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竜頭――柔太郎と清次郎――  作者: 神光寺かをり
柔太郎と鷹女

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34/59

察しの悪い男

「だからといって、鷹女殿が私を()()()()()()()()扱いするのは、いささか違うと思うのですが」


 柔太郎の小さなかすれ声を聞き取った五郎太夫は()()と大笑した。


「なおなお、この兄とやらの件で、その家は取り潰しは逃れたが、家族の者どもには連座で(きん)(しん)()()が出ておる。慣例から見て、五日か……長くても七日ほどもすれば免除となろうがの。

 で、あるからして、鷹も実家に帰るか、(ほう)(こう)(さき)ということになっておる儂の屋敷の女中部屋にいるかして、あと数日の間は一歩も外出をせずにおとなしくしていなければならないはずなんじゃがな」


「では鷹女殿は、道場に来ていた時点で、禁足の令を破ったということになりますが」


「そういうことになるな。

 だからアレの父親は更に罰を与えられることになろう。

 ふむ、対罰は、これも慣例からすらば、良くて()()()(とり)(しまり)につき(しかり)、悪ければ(つつしみ)(ちゅう)()(らち)につき()()(きゅう)(とり)(あげ)、という程度になるであろうかな。

 さて、(きょう)(だい)揃って親不孝者じゃ」


 河合五郎太夫はクスクスと笑った。芦田柔太郎はとても笑う気になれない。


「武家の生まれであるならば、そのことが解らぬ鷹女殿でもあるまいに……。なにゆえにあのようなこと」


「その方、誠に察しが付かぬ、か?」


「付きませぬ」


 柔太郎は本心からそう答える。そう言うより他にない。


「そうか」


 五郎太夫は腕を組んだ。


「お主が知らないでは、都合が悪かろうな」


 柔太郎には意味がわかりかねる言葉をぽつりと(こぼ)した後で、五郎太夫は静かに言った。


「広瀬鷹女の本当の姓はな、赤松というのだ。

 ちなみに鷹の身柄は先ほど当家の家人(けらい)を付けて、海野町裏の()()長屋に送り届けた」


 赤松という姓を持つ鷹という女性の存在を、柔太郎は知っている。

 芦田勘兵衛と赤松弘という二人の父親たちの交わした約束によって「芦田柔太郎の所に嫁いで来る」ことになっている女性だ。


 柔太郎は目玉が零れ落ちそうなほどに眼を見開いた。

 するりと起ち上がった五郎太夫は、柔太郎に優しい笑みを送って、


「まあ、今夜はここでゆっくり休め。家に帰ろうにも身動きが取れぬだろうからのう。お前の父の勘兵衛先生の所へはこちらから伝えておく」


 静かに(びょう)()を出て行った。



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