスは迷宮に自由に挑む権利と引き換えに服従すると答えたが、ドミネールは納得せず、物別れに終わった。
宿に戻ってみると、火災が起きていた。原因は、除隊処分になった挺身隊員の自殺だった。コーザは、以前の自殺者の遺書を抱えており、これをファルスに預けようとするが、ファルスはそれを断った。
ファルスはアナクの案内を受けて別の入口から迷宮に挑んだ。そこではワームが狩り放題だったが、ノーラが精神操作魔術で周囲を探ったところ、どうもアナクには地下のリザードマンが協力しているらしく、ファルス達は彼らに誘導されているとわかった。
狩りを終えて地上に戻り、ギルドでワームの尻尾を売却しようとしたところ、ファルスは南方大陸出身の長身の男、ビルムラールと出会った。世間知らずのボンボンといった風情ながら、医術や魔術に通じている彼を見て、ファルスは利用できる機会があるかもと考え、多少の金貨を握らせて別れた。
ノーラと宿に戻ると、上機嫌なコーザに出会った。彼は挺身隊の活動が終わりそうだという希望的観測を抱いており、気が大きくなって女遊びも覚えていた。心の中を魔術で読み取ったノーラは、その相手がラシュカであると知り、何かの陰謀があると感じて、ファルスに調査するよう言った。ファルスはラシュカのいる売春宿に行き、事情を聴きだした。
キブラは女神挺身隊、並びに現地の冒険者にギルドを通して召集命令を発した。これによってドミネール達は地下の拠点から追い出された。実はオルファスカがドミネールと挺身隊の癒着について調べ上げ、かつコーザの手にしていた遺書を証拠として手にしたがゆえに、キブラを脅迫したのが原因だった。
このままでは二人パーティーで活動しているファルスとノーラは、それぞれ別の班に編入されてしまう。それでファルスは仲間集めその他を急ぐ必要に迫られた。とりあえず、アナクの正体を暴くことにして、ビルムラールを伴って裏口から迷宮に入った。そこでワームを毒殺し、リザードマンを集めてから、アナクを人質にとって話し合いの機会を作った。リザードマンの長老・アルマスニンはアナクの素性について語った。ファルスは、助命の代わりに挺身隊員から金貨を奪うことを提案した。
五人組で迷宮に挑む必要のあるファルスは、ガッシュを仲間に引き込もうとした。だが彼は、傭兵団の仕事で、とある男を勧誘する義務を負っていた。やりかけの仕事を放り出すのは……と躊躇をみせたので、ファルス達はガッシュの勧誘についていった。その男は日替わりで仕事を変えており、その日は飲食業だった。席についても全員が水を注文したので、男は勝手にラム肉のカルパッチョを作り出した。だが、あまりに出来栄えが悪かったので、ファルスは食べもせず男の正体を暴いた。その男は、傭兵『戦鬼』と呼ばれたキースだった。
キースは、迷宮探索の手伝いをする前に、メンバーの実力を確認したいと主張した。力試しの後、キースは自分をリーダーとするパーティーを組んだ。それから地下に潜り、挺身隊員のためにワームの間引きを進めた。アルマスニンは歓迎の宴を催し、隙を見てファルスを別室に誘い、アナクを人間の世界に連れ戻してやって欲しいと頼んだ。
ファルス達は一度地上に戻ってから、ギルドの命令通り、迷宮に突入した。そこでアルマスニンの集落に向かったところ、誰かが裏口から通り抜けたらしいと判明した。ドミネール達がアナクの保護しているストリートチルドレンの一人を連れていたことが判明し、ファルス達は直ちに追跡に移った。ところが、その途中で背後から地下のリザードマン達の王、レヴィトゥアの配下に襲撃され、アナクを誘拐される。急いで後を追いかけるが、道を塞ぐように出てきた窟竜に妨害される。
ファルスとキースだけがドミネールの追跡に向かい、後はアルマスニンの拠点に引き返した。ファルスは、地下で殺しあう挺身隊員を見て驚くが、コーザが事情を説明した。挺身隊員は、身代金をもってこいという話を、金を奪い取るつもりのある誰かの計画であると受け止めたらしいとのこと。
キースにコーザを託し、なおもドミネールを探す途中で、ファルスは神官戦士を引き連れたオルファスカに発見され、追い回される。彼らをアルマスニンの集落に連れ込まないために知らない方向に走った結果、地下の大部屋に迷い込み、追い詰められる。しかしその時、下から巨大なクロウラーが出現し、大勢の神官戦士を飲み込んだ。ファルスはこれを倒すが、その死と同時に床が抜け、一気に迷宮の下層まで滑り落ちてしまう。
ファルスは、有毒ガスや崩落の危険のある地下道を彷徨いながら、自分の目的について思い悩む。運よく人工的な設備のある領域を抜けると、アナクが囚われている場所を発見した。彼女を救い出し、バジリスクの追跡を振り切って、上層への帰還を果たす。
そこでドミネールを発見した。ストリートチルドレンの少年が既に殺害されており、人質がもういないことを確認した二人は、まずファルスがドミネールの手下全員を誘導して殺害し、アナクもまた、自らの手でドミネールを殺した。
そこにキースが合流すると同時に、オルファスカ達も駆け付ける。ドミネールの死亡を確認して、神官戦士のリーダー・ロヒブはオルファスカを裏切った。しかし、ファルス達を逃がすつもりもなく、殺害しようとして返り討ちにあった。
迷宮攻略を命じたキブラはすべての手駒を失い、ドゥミェコンは防衛力をなくした。黒の鉄鎖も傭兵団を引き揚げつつあった。それでいて、地下からはレヴィトゥアが攻勢を強めており、ファルス達はこれを討って迷宮の主の居場所に向かうべく、再度地下に向かった。下層では、レヴィトゥアが用意した窟竜の群れが襲いかかってきた。本拠にいたレヴィトゥアは強力な魔法を用いるだけでなく、竜をも使役する力を有していたが、紙一重のところでファルス達が勝利を収め、アルマスニンの拠点まで撤退した。
重傷を負ったガッシュだが、この後の迷宮の主への挑戦には参加したいと主張した。ここで自ら石像になり、永遠に眠るつもりのファルスだったが、実際に迷宮の主・ケッセンドゥリアンと対面すると、石像になってもいつか魂が老化して死ぬと判明、ファルスはケッセンドゥリアンから魔眼の力を奪い取って殺した。
迷宮都市はその目的を果たし、放棄されることになった。地下からアルマスニンらリザードマンが地上に出てきて、残っていた酒場や商店を見て回って楽しんだ後、砂漠の彼方に去っていった。
結成したパーティーを解散し、ファルスはノーラとリザードマンのペルジャラナンを連れて、サハリア東部を目指すことになった。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [コーザ・ノンシー], [ルング], [バン・ダーナ], [ドミネール], [ガッシュ・ウォー], [オルファスカ], [ラシュカ], [ザイフス], [ベル・タイレ], [アナク], [アルマスニン], [レヴィトゥア], [グロッタ], [ビルムラール], [キース], [キブラ], [ロヒブ], [ペルジャラナン], [ラップス], [ケッセンドゥリアン]
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『第二十九章 慟哭の谷、叫喚の嵐』
ファルスは南方大陸の大森林を目指すついでに、アーズン城にいるであろうティズを訪ねることにした。ノーラとペルジャラナンを連れて、ドゥミェコンから最寄りの村落、ヌクタットに向かった。そこで偶然、ミルークと再会してしまう。だがミルークは、ファルス達のことを知らないふりをして、馬に乗って南方へと立ち去ってしまう。宿屋に預けた荷物を回収すると、三人はミルークの後を追いかけた。
