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宇宙の法則~集う逸話のエトセトラ~


「それで――どーするつもりなんすかマカロニさん」


 そう告げたアランティアが眺めているのは、山のように積まれた書類。

 今回ばかりは彼女もかなり困惑しているようで……まあそれも仕方がない話なのだ。


 これは大魔帝ケトスとの対談を終え、勧誘を受けた後の出来事。

 朝の女神が照らす陽ざしでポカポカ暖かい、執務室の一幕だった。


 返事は急がないとの事なのだが、スナワチア魔導王国には魔王軍幹部就任おめでとう! と、外堀を埋めるように、連日の贈り物が届いている。


 資料と書類の海につぶれそうになっている僕が言う。


『どーするもこーするも、これ……たぶん断れないだろう』

「でしょうねえ……まあマカロニさんの場合は分身とか分霊とか、端末? その一体を送ればいいだけでしょうし。勧誘の話も分からなくもないんっすけど。まだ返事出さないんすか?」

『当たり前だ! すぐに返事したらなんか負けたみたいになるだろう!』

「えぇ……そんなこと気にしてるんすか?」


 言いながらアランティアが目をやるのは、やはり就職案内の書類の束。

 就職者に向けた案内要項である。


 魔王城についてやら――。

 魔族についての事細かな説明やら……。

 様々な説明や条件、待遇が記された書類がどっさり。

 毎日毎日、ネコの行商人から送られてくるのである。


 その横で僕は全力を出しながらカキカキカキ!

 逸話魔導書に匹敵する量の書物を記すべく、連日連夜の大執筆中。

 アランティアが言う。


「どうせあっちに分霊を派遣するなら、その前に書いておきたいって話でしたけど……」

『けど、なんだよ』

「ぶっちゃけ、意味が分からないんっすけど。マカロニさん……なんかシャーマン系統の葉っぱとかキメちゃってます?」

『誰が中毒患者だ!』


 アランティアですら理解できない内容なので、僕が変人と思われるのも仕方がない。

 今纏めているのは、この宇宙と外なる神に関わる重大な案件。

 宇宙の成り立ちや、法則、多くの逸話魔導書から入手した資料にて、歴史の裏で起こっていた事象を僕なりにまとめているのである。


 その理由は――。


 どうアランティアに分かりやすく伝えるか、そう悩みながらも執筆をつづける空間に。

 ボォォォン!

 次元を渡ってやってくる、いつもの気配が浮かんでいた。


 魔帝ニャイリスである。


 今日もまた鼻歌交じりに空間を渡ってやってきたネコの行商人ニャイリスが、僕の顔を見るなり。

 にゃは!

 臨時ボーナスでも貰っているのか、獣毛をルンルンに膨らませて口を開く。


『うにゃはははは! マカロニさん、お届け物ですニャ~!』

『おいこらニャイリス! 送り主が大魔帝ケトスになってる場合は受け取り拒否するって伝えただろう! てか、受け取り拒否の魔術結界を張ったのに、どうやって解除しやがった!』

『これは”大魔帝ケトス。”さんからだニャー』


 語尾に。をつければ別人判定になるわけないのだが……。

 逸話魔導書にもチラホラと、そういう表記ゆれが存在する。

 文末に。をつけることにより、受け取り拒否の魔術を解除しているのだろうが……。


 いつもの流れで荷物を受け取り、開封しながらアランティアがのんびりと口を開く。


「へえ、言霊を操る魔術の応用っすかねえ」

『おまえもおまえで勝手に開けるなよ』

「いや、ナマモノだとダメになっちゃいますし」


 ガサガサと包装を解くアランティアに辟易しつつも、僕は宙に浮かぶニャイリスに目線を戻し。


『おまえの上司は少し強引すぎないか?』

『んにゃ? これでもかなり遠慮してる方ニャ?』

『うへぇ、マジかよ』


 勝手にコーヒーセットを取り出したニャイリスは、勝手にコーヒーを淹れ。

 ずずずず!

