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竜頭――柔太郎と清次郎――  作者: 神光寺かをり
柔太郎と清次郎

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木町、連歌町、海野町裏

 芦田勘兵衛と赤松弘は、まだ若い時分に、ある連歌の会で出会った。


 出会ったというが、それが初対面という意味ではない。その連歌の会以前にも、互いが互いのことをいくらか見知っていた。

 その頃の芦田勘兵衛はまだ()(とく)相続をしていなかったが、藩校の助教授として召し出されていた。藩校に通う藩士の子弟や、卒業生の若者たちを通じて、彼らの父兄である現役藩士たちのことなども、身分の上下にかかわらず知っている。

 他方、赤松弘もまだ家督前ではあったが召し出されて(かち)()(つけ)の役務に就いていた。下級武士の監視、監督、調査を行うお役目だ。当然、徒士(かち)などの下級藩士、(あし)(がる)(ちゅう)(げん)()(もの)といった身分の軽い者たちの事情にはすこぶる詳しい。

 だから、二人は互いの身上を詳しく知っていた。

 ただ職務の内容も傾向もそして立場も違う二人であるから、例えば城中などで合ったとしても、軽く()(しゃく)ぐらいはしただろうが、親しく会話をするというような間柄ではない。

 また住居(すまい)は、芦田家が三の丸の端の()(まち)、赤松家が(ほっ)(こく)(かい)(どう)沿いの(うん)()町の裏手であり、ざっと八町(約九百m)ほど離れている。さして遠くはないが、それでも近いともいい切れない微妙な距離だ。少なくとも親しい近所付き合いといったものは発生しないだろう。

 そういう訳であるから、その時の連歌町での連歌の会が、親しく出会った初めてのことである事は間違いない。


 芦田勘兵衛は職業柄もあって和漢の(しい)()(ぞう)(けい)が深い。赤松弘も職業柄……といって良いか解らないが、反射神経が良い。

 二人は得意の傾向も、言葉の選び方も、まるで違う。

 違う才能が混ざり合うと反応が起きる。結果、妙に良いものができあがることがある。同時に全くつまらないものもできあがる。

 そんな両極端さが、参加していた人々に面白がられた。

 そして会は大いに盛り上がった。身分の上下にかかわらず、侍町人農民の区別なく、参加者たちの仲は深まった。芦田勘兵衛と赤松弘も親しい友人となった。


 連歌から始まった友人付き合いがどこをどう転がったものか、勘兵衛と弘は「互いの子どもの世代で婚姻の縁を結ぼう」という約束をするに至った。


 この約束が()()(きょく)(せつ)の末、ゴロリともう一転がりして、芦田家の二男・清次郎が赤松家の(よう)()()となったという訳である。


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