赤の血盟の支配領域を抜けて、黒の鉄鎖のフマル氏族が支配する村落、アラワーディーに到着すると、三人はミルークの行方を捜した。ミルークは村長の家の地下に囚われていた。救出して、逃走しようとしたが、フマルの騎兵に発見されてしまう。やむなく応戦し、追手を避けるために赤竜の谷へと逃げ込んだ。
夜間、ファルスはミルークと語り合い、これまでの出来事を伝えた。
夜明けになって、フマルの兵士達が外で待ち構えているのに気付いて、四人は投降を選択した。しかし、功を焦ったフマルの兵がファルスを攻撃したために戦闘に発展し、この騒ぎに気付いた赤竜も人間を殺すべく暴れ出した。
谷からの逃走を試みた四人だが、出口が塞がれてしまったために道を引き返し、そこでフマルの戦士長、アサールと対決する。彼らを殺害せずに制圧し、一行はそのまま脱出を図ったが、怒りに燃えるアサールは、角笛を吹き鳴らして赤竜の注意を引きつけてしまった。
フマルの追手を振り切った四人は、今度は赤竜に追われながら逃げ続け、一頭の赤竜を仕留めるが、別の赤竜によって奇襲を受けてミルークが致命傷を負う。ファルスはその赤竜をピアシング・ハンドで消し去り、その肉体をミルークに与えることで生かそうとしたが、間に合わずミルークは死亡した。
その直後、雨が降り始める。これが砂漠では大きな危険に繋がることを悟った三人は、逃げ場を求めて谷間を駆ける。高台に陣取って自分達の体をロープで固定したが、濁流にのまれてノーラとペルジャラナンが行方不明になる。
洪水が収まった後、ファルスは二人の行方を求めて一週間、赤竜の谷を彷徨ったが、発見できなかった。二人の生存を絶望視したファルスは彷徨いながら北を目指した。辿り着いた先のヌクタットは攻め落とされており、大勢の犠牲者の遺体が転がっていた。南北間の戦争は避けられない情勢となっていた。
怒り狂ったファルスは、アーズン城に到着した。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [イルキャブ], [ミルーク], [アサール]
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『第三十章 血墨戦役』
アーズン城に乗り込んだファルスはティズにミルークの死を告げ、責任を追及した。そこに赤の血盟を裏切ったフィアン氏族の使者が降伏を勧める書状を持ち込んだ。ティズは抗戦を決め、使者を追い返すよう命じ、ファルスは勝手に外に出て彼らを惨殺した。
ネッキャメルの頭領の間では、抗戦か降伏か、戦うならどうするかについて会議が紛糾したが、結局、主力はアーズン城に留まることとなり、僅かな手勢をラークが率いてブスタンの防衛に向かうことになった。ファルスはラークに同行した。道中、敵軍に見つかって凌辱の末、殺害されたネッキャメル氏族の人々の遺体を発見した。
ブスタンに到着したが、ほとんど援軍を寄越さなかったティズへの不満から、ラークの遊撃戦による遅滞作戦が承認されず、敵を正面から迎撃しなければならなくなった。広場にいたファルスは、通りがかったジルに気付いて声をかけ、彼女の家で過去についての話を聞く。
ブスタンにはフマル氏族やセミン氏族の連合軍が殺到した。ファルスは魔術でも白兵戦でも活躍し、ブスタン市内に潜んでラークを闇討ちしようとしたフマルの戦士をも打倒した。また、この時、ジルは追い詰められたラークを救って参戦した。憎悪に燃えるファルスは、捕虜を塔の上から突き落として殺害した。撤退した敵兵を追い詰めるため、ファルスは赤竜に変身して夜襲をしかけ、彼らを潰走させた。
また、同時に攻撃を受けていたアーズン城とハリジョンを支援するため、アーズン城を包囲していた敵軍に対しては、腐蝕魔術で飲食物を汚染し、ハリジョンを囲む敵の海軍に対しては、ケッセンドゥリアンから奪った魔眼の力を用いて石化して、全滅させた。
アーズン城を囲んでいた黒の鉄鎖の兵は汚染の効果によって急激に弱体化し、数日後に偵察したファルスが、既に敵が無力化されていることを確認した。その夜の戦闘によって、アーズン城を包囲していた黒の鉄鎖の軍勢は壊滅した。また、ジャニブ氏族のタッサルブが救援に駆けつけた。
ティズはファルスの今後の参戦が、その人生に悪影響を及ぼす可能性も考えて、別人の名前を使うことを勧めた。ファルスは以後、アネロスの息子を名乗ることにした。
進軍する赤の血盟の軍勢は、フィアナコン近辺の水場で、大勢の同族が殺戮されているのを発見した。ラークの妻も凌辱の末、殺害されたのが確認された。そこへフィアンの族長の弟、ハーダーンがやってきて、ティズに降った。
翌日、両軍はフィアナコン郊外で激突した。先陣を切ってタッサルブは突撃した。ジャニブの騎兵は、火の賢者ナルーの魔術によって大きな被害を被ったが、その後ファルスがナルーを討ち、逃亡するアールンを追いかけてフィアナコン市内に乱入、これを捕縛して勝利した。
ティズはハーダーンに対して賠償金その他を要求し、アールンを残虐な方法で処刑した。また、フィアナコンをミルーコンと改名すると宣言した。
ティズはファルスに、ミルークの郎党を預け、ジルを守らせるようにと頼んだ。
遅れてやってきたニザーン氏族と同盟の長アラティサールは、ハーダーンを処断しようとしたが、ティズがこれを庇った。アラティサールは、参謀としてハビを連れていた。
赤の血盟の軍勢は、続いてバタンに進軍した。しかし、布陣した日の夜、突如砂嵐と落雷、地震が巻き起こり、同時にセミンの竜騎兵の襲撃を受け、赤の血盟の軍勢は離散した。ファルスは友軍と合流しようと戦場を彷徨ったが、正体不明の黒い影に襲撃され、重傷を負う。右翼の戦場ではセミンの部将タリアンに殺されかけ、続いてフィアンの軍勢からは報復されかけた。
夕方になってティズが再集結させた軍勢に合流し、岩山の中で休憩した。しかし、既にネッキャメルの軍勢は土の賢者アルタラバに包囲されており、生き埋めにされかけていた。ファルスはアルタラバを爆殺して、危機を逃れた。
翌朝、奪われた陣営を奪回すべく、ティズは軍勢を引き連れて舞い戻った。元の陣地を押さえていたのは風の賢者リフだった。矢を浴びせても届かず、跳ね返されてしまう。物資が尽きて手の打ちようがない中、ファルスはピアシング・ハンドでリフの魔術の力を奪い、ディノンに射殺させた。また、赤の血盟の背後を狙ったタリアンは、ファルスの存在に気付いて一騎討ちを挑むも、逆に討ちとられた。
バタンもネッキャメルの支配下に収まった。ファルスはティズから戦争の原因や、異様な状況について問い詰められるも、答えることができなかった。そのまま眠り込んでしまい、目が覚めた時、狂気に囚われた。捕虜を虐殺するために収容されている施設に向かい、そこで次々決闘を要求しては殺害した。
敗走していたニザーンの軍勢が戻ってくると同時に、ノーラとペルジャラナンが生きて帰ってきた。死んだものと思い込んでいたファルスは、自分のこれまでの行いを思い返して混乱した。
アラティサールは戦争の継続を決定し、アルハール氏族の討伐には自らが、フマル氏族の討伐は他に任せることとした。
フマル氏族の拠点、タフィロンを陥落させるべく、シジャブを総大将として赤の血盟は進軍したが、先鋒を務めるフィアンは族長ハーダーンを射落とされて敗走した。アラワーディーの水場を失って先を急ぐシジャブは、フマルの女戦士キスカの手によって射殺された。劣勢に立たされた赤の血盟だったが、ノーラが腐蝕魔術によってフマルの弓騎兵を虐殺し、ファルスがキスカを捕縛することで戦闘は終結した。
赤の血盟はタフィロンを包囲したが、フマルの族長ハダーブは、奇策を用意していた。岩山の上の城から、包囲する敵の陣地の裏側に繋がる坑道を掘り抜いており、そこから背面攻撃を加えた。発見が早期でもあったので被害は限定的だったが、ジルが敵に捕縛された。ラークは彼女を救うべく、交戦許可を求めた。ファルスを先頭に、赤の血盟の軍勢はタフィロンに攻め込み、これを占領した。ハダーブは敗北を悟って、居城の上から身を投げて自ら命を絶った。フマルの非戦闘員も凌辱されることを恐れ、その多くが自殺した。