 僕がまとめている記述を横目で眺め……客用のソファーに着地し、にゃほんと解説する。


『マジもマジ、大マジにゃ。にゃにしろあんたは三毛猫陛下の友達。そして三毛猫陛下はかつて魔術が確立された最初の宇宙の魔王陛下……その三分の一の転生体だニャ。更にそして大魔帝ケトス様の唯一の上司こそが、繰り返す世界の中で唯一、魔王さまのまま顕在している魔王さまニャ。三毛猫陛下と魔王さまは多次元宇宙における同一存在、一応の敬意を払っているっていうわけニャ!』


 この辺りも宇宙の法則と関係しているので、実は今、僕がまとめている内容である。

 こいつ……分かってて言ってやがるな。

 怪訝な顔でアランティアが言う。


「いや、ぜんぜん関係性がわかんないっすけど」

『この辺はかなり複雑なのニャ、ニャーのせいじゃないニャ!』

「そもそも同一存在がそんなにいっぱいいるって、分かりにくさしかありませんよ! あり得たかもしれないマカロニさん騒動ですら面倒だったのに、またなんか同一存在っすか!?」

『宇宙は何度もやり直してるし、仕方ないのニャ』


 僕も異世界の逸話魔導書や、大魔帝ケトスが送ってくる資料を読んで……その辺の事情は把握している。

 本当に長い歴史があるのだ。

 まあ詳しくは逸話魔導書や、記録クリスタルと呼ばれる歴史を刻んだ回顧録を読むしかないのだが。


 こっちの宇宙が誕生した神話。

 黎明期の物語を、大魔帝ケトスから提供された情報で深く把握している僕は言う。


『うちの主神レイドも、その一度滅んだ魔王陛下……勇者によって魂を滅却され別たれた、三分の一の欠片ってのは本当なのか?』

『この辺りの逸話には諸説があるにゃ――』


 あくまでもこれは一説と前置きし、モフみのある手を上げてニャイリスが語りだす。


『かつて勇者に滅ぼされた魔王陛下……その魂は三つに分裂したとされているニャ。その中で自由気ままな猫に憧れた三分の一が地球に流れ、ネコへと転生し三毛猫陛下に』


 丁寧にニャイリスが魔術による図説を提示して見せる。

 これが僕の友となったあの三毛猫である。

 次にとニャイリスは銀髪赤目の皇帝の姿を映しだす。


『更に平穏を望んだ三分の一が、これにゃ。四星獣の生み出した盤上遊戯の世界に漂流し、その世界の勇者であり魔王である英雄に転生。色々とあったらしいのにゃけれど、これに関しては四星獣の異聞禁書ネコヤナギによって情報が秘匿されてるのニャ、ニャーはあまり知らないニャ』


 そしてと、うちの主神の映像も投影し。

 僕をチラリと横目にして言う。


『最後に残された三分の一は、平和を願った欠片にゃ。なんと、この欠片は世界を救うために自らをアイテムと化し、無数の魔王の欠片、すなわち賢者の魔導書となったのニャ。ただ、平和を望んだせいで魔術的な齟齬を起こし暴走したのニャ。魔術そのものを忌避し、魔術を封印しようと動いたのもこの欠片だにゃ……その内の一冊が、この宇宙の創造主。レイド=アントロワイズ=シュヴァインヘルト=フレークシルバーだとされているのニャ』


 それこそがこの宇宙の黎明の物語。

 人々が神の逸話と呼ぶ、いわゆる神話の物語である。


『僕はあくまでも伝承しか知らないが、その情報はどこまで正しいんだよ』

『ニャーにも分からないニャ。観測者によって情報が揺らいでいることから、宇宙が重なり合った時に齟齬が生じているとされているニャ。ただ、心と体と魂に分断されたとは思うニャ』


