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オワタ・オンライン【∞】  作者: 水沢 流
シナリオ2:海底基地からの脱出
13/14

感想欄での解答は、1月12日、朝8時以降にお願い致します。

 振るわれた触手の下を、フィズが転がりながら潜り抜ける。


「この…っ!」


 レリーフに狙いを定め、フィズは小さく舌打ちした。

 花、木、果実、氷。

 氷は死だろうか。だとすれば、木を育て、花が咲き、実がついて枯れると言う順番になる。

 絶え間なく振るわれる触手から逃げ回りながら、想像した順に撃って見たが、木、花と撃った時点で止まってしまった。

 この順番ではないらしい。


「ラガ、大丈夫!?」

「大丈夫じゃねえが、どうにかするっきゃねえだろ!」

「レリーフの順番は!?」

「わからん! あ、ちょっと待て! わかるかも知れん!」


 即効で意見を反転させたラガが、ブレインからの通信を開く。

 ブレイン名は莵夜卯月。

 開くと、頼もしいヒントが目に飛び込んで来た。


『壁のパネルは春夏秋冬を表しているのでは?

花=春、木=夏、果実=秋、氷=冬

というわけで、次は木のパネルを打ってみてください』


「だとよ!」


 言うと同時に、床の破片を触手に投げつけたラガが、バックステップで後方に跳ぶ。

 そのすぐ近くを、触手が唸りを上げながら通り過ぎて行った。

 フィズが唇を噛み締める。


 ──春夏秋冬。

 なるほど、言われてみればその通りだ。


「はっ!」


 自分の方に来た触手を避け、フィズがトリガーを引き込む。

 花では水が出た。

 木でも水が出た。

 だが、果実を撃った所で流入が止まってしまった。

 それどころか、外れてリセットがかかったのか、水位が元通りに下がって行く。

 再び花、木、果実──と撃つが、やはり果実でリセットがかかる。


 途中まで上手く行くという事は、春夏秋冬の考え方までは合っていると思うのだが。


「………」


 残弾数を確かめる。

 触手の牽制などでだいぶ使ってしまったせいか、残りはあと半分しかない。


 自分たちと同じように触手に狙われているミジンコは、一匹、また一匹とその数を減らして行っている。

 それに伴い、じわじわと暗くなって行く視界が、なおさら、回避を難しくして行く。


「ラガ」

「何だよ」

「いざとなったら水中退避ね」

「食われるフラグだと思うぜ、それ……」


 食われなくても溺死は確実だ。

 果たして、本当に死ぬのかは不明だが、試してみる勇気はない。


「他に方法は?」

「エレベーターまで跳ぶぐらいかな。綺麗な立方体だから、乗った途端にくるんと回転する可能性はあるけど」

「サイコロ型だけに博打、ってノリか」


 寒いジョークだとラガが苦笑する。


「フィズ……」

「何?」

「謎解きは任せた。ちと思いついた事があるんで、俺はそっちを試してみる!」

「え?」


 何するの、とフィズが問うより早くラガが駆け出す。

 その視界に、何を思ったか水際に駆け寄るラガが見えた。


「ほらよ、餌はこっちだ!」


 水面に破片を投げ込んで、ラガが化けクラゲを挑発する。

 すぐさま水面から跳ね上がる触手。そこから一定の距離を保ちつつ、ラガは別の水際へと駆け寄った。


「ていっ!」


 再び投げ込む破片に応じて、別の触手が跳ね上がる。

 それが届く直前のタイミングで横に跳躍。

 当然、触手が向かう先には、今までラガの背を追っていた別の触手がある。

 衝突し、絡み合う二本の触手。

 それを解こうと頭上で身悶えするそれらを見て、ラガが冷や汗を浮かべつつ笑い上げた。


「──よし」


 そうそう何度も同じ手にひっかかってくれるとは思えないが、しばらくは、これで時間稼ぎが出来るだろう。

 ぐっとフィズに親指を立ててみせ、早くしろと視線でせかす。

 頭脳労働派のラギは、すっかり怯えてしまったのか、全く交代する気配を見せない。

 だが、それでいいとラガは思っていた。


「すぐ片付けてやるからな、待ってろ……」


 自分の内側に、そう語りかけて不敵に笑う。