それから間もなく、西方でニザーン氏族の軍勢がアルハール氏族に敗北し、アラティサールが戦死したとの報告が伝わった。ティズはジャンヌゥボンに急行し、その場に駆けつけたファフルに状況確認した。判明したところでは、アラティサールはもともと黒の鉄鎖側と気脈を通じていたという。参謀のハビは、疑われて捕縛されていた。ハビは主君の罪をかぶって処刑されたいと申し出たが、ティズは許さなかった。
そこへアルハールの軍勢が寄せてきたので、ハルブ砦を巡っての会戦となった。一押しで潰走を始めたムナワールの騎兵隊だったが、追撃してきた赤の血盟の兵を水の賢者マーノンの魔法で叩き潰した。しかし、ファルスによって魔力を失うと、すぐさま溺死した。ムナワールとアルカンは、敗北を悟って砦を出て投降した。しかし、監禁されていたムナワールが何者かの手によって暗殺されてしまう。
ティズはラークを使者として、ラジュルナーズに投降を呼びかけ、それは受け入れられた。ジャンヌゥボンの内城の入口で、ラジュルナーズはティズを相手に即興の詩を吟じる。その後、彼は責任を取るため、毒杯を呷って自決する。
ハビの正体を見抜いたファルスは彼を呼び出し、戦いの末に殺害する。
戦後、ティズはハーダーンにミルーコンの統治を許した。ノーラはティズから銀の指輪を与えられ、騎士身分を得た。ラークは天涯孤独なジルに求婚し、受け入れられる。ファルスはキトの実質的な支配権を与えられた。戦争中、ファルスの郎党となった四人のうち、フィラックとタウルが同行することになった。
戦争終結から一ヶ月半後、ファルス一行は南方大陸に向かった。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [アサール], [ティズ], [アスガル], [ラーク], [リヤ], [シジャブ], [ファフル], [タジュニド], [ジル], [タッサルブ], [アールン], [ハーダーン], [アラティサール], [ハビ], [イッファーハ], [ムフタル], [フィラック], [タウル], [ディノン], [シックティル], [ビッタラク], [ラジュルナーズ], [ムナワール], [アルカン], [ナルー], [マーノン], [リフ], [アルタラバ], [タリアン], [キスカ], [ハダーブ]
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『第三十一章 泥土の国々』
最初にキトに寄港したファルスは、ここで一週間の休暇を取った。その間に魔術書の内容を筆写し、持ち歩くことにした。また、ノーラには旅の目的を説明した。タウルはシュライ人の無常観について語った。
カリに寄港したタジュニドは、そのまま王宮に向かい、カパル王に謁見した。ティズからの親書を差し出し、ファルスを賓客として扱い、責任もって関門城まで送り届けるよう要求した。しかし彼自身は他にも仕事があるため、間もなく立ち去っていった。
仲間を死なせないために最善を尽くすと決めたファルスは、大金を投じて高価な武器を購入することにした。そこで容赦なく鞭打たれる少年、使用人のクーと出会う。まるで人を人として扱わない彼らに不快感をおぼえてファルスは宿舎に引きこもっていたが、そこに女神神殿のバーシュリクがやってきて、移民の引き取り先になって欲しいと陳情してきた。
厄介ごとを避けるためにファルスは観光がてら外出するが、そこでクーに再会し、スラム街を見て回る。そこでシュライ人の刹那的な生き方、人情のなさを思い知る。
マオ・フーの命令で南方大陸東部を目指すジョイスが、出発直前のファルスを発見し、合流した。購入した武器を受け取りに行った際に、クーの父親が僅かな金貨でクーをファルスに売り飛ばした。
流れで買い取らされたとはいえ、クーを信用できないファルスは、手元の現金をクーに預けてみることにした。盗んで逃げてくれれば、そのまま放り出せば済むと考えた。
ファルス一行はクース王国のフィシズ女王と謁見した。女王はファルスとノーラを伴って、金鉱の見物に出かけた。そこで女王の横暴さを目にする。
実はフィシズはレズビアンで、ノーラをものにしようとしていた。そのために毎日のように宴を催し、出発を妨げていた。だが、ファルスがいよいよ出発しようとしたので、フィシズはゾラボンを送り込んで暗殺しようとした。それでファルスは身の安全を確保するために、ジョイスと共に宮殿の深部に乗り込んだ。
結果、出発はできたが、クース王国と赤の血盟の板挟みになった大臣クリルは、ファルスを賓客として扱うのをやめ、途中で帰国することになった。出発したファルス達をブルーグが傭兵を引き連れて追いかけたが、返り討ちにされた。
エシェリクの街でファルス一行は現地の食べ物を食べ、宿に泊まった。料理は口に合わず、宿屋の寝床は南京虫でいっぱいだった。
関門城に到着した日の夜、ファルス一行は国王ベルハッティに招かれた。彼は関門城の歴史を語り、大森林に挑む際には法令通りにすることを求めた。
翌朝、ファルスは一時的な許可を得て関門城を通り抜け、大森林の地に一歩を踏み出した。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [フィラック], [タウル], [ディノン], [タジュニド], [ジョイス], [カパル], [クリル], [バーシュリク], [クー], [フィシズ], [ラピ], [ブルーグ], [ゾラボン], [ベルハッティ]
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『第三十二章 緑の闇の中で』
大森林探索を計画するファルスだったが、同行した仲間達の立場や意見はバラバラだった。話し合いは一度決裂し、ファルスはそれを収拾する必要に迫られた。
タウルの実家に立ち寄り、西部シュライ人、とりわけ大森林に暮らす人々の刹那的な生き方を目の当たりにする。また、タウルの昔馴染みのラーマと出会い、大森林での冒険者の生活について語ってもらった。
先日大森林の奥地で捕らえられてきた獣人が、オークションにかけられると知って、ファルスとノーラは会場に向かった。大森林探索の目的である、かつてのルーの種族の都・ナシュガズと、不老の果実の発見のために手を貸してもらえそうであれば競り落とそうという考えだったが、そこで獣人ディエドラはファルスの一言に激昂して暴れ出す。凶暴性を目にした商人達が買い渋る中、ノーラが底値で競り落とした。
だが、それを不満に思ったゲランダンは、別の商人にこっそり売り渡して、獣人をファルスに引き渡すのをごまかそうとした。だが、クーが異変に気付いてファルス達に伝えたため、間一髪それを食い止めることができた。
ファルスは、大森林探索許可を得るため、同行者を募集した。だが、案に相違してそこに応募してきたのは普通の人間達ではなく、亜人のシャルトゥノーマ、異様な魔力を有するイーグー、そしてワノノマの武人アーノだった。やむなく彼らを受け入れ、監督官ディアラカンに出発許可を求めた。
購入した獣人ディエドラは依然、凶暴で服従する気配を見せなかった。ファルスは説得するため、ご馳走を振舞うなどしたが、それでも協力を引き出せないので、関門城の通路で素手での勝負で彼女を打ち倒し、従わせた。
自分の班の構成が固まったので、ゲランダンやディアラカンの協力によって他の班を招集し、出発のための打ち合わせを行った。新たにアワル、ペダラマンが率いる二つの班が加わり、また探索の手順が決まった。大河ケカチャワンまでの物資輸送はアワル、ルルスの渡しと呼ばれる中継地点まではペダラマン、ケフルの滝という中継地点まではゲランダンの班がカバーすることになった。なお、ペダラマンの班に所属していたストゥルンは、ファルスの班に加わって最奥地を目指すことを希望した。