 繰り返す宇宙と複数存在する魔王、そして魔術との繋がり。

 ケトスと呼ばれる猫の存在も、絡み合う宇宙のスパゲッティ状態の原因だろう。


 ともあれ確かなのは、宇宙が何度もやり直している事。


 逸話魔導書の記述が正しいのならば……宇宙は何度かリセットされているのだ。


 宇宙を最初からやり直した現象を起こしていたのがおそらく、外なる神。

 僕が敵対した偽神ヨグ=ソトースもその外なる神の一柱だろう。

 あのしぶといリセット能力は、これの応用だと考えられる。


 一度目の宇宙リセット、その理由は単純だ。


 それは魔術の誕生。

 後に魔術を生み出す者、救世主としての魔王の誕生をきっかけに、宇宙は一度やり直す必要があった。

 魔術ある世界へと宇宙を切り替えるために、宇宙は一度再起動したのだ。

 そのエネルギーを人類はビックバンと呼んだのかもしれないが、あくまでも僕の仮説、憶測の域を出ていない。


 そして同時に魔術誕生の時点で、勇者や魔王といった概念が誕生する。


 二度目のリセットは宇宙崩壊によるリセット。

 魔術ある世界が進むと……必ず最終的に、魔王が勇者に討ち取られるのだ。


 それだけなら宇宙にとっては問題ない。

 既に魔術の祖である魔王が、宇宙に魔力の源となるプラズマ球を設置しているので、魔王が死んでも魔術そのものが残るのだから。

 おそらく外なる神が狙っていたのはこれ。


 魔術だけを利用し魔王をはいし、望む方向に宇宙を管理するつもりだったと僕は考えている。


 魔術を生み出す魔王は宇宙にとって必要だが、生み出した後は何をするか分からないので邪魔。

 だから外なる神はシステムを構築――勇者と魔王の逸話と概念を生み出した。

 管理者として外なる神が観測する宇宙には、魔王を殺すための勇者が生み出されるのだ。


 勇者は運命に縛られ、必ず魔王を殺そうとする――管理者としての外なる神が、用済みになった魔王を消すために。


 だが、そこには大きな誤算があった。

 外なる神にとっても計算に入れていない事態が発生する。

 その存在は魔猫。


 宇宙にさえ縛られない、自由な生き物ネコだ。


 魔王が死ぬとその魔王に拾われ愛されたケトスと呼ばれる魔猫が暴走し、その嘆きと憎悪と悲しみで、宇宙を必ず破壊してしまうのである。


 魔王の死=宇宙の崩壊。

 魔術の発生と同時に必ずそれが紐づけられるのだ。

 主の死をきっかけに、大魔帝ケトスと同一存在にして白き魔猫……大魔王ケトスが後に宇宙を破壊する。


 その運命は変わらない。

 だから今度は魔王を死なないルートを選び、宇宙は再起動され……魔王が死なないルートを歩みだす。

 結果として魔王は死なずに宇宙は進むが、そうなると今度は魔王さえ凌駕する存在、大魔帝ケトスが誕生する。


 大魔帝ケトスは強大過ぎる上、なにをやらかすか分からない。

 ゆえに外なる神にとっては魔王以上に邪魔な存在となってしまう。

 その厄介な大魔帝をどうにかしようと動いていたのが、今回の偽神ヨグ=ソトースの計画だったのではないだろうか。


 実際、滅び再起動した筈の過去の宇宙と、今の宇宙を合成してしまうという珍事を起こした件にも、大魔帝ケトスが関わっている。

 宇宙に不具合が発生しているのも、おそらくはこの件が原因だろう。

 その不具合を直すために偽神ヨグ=ソトースは、僕やエビフライの運命を操作し、成長した身体を乗っ取ろうとしていたのだろうが――。


 まあ結果はご存じの通りだ。


 結論を言えば、僕は恐らくありとあらゆる犠牲を厭わなければ、本当の意味でなんでもできる。

 これでも管理者があの魔猫をどうにかするために、長年をかけて誘導し、作り上げたのが僕なのだろうから。

 もし大魔帝ケトスが暴走した場合……現状だと僕しか止められない状態にあるのだ。


 そんな僕が大魔帝ケトスの傘下。

 魔王軍の幹部になる意味を考えれば、まあ安易に頷けないのである。


 そして何よりだ。

 問題となるのは願いを叶える力がある存在。

 かつて魔王の分裂や転生に大きく影響を与えたのは、四星獣の長で願いを叶える猫の置物。

 魔猫イエスタデイ=ワンス=モア。


 そう。

 目の前のアランティアも、その魔猫と同じ力を持っている。


 僕が魔王軍の幹部になることの一番の懸念はそれ。

 大魔帝ケトスが暴走した場合、僕が近くにいると、僕と近しいアランティアの力を悪用しだすのではないか。

 そういった現実的な問題である。


 僕なりの懸念を一冊の資料として纏め。

 大魔帝ケトスに考え直すように促しているのが、今というわけだ。


 僕はまだ大魔帝ケトスを信用していない。

 だからこそ。

 はぁ……と息を漏らし、僕は言う。


『やっぱり、あいつと会うしかないだろうな』

『にゃんの話にゃ?』

『決まってるだろう、僕を魔王軍幹部に推薦してくれやがった、あいつに会う話だよ』


 おそらくメンチカツが憤慨するだろう。

 かつて僕を殺したという事で、エビフライもおそらく反対する。

 だが僕は――あの三毛猫と再会する必要がある。


 できればこっそり会いに行きたいが。

 ……。

 まあ、無理だろうなあ。


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