表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜頭――柔太郎と清次郎――  作者: 神光寺かをり
柔太郎と鷹女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/59

饒舌な剣豪

 どれほど時が経ったか。

 目を覚ました柔太郎は、豪華な天井と柔らかい蒲団に驚いたが、喉がかすれて声を立てることが出来ず、また腕や胴が非道(ひど)く痛んで身を起こすことも出来なかった。

 目玉だけであたりをぐるりと見回すと、枕頭(ちんとう)に人影を見付けた。


「ご家老……河合様」


 ガサガサにかすれた声が、ようやっと出た。喉がギリギリと痛む。

 これに気付いた河合五郎太夫は、


「おお、気が付いたか。よしよし、無理に動くな。

 そして、ゆっくり休みながら、お前に頑丈な体を暮れた(ふた)(おや)に感謝するとよい。骨は折れておらぬし、筋も切れていない。

 ただ、声はしばらくはまともには出ぬそうな。だから明倫堂教授のお勤めはしばし休むことになる。

 ああ心配するな。明倫堂(あちら)()(つけ)には儂から知らせておいた。

 いやいやひどく(しか)られたぞ。お前のような優秀な学者を、()()()()()(ろう)()させるな、とな。藩を代表する才能として、近々江戸の(しょう)(へい)(こう)へ遊学させる逸材なのだぞ、とな。

 お主のことは儂も見込んではおる。腕前のことではないぞ。人柄を買っている。しかし、明倫堂(あちら)からもよくよく見込まれておるようだな。うむ、良いことである。

 それとな、腕もしばらくつかえぬぞ。広瀬の於鷹(おたか)の竹刀がな、アレの()()(ぢから)のせいでササラにばらけてしもうた。その竹串のようになったヤツめらが、お前の腕の皮を切ったり脚の肉に突き刺さったりしての。革胴を付けていて良かったのぅ。腹には刺し傷はないぞ。

 うむ、一つ一つは大した傷ではないが、数が多くて厄介だ。塞がるまでは安静に、安静に、な」


 優しげな声で、しかし口を挟む余裕もなく、しゃべり上げた。

 五郎太夫の声が途切れた後、柔太郎はようよう声を絞り出した。


「私の剣術は……決して趣味(どうらく)などでは……」


「解っておるよ。お主は確かに頭の切れる学者かも知れぬが、なによりもまず武士じゃからな」


 柔太郎には、この五郎太夫の声が、何処かしら淋しげに聞こえた。


「しかし今日は粘り強かったな。よく守った」


 五郎太夫が感心しきりに言うのに、柔太郎は、


「初手から頭を狙われましたので」


「頭は打たれたくないか?」


「腕や足を折られても、頭さえ生きておれば学問を続けられますが、頭に傷を受けて学問を続けられなくなっては、五体が満足でも生きる甲斐がなくなってしまいます」


「ははは、なるほどお主らしいことだ」


 必要十分なことを告げ終わったはずの五郎太夫だが、柔太郎の枕頭から離れようとしない。

 僅かに無言の時が過ぎた。


「鷹女殿は、なぜあのような……」


 ふっと、柔太郎の口から、疑問が言葉になってあふれ出た。


「察しが付かぬ、か?」


「さっぱり。ただ、以前から私に、その、()()()()()()()()()のですが、その時もあたりが強いと申しますか」


「そう……か」


 五郎太夫は大きな息を一つ吐いた。


(たか)はな、儂の支配下の者の娘でな。訳あって儂が預かっている格好なのだ。名乗らせている名字も、実のところ本来のものではない」


 武門の家柄である河合家老の配下には、(まち)()(ぎょう)(とう)(ぞく)(あらため)()(つけ)(しゅう)など、治安維持にあたる組織が集められている。番方の総元締めであるといっても良い。

 そういったお役目を勤める者は、日頃から命の危険にさらされている。その家族も、だ。


「それでな。

 アレには親同士が決めた、相手からしたらアレの顔も見知らぬような許嫁(いいなずけ)がいる……のだが、これが破談になりかけている」


「それは(てて)()のお役目故に、でございますか」


「うむ。父親の役目も絡んでいるが、どちらかというとアレの兄が、な」


(あに)()が?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