ファルス達は大森林に立ち入った。初日は『人食い』と呼ばれる植物にクーとラピを殺されそうになった。大森林の中の最初の中継地であるマンガナ村では、招集した人員の一人が、ペダラマンの部下シニュガリによって殺害される事件も起きた。次の中継地に向かう途中では、悪臭をまき散らすサルを殺してしまい、そのために夜間には魔物の波状攻撃にさらされることになった。また、巨大蟻の行進に遭遇したために、犠牲者と逃亡者が出てしまった。
二つ目の中継地であるケジャン村に到着したが、そこは脱法移民の村だった。到着早々、ファルス達は人肉を差し出された。滞在二日目に、アワルが率いていたボート運搬部隊がストライキを起こし、ファルスは実力行使でこれを制圧する。だがその裏で、ケジャン村のならず者達がラピを強姦しようとして、騒ぎになった。
大河ケカチャワンに到着して、川を遡行し始めた。人面魚や人魚の襲撃に悩まされつつも、川底から財宝を拾い上げることに成功した。だがそのせいで、ペダラマンは撤退を要求した。探索を続行したいファルスはこれを説得した。
ケジャン村と同盟関係にあるゲランダン、ペダラマンの班は、ルルスの渡し付近にある脱法移民の村であるベルムスハン村を襲撃した。この戦いに勝利して、数人の捕虜を得て帰還した。ファルス達は、この不愉快な探索についての責任追及を始めてしまい、仲間の間で言い争いになってしまう。また、翌朝、昨夜の雨で増水したせいで、シニュガリは自分の担当していたボートを流されて失った。その失敗をクーに押し付けようとして騒動になった。
ペダラマンの班を後に残して、ファルス達はケフルの滝を目指した。だが間もなく、吸血虫の群れに襲撃される。ゲランダンの班はまたもや死者を出してしまった。その後は雨が降らず、川の水量が極端に少なくなり、ボートをロープで引っ張るような状況になった。ディエドラは銀の首輪が日差しに熱されて苦痛なので、外してくれるよう頼み、ファルスはそれを受け入れた。
ケフルの滝に到着してから、更なる奥地に進んだ。そこでゲランダンは以後の探索についての方針について提案し、ファルスとフィラックがそれぞれ手分けして偵察に向かうことになった。最奥地でファルスはディエドラに本音を伝え、逃げ去っていい旨も伝えた。そこで雑用のために、同行したストゥルンとシャルトゥノーマも立ち去ったが、戻ってきたのはシャルトゥノーマ一人だった。彼女の敵意を悟ったファルスは説得を試みるが戦闘になり、シャルトゥノーマは逃走した。
行方不明のストゥルンを救出するため、ファルスは夜間の川沿いを走ったが、そこにはディエドラが待ち構えていた。彼女は獣の姿に変身し、ファルスに戦いを挑む。だが、そこに後を追いかけてきたアーノが割り込んで、ディエドラに重傷を負わせる。大森林の案内役として、ディエドラを必要としていたファルスは彼女を守るべく戦うが、その際にアーノが所持する霊刀にファルスの持つ剣が反応して「邪悪な存在」であることが露見する。
ディエドラを逃がしてからはファルスも戦闘を中断して逃走し、元のキャンプ地まで引き返した。だが、そこは無人になっており、最前線まで出てきた監督官のディアラカンも殺害されていた。更に引き返すと別のキャンプ地が設けられており、そこにケジャン村の連中がやってきていた。これを殺害して仲間との合流を目指していたところ、ゲランダンの部下であるグルの罠によって負傷する。
夕方になって、ファルスはストゥルンに助けられて意識を取り戻す。それから、捕らえられたというディエドラを取り戻すため、元のキャンプ地に引き返してみたところ、ゲランダンとペダラマンの班が入り乱れて殺し合いをしているところを目撃する。そこにファルスは、秩序なき自由の悲惨を見出した。
ディエドラを救うためにファルスは、その殺し合いに介入する。そうこうするうちに仲間達も合流した。シャルトゥノーマはディエドラを救うためにファルスとの争いを一時脇に置いた。アーノは邪悪を滅するためにファルスとの対決を選ぶが、殺し合いになる前にタウルが戻ってきて、魔物の暴走の発生を告げる。
暴風雨の吹き荒れる中、無数の魔物がファルス達のいる丘の上に殺到した。数時間かけて戦ってこれを退けるが、終わりは見えなかった。ファルスは遠くからの角笛のような音が暴走の原因になっているのではないかと推測して、一人森の奥に向かった。音の聞こえた場所に到着してみると、地面の奥からの奇襲を受けた。必死で逃れながら丘の上に駆け上がると、地面の中にいた巨獣はようやく姿を見せ、ファルスはこれを消し去ることに成功し、魔物の暴走を終わらせることができた。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [フィラック], [タウル], [ジョイス], [クー], [ラピ], [ベルハッティ], [アーノ], [イーグー], [シャルトゥノーマ], [ディエドラ], [ディアラカン], [ゲランダン], [チャック], [トンバ], [プングナ], [グル], [アフリー], [ラーマ], [ペダラマン], [ストゥルン], [シニュガリ], [アワル], [ヤン・ビサ],
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『第三十三章 神秘の地へ』
魔物の暴走の後、生き残ったのはファルスの班以外には、ストゥルン、ゲランダン、チャックだけだった。ファルスが仲間のもとに戻ると、ゲランダンは捕縛されており、その正体は明らかにされていた。魔物の暴走を協力して乗り切ったこともあり、ファルスは直前に対立したゲランダンやシャルトゥノーマ、ディエドラ、アーノを処罰・排除する方針を取らなかった。
シャルトゥノーマは、集団として食料など資材が尽きたこともあり、最寄りのラハシア村に立ち寄ることを提案する。そこはルーの種族に協力する人間の村だった。ラハシア村に到着してすぐ、村長との面会をもったが、その時、アーノと村長は亜人、獣人の過去について言い争う。アーノは、かつて亜人達が人間の領域に攻め込んだと解釈していたが、ルーの種族の側では、彼らはやむなく北方に向かった難民であり、人間側がこれを虐殺したのだと伝承されていた。
ラハシア村には理性ある小人族のクヴノックがいた。彼はルー語をファルスに教えた。またラハシア村では灌木の蒸し焼きが繰り返されていた。これが黒土の丘の作り方であるとファルスは知った。
奥地の長老達の話し合いの結果、アーノは強制退去、その他は先に進むことを許された。数日間かけて危険な沼地を抜けて、一行は獣人の住むビナタン村に到着した。そこで村長のワリコタから、八つの種族の誕生についての伝承を聞かされる。また、ふとしたことからファルスはチャックの過去について知る。
その後、一行はルーの種族の都とされているカダル村に到着する。そこで小人族の長トスゴニから、シャルトゥノーマ、ディエドラの両名と縁を結び、二人に外の世界について学ばせることを要請される。また、一行を歓迎する宴会の最中、泥酔したゲランダンが本音を口にする。
一行はナシュガズを目指すため、その麓にあるアンギン村に向かう。そこで長老のプリアトゥアから二百五十年前の探索において記録された地図を受け取る。休養をとってから、一行は南の山の中へと分け入っていく。高地の岩山の中に踏み込んでいくと、グリフォンの集団に襲撃された。
