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竜頭――柔太郎と清次郎――  作者: 神光寺かをり
清次郎と鷹女

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54/59

おまけつき

 清次郎はこくりとうなずいた。


「思うに、刀剣(かたな)()は金銭的な得をすることよりも、損をしないことを選んだんでしょう。

 そうですね……例えば、きちっと鑑定してそれなりの刀匠の作であるという折紙を付けたとしたら、ずっと高く売れるかも知れない。

 とはいえ鑑定料だとて安いものではない。なにより、時間が掛かる。時間が掛かれば、売り抜ける機会を失うこともありうるでしょう

 かといって()(ぞう)するのであれば、他の「売れる品」を押しのけて場所を取らねばならない。

 このあたりまでは商売人としての感覚。つまりは金銭的損得勘定」


「商売人……金銭的……」


「だがそれ以上に、一個の人であるからには、人として被る損を避けたいという心持ちもある」


「人、として?」


「商売上正しい判断であったことが事実なら、()()()()らして家宝に等しい物を売らねばならぬほどに(こん)(きゅう)した哀れな人間に素気ない態度取ってしまったのも紛うことなき事実。

 後味の悪い、気分の良くない経緯で仕入れた品を長く店に置いていたら、刀剣(かたな)()自身の心に負荷(おもし)がズンと乗っかる。出来る限り早く目に付かない所に放り出してしまいたいと思っても致し方ない。

 だから丁度その場に居合わせた客、つまり()と運の悪いこのおれに、これ幸いとばかりに売りつけた。押しつけたと言ってもいい。

 その時のおれが物欲しそうな顔をしていたからかもしれないンですけどね」


 清次郎はわざとらしくおどけた調子で言った。


「それで、刀剣(かたな)()が買い取ったのと同じ(あたい)で、清次郎殿が買ったのですね?」


 この鷹女の疑問に対して清次郎は、


(いな)


 首を軽く振った。


「値段はおれが付けたわけじゃないのでね。

 刀剣(かたな)()が浪人殿から買い取ったのと同じ(あたい)を付けて、おれに

『是非にでも買ってくれ』

 と頼み込んできたのですよ。

 おれはそれに応じた。

 安く買うのも高く買うのも、間違っていると思えた。刀剣(かたな)()に対しても、彼の浪人殿に対しても不義理だと感じた。

 だって、あの場面を、肩を落として帰って行く浪人殿の背中を、目の前で見せつけられたんですから。

 タダでやるなんて言われたら、却って気が引けたでしょう。

 だからおれは急いで銀一枚分の(かね)を工面した」


 鷹女の眉間に薄い(たて)(じわ)が寄った。


「お持ち合わせが……?」


「いやぁ、お恥ずかしながら少し足りませんでした」


 清次郎は苦笑いした。弘が軽い笑顔を娘と娘婿予定者に向けた。


「田舎の()()(ふところ)()(あい)なぞは、ご府内で()()めたご浪人よりいくらかまし程度だらず。

 それでどうなったかや?」


 話の呼び水を向けてくれた。


「ええ、(かね)が出来て受け取りに行ったら、元の古びた(こしらえ)から(しろ)(さや)に替えられていました。(さや)(ぶくろ)はおまけだと。その分は刀剣(かたな)()の持ち出しってことになりますね。今でも心苦しく思っていますよ」


「さようでございましたか」


 鷹女は静かな声で言った。


「そういった色々な人々の、()()(こも)(ごも)様々な思いの詰まったお刀を、私などが頂戴してよろしいものでしょうか」


「あなたのために求めてきたのです。むしろ受け取って貰わねば困ります。受け取って下さい、お願いします」


 清次郎が鷹女に深々と頭を下げた。


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