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竜頭――柔太郎と清次郎――  作者: 神光寺かをり
柔太郎と清次郎

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14/59

手作りのお土産

「実にうらやましい限りだな」


 心底うらやましげにいう柔太郎に、清次郎は眉根を寄せて見せる。


「兄上はそう仰いますが、コレはコレで、色々と気苦労もあるんですよ」


 清次郎はわざとらしく抑えた声で言いながら、携えてきた風呂敷包みを膝前に出した。

 中から書物が二冊出てきた。二冊とも()稿(がき)だ。

 一つは、種々の植物の図版が描かれている。図版の横には細かな文字で簡潔になにがしかの手順が書き込まれ、鮮やかな色が添えられている。


 (かき)(しぶ)の暗い橙色、末摘花(ベニバナ)の冴えた赤、小豆(あずき)のほんのり赤い茶色、(やま)(あい)の深い青、紅紫草(ムラサキ)のの紫、(かり)(やす)(こき)()(ちょう)()の鈍い黄赤、(えん)(じゅ)()()(いろ)胡桃(くるみ)の実の皮の胡桃色、石榴(ざくろ)の実の皮の天鵞絨(びろうど)色、(くさ)()(みず)(あさ)()()(おう)蘇芳色(黒みを帯びた赤)、栗の(いが)(くろ)(つるばみ)(しょく)(たけのこ)の皮の(うす)(べに)(ふじ)、桑の桑茶(茶色みの黄色)、梅の梅染(赤の強い茶)黃蘗(きはだ)(おう)(ばく)楊梅(ヤマモモ)(ひわ)(ちゃ)、桜の薄紅色……


 (ページ)を繰る度に、瞳に新鮮な輝きが飛び込んでくる。柔太郎の目は驚きに見開かれた。


「うむ、なるほど、これは、そうか……」


 柔太郎は勢いよく全ての頁をめくり、目を通し、もう一度最初から読み返し、最後の頁まで読み通した。


「素晴らしい!」


 三度目の読み返しを終えて、柔太郎は腹の底から声を出した。


「糸や布を染めることができる草木の種類、そこから出せる色、その色を固めるための手法、ということか。

 そしてこの文字は……清次郎、お前の筆跡()だな。まったく、よくここまで調べ上げ、よくまとめ上げたものだ。

 これは染物を生業とする人々にとっては、秘中の秘と言えるものだろうに」


「兄上のお言葉を借りれば『()()』というヤツです。それを総がかりにしたんですよ。

 幾件かの染物屋の主人やら隠居やらと、幾人もの染物の職人方に頼み込みましてね。お一人から一つ二つと、少しずつ(うかが)った次第です。

 そういう一つ二つが積もり積もって、山ほど積もらせた結果、それができあがりました」


「代講義と出教授で他人様の勉学を見、自分の学問もさらに深めつつ、その上にこのような調べ物や書き物もして……。

 一体、お前はいつ寝ているのだ」


 柔太郎は本気で清次郎の体調を心配している。


「俺から言わせて頂けば、そりゃは兄上の方ですよ。

 藩校で他人様の勉学を見、自分の学問もさらに深めつつ、その上で(よう)(さん)と織物の研究実践をしている。

 全く兄上はいつ寝ているんですか」


 清次郎も本気で柔太郎の体調を心配していた。



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