昔のルーの種族の探索隊が撃退された地点にファルスは単身で向かい、山を支配するグリフォンの特殊個体に挑む。これを倒したところ、大勢のグリフォンが仲間達めがけて殺到したため、魔術を駆使して逃れながら、こっそり南方を目指した。だが、あるところで暴風雪が巻き起こり、一行は雪山の中に閉じ込められる。
身動きとれずに眠っているところに、謎の何者かの声が聞こえて、ファルス達は目を覚ました。暴風雪が収まりつつあると知って、急いで南を目指して歩き出した。古代の箱舟を山頂に発見し、それに乗り込むとひとりでに動かして、一行はナシュガズに運ばれた。
ナシュガズの入口で小休止してから、一行は市内を歩いた。中央の広場では、水と金の比重を比較した記録が残されていた。記録が事実とすると、毎日金の比重が変化していたことがわかり、古代においては世界の物理法則に理解不能な変化が起きていたことがわかった。また広場には、イーヴォ・ルーの使徒達の彫像と、五百五十年前にこの地を捨てたルーの種族の人々の記録が残されていた。墓地では、ユニークな遺言の数々を目にした。
翌日、黒き花嫁として伝わるコラ・ケルンの家に向かい、めぼしいものがないかを探した。ファルスは単独行動中、とある納屋の中でルアと名乗る何者かに話しかけられる。市庁舎の宝物庫の鍵と、鏃のようなものを二つ手渡された。ナシュガズの南東にある高台に向かうと、大森林の全図が残されていた。そこに不老の果実の在り処も示されていた。
地図に従ってファルス達は不老の果実のすぐ近くまで辿り着いた。そこでファルスは単独で向かい、緑竜を一頭、種に変えて安全を確保した。ところが、全員で不老の果実の近くに向かったところ、もう一頭の緑竜が現れて、一行を排除しようとした。ファルスはやむなく応戦し、イーグーの支援もあってなんとか討伐するが、その隙をついてゲランダンとチャックは、不老の果実を確保しようとしたストゥルンを殴打して果実を奪って逃げた。二人はすぐに発見されたが、ゲランダンは無理やり果実を飲み込んだ。すると彼はたちまちのうちに若返り、果実の効果を明らかに示した。ファルスの仲間達は怒ってゲランダンを殺害しようとするが、ファルスはそれを止めた。許されたゲランダンだったが、実はチャックにとっては父親の仇であったため、彼は毒塗りのナイフを突き刺し、自らもゲランダンの槍に倒れた。
二人が死んだ後、ファルス達は緑竜を解体し、筏を組み立てて、川を下って大森林を縦断し、探索を終えた。
登場人物:
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [フィラック], [タウル], [ジョイス], [クー], [ラピ], [アーノ], [イーグー], [シャルトゥノーマ], [ディエドラ], [ゲランダン], [チャック], [ストゥルン], [クヴノック], [ボル], [ヨルバル], [ワリコタ], [トスゴニ], [プリアトゥア], [ゾリム], [ルア]
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『第三十四章 夕凪の汀』
ファルス達は大河ケカチャワンの下流、ナディー川で上陸し、近隣の村に辿り着いた。そこから馬車で西に向かい、アリュノーに向かった。緑竜の素材をギルドに預け、ホテルに入って休養を取った。そこで今後について話し合った。その際、街中で情報収集したタウルが、クース王国のフィシズ女王の失脚を伝える。ストゥルンは関門城に引き返し、赤の血盟の後援を受けながらルーの種族の支援に乗り出すことになった。
その夜、ファルス達は土地の富豪、ワングに招かれて彼の邸宅に向かった。ワングはファルスが持ち込んだ緑竜の素材を買い叩こうとしたが、ファルスはワングがグルービーの関係者で、ピュリスに病原菌を持ち込んだ人物だと気付いた。都合の悪い事実を知られたワングは、ファルスに逆らわないことにした。
ファルス一行はワングの別荘に二週間ほど留まった。その間にファルスは、先のナシュガズで入手した魔術書や魔道具について調査した。また、毎夜のように手にした剣の呪いに心を蝕まれていた。
北方行きの船を待つうち、ストゥルンが街中で変わった豆を見つけて帰ってきた。ファルスはそれを口にして、コーヒー豆だと悟る。莫大な富を生むと知って、ファルスは原産地に行きたがる。その日に北方行きの船の船長にするつもりの一行が到着した。その船長候補はディン・フリュミーで、更にキースとビルムラールが行動を共にしていた。
とにかくコーヒーを無視してはいけないので、ファルスは先にコーヒーノキの原産地に向かった。だが、土地を買い占めようとして、トゥワタリ王国の法では、外国人の土地所有が普通では許可されないと知る。宗主国のポロルカ王国まで向かうことになった。そこでストゥルンだけ北方に送り出し、ファルス達はディン・フリュミーを船長とするワングの商船に乗り、南方に向かった。
バハティー港でいったん下船して、一行は休養を取り、ワングは商品を捌いた。ファルスはクーとラピに魔法の力を分け与えた。
何のために旅を続けるのか、不老不死を得ることに価値があるのか、ファルスはここまでの探索で悩みを深めていた。ディン・フリュミーはそんなファルスの様子を見て、夜の街に誘い出す。そこで彼はファルスに、かつての自分の初恋の話をした。
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [フィラック], [タウル], [ジョイス], [クー], [ラピ], [イーグー], [シャルトゥノーマ], [ディエドラ], [ストゥルン], [ワング], [ディン・フリュミー], [キース], [ビルムラール]
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『第三十五章 南海の暗雲』
ファルス一行はポロルカ王国の都、ラージュドゥハーニーに到着した。この国は南方大陸西部とは正反対で、物乞いの縄張りまで利権で決まっているありさまで、自由と流動性のない社会だった。
ワングの知り合いの貴族バンサワンと面会の機会を持ち、コーヒー豆の産地の土地を購入する許可を取り付けようとしたが、その際にポロルカ王国の現状について教えられる。先王が死去したばかりで、四人の王子が残されているが、次代の王になるはずのイーク王子は、ブイープ島に青竜が出没しているせいで、即位に必要な一連の儀式を済ませることができず、国事の一切が滞ってしまっていた。
ビルムラールの実家であるシェフリ家を訪問した。その父ヒランは、先の不祥事に端を発する処分を解かれておらず、一族が困窮している様子を語った。キースはヒランに師事して魔術を学ぶことになった。
コーヒー農園購入の手続きが進まず、待たされたファルス達は観光に出かけた。まず、偉大なる者達の石碑と呼ばれる記念碑を見に行った。そこにはシュライ語の他、ルー語でも記述がなされていた。また、他にも謎の慰霊碑らしきものが見つかった。触手の塊のようなイーヴォ・ルーの像と、これと対決するギシアン・チーレムの像も置かれていた。ワングは、次に街の外れにある百族百家閨門交媾図に一行を案内した。それは建造物で、性交渉の様子を浮き彫りにしていた。そこに描かれているのは人間だけでなく、ルーの種族も含まれていた。ワングは、この建物にまつわる歴史を語った。偽皇帝アルティが南方大陸に攻めてくることを恐れた一部の貴族が謀反を起こし、その懲罰として、ここで男児の去勢が行われたという。その貴族の末裔は、今も宮廷で仕えているとのことだった。
帰り道に都の名物である運河に立ち寄った。この街の住人は、運河で水浴びをする。また、そうした人々を目当てに物売りが運河沿いに大勢いる。そこでワングは、兄のケナランと再会する。ケナランは実家に連絡を入れないワングを責めるが、彼は兄を追い払った。それについて物言いたげなファルス達に、運河で洗濯をする貧しい人々の姿を突きつけた。
