5
感想欄での解答は、1月12日、朝8時以降にお願い致します。
振るわれた触手の下を、フィズが転がりながら潜り抜ける。
「この…っ!」
レリーフに狙いを定め、フィズは小さく舌打ちした。
花、木、果実、氷。
氷は死だろうか。だとすれば、木を育て、花が咲き、実がついて枯れると言う順番になる。
絶え間なく振るわれる触手から逃げ回りながら、想像した順に撃って見たが、木、花と撃った時点で止まってしまった。
この順番ではないらしい。
「ラガ、大丈夫!?」
「大丈夫じゃねえが、どうにかするっきゃねえだろ!」
「レリーフの順番は!?」
「わからん! あ、ちょっと待て! わかるかも知れん!」
即効で意見を反転させたラガが、ブレインからの通信を開く。
ブレイン名は莵夜卯月。
開くと、頼もしいヒントが目に飛び込んで来た。
『壁のパネルは春夏秋冬を表しているのでは?
花=春、木=夏、果実=秋、氷=冬
というわけで、次は木のパネルを打ってみてください』
「だとよ!」
言うと同時に、床の破片を触手に投げつけたラガが、バックステップで後方に跳ぶ。
そのすぐ近くを、触手が唸りを上げながら通り過ぎて行った。
フィズが唇を噛み締める。
──春夏秋冬。
なるほど、言われてみればその通りだ。
「はっ!」
自分の方に来た触手を避け、フィズがトリガーを引き込む。
花では水が出た。
木でも水が出た。
だが、果実を撃った所で流入が止まってしまった。
それどころか、外れてリセットがかかったのか、水位が元通りに下がって行く。
再び花、木、果実──と撃つが、やはり果実でリセットがかかる。
途中まで上手く行くという事は、春夏秋冬の考え方までは合っていると思うのだが。
「………」
残弾数を確かめる。
触手の牽制などでだいぶ使ってしまったせいか、残りはあと半分しかない。
自分たちと同じように触手に狙われているミジンコは、一匹、また一匹とその数を減らして行っている。
それに伴い、じわじわと暗くなって行く視界が、なおさら、回避を難しくして行く。
「ラガ」
「何だよ」
「いざとなったら水中退避ね」
「食われるフラグだと思うぜ、それ……」
食われなくても溺死は確実だ。
果たして、本当に死ぬのかは不明だが、試してみる勇気はない。
「他に方法は?」
「エレベーターまで跳ぶぐらいかな。綺麗な立方体だから、乗った途端にくるんと回転する可能性はあるけど」
「サイコロ型だけに博打、ってノリか」
寒いジョークだとラガが苦笑する。
「フィズ……」
「何?」
「謎解きは任せた。ちと思いついた事があるんで、俺はそっちを試してみる!」
「え?」
何するの、とフィズが問うより早くラガが駆け出す。
その視界に、何を思ったか水際に駆け寄るラガが見えた。
「ほらよ、餌はこっちだ!」
水面に破片を投げ込んで、ラガが化けクラゲを挑発する。
すぐさま水面から跳ね上がる触手。そこから一定の距離を保ちつつ、ラガは別の水際へと駆け寄った。
「ていっ!」
再び投げ込む破片に応じて、別の触手が跳ね上がる。
それが届く直前のタイミングで横に跳躍。
当然、触手が向かう先には、今までラガの背を追っていた別の触手がある。
衝突し、絡み合う二本の触手。
それを解こうと頭上で身悶えするそれらを見て、ラガが冷や汗を浮かべつつ笑い上げた。
「──よし」
そうそう何度も同じ手にひっかかってくれるとは思えないが、しばらくは、これで時間稼ぎが出来るだろう。
ぐっとフィズに親指を立ててみせ、早くしろと視線でせかす。
頭脳労働派のラギは、すっかり怯えてしまったのか、全く交代する気配を見せない。
だが、それでいいとラガは思っていた。
「すぐ片付けてやるからな、待ってろ……」
自分の内側に、そう語りかけて不敵に笑う。
ラギには、こう言う物騒なのは向いていないのだ。
ならば自分が頑張るしかない。
「鬼さんこちら、っとぉ!」
再び投げ込む石が、高々と飛沫を跳ね上げる。
それを察して寄ってきた触手を睨み、ラガは、震える足に力を込め直した。
ちらりとフィズを見る。
途端にフィズが「あっ」と声を上げ、続けて「わかった!」と言って走り出した。
ホワイト軍曹からの通信が、リトル・リーフを通じて入り、レリーフの謎の続きを教えてくれたのだ。
『SSWAASSWWSSA
春=[S]pring
夏=[S]ummer
秋=[A]utumn
冬=[W]inter』
つまり、それぞれの頭文字だ。
花、木の順番まで合っていたのだから、SSは花、木で間違いない。
逆でも行けそうな気がするが、今は堅実な手段を取る事にする。
「──っ!」
トリガーを引き絞る。
花・木・氷・果実・果実・花・木・氷・氷・花・木・果実!