 ラギには、こう言う物騒なのは向いていないのだ。

 ならば自分が頑張るしかない。


「鬼さんこちら、っとぉ!」


 再び投げ込む石が、高々と飛沫を跳ね上げる。

 それを察して寄ってきた触手を睨み、ラガは、震える足に力を込め直した。

 ちらりとフィズを見る。

 途端にフィズが「あっ」と声を上げ、続けて「わかった!」と言って走り出した。


 ホワイト軍曹からの通信が、リトル・リーフを通じて入り、レリーフの謎の続きを教えてくれたのだ。


『SSWAASSWWSSA

 春=[S]pring

 夏=[S]ummer

 秋=[A]utumn

 冬=[W]inter』


 つまり、それぞれの頭文字だ。

 花、木の順番まで合っていたのだから、SSは花、木で間違いない。

 逆でも行けそうな気がするが、今は堅実な手段を取る事にする。


「──っ!」


 トリガーを引き絞る。

 花・木・氷・果実・果実・花・木・氷・氷・花・木・果実!


 そのすべてを打ち終えた瞬間、ドオッと音を立てて、壁中の排水管から水が流れ込んで来た。

 正解だ。ぐんぐんと水位が上がって行く。

 警報アラームが鳴り響き、回転灯が赤・黄・橙・赤・青・紫の順にめまぐるしく色を変えながら点滅する。


 その上昇の途中で、排水管ではない壁の穴が見えた。


「ダストシュート?」


 壁の向こうが斜めの坂になって見えたので、おそらく、ダストシュートで間違いないだろう。

 正規のルートでは通路を奥まで進んで落とし穴か何かに落下、そこからダストシュートを滑ってここに落ちて来る予定だったに違いない。

 上がり続ける水位はやがて、元の通路に近い場所まで達し──


 あと一歩、という所でぴたりと止まった。


「おい!」


 上から声がかかったのは、その時だ。

 見上げた先にロープを持った男の姿。救助役のNPCだとフィズにも判る。

 だが、これもシナリオの一つだったらしい。

 男のひとりが、化けクラゲを指して叫んだ。


「そいつを何とかしろ! じゃないと俺まで巻き添えを食っちまう!」

「いや、何とかして欲しいのはこっちなんだけど!?」

「馬鹿言うな! こっちだって脱出ポッドへの扉が塞がれて困ってんだ!」

「どんな扉!?」

「左が青、右が黄色の扉だ! 真ん中に珠がはまってて、近くのフルカラーパネルから珠の色を設定するようなんだが!」


 そこで言葉を切った男が、急いで背後を流し見る。

 そして、そこに何もないのを確かめて、再びフィズ達を見下ろした。


「水位が上がって来たらなあ! その化けクラゲの触手が、扉近くの排水口から出て来て扉に近づけなくなったんだよ!」

「…………」


 なるほど、そう言う話かと納得する。

 残弾数はあと10発もない。

 何らかの方法でクラゲを撃破し、さらに扉を開かないと、脱出できないと言う事なのだろう。


「まったく、趣味悪い仕掛けだなあ!」


 叫び、真下のクラゲに対して一発撃ち込む。

 だが、ダメージを与えられた様子ない。


 なにしろクラゲが巨大なのだ。

 銃弾など、針でつつくほどの痛みでしかないのだろう。


「フィズ!」

「何!?」

「多分、エレベーターの仕掛けだ! 乗ってた時は普通のエレベーターだった!」


 つまり、正方形にした時の「余剰分」に何かが詰めてあるのだろう、と。

 そう叫んだラガの言葉を聞いて、フィズの顔に笑顔が戻った。

 最初と同じ、余裕の笑みだ。皮肉気に歪んだ唇が、慣れた軽口を叩き出す。


「ふうん、ラガにしては勘が冴えてるね?」

「大きなお世話だ。物を隠すのは、俺の十八番なんだよ」


 任せろ、と気丈に笑って、ラガが次の石を持つ。

 それをハンドサインで応援し、フィズは、再びエレベーターの方に照準を向けた。

現在の所持品

・銃(残弾9)


円筒状況

★エレベーターの扉

 136=4

 542=3

 621=?


★エレベーターの側面

 「This Shape」の文字


★回転灯

赤・黄・橙・赤・青・紫の順に色変化


★脱出ポッドへの扉

左が青、右が黄色

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