即位の儀式の一環として、先王の棺を運ぶ行列が大通りを通過することになった。当局の意向に従って、ファルス達も王の棺を見送ったが、その際にフィラックがスリに財布を奪われた。それに気付いたジョイスが彼らを追いかける。スリをした少年はとっくに受け子の妹に財布を渡し、妹はそれを下着の中に隠してしまったので、手出しできずに困っていたが、ワングは乱暴なやり方でそれを取り戻した。その様子を見て、ジョイスはピュリスに残してきた妹のサディスのことで、悩みを深くする。
王の死を嘆く名家の者達の催し物を見てから、ファルスは宿に引き返したが、ペルジャラナンから相談を持ちかけられる。彼は祖先の居場所を知るという目標を達成した後、広大な人間社会とどう付き合っていけばいいかわからず、悩んでいた。
イーク王太子は、即位のためにブイープ島での最後の儀式を行う必要があったが、そこには青竜が居着いてしまい、海軍を派遣してもこれを追い払うことができなかった。それで冒険者達にも討伐作戦に参加するよう、当局からの命令が下った。その際、居合わせたワノノマの魔物討伐隊も参加することになったが、その隊長であるザンは、ペルジャラナンを見るなり斬りかかってきた。
青竜討伐は予定通り、ザンら魔物討伐隊の船が誘い出し、河口の水門の内側に青竜を引き込んでから倒す流れとなった。しかし、二頭いるうちのもう片方までついてきてしまい、被害が広がると判断したファルスは単身、水中に潜ってもう一頭の青竜をピアシング・ハンドを用いて倒した。その時、この青竜が何者かに使役されているらしいと知る。
青竜討伐に貢献したということで、ファルス達やザンらは王宮の内側に招かれる。そこで四人の王子や、シェフリ家を除く王家に仕える四色の魔術師の長達や、将軍達と顔を合わせる。これによってファルスの身元が知られるようになり、あちこちから声がかかるようになる。
まず、ドゥサラ王子がファルス一行を招いたが、彼はキースを苛立たせてしまい、木剣で殴打されてしまう。あわや大事件というところだったが、問題にならずに済んだ。また、ティーン王子もファルスを夜の会合に招いた。チャール王子はファルスではなく、ノーラの美貌に魅了されたのか、彼女を夫人として迎えたいとして、使者を送った。その企みは宰相バーハルの知るところとなり、妨害されてノーラは宿に送り返された。
ファルスとノーラ、ペルジャラナンは、ティーン王子の側近の一人、地方領主のバグワンに招かれて、都の郊外の別荘に向かった。バグワンはファルスに対して親しげに振舞ったが、夕刻の宴会の際に差し出された酒杯には毒が盛られており、ファルスは命を落としかける。バグワンにはファルスを殺害する意図はなく、また心当たりもなく、この件を内密にするようにと頼み込んだ上で、ファルス達を送り返した。だが、それから間もなく、バグワンが殺害されたとの報が伝わった。
この件について、ファルス達はワングを通じてバンサワンに問い合わせたが、彼からは短い手紙が返ってきただけだった。クーは内容から、ファルスが疑われているらしいと察知するが、ファルスは自身の政治的立場から、軽挙妄動は避けなくてはならず、おとなしく捕縛された。また、ノーラはチャール王子に回収された。
囚人となったファルスのところにティーン王子がやってきて、怒りをぶちまけた。だが、魔術で連絡を取り合っていたノーラから、イーグーが行方不明になったことを告げられて、事態が動き出していると悟り、ファルスは脱獄した。市内に舞い戻ったファルスはケナランの家に寄り、追っ手をかわしながら、仲間達と合流する。だが、王宮内のノーラを回収する前に、ブイープ島の方から、魔術を用いた大規模な戦闘が繰り広げられている様子が見えてしまった。
王宮に潜入して、ノーラを取り戻そうとしたところで、ラピの影に潜んでいたマバディがノーラに致命傷を与えて去っていった。そこに駆けつけたニドが、組織の用いる毒に対する解毒剤を置いていなくなった。ファルス達はノーラを連れて逃走し、運河から下水道に転がり込んだ。そこにアーウィンが現れたので、ノーラは腐蝕魔術でいきなり葬り去った。
パッシャの関与が確実となったことを受けて、ファルス達はヒランの邸宅に向かった。だが、そこにハイウェジが訪問して、ファルスにパッシャへの加入を勧める。ハイウェジは不死身の力を得ていて、ファルスに首を撥ね飛ばされても死ななかった。ファルスが拒絶すると去っていった。
パッシャの関与を王族に伝えるべく、ヒランの依頼を受けて王宮に向かうが、そこにはデクリオンの大規模な精神操作魔術で支配された群衆が殺到しており、混乱状態に陥っていた。目立たないところから王宮内に侵入した。玉座の間ではティーン王子の遺体が見つかった。また、潜伏していたドゥサラ王子を救出したが、その母后は暴徒達に殺害されてしまった。
ニドと合流したファルス達は、ブイープ島に向かったパッシャの幹部達を追った。古代の遺跡の中で、ファルス達はデクリオンと対面し、彼は理想としての人類根絶を説いた。
古代の遺跡の向こう、山頂には泥沼があった。そこにデクリオンは、自分達をつけ狙ってきた赤の王衣メノラック、それからパッシャに協力した裏切者バフーを相次いで放り込み、最後にハイウェジを突き落として、クロル・アルジンの復活を宣言した。
[ファルス], [ノーラ], [ペルジャラナン], [フィラック], [タウル], [ジョイス], [クー], [ラピ], [イーグー], [シャルトゥノーマ], [ディエドラ], [ワング], [ディン・フリュミー], [キース], [ビルムラール], [デクリオン], [アーウィン], [モート・ムワンバ], [マバディ・シャバハ], [ウァール・ウブンジャーチ], [ハイウェジ・クオーナ], [ニド], [ザン], [タバック], [クアオ], [イーク], [ドゥサラ], [ティーン], [チャール], [バーハル], [ケマティアン], [ベルバード], [ヴィデルコ], [ジーヴィット], [メノラック], [メディアッシ], [バフー], [ヒラン], [アディン], [バンサワン], [ケナラン]
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『第三十六章 究極兵器クロル・アルジン』
クロル・アルジンは巨大な触手の塊だった。だが、強力な魔法を行使できる怪物であることは明らかで、ファルスは仲間達に撤退するよう伝えた。キースはデクリオンを討つべく戦ったが、ウァールの妨害を受け、敗れて負傷した。パッシャは用済みになったイーク王太子をファルス達に返したが、マバディは背後から毒塗りのナイフを突き立てた。
なんとか海岸まで戻ってきたファルス達だったが、大陸側に戻る途中で飛行してきたクロル・アルジンの襲撃を受けた。船は一撃で沈められたものの、間一髪、海中に身を投げ出して一命を拾ったが、既に重傷を負っていたイーク王太子は助からなかった。
シャルトゥノーマは一連の人間同士の争いを見て、怒りが頂点に達した。こんな人間達との共生は不可能と宣言して、ファルスの下を去った。
都に戻ってから、ドゥサラ王子と側近の王衣達に状況を報告した。メディアッシはヴィデルコ将軍が守る要塞に避難することを勧めたが、一行がそちらに向かう途中、クロル・アルジンが頭上を追い越していき、強力な魔法で要塞を一発で吹き飛ばした。一部始終を目撃したファルスは、クロル・アルジンに核爆弾並みの破壊力と、音速飛行できる機動力があることを確認した。
ファルスはクロル・アルジンの弱点を探るべく、接近してのサンプル採取に挑んだ。だが、大きな部位を切り落とされたクロル・アルジンは敵を発見し、強力な魔法を放った。本来なら死ぬはずのところ、イーグーが魔術を用いてファルス達を守った。