そのすべてを打ち終えた瞬間、ドオッと音を立てて、壁中の排水管から水が流れ込んで来た。
正解だ。ぐんぐんと水位が上がって行く。
警報アラームが鳴り響き、回転灯が赤・黄・橙・赤・青・紫の順にめまぐるしく色を変えながら点滅する。
その上昇の途中で、排水管ではない壁の穴が見えた。
「ダストシュート?」
壁の向こうが斜めの坂になって見えたので、おそらく、ダストシュートで間違いないだろう。
正規のルートでは通路を奥まで進んで落とし穴か何かに落下、そこからダストシュートを滑ってここに落ちて来る予定だったに違いない。
上がり続ける水位はやがて、元の通路に近い場所まで達し──
あと一歩、という所でぴたりと止まった。
「おい!」
上から声がかかったのは、その時だ。
見上げた先にロープを持った男の姿。救助役のNPCだとフィズにも判る。
だが、これもシナリオの一つだったらしい。
男のひとりが、化けクラゲを指して叫んだ。
「そいつを何とかしろ! じゃないと俺まで巻き添えを食っちまう!」
「いや、何とかして欲しいのはこっちなんだけど!?」
「馬鹿言うな! こっちだって脱出ポッドへの扉が塞がれて困ってんだ!」
「どんな扉!?」
「左が青、右が黄色の扉だ! 真ん中に珠がはまってて、近くのフルカラーパネルから珠の色を設定するようなんだが!」
そこで言葉を切った男が、急いで背後を流し見る。
そして、そこに何もないのを確かめて、再びフィズ達を見下ろした。
「水位が上がって来たらなあ! その化けクラゲの触手が、扉近くの排水口から出て来て扉に近づけなくなったんだよ!」
「…………」
なるほど、そう言う話かと納得する。
残弾数はあと10発もない。
何らかの方法でクラゲを撃破し、さらに扉を開かないと、脱出できないと言う事なのだろう。
「まったく、趣味悪い仕掛けだなあ!」
叫び、真下のクラゲに対して一発撃ち込む。
だが、ダメージを与えられた様子ない。
なにしろクラゲが巨大なのだ。
銃弾など、針でつつくほどの痛みでしかないのだろう。
「フィズ!」
「何!?」
「多分、エレベーターの仕掛けだ! 乗ってた時は普通のエレベーターだった!」
つまり、正方形にした時の「余剰分」に何かが詰めてあるのだろう、と。
そう叫んだラガの言葉を聞いて、フィズの顔に笑顔が戻った。
最初と同じ、余裕の笑みだ。皮肉気に歪んだ唇が、慣れた軽口を叩き出す。
「ふうん、ラガにしては勘が冴えてるね?」
「大きなお世話だ。物を隠すのは、俺の十八番なんだよ」
任せろ、と気丈に笑って、ラガが次の石を持つ。
それをハンドサインで応援し、フィズは、再びエレベーターの方に照準を向けた。
現在の所持品
・銃(残弾9)
円筒状況
★エレベーターの扉
136=4
542=3
621=?
★エレベーターの側面
「This Shape」の文字
★回転灯
赤・黄・橙・赤・青・紫の順に色変化
★脱出ポッドへの扉
左が青、右が黄色