やり方を選んでいては勝ち目がないと判断したファルスは、これまで得た攻撃手段をすべて惜しみなく投入することにした。イーグーを囮にしてクロル・アルジンを海上に誘い出し、そこから腐蝕魔術を全力で浴びせて、その全身を溶かし尽くした。だが、それでもクロル・アルジンが滅ぼされることはなく、肉体が目に見えて修復されていく。それでファルスは、ケッセンドゥリアンから奪った束縛の魔眼まで使い、クロル・アルジンを海底に沈めた。だが、勝利できたと思って帰ってみると、頭上を超音速でクロル・アルジンが通り抜けていった。
あらゆる手段を使っても問題を解決できずにいるところへ、タウルがバーハルを救出して隠れ家に連れてきた。バーハルは無気力になったドゥサラ王子を元気づけようとするが、意気消沈した彼が動こうとしないのを見て、容赦なく殴り倒した。それから、王宮の一角に、古代からの秘密の領域があることを告げる。
ファルス達はバーハルが教えた場所に向かい、古代の歴史を刻んだ石碑を読み取った。かつて災厄の女神は招福の女神と呼ばれており、彼女と幸産みをした結果、異世界から神々が降臨した。その中の一柱がイーヴォ・ルーで、それはルーの種族を生み出し、南方大陸に多大な影響を与えた。しかし、セリパシア帝国との戦いが激しさを増す中で、ついにポロルカ帝国の皇族の一部が禁忌をに触れて、霊樹の苗を転用して大量破壊兵器としてのクロル・アルジンを生み出してしまった。この暴走を食い止めるために、イーヴォ・ルーはギシアン・チーレムをブイープ島に招き入れ、自らを滅ぼさせた、という。
すべてを知った時、背後にモートが現れた。彼は交渉したいという。クロル・アルジンを操っているのはデクリオンとウァールだから、彼らを殺せばパッシャを止めることができる。世界を滅ぼしては元も子もない、という。
隠れ家に戻ったファルス達だが、そこへ暴徒達が殺到する。パッシャの戦士がそこに紛れて攻撃してくるが、ファルスがその中の一人を斬殺すると、急に何かの衝動を感じて、倒れ込んでしまう。身動きできないところに、海側からウァールがやってきた。身動きできないファルスの代わりに仲間達が戦うが、誰一人ウァールを食い止められない。だが、そこに舞い戻ってきたイーグーのおかげで、辛くも危機を脱する。
隠れ家の場所が割れたので、一行は別の場所に移動して身を潜めていた。だが、真夜中に都市の中心部で大火災が発生したのを目撃して、急行してみると、そこには炎の山とモートがいた。ポロルカ王国の秘宝であるホムラを手に、彼は燃え尽きることのない炎から無限の力を得ていた。
いったん引き下がったファルス達だが、シャルトゥノーマの行方を捜していたラピから連絡を受ける。シャルトゥノーマは魔物討伐隊に捕縛されていた。ディエドラがこれを救出しようとして逆に捕まり、拷問を受けていた。それでファルス達は引き渡しを求め、ドゥサラ王子も協力を要請したが、ザンは応じず、この非常時にもかかわらず対決を選んだ。だが、副隊長のタバックが反逆し、以後、魔物討伐隊もドゥサラ王子に協力することとなった。
その際、救出されたシャルトゥノーマが、ポロルカ王国のもう一つの秘宝であるバショウセンを使いこなせることにビルムラールが気付いた。ファルスはモートが居座っている炎の山に引き返し、シャルトゥノーマにバショウセンを使ってもらって、火を吹き消した。力を失ったモートをジョイスが打ち倒すが、命を奪えない彼を嘲笑する。その上で、クロル・アルジンの支配権がデクリオン、ウァール、モートの順番に設定されていて、全員殺した場合にはクロル・アルジンが無差別殺戮を開始することを告げる。それを聞いたニドは、モートにトドメを刺す。
パッシャに奪われた王宮を奪還すべく、ファルス達は合流して内部に攻め込んだ。玉座の間には、チャール王子とマバディがいた。チャールは王座が欲しくてパッシャの協力者に成り下がっていた。そのような王家の腐敗に付け込んだマバディだったが、到底王の器ではないチャールを裏切り、殺害する。その上でわざとファルス一行に戦いを挑み、殺されることを選んだ。元は彼女は王家に仕える女官の一族の出身で、以前、ドゥサラに命を救われたことがあった人物だった。
いよいよブイープ島に渡航して、デクリオンを倒そうとする一行だったが、天候がどんどん悪化してきた。ディンは船出などできないというが、クーはこの嵐に乗じて渡航するのが唯一のチャンスだと主張する。強引に海を渡ってブイープ島に渡るが、船は大破してしまう。
クロル・アルジンをイーグーが食い止めている間に、ファルス達は島の奥に進んだ。そこには、先のイーグーとの決戦で生き延びていたウァールが待ち構えていた。キースはファルスの代わりに勝負を挑み、フェイントのために大事な剣を捨て、捨て身の特効を仕掛けてついにウァールを破る。
ファルスは一人、クロル・アルジンの本体が置かれた洞窟の奥に進んだ。そこにはアーウィンが待ち受けていた。ファルスは力では打ち勝つことができなかったが、アーウィンの正体を見抜いていた。アーウィンは、複数の人間を霊樹の力で合成した、クロル・アルジンのプロトタイプだった。それを統合するために、強力な精神操作魔術を常時行使していなければいけなかった。ファルスはオリハルコンの鏃を使うことでアーウィンとクロル・アルジンを封印した。
外に出てみると、キースがデクリオンと、王家を裏切った将軍ベルバードを討伐しており、戦いはこれで終結した。
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『第三十七章 闇路』
パッシャが集めていた霊樹の苗は、ルーの種族にとってなくてはならないものだった。シャルトゥノーマはそれを持ち出そうとしてファルスに見咎められたが、見逃され、大森林に向かった。ニドもまた、パッシャに属していた経歴もあって、居残らずに立ち去った。
ポロルカ王国の新王となったドゥサラは、ファルス達に恩賞を下そうとするが、実質的なものは何も与えられなかった。ディエドラは大森林のルーの種族の身分を保証するために、あえて爵位を受けた。
貴族達の接待と勧誘を避けて、ファルス達は陸路で大陸の北東部を目指すことにした。その際の別れの宴の前に、行方をくらませていたイーグーが戻ってきた。彼はファルスに自らが知る事実を伝え、自身を殺せば不老不死が得られるだろうことも告げるが、ファルスは彼を殺害せず、自由にさせた。
陸路で北を目指す途中、一行はデサ村に立ち寄った。そこで酒宴を楽しんだが、夜になってからファルスは異変に気付いた。雨の中、自分のいる小屋の周囲を燻して窒息死させようとしてきたことに気付き、反撃に出た。村の広場でパッシャの残党と交戦し、状況をようやくにして悟ったが、これによってタウルが殺害されてしまった。
他の仲間を助けようと駆け回るが、村の外れでファルスはクローマー率いるパッシャの戦士達に囲まれる。目の前で仲間の遺体を見せられて逆上し、ファルスは敵を皆殺しにする。と同時に、ついに限度を超えた殺戮によって、モーン・ナーの呪詛が実体化した。
モーン・ナーの呪詛によって、デサ村の住人は全員死亡した。また、付近にあったパッシャの本部も全滅した。意識が朦朧とする中、ファルスは時空を超えてモーン・ナーの残留思念と対話する。呪詛に囚われたファルスを救おうとしてシーラが力をぶつけるが及ばず、ノーラが傷ついた体に鞭打って呼びかけても暴走を止められない。だが、最後にファルスが自分の真の願いを自覚すると、呪詛は打ち砕かれた。
生き残ったフィラック達が、倒れているファルス達を回収する。この一連の事件によって、タウルの他、ラピも死亡した。また、ファルスの魂が大きく加齢した。モーン・ナーの呪詛の暴走の結果、破壊された場所を離れて休んでいたが、次第に暴風雨がひどくなってきた。謎の人物が現れ、一行を逃がすのに協力した。
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『第三十八章 精錬の庭』
ファルスが目を覚ますと、そこはもうカークの街の郊外だった。夜間のうちに、海を越えて北上したらしい。謎の人物は姿を消していた。
一行は市内に入り、ワン・ケンの家を訪ねた。そこでファルスは、マオ・フーから預かっていた手紙を差し出したが、ジョイスはそこでマオの訃報を伝えた。それが引き金になって、ファルスは再び倒れてしまった。
モーン・ナーの呪詛は消えたわけではなかった。これまで大勢の人の命を奪ってきたこと、モーン・ナーの呪詛を媒介した魔剣を手放したことで、ファルスは衰弱し始めた。夜間は悪夢にうなされ、日中も一切食事をとることができなくなった。
衰弱の中、死を覚悟したが、道場の一角にある台所で白米を見つけた。炊飯を通して、再びファルスは自分の心と向き合い、当面のところ、呪詛を振り払った。
その後、ファルスはタウルとラピの墓を訪ねてから、ノーラに自分の出自の一切を告白した。ワン・ケンの道場に、この街の町長の家系に生まれたエオが尋ねてきた。また、街中でエオの姉、ランと揉め事になりかけた。
それから半年ほど、ファルスはカークで静かに精神修行をしながら過ごした。街を後にする少し前に、ランが森の魔物を狩り過ぎたせいで、街への魔物の襲撃が発生し、ワン・ケンの門下生は総出でこれへの対応に向かった。
心の中を整理し終えたファルスは、フィラック、ノーラ以外の仲間とここで別れ、東方大陸に向かった。
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『第三十九章 銀嶺金沙』
ファルス達は船旅の途中、オムノドの街に寄った。そこで、大森林の奥地で死んだチャックの弟に、兄の死にざまを伝えた。
それから目的地のミッグに到着した。ファルス達は装備を整えるために商店を巡ったが、これといった道具を見つけられない。それで噂の偏屈な鍛冶師を訪ねた。その鍛冶師ホアは、神通力により長寿を得た女で、しかも美男子が大好物の変人だった。ファルスは目をつけられてしまい、即日ミッグを発って逃げ出したのに、ホアは追いかけてきた。
途中、ゴダ村という小さな村落で、水棲馬に悩まされているという話を聞いた。これは戦神カインの祝福で、試練でもあるのだが、村人達ではその馬を取り押さえることができなかった。ファルスがその馬、アーシンヴァルを打ち負かすと、以後、おとなしく従うようになった。
神仙の山に到着すると、元々そこの住人だったホアは、幹部のゼン・レンの手によって捕縛された。ファルスはここで、アドラットとルークの足取りを知った。それから一行は、長老クル・カディに昔の話を尋ねた。かつて名を知られた魔王グラヴァイアは実は沼地の魔物から人々を守っていた善神だったが、世界への悪影響を避けるために、自ら封印されることを選んだという。
それからファルス達は山での修行を始めた。短い二ヶ月の間に、ファルスは魔獣使役の術を習得し、ノーラは念力と威圧の神通力を、フィラックは記憶の神通力を得た。
山を下り、カインマ侯国の都バンダラガフにある冒険者ギルドで、ファルスは強引に探索依頼を受託させられた。それは砂漠の真ん中にある古代の遺跡を調べるというものだった。これが使徒の差し金であると察して、ファルスは逆らわずに請け負った。
山道を越え、大昔にいた精霊の民の集落を目にした。砂漠地帯に入り、古代の獣王ダノーヴァの居城址を見物した。それから、例の古代遺跡に踏み入った。その遺跡の奥には、動く骸骨、いわゆる屍骸兵がいた。ファルス達は戦わず地上に逃げたが、既にその出口は赤竜の群れに包囲されていた。
それらを使役していた使徒やナードがファルスに話しかけ、不死を得て屈服することを要求した。ファルスは自分と仲間の命を懸けて、これを拒否した。どうにもならないと悟った使徒達は、引き下がらざるを得なくなった。
自ら不死への道を断ち切ったことで、ファルスは自分の冒険が終わりつつあることを悟った。
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『第四十章 小帝都にて』
一行は、東方大陸南東部最大の都市、チュエンに到着した。そこは大河が注ぐ運河の街だった。ファルスは旅の終わりが近いのもあって、仲間達に息抜きをしてもらおうと自由行動を提案したが、フィラックがホアを押さえつけて、ファルスとノーラを自由にさせた。ノーラは使徒の脅威から解放され、珍しく子供のようにはしゃいでいた。そんな彼女に、ファルスは小さなアクセサリーを買って与えた。
翌日、ワノノマ行きの船があるらしいとの情報を得て、全員で波止場に向かった。だが、船に乗ることはできなかった。その時、現地在住の貴公子にして自称詩人、ユンイが話しかけてきた。彼はチュエン観光を買って出て、一行を案内した。その後、ファルス一人を呼び出して、身の上話をした。その際、彼がノーラの父親である可能性が示された。ユンイは他人の奢りで飯を振る舞い、挙句の果てに女を宛がった。
あまりのことにファルスは、相手の女に事情を問い質した。ユンイは高貴の家の生まれだが、その素行は最低で、街の女の弱みを握っては食い物にしてきた人物だった。それを知ってファルスは宿に戻ったが、ユンイが自分の実父で、しかもファルスの父でもある可能性を考えたノーラは、事実を確かめるためにユンイの自宅を訪ねていた。ファルスはノーラを連れだして逃げたが、その際、ユンイが隠し持っていた他人の弱みの証拠を奪い取り、それを広場で焼き捨てた。
街を出ようとしていた際に当局に拘束されていたフィラックとホアが解放されたのは、その日の夕方だった。翌朝、街を出ようとしたところで、ユンイの知り合いに声をかけられ、屋敷に連れていかれた。ユンイは無惨な死体になっていた。弱みを握られていた人々に報復された結果だった。
暗い気持ちになって、ファルス達はチュエンを後にした。
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『第四十一章 剣、死してより』
ファルス達はスッケに到着した。早速、海上にあるヒシタギ家の居城を訪ねた。オウイはファルス達に面会し、ワノノマ本土行きの船を出すことを受け入れた。また、ホアは本土に護送されるため、監禁された。その後、内々の関係者だけで、歓迎の宴が催された。ヤレルの息子ムレル、アーノ、クアオといった顔見知りがやってきたが、そこにヒシタギ一門の武人、ゲリーノが割り込んで騒ぎ立てた。
翌日、アーノの案内でファルスはユミと再会した。ユミは結婚していて、子供も産んでいた。その後、先の南方大陸の騒乱の後に蟄居を命じられているザンを訪ねた。彼は死に場所を得られなかったことを悔いていた。魔物討伐隊は、仮想敵を失って、規模縮小が決まっていた。
出発を前にしたファルスと縁を取り結ぼうと、オウイの孫娘のヒメノが、ノーラに着物を贈った。
出発当日、予定外にザンが登城し、ファルス達は足止めされた。その機会を狙って、ゲリーノが謀反を起こし、戦闘に巻き込まれる。ファルスはあっさりゲリーノ達を制圧したが、アーノは謀反に参加した武人を皆殺しにした。オウイとしては、魔物討伐隊の縮小が武人達の食い扶持を減らすことを知っており、残酷な処分を避けたかった。
翌日、ゲリーノはスッケの広場で打ち首となった。
[ファルス], [ノーラ], [フィラック], [ホア], [ザン], [クアオ], [アーノ], [ムレル], [ヒメノ], [ゲリーノ], [オウイ], [ユミ], [アーシンヴァル]




